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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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カンパ



■title:<繊一号>の宿泊所にて

■from:死にたがりのラート


 フェルグス轢き逃げ未遂事件から一夜明けた。


 隊長やヴィオラ達には伝えたが、子供達には……さすがに伝えるのは控えた。


 誰かがフェルグスを狙う動機なんて、魔物事件絡みだろう。繊一号にも巫術師を危険視、あるいは恨んでいる奴がいるみたいだ。


 フェルグスが魔物事件に直接絡んだわけではないし、全ての巫術師を恨むのはさすがに間違っていると思うが……襲撃犯にはそういう理屈が通じないだろう。


「副長。おかえりなさい!」


 朝になってから、改めて守備隊に話を聞きに行った副長が戻ってきた。


 捜査の進展は……特に無かったらしい。逃げた車の特徴は伝えたんだが、繊一号に運び込まれた車は殆ど同じ型式で、特徴では判別できないらしい。


「とはいえ、事件が起きた時間の行動を洗っていけば、ある程度は絞り込めるはずなんだが……守備隊の奴ら、捜査を怠ってるな」


「クソッ。ナメやがって……」


 昨日の態度もそうだった。


 轢き逃げされかけた子供が特別行動兵と知ると、途端にしらけた様子になっていた。子供相手に……なんて奴らだ!


 とはいえ、星屑隊(おれたち)に捜査をする権限もない。子供達の近辺を固めておき、襲撃犯に動きがあれば対応する――という事になった。


 特別行動兵の証であるチョーカーを、それとなく隠す格好もさせる事になった。


「まあ、さすがに二度目は無いと思いたいけど……。フェルグスが巫術師だと気づいて、カッとなって動いた奴だからな」


「また来る可能性もありますね」


「第8のガキ共も町に出かけていいが、必ず1人以上護衛をつけろよ」


 そう言った副長に対し、ヴィオラが「気をつけます」と言って頷いた。


 護衛には困らない。星屑隊の隊員は第8に対して好意的だからな。


 技術少尉は例外だが。


「といっても副長、もうすぐ出発でしょう? 町に遊びに行く時間ないですよ」


「あっ! 悪い、お前らには言ってなかったな。混沌の海(うみ)の状況を鑑みて出発を遅らせる事になったんだ」


「ありゃ。そうなんですか」


「早くても夕方出発だ。どうなるかは端末に一斉送信しておくわ」


 副長はそう言い、「ちょっとクソしてくる」と行ってトイレに行っちまった。


 残された俺とヴィオラで顔を見合わせつつ、言葉を交わす。


「フェルグスの様子は――」


「その……まだ寝てますね。昨日は殆ど毛布被ってて……」


「そうか……」


 身体に異常があるわけじゃない。ヴィオラとキャスター先生に診てもらった。


 ただ、「命を狙われた」ってことはフェルグスも察しているらしく、落ち込んでいるみたいだ。ここまでハッキリと敵意向けられたのは初めてだったのかも……。


 普通に生きていたら殺意を向けられる事なんて、そうそう無いもんな。


 ましてや実際に殺されかけたわけだから……。


 一瞬の出来事だったが、悪い意味で濃い出来事だった。


 俺、ちょっと繊一号にある車を見て回ってくるわ――と言ったが、ヴィオラに引き留められた。「怪我人は大人しくしててください」と。


「ちょっと傷が開いてたじゃないですか。フェルグス君を庇った影響で……」


「あれはもう治った」


「先生に言いつけますよ。ラートさんも、今日は大人しくしててください」


「は~い……」


 休んでいる気分じゃないんだけどなぁ……。


 出発はまだだし、一度部屋に戻って休む。


 けど、子供達(みんな)の様子が気になる。会いに行くか。


 そう思って再び部屋を出ると――。


「あ、ラート軍曹」


「おう、おはよう。バレット」


 部屋を出たところでバレットと出くわした。


 荷物を持っているから、「そりゃ何だ」と問うと――。


「子供達用の遊び道具を見繕ってきました。今はあまり、外を出歩かない方がいいんでしょう? 方舟出発まで宿で時間潰せるものがあった方がいいと思って」


「おおっ、悪いな」


「部隊の皆さんも用意してくれたんですよ」


「皆が?」


 それだけじゃなくて、星屑隊隊員が宿や町を見て回ってくれているらしい。


 守備隊が真面目に働く気配がないから、妙なことをやっている奴がいないか見回ってくれているらしい。


 そういう大事なことは俺にも教えてくれよ。手伝うのに――と言ったが、バレットは呆れ顔で「軍曹達は怪我人でしょ……」と言ってきた。


「怪我人に手伝わせるほど、星屑隊は弱くありませんよ。……まあ、怪我人の軍曹達はフツーに出歩いてますけど……」


「だって、怪我なんて治ったし」


「昨日、傷がちょっと開いたと聞きましたよ」


「でももう治った!」


「もう……。子供達のためにも無理しないでください。お願いですから」


 バレットが子供を叱るような表情で、そう言ってきた。


 悪い悪い、と答えつつ、2人で子供達のいる部屋に向かう。


 バレットは本当に変わった。子供達を全然避けなくなった。


 レンズの事も含め、一時はどうなる事かと思ったけど……星屑隊の皆が子供達を受け入れてくれて本当に良かった。


 しみじみと思いつつ、階段を上っていると、ヴィオラの「やめてください!」と言う声が聞こえた。


 バレットと顔を見合わせ、急いで向かう。


 まさか交国軍宿泊所に襲撃かけるバカが現れたのか――と思ったが、ヴィオラの前にいるのは副長だった。2人で話をしていたらしい。


「何か揉めてる……?」


「ラートさん! いや、ちょっと、副長さんが大金を渡してくるから……!」


「大金? あぁ……アレか」


 副長はヴィオラに向け、カードを差し出していた。


 副長の横に立ちつつ、「例のカンパですよね?」と聞くと、副長は頷いて「ヴァイオレットが受け取ってくれねえんだ」とボヤいた。


「ヴィオラ。これは星屑隊全員からの気持ちだ。受け取ってくれ」


「いや、でも、本当にそんな大金……!」


 長期休暇に入ることが決まった時、副長が皆に声をかけた。


『第8巫術師実験部隊のガキ共は無給で戦っている。休暇を楽しもうにも金がねえから、カンパ募集中だ』


 そう言い、皆にヴィオラ達のための金を募ってくれた。


 皆がせっせと金をくれたおかげで、それなりの財産になった。ヴィオラ達全員が2、3ヶ月は贅沢に遊べるだけの金が集まった。


 副長はそのカンパを使うための決済用のカードまで用意してくれた。それをヴィオラに渡そうとしていたが、断られていたらしい。


「さすがに受け取れません……!」


「ヴァイオレット。第8は繊三号での勝利に大きく貢献した。ラート達が死ななかったのはお前達のおかげだ。その報奨金と思え」


「いやっ、でもっ……!」


「金無しで長期休暇中、どうやってガキ共を遊ばせるんだよ」


「うっ……! そ……それはぁ~……」


「とにかく受け取れ。なっ!? ほら、確かに渡したぞ!」


「あっ、副長さん……!」


 副長はカードをヴィオラに握らせ、「オレは遊びに行ってくる~」と言い、窓から飛び出していった。


 ここ3階だぞ――と思いながら外を見ると、副長は建物の突起とかを使い、パルクールでもするように下りている最中だった。


 下まで下りると、ポケットに手を突っ込みつつ、「ギャンブルギャンブル~♪」と歌いながらどこか行っちまった。


 休暇中の軍資金を増やすために、マジで賭場でも探しに行ったんだろうか? もしくは……他の隊員と同じく、周囲を見回りに行ってくれたのかもな。


 カードを手のひらに乗せ、途方に暮れているヴィオラに「それで豪遊してくれ」と言いつつ肩を叩く。足りないようなら俺の貯金を崩そう。


 給料の大半は実家に渡しているが、俺だって少しは貯金がある。


「ところで、子供達は? バレットが皆から預かった遊び道具を持ってきてくれたから、それで時間潰そうと思ってたんだが――」


「あっ、ありがとうございます。いま部屋の中で、ちょっと書き物中です」


「書き物?」


 何を書いているんだ? 不思議に思いつつ、部屋の中に入れてもらった。


 すると、どういう意味か直ぐにわかった。





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