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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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幸運で不幸な2人



■title:<繊一号>ネウロン旅団基地にて

■from:狂犬・フェルグス


「なぁ、フェルグス。やっぱ特佐に会うのは難しいって……」


「…………」


「そろそろ宿に戻ろうぜ? なっ?」


 オレの回りでウロウロするラートを無視しつつ、基地を見つめる。


 基地にはいくつもの魂が見えるけど、さすがに見分けはつかない。


 ラートに「基地で一番エラい奴の部屋」を聞いて、その辺りを見てみたけど……なんか変な動きをしている魂が見えたぐらい。あれ、部屋の中で暴れてたのかな?


 師匠が基地の中で意味もなく暴れたりしないだろうし……。


 やっぱ、巫術だけじゃわからねえなぁ……。


「おい、エレイン。お前ちょっと見て来いよ」


『む?』


「偵察に行けってことだ。テーサツ!」


 その辺を歩いているネーチャンのケツを見ていた色ボケ幽霊オークに命令したけど、「無茶を言うな」と言ってきた。


『私は兄弟達の意識に寄生しているのだ。お前達から離れて行動できん』


「えー……」


『偵察といっても、お前達から数メートル程度の範囲しか見て回れんぞ?』


 頼りにならねー!


 でも、基地の中に入れば……部屋の中とか見て回る事は出来るか?


「ラート。基地の中に入れないのか?」


「ちゃんとした用事が無いと無理だよ」


 ラートは基地の警備している奴らの視線が怖いのか、「宿に戻ろう」と言い続けてくる。宿に戻るのは論外だけど、ここにいてもわかる事はないかな……。


「よし、じゃあオレ様は町に行く」


「えっ!?」


「お前は帰っとけ。一応、怪我人だろ?」


 羊飼いとの戦闘の後より、ずっと元気になったように見えるけど……ヴィオラ姉に「無理しちゃ駄目ですよ」と言われ続けているから、ラートは帰そう。


 町ぐらい、オレ1人で見て回れるし――。


 そう思いながら歩き出すと、ラートがバタバタと慌ただしく追ってきた。


「お前1人は心配だ。俺もついていくよ」


「ガキ扱いすんなっ! 町ぐらい、オレ1人で歩けるよ」


「お前は一応、特別行動兵なんだ。1人で好き勝手に歩いてトラブルに巻き込まれたらどうする? 人さらいに連れていかれるかもしれない」


「めんどくせえ……」


「つーか、町に行ってどうする。カトー特佐探してんだろ?」


「師匠はもう基地を出てるかもしれない。だから町を探すんだ」


 ちょっとだけウソをつく。


 師匠を探したいのはホントだけど、本当の目的は「明智先生を探す」って事だ。


 魔物事件が起こる前。ウチの保護院にやってきた明智先生。


 明智先生はスゴい術師みたいだったし、交国でも結構エラい立場みたいだった。先生を見つけることが出来たら、きっと力を貸してくれるはず……。


 今までもずっと探してきたけど、未だに見つかっていない。……ひょっとしたらもう、魔物事件に巻き込まれて――。


「…………」


 腕をさすりつつ、「そんなはずない」と思う。


 明智先生はスゴい人なんだ。タルタリカぐらい、自力で何とかするはずだ。


 とっくの昔に交国本土に帰っているかもしれないけど……それはそれで、今回の旅で見つければいい。オレ達も交国本土に行けるわけだし。


 出来るだけ早く会いたいから、ここで会えるのが一番だけど――。


「…………」


「おい、フェルグス。道の真ん中で止まるな。危ないだろ」


「ムッ……。わかってる!」


 オレ様の手を引き、歩き出そうとするラートの手を振り払う。


 つーか、コイツがいると明智先生のこと探しづらい。


「…………!」


「あっ! コラ! どこ行くんだ!」


 ラートが振り返った隙を見て、走り出す。


 ひとまず、ラートを撒こう。


『おい、兄弟。ラート軍曹から離れるな。危ないぞ』


「うっせえ! オレに指図すんな!」


 1人で探し回った方が楽だ。


 脱走するわけじゃないんだ。


 あとで宿に行けば、別に問題な――――。


「わっ……!?」


 何も無いところで転んだ。


 いや、いま、誰かに足を(・・)引っかけられたような――。


「いでっ!?」


 道に倒れ込む。


 くそっ、誰だよ~……?


『――――! 兄弟ッ!』


「フェルグスっ!!」


 エレインとラートの叫び声が聞こえる。


 なぜか焦りを感じる叫び声。


 その声のおかげで気づいた。


「――――」


 車が突っ込んでくる。


 スゴい速度で、転んでいるオレに向かって――。




■title:<繊一号>市街地にて

■from:繊一号の住民


「――――!!」


 車のアクセルをベタ踏みし、転んでいる巫術師を狙う。


 見事に転んでいる。仲間が(・・・)上手くやってくれたらしい。


 これで殺せる。


 そう思いながら全速力で車を走らせる。


 けど、失敗した。


 車による攻撃は空を切った。


 道に飛び出してきた灰色の肌の男――オークが巫術師を助けた。


 首根っこを掴みながら道の端に連れていき、こちらの攻撃を回避させた。


 失敗した……! しくじった! あとちょっとだったのに!


 ネウロンで惨禍を引き起こし、私の家族を殺す原因を作った憎き巫術師を殺し損ねた。どうしよう。失敗した場合、どうすればいいんだ!?


「おいコラァッ!! 待ちやがれっ!!」


「ひッ……!!」


 オークの罵声を浴びつつ、車を走らせる。


 と、とにかくっ……逃げないと……!!


 ああっ、どうしよう。


 せっかく、あの人から巫術師の情報を貰ったのに、活かせなかった……!!




■title:<繊一号>市街地にて

■from:死にたがりのラート


「おいコラァッ!! 待ちやがれっ!!」


 フェルグスを助けた拍子に道ばたに転びつつ、去って行く車に叫ぶ。


 あの車、明らかにおかしかった。


 俺が飛び込まなかったら、絶対にフェルグスを轢き殺していた。


 町中であんなスピード出すのはおかしい。


 いや、それより今は――。


「フェルグス! け、ケガしてないか!? 大丈夫か!?」


「ぉ、お前の体重が重いっ……!!」


「おおっ、す、スマン……!!」


 車から助けるのに必死で、道ばたに避難させたフェルグスを押しつぶしていた。


 慌てて退いてやり、立たせ、土埃を払いながら身体を見る。


 少しすりむいたぐらいか? ケガらしいケガをしている様子はない。


 周囲で騒いでいる野次馬が鬱陶しい。こっちに「大丈夫ですか?」と言うでもなく、少し遠巻きに見てくるだけ。鬱陶しいから手を振って追い払う。


「本当に大丈夫か?」


 骨の調子とか聞くと、バツの悪そうな顔をしたフェルグスは「大丈夫だよ。なんでもねえよ」と返してきた。


「心配させやがって。急に走り出して、転んで、どうしたんだよ」


「え、ええっと……。別に……」


 フェルグスは車が去っていった方向を見て、「なんだ、いまの」と言った。


「今の車。なんか、おかしくなかったか?」


 フェルグスは自分でも土埃を払いのけつつ、そう呟いた。


 何て答えるか、少し困る。


 フェルグスの言う通りだが……今のが殺す気で突っ込んできた車なら、「何でそんなことを?」って話になる。


 一般的な輸送車のようだったから、乗っていたのはそれを与えられたネウロン人かもしれない。……同胞に命を狙われたとしたら、こいつは傷つくはずだ。


 フェルグスが特別行動兵で、巫術師だから「魔物事件を引き起こした元凶!」とか短絡的に考えて襲ってきたのかもしれない。


 特別行動兵のチョーカー、マフラーとか巻いて隠しておくべきだったか……?


「ええっと……酔っ払いの運転だったのかもな」


「……いや、明らかにオレ殺そうとしてたって」


「…………」


「多分、オレが巫――――」


 何か言おうとしたフェルグスが、オレを見て目を見開いている。


 どうかしたのか? と聞くと、オレの胸元を指さしてきた。


「お前、それ(・・)……。なんでお前がそれつけてんだ?」


「ん? あ、ああっ……。コイツか!」


 軍の認識票と一緒に首に下げていたネックレス。


 アルから貰った四つ葉型植毛のお守り。


 さっきフェルグスを助けた拍子に、服の下から出てきたみたいだ。


「アルから貰ったんだ。植毛をお守りとしてくれたんだ」


「…………」




■title:<繊一号>市街地にて

■from:狂犬・フェルグス


「幸運のお守りってやつだな! この間の作戦で生き残れたのも、このお守りの加護かもしれねえ。さすがはアルの植毛だぜ」


 嬉しそうに語るラートの言葉が、右から左へと抜けていく。


 見覚えがあると思った。


 やっぱり、アルの植毛だったのか。


 オレも貰った事がある。けど……色々あって、オレは無くしちゃって……。


「……それ、いつもらったんだ?」


「ん? 繊三号に着く前だよ」


 それって、アルの植毛が無いのにオレが気づいた時じゃん。


 あいつ、引っかけてちぎれちゃった、って言ってたよな?


 オレに……にいちゃんに、ウソついたのか?


 ウソまでついて、コイツに……お守りを……?




■title:<繊一号>市街地にて

■from:死にたがりのラート


「まあ、このお守りだけじゃなくて、お前達が強かったおかげでもあるけどな! 生き残れたのは。さっき助けたので、あの時の借りを少しは――」


「…………」


「って、おい! フェルグス! どこ行くんだ?」


「……帰る」


 歩き出したフェルグスがポツリと呟いた。


 宿に向かおうとしているようだが、そっちは宿の道じゃない。


 手を引いて案内しようとしたが、思い切り振りはらわれた。


 さっき助けた時に押しつぶしたから、怒ってんのかな……?


「わ、悪かったって。助けた時、痛かったよな? 俺、重いから……」


「…………」


「き、機嫌なおしてくれよ~……。それと、繊一号の守備隊に報告を……」


 さっきの轢き逃げ未遂犯、捕まえておかないと。


 守備隊に相談しようと思ったんだが、フェルグスはツカツカと宿に歩いていった。そんで、無言で部屋に入っていった。


 完全に怒らせちまったらしい。トホホ……。


「……とりあえず、俺だけで報告に行くか……」


 宿を出て、守備隊の詰め所に行く。


 轢かれかけたのが特別行動兵と聞くと、対応がぞんざいになったので軽くシメ、「ちゃんと探してくれよ!」と頼んでおいた。


 まったく……フェルグスは何も悪いことしてないのに!


 あの車、今度見つけたらタダじゃおかねえ。


 ……明日の出発まで、よく警戒しておかないとな。


 殺人未遂事件だ。犯人が捕まるまで安心できねえ。


「隊長達にも相談しておかないと――」




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