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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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大人の役目、カトーの役目



■title:交国軍の輸送機にて

■from:狂犬・フェルグス


 師匠の取り出した写真をよく見る。


 女の子が写ってる。キレイな子で、耳が長い。


 整備長と同じ種族……エルフっぽいな。


 師匠とは全然似てない。けど、師匠の子供じゃなくて姪っ子だから似てなくてもおかしくないか……と思っていると、師匠が話しかけてきた。


「つーかフェルグス、写真ってわかるか? これは現実の光景を写し――」


「写真ぐらい知ってるし! ネウロンにだって写真あるもん」


 どこにでもは無いけど、あるところにはある。


 そう言うと、師匠は少し驚いた顔を見せた。こういう反応は交国人共と同じだなぁ……。ネウロンをどんだけショボい文明(もの)と思ってたのやら。


「ネウロンにだって、機械とかあるんだぜ。交国のじゃない機械が」


「そうか、スマンスマン。バカにするつもりはなかったんだ」


「まあ、ここまでキレイな写真は無いけどさぁ」


 やっぱり交国の方が技術が上なんだな。格段に。


 けど、ネウロンだって交国の技術を盗めば……きっと、いつか……。


「この子の名前は?」


「ナルジスだ」


「姪ってことは、師匠って兄弟いるの?」


「姉貴がいた」


 師匠は写真の入ったペンダントを外し、オレに手渡しつつそう言った。


 その表情は笑顔だったけど――。


「エデンの総長を務めていたんだ。ニュクスってコードネームで――」


「えっ。ということは……」


 師匠の笑顔が少し悲しげなものになった。


 小さな声で「マーレハイトの戦いで死んだ」と言った。


「ご、ごめん。イヤなこと聞いて」


「気にするな。姉貴(ニュクス)の死は、オレにとって大事なことだ。オレがもっと強ければ……守れたんだからな」


「…………」


「……ええっと、ちなみにナルジスはフェルグスと大差ない年齢だぞ。2個上だ」


「オレの方が?」


「いいや。ナルジスの方がお姉さんだぞ」


 ペンダントにはまった写真をよく見る。


 確かに、オレより大人っぽいかも。


 まあ、女の方が成長早いんだよな? あと数年もしたらオレも背がグングン伸びて、師匠みたいにカッコいい大人になれるだろうけど!


 そう思いながら写真を見ていると、師匠がニヤニヤと笑いながら肘でつついてきた。それで恥ずかしいことを言ってきやがった。


「ウチのナルジス、可愛いだろ! お前が立派な男になったら、この子の旦那候補として考えてやらん事もないぞ~?」


「そ、そういうのは別にいいっ……」


「なんだよー! ウチの姪っ子じゃ不満か!?」


「いや、そうじゃなくて……」


 師匠が笑いながら「思春期のガキめ」と撫でてきた。


 そういうのじゃない。


 恥ずかしがってるわけじゃない!


 オレにはもう、心に決めた人がいるだけだ。


 それは……さすがにこの場では言えない。その相手がいるし。


「綺麗なお嬢さんですね」


 ヴィオラ姉が身を乗り出し、オレの手の中にある写真を見てきた。


 急に来るからドギマギしていると、師匠が笑顔で「だろっ!? お前らもよく見てやってくれ!」と言い、ヴィオラ姉に写真を渡した。


 皆が回し見ている間も、師匠は上機嫌で喋り続けた。


「ナルジスは頭が良くて、とても良い子なんだ! 姉貴の教育の賜物だよ。オレにとっても自慢の姪っ子で……娘みたいなもんなのさ」


「へー……」


「ナルジスのお母さんは……もういない。だからこそオレがしっかり、あの子を守ってやらなきゃいけないんだ」


 師匠はそう言いつつ、史書官のねーちゃんに視線を向けた。


 史書官のねーちゃんも師匠の姪の写真を見ていたけど、師匠に見られていることに気づき、師匠の方を見てきた。


「この子をほっぽり出して、復讐一辺倒で生きることなんて出来ない。この子だけじゃない。他にもエデンの仲間がいるからな。組織は解散したとはいえ」


「ふむ。ナルジスさん達はお元気ですか?」


「ああ、もちろん」


「でも、しばらく会ってないんですよね?」


 史書官のねーちゃんは見終わった写真を師匠に返しつつ、そう言った。


 言われた師匠は苦笑しつつ、言葉を返した。


「会えてないけど、手紙のやりとりは続けてるよ。特佐(オレ)の仕事の都合上、映像通信とか出来る機会も限られるが……手紙のやりとりは出来る」


「……なるほど」


「ナルジスはいま農場で働いているんだが、毎日楽しくやってるみたいだ。年下の男の子と……フェルグスと同年代ぐらいの子と、羊を追い回したりしてな」


 師匠はエデンにいた時、悪い奴らをバリバリやっつけていた。


 けど、そのエデンがプレーローマの罠でムチャクチャになった。


 だから仕方なく、交国の特佐になった。


 そうした理由は――。


「師匠は姪っ子と、エデンの仲間を守るために……仕方なく交国に来たのか」


「そうだ。まあ、交国は交国で良いところあるけどな」


「ホントに?」


「交国は多次元世界指折りの巨大軍事国家だ。プレーローマに対抗するためには、どうしても交国みたいな強国の力が必要になるんだよ」


 なるほどな。


 オレにとって交国は「クソ侵略者」だ。


 けど、師匠の場合は「強い交国」を上手く利用しているんだな。転んでもタダじゃ起きない。さすがオレ様の師匠だぜ!


 ただ、交国は交国で師匠を利用しているんだろうなぁ……。


 姪っ子達とあんまり会えてないって事は、交国にこき使われてるって事だ。神器使いだから頼りにされてるかもだが、仕事ばっかりは疲れそうだな。


「…………」


 師匠も、ある意味では交国に縛られている。


 オレ達みたいに家族を人質(・・)に取られている。


 まあ、オレ達と違って家族と会えるし、師匠は「自分で選んで」交国に来た人だ。特別行動兵のオレと、特佐の師匠じゃ立場違うか……。


「……なあ、師匠」


「なんだ?」


「師匠はプレーローマに復讐したいの?」


 そう問うと、師匠は真面目な顔で頷いた。


「プレーローマはオレの敵だ。そして人類の敵でもある。プレーローマを滅ぼさない限り、人類に明るい未来は訪れないんだ」


「その人類の敵(プレーローマ)を倒したら、師匠はどうするの?」


 その後はどうするつもりなんだろう。


 気になったらから聞いてみると、師匠は少し悩ましげな顔になった。


「その後も戦うかもな。プレーローマ以外に悪い奴がいるし、流民(オレ)達のような不幸な人間が増えないよう、世界から悪人を一掃しようかな」


「え~……大変だな。スゴいけど」


「オレ自身はそう考えているんだが……」


 師匠は腕組みしつつ、眉を寄せた。


「ナルジスには反対されててなぁ……」


「そうなの?」


「ああ。『プレーローマ倒したら十分でしょ。そこまでやったら、さすがにもう引退して』って頼まれてるんだよ~……」


 そもそも特佐として戦っている事も、あんまりよく思われていないらしい。


 戦って殺すって事は、逆も有り得る。


 姪っ子は師匠のこと、スゲー心配してるみたいだ。


「師匠が敵にやられるわけねーじゃん。神器使いで強いんだから!」


「いやぁ、負けたから交国に来たんだよ」


「あっ……。そっか……」


「神器が破損して昔ほど無茶できなくなったし、ナルジスには心配かけっぱなしなんだ。けど、まあ……せめてプレーローマを倒すまでは我慢してもらって……」


 その先は、姪っ子の言う通りにするつもりらしい。


 家族に心配をかけている事は、師匠も苦しいみたいだ。


 ウチの父ちゃんと母ちゃんは、そういう心配してくれねえなぁ……。


 昔は「無茶しないの」って怒ってたのに、最近の手紙だと「交国のために頑張っていれば、道は必ず開かれる」「頑張って戦え」ってことばっか書いてくる。


 まあ、言われるまでもなく頑張るつもりだけど――。


「引退したら、ナルジス達と一緒に農業でもしようかな」


「師匠が!? 神器使いなのに!?」


「ははっ……。似合わない自覚はあるよ」


 師匠は恥ずかしそうに頬を掻いた。


 けど、悪くない表情に見えた。


「でもさぁ、ナルジスには頼られてるんだぜ? 『男手が足りないから、直ぐにでも来てほしい』って言われてるんだ」


「男手は師匠じゃなくてもよくね?」


「それを言うな! オレは……オレは甲斐性無しかもしれねえけど、ナルジスには多分きっと頼りにされてるんだよ~……!!」


「う、うん。はいはい。多分、そうだよ。頼りにされてる」


 嘘泣きする師匠の背中をポンポンと撫でてやる。


 師匠は強い。強いけど、ボロボロに負けた事がある。


 そりゃあ……姪っ子も心配になるか。


 ……いいなぁ、家族に心配してもらえて……。


「けど、引退しちまっていいのかな……と悩むんだよ」


「なんで? そんなの師匠の好きにしたらいいじゃん」


「いや、交国との契約は『神器使いのオレが戦う代わりに、エデンの生き残りを交国で保護してもらう』ってものだからさ……」


「あぁ……」


「それに、オレは曲がりなりにも神器使いだ。力を持つ者として、責任がある。プレーローマに限らず、悪は滅ぼさなきゃ」


「悪い奴はやっつけた方がいいかもだけど――」


 師匠の顔を真っ直ぐ見つつ、言葉を続ける。


「全部を師匠がやっつける必要ねえだろ。そんなの、師匠が疲れちゃうよ」


「…………」


「ほどほどに頑張ったら、ほどほどのところで引退すればいいじゃん」


 オレはそう思う。


 師匠は今までずっと、弱い奴らのために頑張ってきたんだろ?


 それは良いことだ。


 いっぱい殺したかもしれないけど、相手が悪い奴らなら……さすがに、地獄(バッカス)に行かずに済むはずだ。オレ達と違って。


「師匠はいっぱい頑張ってる。頑張ったご褒美を、自分で用意してあげなよ」


「…………」


 師匠は少し恥ずかしそうな顔をしつつ、頭を掻いた。


 そんで微笑んで、「ありがとな」と呟いた。




■title:交国軍の輸送機にて

■from:交国軍特佐・カトー


 プレーローマを倒せば、世界が救われるわけではない。


 それだけでは終わらない。世の中にはプレーローマ以外の悪も存在する。


 人類連盟もその1つだ。奴らは腐っている。人類同士で連携し、プレーローマのような脅威に対抗しよう――と言いつつ、弱者を虐げ、権益を貪っている。


 プレーローマを倒せば万事解決するような多次元世界(よのなか)なら、エデンは苦労していない。敵が大勢いたからこそ、オレ達は孤立せざるを得なかった。


 仕方なく、交国の軍門に下らざるを得なかった。


 ただ、この選択は間違っていなかったはずだ。


 あの時は、これ以外の選択肢なんて無かった。


 ファイアスターターは部下を従え、エデンから出て行ったが……あいつが出ていけたのは、オレが交国の犬になって非戦闘員の面倒を見たおかげだ。


 オレは間違っていない……はずだ。


「…………」


 戦って、勝って、証明してみせるさ。


 オレが正しかったことを。


 交国の特佐(いぬ)という立場は窮屈だが、その窮屈さを我慢したら交国の「強大な軍事力」を使うことが出来る。プレーローマに復讐できる。


 プレーローマに勝てば、オレの正しさが証明できる。


 皆の仇討ちが出来る。


 プレーローマに勝った後も……悪人が残っているだろうが、オレの戦いは……そこで終わりでいいかもしれない。


 フェルグス。


 オレが引退した後、お前達が正義(オレ)の役目を担ってくれるか?


 そんな言葉が喉元まで出てきたが――。


「…………」


「師匠?」


「……いや、何でもない」


 さすがに言えなかった。言うべきじゃない。


 無責任に託せない。


 コイツは子供だ。まだ何も知らない子供だ。


 あの人なら……カトーさん(・・・・・)なら、こんな子供に背負わせたりしない。どんな理由があろうと、子供を戦わせるのはよくない。


 フェルグス達の巫術(ちから)は有用だ。


 コイツらが大人になったら頼らざるを得ない時も来るかもしれない。けど……今は戦場から遠ざけるべきだ。まだ子供だからな。


 玉帝を説得し、弱者(ネウロン)の現状を変えてやろう。絶対に。


 エデンの遺志を継いだオレには、そうする義務がある。


 まだまだ戦いは続きそうだが……きっと、ナルジスも理解してくれるはずだ。





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