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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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エデン壊滅の理由



■title:交国軍の輸送機にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


 ……マーレハイト?


 確か、そんな名前を聞いた覚えが……。


「ぁ……」


 思い出した。


 マーレハイト亡命政府という組織が、「界外からネウロンに来ていた」って話を聞いた覚えがある。


 彼らはネウロンの<メリヤス王国>の第二王女の界外逃亡を幇助し、国際手配されているって……。確か、そんなニュースを聞いた。


 マーレハイト亡命政府と、マーレハイト共和国。


 どっちも同じ根を持つ組織と国家なのかな……?


 話の腰を折るのもどうかと思ったので、カトー特佐の言葉に耳を傾ける。




■title:交国軍の輸送機にて

■from:交国軍特佐・カトー


「…………」


「ん? どうした、ヴァイオレット」


「あっ! いえっ……。続きをどうぞっ」


 何か物言いたげにしていたヴァイオレットに話しかけたが、気にせず話を進めてほしいと促された。それじゃ、遠慮なく――。


「当時、マーレハイト共和国も世界から孤立していた。エデンと同じくな」


 マーレハイト共和国のある世界は、プレーローマの魔の手が伸びつつあった。


 しかし、マーレハイトは強国じゃない。マーレハイトと、その世界にある諸国家だけではプレーローマの脅威に対抗できない状態だった。


「最初、マーレハイトは人類連盟に救援を要請した。当時のマーレハイトは人類連盟加盟国だったからな……」


 だが、人連はアレコレと理由をつけ、救援を拒んだ。


 業を煮やしたマーレハイト共和国は、人連に「テロ組織」と睨まれていたエデンに接触してきた。自分達を助けてほしい、と。


「マーレハイトは『流民の受け入れ』を条件に、エデンに『対プレーローマ協力』を要請してきた。マーレハイトをプレーローマから守ってほしいってな」


 オレ達は迷った。


 迷ったが、最終的に手を結ぶ事にした。


 非戦闘員を抱え、まともに身動きが取れないオレ達にとって、弱小とはいえ「国家」の支援は喉から手が出るほど欲しいものだった。


 それに、オレ達にとって「マーレハイトと手を組む」という事は、今後の組織展開に必要な事だった。


 オレ達は最強だったが、「少数精鋭の神器使い集団」ゆえの弱点も抱えていた。


 その弱点を解消しつつ、人類連盟やプレーローマと本格的にやり合っていくために国家と手を結ぶ必要があった。だから手を結んだ。


「マーレハイトはエデンという『テロ組織』と手を結んだ事で、人連からの脱退を余儀なくされた。オレ達はそれをマーレハイトが覚悟を決めたと汲み取り、非戦闘員を連れてマーレハイトに渡った」


 オレ達はそこで、ようやく安住の地を手に入れた。


 最初はそう思った。


「だが、それはプレーローマの(・・・・・・・)罠だったんだよ」


「えっ!? な、何でここでプレーローマの名前が……?」


「マーレハイト共和国は、最初からプレーローマの支配下に置かれていたんだ」


 共和国の首脳陣は、とっくの昔にプレーローマの傀儡だった。


 奴らはプレーローマと手を結び、エデン壊滅作戦を実行してきた。


「マーレハイトはエデンの非戦闘員を人質に取り、戦闘員(おれたち)を足止めした。そして、プレーローマの部隊を引き入れたんだ」


「…………」


「エデンは強すぎた。プレーローマもオレ達を殺したがっていたのさ」


 エデンは神器使いによる奇襲を得意としていた。


 単騎でも軍団を蹴散らすオレ達は、プレーローマの艦隊すら屠ってきた。


 少数精鋭で動き、襲ってくるエデンに対し、プレーローマはかなり手を焼いていた。オレ達を捕捉するのすら苦労していた。


 だから、マーレハイト共和国という罠を使った。


 エデンの「強み」を殺してきた。


「で、でも……エデンには師匠以外にも強い神器使いがいたんでしょ!?」


 フェルグスが手をギュッと握りしめつつ、そう言った。


「人質がいたとしても、師匠達が負けるわけ……!」


「負けたんだよ」


 プレーローマは人類の軍勢すら退ける強力な組織だ。


 エデンの捕捉に成功し、本気で潰しに来たら……オレ達でも勝てなかった。


「向こうには<死司天>もいたからな……」


「…………! カトー特佐、死司天と会ったんですか!?」


 ラートが驚き、目を見開きながら問いかけてきた。


「会ったし、戦った」


「でも、師匠の方が強いんでしょ!? その、なんちゃら天より!」


「…………。フェルグス、死司天はプレーローマ所属の天使でな。源の魔神がプレーローマを作った初期から存在する強力な天使なんだ」


 オレ達は何体もの天使を屠ってきた。


 権能持ちの天使ですら、大勢殺してきた。


 だが、死司天は別格だった。


 噂以上の強さだった。


「死司天は『睨むだけで人を殺す能力』を持っているんだ」


「にっ、睨むだけで!?」


「睨むだけで撫で切りだ。神器使いですら一瞬で殺されかねない相手だ」


 マーレハイトに現れた死司天は、次々とエデンの戦闘員を殺していった。


 仲間がバタバタと死んでいく中、オレは神器の力を使い、何とか敵の権能(ちから)に抵抗した。何とか即死は避けた。


 だが――。


「オレも死司天に負けた。大怪我を負って、その戦闘で神器も破損した」


 完全にブッ壊されたわけではないが、あの戦闘でオレの神器は本来の力を出せなくなった。要するに弱体化した。


「マーレハイトの罠にハマったオレ達は、死司天の圧倒的な力によって敗北した」


「っ……! マーレハイトの奴も、プレーローマも、卑怯な手を使いやがって!」


 我が事のように悔しがってくれるフェルグスの頭をポンポンと叩く。


 なかなか可愛い弟子だ。傷んだ心が少し癒される。


「プレーローマは今も人類を虐め続けているが、マーレハイトはもう滅びた。罠としての役目を終え、今はプレーローマに実効支配されてる」


「あの、でも……確か『マーレハイト亡命政府』がありますよね?」


 おずおずと聞いてきたヴァイオレットに対し、頷く。


「よく知ってるな」


「ネウロンも無関係ではないので……」


「ふぅん……? まあ、誰も奴らを『亡命政府』として認めてねえよ」


「プレーローマの息がかかっているからですか?」


「いや、マーレハイト亡命政府はプレーローマの手中には落ちていないはずだ」


 奴らは当時、共和国の「外」にいたマーレハイト人だ。


 要するに残党。


 全てのマーレハイト人がプレーローマに支配されたわけじゃない。エデンを罠にハメてきたのは、当時の首脳陣だけだ。


 そういう意味では、マーレハイト人も犠牲者と言っていいが――。


「マーレハイトは<ピースメーカー>って組織を作って、国外で活動させていたんだ。プレーローマに本国が支配されたから、亡命政府を名乗って活動しているんだよ。名乗ってるだけで自称だけどな」


 プレーローマの策略とはいえ、マーレハイトは人連から脱退していた。


 そして、エデンというテロ組織と組んでいた。


 その罪が現在もマーレハイトの残党を縛り続けている。


 奴らも「助けてくれないなら、自分達で何とかする!」と頑張っているけどな。


 犯罪組織として、違法稼業に手を出しつつ――。


「まあともかく、エデンはマーレハイトで壊滅的な打撃を受けた。オレもあそこで死にかけたが……ご覧の通り、まだ幽霊になったわけじゃない」


 脚を叩きつつ言い、笑う。


 場を和ませるジョークのつもりだったんだが……いまいちウケなかった。


「無様に負けたんだ。オレは」


「いや、でも……死司天相手に生き残っただけでもスゴいですよ」


「生き残れたのは、仲間の神器使いが助けてくれたおかげだ」


 おかげで何とかオレは生き延びた。


 仲間の神器使いが非戦闘員も逃がしてくれたおかげで、全員殺されずに済んだ。戦闘員の被害は……酷いものだったが……。


「生き残った神器使いは、たった2人だけ。オレと、『ファイアスターター』って名前の神器使いだけだった」


 エデン最強と言われたオレは、半死人状態。


 ファイアスターターは何とか無事だったが……他の神器使いは全員死亡。


 エデンの戦力は一気に削られちまった。


 非戦闘員(にもつ)が沢山いる状態で……。


「死にかけのオレと、ファイアスターターだけじゃ……エデンの非戦闘員を守るのは不可能だった」


 マーレハイトから逃げ延びたものの、放浪生活に逆戻り。


 頼りになる戦闘員(なかま)は大半が死に、非戦闘員のための食い物を用意するのすらキツい状況になっていった。


「エデンはもう、どうしようもなかったんだ……」


「…………」


「そんな時、交国が接触してきてな」


 オレ達は交国とも敵対していた。


 だが、交国は元敵対者だろうと、「交国や人類のためになる」と考えれば取引を持ちかけてくる。よく言えば大らか。機械のように効率を求める奴らだ。


「交国は『非戦闘員の保護』を取引材料に、オレ達に『交国のために働け』と持ちかけてきた。神器使いの力は……交国にも魅力的みたいでな」


 交国は多数の神器使いを抱えている。


 エデンとは比べものにならないほどの戦力を揃えているが、それでも「十分」と考えていないらしい。貪欲に戦力増強を行い続けている。


 実際、交国でも単独ではプレーローマに勝つのは不可能だからな。


 プレーローマはそれぐらい強い。


「まあ、かなり足下を見られているのはわかっていたが……飢え死にしかけていたオレ達は……交国以外には頼れなかった」


「…………」


「だから、オレは交国の軍門に下ったのさ」


「皆を、守るために……」


 フェルグスの言葉に答える代わりに、頭を撫でてやる。


 あの時は、あれしか無かった。


 あれ以外……皆を守る方法は無かった。


 仕方なかったんだ。強国に……交国に屈する事になっても……。


 交国はオレ達の敵だった。交国には大勢仲間を殺された。


 だがそれでも、いま生きている子達のためにガマンするしか無かったんだ。


「残念ながらもう1人の神器使い……ファイアスターターは『方針の違い』で一緒に来てくれなかったが、オレ1人でも交国は受け入れてくれた」


「交国が保護したエデンの方々は、今も無事なんですか……?」


「ああ、元気だよ。オレは最近忙しくて会えてないが――」


 皆、安全な世界で一緒に暮らしている。


 交国の用意した仕事に励み、「普通」の暮らしをしているはずだ。放浪していた時とは違い……陸での暮らしを満喫している。


「皆はいま、<ゲットー>って世界にいる。農業やってる奴が多いかな? 玉帝への謁見を終えたら、久しぶり会いにいくつもりなんだ!」


 嬉しくてつい言ってしまうと、副官の咳払いが聞こえた。


 特佐(オレ)の行動は軍事機密だもんな。はいはい、次から気をつけます!


「非戦闘員を守るために、交国に身売りしたわけですね。カトー様」


「……そういうこった」


 笑みを浮かべたまま黙っていた史書官に対し、そう言ってやる。


 悔しいが、負けたオレ達が選べる選択肢はほぼ無かった。


 けど、交国に来たおかげで何とか皆を守る事が出来たんだ。


 それに……それ以外にも良いことがあった。


「交国への身売りも、悪い事ばかりじゃない! 特佐になってよくわかったが……交国ほど本気で『対プレーローマ』のために戦っている国は他には無い」


 交国は本気だ。


 対プレーローマに関しては、まったく手を抜いていない。


「オレはエデンの仲間を殺したプレーローマを許せん。だから――」


「復讐のために、交国を利用しているわけですね」


「そういうこった」


 オレは弱くなった。


 マーレハイトで死司天に負け、生き残ったものの……神器が破損した。


 神器はオレの力の源だ。まだそれなりの力は振るえるが、「エデン最強」と言われた頃の力はもう振るえない。……本当にオレは弱くなった。


 だが、今は交国の力も使える。


 交国は外道な事もやっているが、確かな国力を持っている。軍事力も経済力も多次元世界指折りの実力を持っている巨大軍事国家だ。


 外道なところは、内側から正していけばいい。


 今のオレは特佐。この地位を上手く使い、交国を正せばいいんだ。


 オレは一度負けた。多くの仲間を失った。


 けど……交国の力さえあれば、きっとまだ復讐できる。


 マーレハイトのクズ共は勝手に滅びたが、プレーローマはまだ倒せていない。オレは交国でもっと権力(ちから)を手に入れて、必ずプレーローマを滅ぼしてみせる。


 皆のために。自分のために。


「昔の貴方なら、1人で飛び出していって復讐の戦いを始めそうですが……」


「オレも歳を取ったのさ」


 不思議そうに見つめてくる史書官に苦笑を返しつつ、言葉を続ける。


「『エデンの狂犬』と呼ばれた昔みたいな無茶は、もう出来ねえよ」


「ふぅむ……」


「守るべきものも……いや、守りたいものもあるからな」


 そう言いつつ、首元のロケットペンダントを手に取る。


 ロケットを開き、その中の写真を見つめる。


 フェルグスも覗いてきて、しげしげと写真を眺めてきた。


「女の子が写ってる。師匠の彼女?」


「ちげーよ! 姪っ子だよ! ウチの姉貴の娘っ!」


 この子を守るためにも、オレは交国の犬になったんだ。


 この子のためなら……オレは、何だって出来る。


 玉帝の靴だって舐めてやるよ。この子の……ナルジスのためなら。




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