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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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追放オーク



■title:繊三号にて

■from:狂犬・フェルグス


「ふぅ~……疲れた!」


 カトー師匠といっぱい戦って、今日は疲れた。


 疲れたけど……嫌な疲れじゃない。気分がいい。


 シャワーを浴びてさっぱりしたし、今日はもう寝よう。


 ただ、その前に――。


「にいちゃんっ」


「アル」


 脱衣所から遅れて出てきたアルの髪の毛を触る。


 まだちゃんと乾いてない。少し湿っているタオルでしっかりと拭いてやった後、手を握って「部屋に帰るぞ」と言う。


「あんまりウロウロしてたら危ないし、さっさと部屋に戻ろう」


「う、うん……。えっと、でも、ラートさんに『おやすみなさい』を言いに……」


「そんなの別に良いって」


『世話になっている相手だ。就寝の挨拶ぐらい言うべきだぞ、兄弟』


「「…………!?」」


 急に、知らない声が聞こえた。


 それも直ぐ傍から。


 アルと顔を見合わせる。アルにも聞こえたみたいだ。


「だ、誰かいるのかっ……?」


 もう夜だから、辺りはもう暗くなっている。


 暗いけど、オレ達には巫術の眼がある。


 誰か隠れていたとしても、魂が観えるはずだけど――何も観えない。


 アルとオレ様の魂以外、周りには何もいない。いないはずなのに……。


『私の声を忘れたのか? 兄弟。少し悲しいぞ』


「――――」


 男の声が聞こえる。


 声は聞こえるのに魂は観えない。


 けど、これ……初めて経験することじゃない。


 ついこの間、同じ事があった。同じ声を聞いた。


「アル。この声……覚えてるよな?」


「うっ、うんっ! 羊飼いと戦った時……聞いた声だよね?」


 混沌機関から機兵を作って、アルと2人で操縦した時。


 あの時、知らない男の声が聞こえた。そいつの声が聞こえ始めてから、急に戦い方がよくわかって……羊飼い相手でも、結構戦えるようになった。


「お前、何者だ。この間と同じ奴なのか?」


『ああ、同一人物だ。ただ、人間と言っていいかは怪しいものだが――』


「姿を現せ! どこにいやがる……!?」


 声の主が黙る。


 何か考え込むように黙っていたが、また喋り始めた。


『姿を見せるのは構わないが……。あまり驚かないようにな?』


「どういう――」


 何も無い空間に、黒い「染み」が生まれた。


 空気に黒いインクがにじむような染み。それが広がっていく。


 広がっていった染みが、人間のシルエットに変化していって――。


「――――」


「わ、わっ……!?」


 黒い染みが、大剣を背負った人間になった。


 いや、コイツ……オークだ!


 大剣を背負い、黒い衣と黒いサングラスをつけた背の高いオークが現れた。


 けど――。


「お、お前の身体……透けてねえか?」


『実体がない幻だからな』


 半透明の大男オークは可笑しそうに笑いつつ、アゴを撫でている。


『半透明だろうと、美男だろう? 私は』


「…………」


 大男の言葉は無視しつつ、スッと手を伸ばす。


「に、にいちゃんっ! あぶないよぅっ……! 大剣背負ってるんだよ!?」


「大丈夫だって」


 正体不明の大男(オーク)にビビってるアルが、オレの服を引っ張って止めてきた。


 けど、構わずに大男に触る。


 触ろうとしたけど……失敗した。


「うわ、マジで触れない。何かに当たってる感触もない……」


『先程も言っただろう。私は実体を持たない幻だ』


 触ろうとした手は、相手の肌がある場所を貫通した。


 さらに手を伸ばすと、相手の向こう側まで貫通した。


 アルが「うひゃあ!? 幽霊だぁ……!」と叫ぶと、幽霊大男はさらに笑った。


 怖がられているのに、それを喜んでいるみたいだった。


『ククク……。その通り! 私は幽霊だよ、兄弟』


「ゆ、幽霊なんかいるわけ――――あっ! ロッカ!」


「あ?」


 ロッカと星屑隊の整備士(バレット)が通りがかった。


 整備仕事の所為か、油で肌や服が汚れてる。シャワーを浴びるために脱衣所の方に向かっているみたいだ。


 そんなロッカ達を呼び止め、招き寄せる。


「見ろ! ここになんかいるだろ!?」


「…………?」


「大剣背負ったオークがいるだろ? 自分で自分のこと、幽霊って言ってるんだ」


『そうそう。私は幽霊だ』


「ほらいま喋った!!」


「…………?? あっ……ああ、いつものやつか」


 ロッカは何故か変なことを呟いた。


 それで、傍にいた整備士の背中を叩いて、「そっとしておこう」と言い、脱衣所の方へ向かい始めた。スルッとスルーしようとしてんじゃねえよ!


「おまっ……アイツが見えねえのか!? 声も聞こえねえのか!?」


「オレには何も見えねえけど……。うん、まあ、なんかいるんじゃねえの?」


 ロッカはどうでも良さそうに言い、整備士を連れてスタスタ行っちまった。


 去り際、隣の整備士に向けて、「アイツら、たまに幻覚を見るんだよ」なんて失礼なことを言いやがった。これが幻覚? 冗談言うなよ。


「いや、でも……俺達にしか見えてないなら……幻覚なのか?」


『まあ、そのようなものと思ってもらって構わんよ。ゆえに、私と喋る時は周囲に誰もいない時がいいぞ』


 そうじゃないと幻覚が見えている可哀想な子扱いされるぞ――と言い、幽霊大男は笑った。なんかハラ立つな!


 笑う大男と違い、アルはちょっと泣きべそをかいていた。


 オレの服を引っ張り、情けない声で鳴いている。


「にいちゃぁん……! ラートさんのとこ、逃げようよぅ……! 危ないよぅ」


「大丈夫だっつーの……。にいちゃんがいるだろっ?」


 ラートばっか頼りやがって。


 お前の兄貴はオレなのに~……。


『別に取って食おうとは思わんよ。食おうにも触れることが出来ないだろう?』


「ひぇぇぇぇ~……!!」


「お前、何者なんだ? マジで幽霊なのか? 魂も観えないけど――」


 上から下までじっくり見たけど、魂の欠片も観えねえ。


 けど、こいつは確かにここにいる……ように見える。


「羊飼いと戦った時、オレ達を……その……助けたのは、お前か?」


『そうだ。私の技術(ちから)を与えることで、キミ達を強化した』


 大男は頷き、「そして私の名前だが――」と言葉を続けたけど……。


『…………そうだな、私のことは「エレイン」と呼んでくれ』


「は? それ、もしかして偽名か?」


『そんな事はない。本名だとも。ウム……』


「うそつけ! エレインって、女の名前だろ。それに、その名前は――」


 虹の勇者の登場人物の名前だ。


 いや、正確には人間じゃなくて、「水の妖精」だったな。


 エレインはスゴくキレイな妖精で、虹の勇者(フェルグス)の師匠でもあった。時には虹の勇者と一緒に戦う戦士でもあった。


 女の妖精だった。こいつみたいなゴツい大男じゃない。コイツはエレインというより、フェルグスって感じのツラ――いやいや、こいつはただの幽霊だ!


「……ともかく、お前それ偽名だろ!?」


『そんなことはない。ネウロン以外では「エレイン」を男性名として使う事もあるのだ。ネウロンの常識に縛られるのはよくないぞ』


「むぅ……」


「あ、あのぅ……。貴方は、ネウロンの人じゃないんですか……?」


 少しは落ち着いてきたアルが、オズオズと訪ねた。


 大男オークの自称エレインは「さてな」と曖昧な言葉を漏らした。


『一番長く暮らしていたのは、ネウロンではない。大昔にあった国だ。そこには私のようなオークも多く暮らしていた』


「貴方は昔生きていた……ゆっ、幽霊さんなんですか……?」


『そのようなものと思ってくれればいい。正確にはキミ達の意識に寄生している幻影のようなものだ』


 寄生って。


 さらっとキモいこと言ったな、コイツ。


「なんで、羊飼いとの戦いで……ボクらを助けてくれたんですか?」


『守りたいから守っただけだ』


 エレインは穏やかな声でそう言いつつ、言葉を続けた。


『ある人物は、私をキミ達の「護衛」として遣わしたようだが――』


「「ある人物?」」


『ただ、私は実体のない幽霊の如き存在だ。キチンとした魂もない。ゆえに護衛として役に立たないと思ってくれ。助言は出来るがな』


「助言、ねえ……」


「……羊飼いと戦っている時、頭に『戦い方』が思い浮かんだんです。あの時、ボクら……流体の扱いとか、剣の使い方、勝手に上手になって……」


『それが私の出来る助言だ。私は、私の持つ戦闘技術(ちから)をキミ達に継承できる。扱える術式の関係上、全てを渡すことはできないが……剣技ぐらいは渡せるだろう。全て渡すのは時間かかるが』


 よくわからねえことを言う。


 けど、感覚的には……わかる。


 羊飼いとの戦いで、オレ達は強くなった。その実感がある。


 考える前に身体が動くようになった。前からそういう事はあったけど、あの戦いだと……もっと早く身体が動くようになった。


 それは、コイツの技術を受け継いだってことなのか?


 変だけど……不思議と違和感はなかった。


 むしろ、スゴくしっくりくる(・・・・・・)力の気がする。


『謂わばキミ達の師匠だ。護衛として頼りにならなくても、師として頼ってくれ』


「いや、オレにはカトー師匠がいるし」


『ムムッ……! 先んじられたか。悲しいなぁ……。私を選んでくれよ、兄弟』


「なにが兄弟だ。馴れ馴れしい! オレ様の兄弟はアルだけだ!」


 兄弟兄弟と馴れ馴れしい奴と向き合いつつ、アルと肩を組む。


 すると、大男は余計に嬉しそうにし始めた。よくわからん奴だな。


「つーか、お前……何で今頃になって出てきた?」


 コイツの存在は気になっていた。


 羊飼いとの戦いの後、アルと一緒に探した。けど見つからなかった。


『羊飼いとの戦いで消耗していたのだ。力の継承を無理にすると消耗するからな』


 普段から「力の継承」は少しずつ行っている。


 けど、普段から渡している量じゃ足りない。それじゃ目の前の相手に勝てないって時は、一気に力を渡す事も出来るらしい。


 ただ、それはスゴく疲れる。


 疲れるから休んでいたので、今まで出てこれなかったらしい。


『実は私は、羊飼いとの戦いの前から兄弟(おまえ)達の直ぐ傍にいた。だが、お前達にも私の言葉は届いていなかった。羊飼いとの戦いでやっと、波長(チャンネル)が合ったようだ。これでやっとお前達と話せる』


「意味がわからん」


『お前達は私の力を継承した。既にそれなりの継承が完了した事で、私の存在を強く感じることが出来るようになった……という事だ』


 大男は大人の男に見えるけど、どこか子供のように喜んでいるように見えた。


 オレ達相手ですら話が出来なかったから、寂しかったのか?


「要するにオレ達……よくわからん幽霊に取り憑かれたのか?」


『安心してくれ。悪霊ではない』


「自分でそう言われてもな……」


『私は役に立つぞ! お前達を強くする以外にも役に立つ』


「例えば?」


『女の口説き方を指導できる』


 大男は「えっへん」と胸を張り、「生前の私は63人の妻を持つ大黒柱だった。妻以外にも多数の女性と関係があった」なんて言いやがった。


「なるほどな……。クソ役に立たないことがわかったよ」


「奥さんって1人しかいないものじゃ……?」


「しっ! アル! こいつと目を合わせるな! お前の頭が汚れる!」


『女性の口説きは、戦闘より大事な事だぞ! 兄弟!』


「んなわけねえだろ……!!」


 こっちは明日も無事に生きているか怪しい身分なんだ。


 女口説いている暇もねえよ。


 こいつの戦闘能力を受け継ぐってのは、便利そうだけど――。


「オレ達が受け継げるお前の戦闘能力って、なんだ? 剣の技だけ? そんなもんを受け継いで、どうやって交国相手に勝てばいいんだよ」


『私の剣技は対国家剣術などではない。だが、それなりに通用していただろう?』


 羊飼いは交国軍の軍隊すら蹴散らしていた。


 その羊飼い相手に、それなりに対抗できたのは確かだ。


「…………」


 辺りを見回す。


 誰もいないし、誰かこっちを見ている様子もない。


 けど、念のため、小声で聞く。


「……お前、オレ達に頼られたいのか?」


『ああ。どんどん頼って――』


「じゃあ、オレが交国軍倒したいって言ったら、協力してくれるのか?」


 オレがそう言うと、アルがギョッとした様子ですがりついてきた。


 アルを手で制しつつ、大男の答えを待つ。


 大男は少し黙っていたけど――。


『……兄弟が望むなら協力しよう。ただし、推奨は出来ない』


「何でだ? 交国にオークがいるから、同族は倒したくないとか言うのか?」


『いや、交国のオークに対し、仲間意識は無いさ。ただ、交国相手に戦争を吹っかけるのは分が悪い。彼らと戦争して勝つのは非現実的だ』


「…………」


『それは理解しているのだろう? 兄弟』


「うっせえ。馴れ馴れしい……」


 一応、ある程度わかってるつもりだ。


 交国軍は強い。少なくともネウロンよりずっと強い。


 オレ達だけで交国軍を倒すのは無理だ。


 他の国にも頼れない。交国は多次元世界で結構強い立場もってるみたいだしな。


 けど……戦いが避けられない時は、立ち向かうしかない。


 いつまでもやられっぱなしでいられるかよ。


「まあ、とにかく……アンタはオレ達の味方。そう言い張るんだな?」


『その通り。信じる信じないは、お前達の勝手だが――』


「どっちにしろ、アンタがオレ達の意識に寄生している以上は……勝手に『力の継承』が行われる。自動的に協力してくれるってことか」


 大男が満足げに頷き、「そういう認識で構わない」と言った。


「それで……アンタの存在はオレ達にしか見えない」


『そうだ。交国人ですら、絶対、私の存在には気づけないだろう』


「……じゃあ、アンタは交国とやり合う時には切り札になるな……」


 コイツは羊飼いとの戦闘で、確かな力を見せてくれた。


 けど、コイツの力は交国には伝わらない。気づかれない。


 オレ達が喋りさえしなければ、切り札として使えるってことだ。


「アル。コイツの……エレインのことは、皆にはヒミツだぞ」


「えっ? えっ? ヴィオラ姉ちゃんにも言わないの!?」


「言ったところで、ヴィオラ姉には見えないんだろ? 幻覚見てるって心配させるより、ヒミツにしておいた方がいいだろ」


 アルの鼻先に指を当てつつ、「ラートにもヒミツだ」と言っておく。


 アイツは他の交国人とは違うけど……正直、気に入らねえ。


 アイツにも、エレインの事はヒミツだ。


「で、でも……この人が……」


 アルが不安げな顔で、チラリとエレインを見る。


 コイツが悪人かもしれないと思っているんだろ。


 オレも正直、「うさんくさい」と思っているけど……コイツが役に立つのは確かだ。今はこっそり協力関係を結んでおくべきだろう。


 アルと肩を組み、エレインから少し離れ、耳打ちする。


「大丈夫だ。オレに任せとけ。オレが上手く扱ってやるよ」


『うむ。剣のように上手く扱ってくれ』


「盗み聞きすんな! クソオーク!」


『フフフ……』


 微妙に扱いにくそうだけど、今はガマンだ。


 オレ達には力が必要なんだ。


 ネウロンに平和を取り戻す力が必要なんだ。


 タルタリカを倒して、弔って……交国が約束を守ってくれないようなら、交国と戦う必要もある。そのための力はいくらあっても困らない。


「よしっ……。エレイン、手を組もうぜ」


『うむ、よろしくな。我が主。我が兄弟よ』


「オレ達はお前から力を貰う。で、お前は?」


『ん?』


「お前は何が欲しいんだ?」


 オレ達はエレインの力を貰う。


 エレインは、その対価に何か欲しいはずだ。


 タダで協力してくれるはずがない。そう思って聞いたんだが――。


『…………? いや、別に何も欲しくないが?』


「ハァ? お前、それじゃタダ働きになるぞ。正直に言えよ」


『私は、またこうしてお前達と言葉を交わせただけで満足だ。あとはたまに話し相手になってくれれば言う事がないな。実質タダ働きで構わんよ』


 大男が、朗らかに笑う。


 ……メチャクチャうさんくさい。


 家族でもねえくせに、タダ働きでいいなんて……コイツ、絶対何か隠してる。


 偽名を名乗ってるっぽい時点で怪しい。


 偽名ってことはウソだ。ウソつきは信用できない。


 オレ達の「意識」に寄生しているとか言ってたな。まさか、それだけで目的を達成できるのか? 例えば……オレ達の身体を乗っ取れるとか?


「……まあ、いいだろう」


「にいちゃ~ん……! ぜったい危ないって……!」


「大丈夫だ。にいちゃんを信じろ」


 エレインは「敵」かもしれない。


 アルやヴィオラ姉達みたいな「純粋な味方」じゃない。


 それでも、力をくれるのは確かだ。


 コイツの力を借りなかったら羊飼いに負けて、殺されていたかもしれない。


 身体を乗っ取られたりしないよう、注意して付き合っていけばいい。


「お前を信じてやるよ。エレイン」


『フッ……。感謝する。兄弟』


 お互いに手を伸ばし、握手する。


 握手といっても、コイツの手は透明だから触れない。


 けど、握手してるっぽく手を合わせる。


 怪しい存在だけど、上手く利用して、力だけ引き出してやる!


 信じるってのは当然ウソ。


 けど、ウソつきはお互い様だろ?




■title:繊三号にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


「にいちゃん……」


 にいちゃんが、怪しいオークさんと手を結んじゃった。


 ホントにいいのかなぁ……。


 幽霊(オバケ)と手を結んだら、そのうち身体を乗っ取られちゃうんじゃ……。


「あ、あの……。ボクからも質問してもいいですか?」


 この人の正体、しっかり理解しなきゃ。


 問いかけると、「何でも聞いてくれ」と言ってくれた。


 親切すぎて怪しいし、ウソをつかれるかもだけど――情報集めなきゃ。


「貴方をボク達のところに連れてきた『ある人物』って誰なんですか?」


『それは…………私も知らん』


「えっ……?」


 オークさんの表情をよく見る。


 ……サングラスが邪魔で目がよく見えないし、表情もいまいちわからない。


 ウソかホントかわからない。


『私は、気づいたらお前達の傍にいた。だが、何者かによって呼び出されたのは確かだ。それに関しても私なりに調べているところだ』


「呼び出す……?」


作成された(・・・・・)と言っていい』


 オークさんが半透明の手を動かしつつ、言葉を続ける。


『私は遠い過去の人物をモデルに作成された幻影だ。ゆえに魂を持たない』


「……本物の人間じゃないの?」


『そうだ。人間の姿をして、人間の言葉を喋っているが、幻に過ぎない』


 オークさんがボクらの影を指さしつつ、「私はお前達の影のようなものだ」なんて言ってきた。


 あくまでボク達に「寄生」して存在しているけど、本物の人間じゃないから魂も持ってない。だから、巫術の眼でも魂が見えないってこと……?


「ど、どういうことか、よくわかりません……」


『私もよくわかっていない。ほぼ推測で喋っている』


「ええっ……!?」


『だが、私が作られた存在なのは確かだ。オリジナルの私は、遙か昔に死んでいる(・・・・・)。その記録を参考に作成された紛い物ゆえ、オリジナルの記憶も完璧には把握できていない』


「どうやって記憶から幽霊……のようなものを作れるんですか?」


『おそらく何らかの術式だろう。だが、巫術とは異なる術式だ』


「うーん…………」


 この人が言ってることが本当なら、この人に聞いてもこれ以上はわからない。


 テキトーなことを言ってるだけかもだけど……。


 にいちゃんと顔を見合わせ、お互いに首を傾げる。オークさんもボクらのまねっこをして首を傾げていた。


『まあ、そのうち明らかになるだろう』


「ホントですか……?」


『私はお前達と一緒にいられるだけで楽しい。だが、私の作成者は何らかの目的があって私を作り、お前達に取り憑かせたはずだ』


 羊飼いとの戦闘がきっかけになって、ボクらは出会った。


 ボクら3人は話し合うことが出来るようになった。


『ならば、3人一緒にいれば、作成者の目的も自ずと明らかになるはずだ。既に目的を達成しているのであれば……わからないかもしれないが』


「「…………」」


『まあとにかく、仲良くしてくれると嬉しい』


 オークさんはそう言い、ボクにも握手を求めてきた。


 仕方なく、それに応じる。


 触ることはできないけど……握手の真似事ぐらいはできる。


 この人、本当は何者なんだろう?


 本人は「記憶に欠落がある」とか言ってる。ヴィオラ姉ちゃんみたいなことを言っている。けど、ヴィオラ姉ちゃんと違って……うそっぽい。


「…………」


 怪しい人だけど……今は付き合うしかないのかな……?


 協力するフリをして、正体や目的を探っていってみよう。


 あからさまに危ない存在なら、にいちゃんだって「コイツと協力するのは危ない!」とわかってくれる。そしたら、ラートさん達にも相談できるはず。


 それに……ボクも、力は欲しい。


 上手く情報と力を引き出して、皆の役に立たないと……。




■title:繊三号にて

■from:贋作英雄


 2人共、私を疑っているようだな。


 いいぞ。私が兄弟(おまえ)達の立場でも疑う。


 信頼はこれから獲得していけばいい。


『これからよろしく頼むぞ。兄弟』


 おそらく、10年……いや、7年程度しか持つまい。


 だが十分だ。


 それだけあれば、きっと……私は真実に辿り着けるはず。


 そう思っていると、スアルタウがまた訝しげに私を見てきた。


「……あれっ? エレインさん、ボクらどこかで会った事ある?」


『私は常にお前達の傍にいる。常に会っているようなものだ』


 疑問してきたスアルタウが「いや、そういう話じゃなくて……」と言ったが、直ぐにハッとした顔で言葉を続けてきた。


「羊飼いが星屑隊の船を襲った時だ! あの時、ボクが機兵の手に潰されかけた時……ボクに指示してくれたよね? 飛べって――」


「アルが死にかけた時か」


「うんっ! あの時に聞こえた声って――」


『うむ。私だ』


 あの時は何とかギリギリ、声をかけれた程度だった。


 だが、それでも何とかスアルタウの死は回避できた。


 羊飼いの操作する機兵に潰される運命を回避した。


 いや、正確にはラート軍曹の操作する機兵だったか?


 彼の話だと、あの瞬間、羊飼いが一時的にラート軍曹に操作を戻したようだからな。急に操作が戻ったから、ラート軍曹も対応できず兄弟を潰しかけた。


 アレ(・・)は、そういう事だったのだな。


 となると……自分が潰されて死んでも、機兵の手を通じて憑依し、ラート軍曹を助けようとしたスアルタウの判断は完全に誤っていたわけだ。


 助けられて良かった。二重の意味で。


「やっぱり。……えっと、助けてくれて、ありがとうございました」


『気にするな。私は私のやりたいように助言しただけだ』


 お前達が生き延びれば、私もまだ消えずに済む。


 このまま運命に抗い続けていれば……きっといつか、真実に辿り着けるはずだ。





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