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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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突破口?



■title:繊三号にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「カトー特佐に頼るのはどうだ?」


「特佐に……ですか?」


 繊三号での業務の合間。


 ラートさんに呼ばれ、お茶を飲みつつ言葉を交わす。


 ラートさんは「多分、ヴィオラは反対するだろうけど……」と前置きをしつつ、交国の特佐に頼るという話を切り出してきた。


「いま、繊三号にはカトー特佐が滞在している。繊三号の守備隊はボロボロで、まともに戦える奴がいないから滞在してくれている。またと無い機会なんだ」


「でも、特佐も交国軍人さんですよ?」


 軍事委員会やネウロン旅団上層部に頼るのと、大差がない。


 あまり賛成できない案だけど――。


「特佐は普通の交国軍人じゃない。特佐の中には、軍事委員会より上の捜査権限を与えられた人もいる。特佐は軍事作戦に参加するだけじゃなくて、交国内の不正を(ただ)すためにも動いているんだ」


「ふむ……」


「だから、アルの両親や、ネウロン人に対する虐殺の真実も暴いてくれるかもしれない。カトー特佐が捜査権限持ちの特佐かはわからないが――」


 特佐は交国軍人だけど、通常の指揮系統に属していない。


 交国の最高指導者・玉帝の側近である「特佐長官」の部下として、現場で独自の判断で動く。将官ですら特佐達を従わせる事は出来ない。


「特佐は交国でもかなり上の立場だ。交国軍内部に不正を働いている奴がいたとしても、特佐に直接頼れば、そういうしがらみをすっ飛ばして何とかしてもらえる」


「それは、特佐長官や玉帝が不正に荷担していない場合、ですよね?」


 私はラートさんと違い、交国という国自体を信用できない。


 玉帝が潔白だとは……到底思えない。


 子供達が「特別行動兵」として戦場に投入されている事実は、玉帝も知っているはず。あんなことを看過している人を信用できない。


 交国も広いから、交国支配地域の端っこに位置するネウロンの事なんて本当に知らない可能性もあるけど……。


「ラートさんの言うように玉帝が潔白なら……特佐に頼るのアリだと思います。けど、私は反対です。玉帝のことも信じられませんから」


「うーん……。まあ、ヴィオラならそう言うよな」


 ラートさんが困り顔で鼻を掻いた。


 特佐さんに頼るぐらいなら、私は雪の眼の史書官さんに頼る。


 まあ、頼ったところで現状が解決するとは思えないけど――。


「わかった。この案は無しだな。ごめんな、良い案を提案できなくて」


「い、いえ……。こちらこそ、また交国を批判しちゃってゴメンなさい」


 頭を下げ、「母国の統治者を悪く言われるのは、気分悪いですよね」と言うと、ラートさんは苦笑して「気にするな」と言ってくれた。


 お前が玉帝を疑う理由もわかる、と理解を示してくれた。


「俺は自分の国の指導者を信じたい。けど、アル達の件はかなりデリケートな問題だし……お前の言う通り、慎重に動くべきだな」


「すみません……」


「けど、特佐に直接陳情できる機会なんてそうそう無いんだぜ?」


「まあ、それはそうでしょうけど……」


 特佐はそこら中にホイホイいる人じゃない。


 交国軍人でも、一生会わず終いでもおかしくない天上人(エリート)らしい。


 それなら――。


「特佐にアル君達のことを相談するのは反対ですけど――」


「ですけど?」


「久常中佐の件、相談するのはどうですか?」


 久常中佐。ネウロン旅団の旅団長(トップ)


 あまり良い噂を聞かない人だ。軍人として優秀とは言いがたい人らしい。


 実際、中佐は先の戦いの判断を誤っている様子だった。仲間である星屑隊の存在すら疑い、繊三号に対して実質的な「特攻作戦」を強要するような人だ。


 軍事委員会が久常中佐を正してくれないなら、特佐に頼んで叱ってもらうのはどうでしょう――と提案する。


 思案顔で私の話を聞いてくれていたラートさんは、「そいつは妙案かもしれないな」と言ってくれた。


「巫術師が特別行動兵として酷使されている件も、それとな~く特佐に伝えるといいかもな。そしたら、子供達が特別行動兵の任から解いてもらえるかも?」


「そうなったら最高ですねっ……!」


 私達が解決すべき問題は、ロイさん達の事だけじゃない。


 子供達が特別行動兵として戦場に投入されている問題も、解決しなきゃダメ。本来はそれを何とかするために動いていたんだから――。


「その件、今から特佐に訴えに行ってみるか!?」


「この基地に滞在中の特佐さんって、そんな簡単に会えるんですか?」


「わからん。とりあえず、今どこにいるか探すところから――」


 そう言ったラートさんが、基地の一角を見て「おっ!」と声を上げた。


「いるじゃん! カトー特佐!」


「そんな都合よくいるわけ…………いる~~~~っ!!」


 基地の外縁部にカトー特佐らしき人がいる。


 しかも戦闘中。実戦ではなく、模擬戦中みたい。


 機兵相手に戦っている。生身で機兵に立ち向かっている。楽しそうに。


 特佐ってあんなバケモノなんだ……。


「どこの部隊とやり合ってるんだ?」


「さあ……? ……あれっ? アル君?」


 機兵と特佐が戦っている場所。そこからさほど離れていないところに、特佐達の戦いを見守っているアル君がいた。


 何故かオロオロしながら見守っていて、私達と視線が合うと、ハッとした様子で両手を振ってきた。私達を呼んでいるみたい。


 何をそんな慌てて――。


「ヴィオラ。アルの後ろの方に、フェルグスが寝てるんだが……」


「――――」


 格納庫らしき場所の壁に、フェルグス君が背中を預けている。


 ピクリとも動いていない。


 何か(・・)に憑依中みたいに、動いていない。


 近くでは機兵が暴れている。特佐相手に機械の拳を振るっている。


 そういえば……今日は整備用にヤドリギを起動している。


「「――――」」


 さーっと血の気が引く感触がした。


 ラートさんも同じ感覚になったらしく、絶句していた。


 けど、2人で視線を交わし、全力でダッシュ開始。


 あの機兵、止めないと。


 フェルグス君が、機兵でカトー特佐を襲ってる~~~~っ!!




■title:繊三号にて

■from:交国軍特佐・カトー


『このぉ!!』


「おうっ! いいぞっ! 殺す気で来いッ!!」


 10メートルの巨体が――機兵が素早く動き、右脚で蹴ってきた。


 ギリギリのところで回避し、機兵の左足を踏み台に駆け上る。


 途中、流体装甲が蠢き、襲ってきた。装甲から無数の棒が突き立ち、オレを串刺しにするような勢いで襲ってきたが――それも踏み台にして駆け上る。


 機兵の両手が両側から襲ってきたが、それも回避する。


 機兵(あいて)は羽虫を潰し損ねたようにワタワタと無駄な動きをしている。その隙に肩部に飛び乗り、機兵の頭部に武器を突きつけた。


 武器といっても、その辺で借りたデッキブラシだが――。


「ほれっ! さらに1本取ったぞ!」


『ま、マジかよ……!』


 機兵は負けを認め、ガックリと肩を落とした。


 その揺れを体重移動で上手く逃しつつ、機兵の肩で高笑いしてやる。


『こっちは機兵なのに。生身相手に負けるって、意味わかんね~!』


「オレは神器使い。超人(メサイア)だ! そんじょそこらの機兵に負けるかよ」


『神器使ってねえじゃん!』


「オレは神器無しでも戦えるんだよ。常人と身体の作りが違うからな」


 神器使いは普通の人間じゃない。


 超人だ。


 個人差はあるが、神器使いとして覚醒すると身体構造が変化する。


 例えばオレの場合、覚醒前は単なる只人(ヒューマン)種の子供だったが、覚醒後は「不老不死の超人」になった。身体能力も常人より遙かに強化された。


 ただ、それはあくまでオマケ。神器使いの本領は「神器を使った戦闘能力」にある。俺の場合……諸事情で昔より弱体化しちまったが……まだまだその辺の奴らに負ける気はしないな。


「けど、お前も凄いぞ。フェルグス! その歳でそこまで機兵を使える奴なんて、オレは初めて会ったよ。メチャクチャ優秀じゃないか」


『ま、まあねっ! オレ、巫術師だし~……』


 巫術という術式。そういうモノが存在するのは小耳に挟んだ事はあるが、<神経接続式>並みに機兵を動かせるなんて初耳だ。


 それも、大して訓練を積んでいないはずの子供が軍人(プロ)並みに動かせているのが凄い。軽く機兵に触れただけで動かせたのが凄い。


 触れるだけで機械を操る。


 それは上手く活用したら、攻撃手段としても使えそうだ。例えば……敵の機兵や方舟を無傷で掌握する事も可能なんじゃないか……?


 オレの神器ほど強くはないが、便利で伸びしろたっぷりの術式だ。フェルグス自身の才能もあるのかもしれないが――。


「お前は本当に凄いよ。けど、どうしてお前ほどの子供が――」


「特佐! 何をやっているんですか!?」


「ゲッ……。うるさい奴が来やがった」


 フェルグスの操る機兵の肩上から、声のした方を見る。


 交国軍の軍服を着た奴が、血相を変えてこっちに近づいてきた。


 フェルグスがスピーカー越しに「誰?」と聞いてきたので、「オレの副官だよ」と教えてやる。「小うるさい副官」とは言わないでおいてやった。


 あいつ……オレの副官のくせに、アレコレとうるさいんだよな。


 軍人だから仕方ないかもしれないが……軍属ってやっぱ窮屈だわ。組織(エデン)で好き勝手にやれていた時が懐かしい……。


「あまり目立つ真似をしないでくださいと、お願いしましたよね!? 貴方の所在がおおっぴらになるのは、交国軍にとって大きな問題なのですよ!?」


「チッ……。うるせぇなぁ……」


 神器使ってないだけ有り難いと思いやがれ――と思いつつ、耳くそをほじる。


 オレは交国軍の特佐。それも神器使い。


 神器使いは単騎で戦況を変える力があるから、その所在は可能な限り秘匿する。「どこにどの神器使いがいる」という情報は、敵軍にとって行動を決める重要な情報(ファクター)になっちまうからな。


 あえて公開し、情報で敵を牽制する事もあるが……オレがネウロンにいる事は、あえて公開するほどの情報でもない。


 だからネウロン滞在中は、戦闘時以外は神器使用を避け、密かに行動しろ――というのが特佐長官(うえ)からのお達しだ。


 それを踏まえて考えれば、副官の言ってることは正論だ。


 正論だが……小うるさくて気にいらねー。


「特佐らしい振る舞いをしてください! ここはエデンじゃないんですよ!?」


「チッ……。フェルグス! もう一本やろうぜ! 模擬戦!」


「特佐!!」


『えぇっ、いいの……?』


 フェルグスがウチの副官を指さしつつ、「なんか怒ってるよ」と呟いた。


 けど、「気にするな」と言う代わりに機兵の肩から飛び降りる。


 そして、半ば強引に模擬戦を再開する。


 小うるさい副官の抗議を聞きつつ、楽しい模擬戦をやっていたんだが――。


「うおおおお! やめろ~っ! フェルグス!! マジでやめろ!!」


「フェルグス君でしょ!? 特佐さん相手に何やってるのーーーー!?」


 楽しい模擬戦を止める奴らが、さらにやってきた。


 オークの軍人と華奢な女の子。フェルグスの保護者的な立場の奴らみたいだ。


 やれやれ、良いとこだったのに……。




■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


「ホントに……! ホントにっ! すみませんでしたーーーーッ!!」


「ははっ! いいって! オレから誘った模擬戦なんだからよ」


 カトー特佐に対し、平謝りする。


 特佐は笑っているし、特佐から誘った話みたいだけど……生身の人間相手に機兵で戦闘するのはマズい! 一歩間違えば挽肉が生産されていた!


「軽くじゃれてただけだ。大事にしないでくれ」


「は、はい……」


「マジでオレから誘った話だからな? 上にわざわざ報告するんじゃねえぞ」


 笑顔だったカトー特佐が不機嫌そうな表情を浮かべ、硬い声を出した。


 声の矛先は俺達ではなく、特佐の副官さんに向けたようだ。副官さんは渋い顔を浮かべ黙っているが、特佐の模擬戦(じゃれあい)を快く思っていない様子だ。


 そりゃ……そんな顔にもなるよなぁ……。


 相手は木っ端の軍人じゃない。特佐というと、エリート中のエリートだ。そんな人が機兵の拳で木っ端みじんになったら大事件だもんな。


 こっちとしても申し訳ない気持ちでいっぱいなので、ヴィオラと一緒に「本当にご迷惑おかけしました」と謝る。特佐だけではなく、副官さんに向けても。


「……貴方達を責めるつもりはありません。特佐には自重を求めますが――」


「テメーはオレの副官だろうが。オレの行動に文句つけんなよ」


「そうはいきません。カトー特佐は、御自身の立場を――」


「うるせえ。どっか行け。5秒以内に!」


 特佐が鬱陶しそうに声を荒げると、副官さんは硬い表情のまま頭を下げ、この場を離れていった。


 カトー特佐はそれを睨み付けながら見送った後、俺達には微笑み、「悪いな。堅物の所為で」と言ってきた。


 ……仲悪そうだな。


 星屑隊(ウチ)で言うところの隊長がカトー特佐で、副長が副官さんだと思うんだが……ウチと違って険悪みたいだ。やりにくそう。


「マジで気にしてくれるな。オレが面白半分で立ち会い頼んだだけだから」


 特佐はそう言いつつ、ヴィオラの隣で素知らぬ顔をしていたフェルグスに近づき、その頭を乱暴に撫でながら言葉を続けた。


「けど、思っていた以上の収穫があった! ネウロンにここまで優れた機兵乗りがいるなんてな! しかも、まだ子供と来た! 将来が楽しみだ!」


 そう褒められたフェルグスは、とても誇らしそうな顔になった。


 交国軍人嫌いなフェルグスが、ここまでデレっとした表情になるのは珍しい。というか、初めて見たかもしれん。


「まあ、オレ様……才能あるからっ!」


「自分で言うなよっ! いや、才能はマジであるけどな!」


「へへっ……。でも、アンタもスゲー強かった!」


 フェルグスは鼻をこすりつつ、「本気出したんだけど、生身の人間相手に負けちまった」と言った。


 そう言われた特佐は、微笑しながら言葉を返した。


「嘘つけ。本気じゃねえだろ。お前、何か隠し球があるだろ?」


 特佐の雰囲気が柔らかいものから、抜き身の如く鋭いものになった。


 フェルグスが「ギクリ」とした様子で表情を強ばらせた後、視線を泳がせながら「な、なんのこと……」と誤魔化すと――。


「……まあいい。いつか見せてもらうからな?」


 特佐は再び微笑し、見逃してくれた。


 フェルグスには確かに「隠し球」がある。


 混沌機関だけで機兵を創造する技術がある。


 それに、さっきのはあくまで模擬戦だし……武器も使っていなかったから、フェルグスだって本気じゃなかったはずだ。


 特佐は短い戦闘で、フェルグスの実力をほぼ見切ってみせたんだろうか?


 さすがは特佐。交国の「武」の中枢を担う存在。ただ者じゃねえ。


「と、特佐さんはなんで、生身で機兵相手に模擬戦を……?」


 ヴィオラがおずおずと聞くと、特佐は苦笑いを浮かべながら答えた。


「いや、ちょっと運動不足でよ! 繊三号を解放した時の戦いでは不完全燃焼で終わったし……立場上、ここに滞在している事がおおっぴらになるとマズいから大人しくしているんだが……それが退屈でさぁ~!」


「ちょっとした運動感覚で、生身で機兵と戦うなんて……」


「神器使いって、そんなに身体が丈夫なんですか?」


「オレの場合、強度はそこまで無いよ? 機兵に踏み潰されたらさすがに死ぬ」


 それなのに生身で戦うって、この人、ちょっと頭のネジ抜けてないか?


 神器使いって、こういうものなのかな……?


 マジで大惨事にならなくて良かった――と思いながら顔を引きつらせていると、「えっへん」と胸を張ったフェルグスが前に出てきた。


「師匠は強えから、生身でも大丈夫なんだ! スゴいだろっ!」


「コラッ、フェルグス。特佐相手に『師匠』とか、馴れ馴れしい口を……!」


 窘めると、特佐が笑って「いいよいいよ! 気にするな」と言ってくれた。


 結構、大らかな人で良かったよ。本当に。


「この子みたいな優秀な弟子なら、いつでも大歓迎だ!」


「マジ? マジで師匠になってくれんの!?」


「おう。二言はねえよ。我が弟子」


 カトー特佐にそう言われたフェルグスはパッと表情を明るいものにし、跳ね回りながら喜び始めた。


 オレは未だにフェルグスにツンケンされてるのに……特佐はほんの数分で仲良くなった事を思うと……ちょっと、悔しい気分になる。


 まあ、木っ端軍人の俺と違って、カトー特佐は「特佐」で「神器使い」だからな。フェルグスだって瞳を輝かせるか……。


「強くなるためには遠慮なんてするべきじゃない。貪欲に学べ。学ぶために優秀な人間を師と仰ぐのは良いことだ」


「カトー師匠に色々教われば、オレも神器使えるようになる!?」


「神器は鍛錬でどうにかなるものじゃない。けど、お前には巫術(イド)がある。術式を極め、その他の事も極めれば、もっと強くなるのは間違いないよ」


 特佐は笑顔でそう言いつつ、さらに言葉を続けた。


 申し訳なさそうに頭を掻きつつ――。


「ただ、そこまで多くを教えてやれないけどな。オレ、明後日にはいなくなるし」


「マジ!?」


「ああ。魔物(タルタリカ)の動きも落ち着いているし……他にも色々とやることがあるから、明後日には繊三号(ここ)を立つつもりなんだ」


 さらっと軍事機密を漏らさないでほしい……!


 特佐のスケジュールとか、結構重要なのに……!


 俺は内心、「やべえやべえ」と思いつつ焦った。フェルグスは「特佐がいなくなる」という事実にただただガッカリしている様子だ。


「そんな直ぐ、どっか行っちまうのかよー……」


「ごめんな。その代わり、ここにいる間は訓練に付き合ってやるよ。オレもお前の術式には興味がある。お前自身の才能にもな」


「じゃあオレ、師匠の神器とも戦ってみたい!」


 フェルグスがとんでもないことを言うので、口を押さえて止める。


 もがくフェルグスに対し、特佐は面白そうに笑った後、「それはさすがに駄目だ。上官にガチで怒られるからな」と言って断ってくれた。


 さすがに……そこはやらないでくれるらしい。良かった……。


「生身でいいなら、いくらでも戦ってやる!」


「いやいやいや、特佐……さすがに勘弁してくださいっ! 神器使いとはいえ、生身の貴方と機兵が戦うのを見守るのは、心臓いくつあっても足りませんよ!」


 大怪我させたら責任取れない。


 特佐が「いい」と言ってくれているとしても、特佐が即死したら誰も弁解してくれないぞ……。多分……。


「大丈夫だって。迷惑はかけない! オレを信じておけ!」


「えぇ~っ…………!」


「フェルグスとの立ち会いは、オレにとっても利益がある」


 特佐は巫術の「強さ」を認めてくれているらしい。


 今まで、交国軍人にそれを認めてもらうのは結構大変だったんだけど……カトー特佐は短い立ち会いだけでも、巫術の有用さをわかってくれたらしい。


「巫術は必ず、プレーローマを滅ぼす力になる! 人類が天使を滅ぼすためには力が必要だ。フェルグスには英雄になる素質もある」


「英雄、ですか……」


「オレはプレーローマを滅ぼしたい! 全人類のために! 天使共をブッ倒す力がもっと欲しい! フェルグスも鍛えるのは先行投資だよ」


 胸を張ってそう言う特佐の隣で、フェルグスも胸を張っている。


 いかん。完全に意気投合している。


 フェルグスはともかく、特佐はさすがに止められねえ……。


 それとなくやめてくれるよう頼んだり、隊長を呼んだりしたが……特佐はフェルグスとの「稽古」をやめてくれなかった。


 特佐は生身で立派に戦っていたが、見守っているこっちは何度もヒヤリとする事になった。し、心臓1個じゃ足りねえよ……。


 特佐階級の人と会うのは初めてじゃないが……あの人はここまで破天荒じゃなかった。この豪放磊落ぶりは神器使い特有のモノなのかなぁ……?


 見守っているだけだったけど、ドッと疲れた……。


「あっ……。相談するの忘れてた」


 特佐と話をする絶好の機会だったのに~……!




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