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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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サッカー大会



■title:繊三号にて

■from:不能のバレット


 朝。早起きし、基地内移動用に借りた車両のところへ行く。


 皆の朝食を取りに行かないと。今日は俺の当番だ。


 羊飼いの所為で、繊三号は無茶苦茶になった。何とか沈まずに済んだが……大勢死人も出たし、基地設備の多くが駄目になった。


 俺達や時雨隊といった「先の戦いの生き残り」が繊三号に滞在するための部屋は用意してもらえたけど……基地の食堂は戦闘で破壊されてしまった。


 だから、食料は朝・昼・晩の3回取りに行かなきゃならない。俺達の部屋から離れたところにある仮設食堂まで取りに行く必要がある。


 仮設食堂が近所にあるなら、星屑隊も第8巫術師実験部隊も各々好きなタイミングで食べにいけばいいんだが……歩いて気軽に行ける距離じゃないからなぁ……。


 面倒だが、誰かが取りに行かなきゃならない。


 あくびしながら車を走らせ、配給を受け取って車に乗せる。後は星屑隊と第8の皆に配るだけなんだが――。


「バレット! おはよう!」


「あぁ……おはよう。ロッカ」


 戻ってくると、起床していたロッカが出迎えてくれた。


 そして、配給品を下ろすのと、配布を手伝ってくれる事になった。


 どうやら俺が当番だと聞き、手伝うために待ってくれていたようだ。有り難いが、気を遣わせちゃったかな……?


「ごめんな。朝早くから手伝わせて……」


「別に! 今日もバレットの仕事、見学させてもらう約束してるしさっ!」


 配給品の入った箱を開けていたロッカが俺を見上げ、笑顔を見せてくれた。


「仕事のジャマするお礼だよ」


「邪魔なんかじゃないよ。今日はお前の力も借りたかったからな」


 巫術は機兵を動かすだけじゃなくて、整備にも役立つ。


 巫術師は憑依先の「状態」が自分の身体のようにわかるらしく、憑依するだけでどこを整備すべきかがある程度理解できるらしい。


 整備にはちゃんとした知識が必要になるが、整備前の診断を巫術でパパッと済ませてくれるのは整備士として非常に助かる。


「ヴァイオレットにヤドリギ起動するよう頼んでおくから、今日はよろしくな」


「おう、任せとけ! おっ……?」


 ニカッと笑ったロッカが、俺の後ろの方を見つめて声を漏らした。


 その視線を追い、思わず固まった。


 ネウロン人がいる。しかも子供だ。


 第8の子供達とは別のネウロン人が基地内をウロウロしていたが、俺達を見つけてオズオズと近づいてきた。


 近づいてきていたが、ロッカを見て、「巫術師……!」と小さく叫んだ。目を見開き、顔に恐怖の感情を浮かべている。


「……ろ、ロッカ。下がってろ……」


 多分、ロッカが首につけたチョーカーを見て、特別行動兵と気づいたんだろう。


 ネウロン人の特徴である<植毛>を生やしているうえに、特別行動兵の証をつけているから巫術師と気づき、恐れ、固まっているんだろう。


 巫術師に対する風評を信じているから――。


 俺は俺で「ネウロン人」ってだけで怖くて、冷や汗が出てくるが……ロッカが何か心ないこと言われないよう、守ってやらないと……。


「――――」


 守ってやらないといけないのに、身体が上手く動かない。


 固まっていると、俺達の後ろから近づいてきた人が話しかけてきた。


「バレット。なにやってんだ?」


「レンズ軍曹!」


 起きてきたレンズ軍曹に、それとなく助けを求める。


 迷い込んできたらしいネウロン人の子供の応対を任せる。


 軍曹は億劫そうにしながらも、見知らぬネウロン人の子供に話しかけ、話を聞き始めた。しばらく話を聞いた後、「ここは一応基地だ。あんまりウロウロしてんじゃねえよ」と言い、追い返してくれた。


「……さっきの子供、繊三号の住人ですか?」


「ああ。なんかよぅ、人を探していたんだとよ」


 レンズ軍曹は車から自分の配給を受け取りつつ、そう教えてくれた。


 繊三号で暮らしているネウロン人の子供が、軍人を探して回っていたらしい。


「ガキ共とサッカー大会やる約束していた軍人がいたんだとさ。そいつがいなくなったから、探して回ってるみたいだ」


「その軍人って……」


「まあ、多分死んでるだろうな。誰かはわからんが」


 繊三号にいた一般人は、殆どが生き残った。


 けど、軍人の多くは死んだ。一応生き残りもいるが……羊飼いやタルタリカが暴れた影響で、交国軍人には多くの犠牲者が出た。


 一般人への被害が殆どなかっただけでも幸運だったけど、死んだ人達や……その友人知人は不幸を避けられなかったわけだ。


 俺だって、ロッカ達が頑張ってくれなければ――。


「……説明してあげなくても、良かったんでしょうか?」


「俺達の仕事じゃねえだろ。繊三号守備隊がボロボロだから、動ける奴は仕事手伝ってやってんのに……ガキのお守りもやれってか?」


「それは……」


「……お前、何か変わったか?」


 レンズ軍曹は配給品を口にしつつ、そう言ってきた。


 不思議そうな顔を浮かべ――少し離れたところにいるロッカをチラリと見た後、小声で言葉を重ねてきた。


「お前、確かネウロン人苦手じゃなかったか? それなのにあのガキのことを構ったり……さっきのガキの事も気にしたり……。らしくないぞ」


「…………」


「何か、こう……心境の変化でもあったのか?」


 返答に困り、黙ってしまう。


 黙っているとレンズ軍曹は頭を掻きつつ、ため息をついた。


「わかった。さっきのガキを追いかけて……それとなく説明してくるよ」


「えっ、ホントですか!?」


「この辺は交国軍の基地区画だ。軍人が減って警備がガバガバになってるとはいえ、ガキがウロウロしてて撃たれたら寝覚め悪いし……近づかないよう、ちゃんと説明してくるよ」


 レンズ軍曹はそう言い、配給品を食べながら小走りで出かけていった。


 さっきの子供がトボトボ去って行った方に向け、走っていった。


「…………」


 らしくない行動だな、と思った。


 レンズ軍曹はもっと、こう……ネウロン人に無関心だと思った。軍曹も軍曹で心境の変化があったんじゃないか、と思わずにはいられなかった。


「……さっきのネウロン人、何しにきてたの?」


 離れた場所で事の成り行きを見守っていたロッカが、トテトテと近づいてきた。


 さっきの子は人捜しをしていたみたいだ――と説明すると、ロッカは少し気にしている素振りを見せた。


「……同年代の子だったし、どうせなら……話をしてくる、か?」


「いや、やめとく。オレのこと、怖そうな目で見てたし」


「…………」


 何と声をかけていいかわからず、黙ってしまう。


 すると、ロッカは呆れ顔を浮かべつつ、俺を肘でつついてきた。


「お前まで変な顔で見るなよ~! 慣れっこだから、気にしてねえって!」


「お、おうっ……」


「それより、朝メシ配らねえと。手分けしてやろうぜ!」


 頷き、配給の入った箱に手を伸ばす。


 ……慣れていたとしても、ロッカは傷ついたはずだ。


 あんな……バケモノを見るような目で同胞に見られるなんて。


 それなのに空元気を出していた。逆に気を遣われてしまった。


 自分が情けなくてコッソリため息をついていると、部屋から出て近づいてきたラート軍曹に「どうかしたか?」と声をかけられた。


「ああ、いえ……何でもないです」


「調子悪いなら当番変わるけど――」


「大丈夫です」


 軍曹に配給品を渡し、適当に誤魔化す。


 とにかく、今は仕事だ。


 この仕事を済ませた後、整備の仕事を始めよう。整備(そっち)はロッカも楽しみにしてくれているし……せめて、そっちで気晴らしをしてもらおう。




■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


「…………」


 バレットが浮かない表情を浮かべていた。


 一緒にいたロッカは元気そうだが、空元気っぽくも見えた。


 2人がケンカしている……って様子はない。


 最近、よく一緒にいる仲良し2人組のままだが、何かあったんだろうか?


 いや、今は2人に構っている余裕ないか。


 ギクシャクしているようなら仲を取り持ってやるべきだけど、そういうのとは違うみたいだし……俺はアルの件に集中しないと。


「けど、どうすりゃいいんだ……?」


 配給品を口にしつつ、知恵を絞る。


 アル達の両親。その生死を確かめる。


 そのために今度、電子手紙を出す時にそれとなく探りをいれてもらう事になっているが……それ以外にも何か手を打つべきだろう。


 星屑隊(おれたち)は当分、繊三号で待機。


 船も無いし怪我人もいるから、繊三号で療養。働ける奴は繊三号の復旧作業や防衛を手伝う事になっている。


 といっても、防衛はほぼカトー特佐頼りだ。


 あの神器使いの特佐はしばらく繊三号に滞在してくれるらしく、あの人がいれば海を克服したタルタリカだって余裕で蹴散らせるだろう。


 船で移動している時より、繊三号の方が出来る事は多い。例えば繊三号にはネウロン人が多くいるし……聞き込みとかは出来るだろう。


 ひょっとしたら、繊三号にアル達の両親がいる可能性もあるが……まあ、そう都合よくは行かないだろうし……聞き込みしてたら他の軍人に不審がられるだろうし、そこまで良い手段ではないかもな。


 聞き込みする口実とかあればいいんだが――。


「船旅に戻ったら、いま以上に調査が難しくなるだろうし……」


 多少、無茶をしてでも調査に乗り出すべきか?


 ヴィオラが言うように、「どこに『敵』がいるかわからない状況」だから、下手に動けねえよなぁ……。駄目だ、妙案が思い浮かばねえ。


 何かないか?


 繊三号に滞在中だからこそ、出来る事とか――。


「……あるな」


 繊三号にいるからこそ、出来る事がある。


 繊三号にいるからこそ、話を聞ける相手がいる。


 けど、これ、ヴィオラは反対しそうだな。


「話を聞くにしても……先にヴィオラに相談してから、だな」




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