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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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氷下の真相



■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


「……さっきは、その……悪かった」


 皆相手には誤魔化して、しばらく経った後。


 ヴィオラとアルに改めて謝った。


 ヴィオラに交国を疑われ、グサグサと言われ、頭に血が上った。


 それは多分……ヴィオラの言葉が正しい所為だ。ヴィオラの意見がもっともだったから、ムキになっちまったんだと思う。


「私も……言い過ぎました。ごめんなさい」


 申し訳なさそうな表情を浮かべているヴィオラと共に、改めてアルに謝る。


 アルに相談されてたのに、俺らがケンカしてたらな……。


 アルはホッとした様子で「ボクはいいんです」と言ってくれたが、直ぐに「……ボクが変なことを言った所為です」と困り顔で呟いた。


「変なことじゃねえ。大事な話だ」


「そうだよ」


「でも、ボクが色々、勘違いしている可能性も……」


「ヴィオラの言う通り、真偽を確かめる必要があるな」


 ヴィオラの表情をうかがいつつ、「……軍事委員会や旅団本部に気づかれないよう、こっそりとな」と言う。


 アルの話が全て事実だった場合……大変なことだ。ヴィオラの推測が全て正しかった場合、もっと大変な事になる。


「正直、俺は交国を信じたい。だが、ヴィオラの言う通り、慎重に調査を進めた方がよさそうだな」


「はい。私の考え過ぎだったとしたら、それはそれでいいんです。……けど、最悪を想定して動いた方がいいです」


「…………」


 そうかもな、とは同意しづらかった。


 最悪の想定。


 それはつまり、アル達の両親が「本当に死んでいる」って話だ。


 そこまで事実だとしたら……アルやフェルグスをどうやって救えばいい?


「……この話、隊長達に相談するのは駄目なのか?」


 俺達の手に余る話だと思う。


 旅団上層部や軍事委員会に話すのは論外だとしても、身近で信頼のおける人……隊長達に相談するのは「アリ」なんじゃないか?


 そう思いつつ提案したが、ヴィオラは難色を示した。


「さすがにそれは……。隊長さん達が上と通じていてもおかしくないですし」


「隊長達がチクるって言いたいのか?」


「いえ、というか、隊長さん達が最初から(・・・・)軍事委員会の人間って可能性も十分あるのでは……?」


 話がよくわからず、首をかしげる。


 ヴィオラは人差し指を立てつつ、順を追って説明してくれた。


「まず……ネウロン旅団って、()が悪いですよね?」


「あ、あぁ……。正直、問題児が多いみたいだな」


 ネウロンは、優先度の低い戦場だ。


 交国が抱えている戦場の中では、正直、重要じゃない。


 余所ではいらない「不良軍人」が集められている可能性は高い。


 そういう話はちょくちょく聞いている。


「言い方は悪いですけど……不良軍人を見張るために、軍事委員会が直接、監視用の人員を派遣しているかもしれません」


「軍人の監視かー……。まあ、軍事委員会の仕事ってそういうもんだが……」


「例えば、ネウロン旅団の全ての部隊に1人ずつ監視員を派遣してるかも?」


「委員会の『憲兵』を紛れ込ませてるって事か? そんなことするかぁ……?」


 不可能ではない……と思う。


 交国軍は多次元世界でも指折りの巨大軍事組織で、その交国軍が無茶をやらないよう見張る軍事委員会も相応の力と人員を持っている。


 けど、ネウロンでそこまでやる必要性がわからない。


「ネウロンに問題児が多く揃っているなら、ネウロンでさらに問題児を選り分けるんです。軍事委員会の人間が密かにチェックしていくんです」


「ほう……?」


 問題児が多いから、問題が起こりやすい。


 起きた問題を1つ1つ分析し、「マジでこいつどうしようもない問題児だわ」って奴を選り分けるために、軍事委員会が憲兵を派遣しているかもしれない。


 ヴィオラはそんな推測を持ち出してきた。


 さすがにそこまでやってないと思うが……でも、確かに……ネウロンに問題児が多いのはマジっぽいからなぁ……。


 ある種の「最終処分場」のように、「使える軍人」「使えない軍人」を選り分けるために密かに監視するのは……アリなのか?


「星屑隊の中にも、正体(・・)を隠している憲兵(ひと)がいるかもです」


「いやー…………さすがに、そこまではしてねえと思うよ?」


 交国軍事委員会は大きな組織だ。


 だが、無限に人員を持っているわけじゃない。


 正体隠して潜伏し、一部隊ごとに軍人の言動を判定する憲兵を用意するのは手間だ。誰でも出来ることじゃないからな。


「まあ、私も本気で言ってるわけではないのですが……交国ならそれぐらい出来てもおかしくないですよね? 警戒するに越したことはないと思います」


「不可能とは言い切れないな。確かに」


「でしょ?」


「でも、俺のことは疑わないのか?」


 ヴィオラの言うところの「軍事委員会の憲兵」は俺かもしれないぞ。


 そう思いながら言ったが、ヴィオラは少し呆れ顔を浮かべた。


「ラートさん……問題を起こして隊長さん達によく怒られてるじゃないですか」


「ウッ……!」


「まあ、問題といっても善良さゆえの独断行動だと思いますけど……密かに潜伏している人が、ラートさんみたいに目立つ行動取るはずがないですよ……」


「ある意味、信用されているわけね」


 腕組みしつつ苦笑すると、ヴィオラが俺に手を伸ばしてきた。


 真面目な表情を浮かべたまま、俺の腕に触れてきた。


「ラートさんの事は、全面的に信頼してますよ」


「そ、そうなのか?」


「そうですよ……。ねっ、アル君」


 ヴィオラがアルに視線を向けてそう問うと、アルはコクコク頷いた。


 信じているからこそ、今回の件を相談した。


 そう言ってくれた。


 ……少し、胸がじーんとした。


 俺、ちゃんと信じてもらえるようになったんだな……?


「ラートさん以外、味方になってくれそうな交国軍人さんを確定できていないんです。……念のため、隊長さん達にも言わないでください」


「うーん……わかった」


 俺は大丈夫だと思うけどな。


 隊長や副長は、信頼できる人だ。


 あの人達なら、俺よりずっと上手く対応してくれると思うが……俺の目が曇っている可能性がある。「身内びいき目」で曇っている可能性がある。


 ここはヴィオラに従うべきだろう。


「とりあえず、私がこっそり手紙を出してみますから……」


「そ、それはボクがやるよ」


 アルが手を上げ、「お父さんとお母さんの事は、ボクの方が詳しいし――」と言い、手紙による「探り」をやると言った。


 デリケートな話だ。無理しなくてもいいんだぞ、と言ったが――。


「ボク、やってみる。大丈夫……」


 アルは両手をギュッと握りつつ、そう言ってみせた。


 その表情は強ばっていたが……強い意志を感じるものだった。


「俺の方でも調べてみるよ」


 俺は正規の交国軍人だ。


 電子手紙の件はアル達じゃないと出来ないが、軍人の俺だからこそ出来る事もあるはずだ。俺の方でも色々と調べてみよう。


「具体的にどこから取りかかっていけばいいかは、正直……わかんねえけど……過去の記録とか漁ってみるよ」


「お願いします」


「ちなみにこの話、フェルグスには――」


 ヴィオラと共に、アルに視線を送る。


 返事は大体、察していた。


 アルは硬い表情のまま、「まだ言ってないです」とこぼした。


 まあ、デリケートな話だもんな。


 父ちゃんと母ちゃんの安否に関わる話だし――。


「フェルグスを気遣ってんだな……」


 そう思ったんだが、アルは首を横に振った。


「ち、違うんです……。にいちゃんのためじゃなくて、自分のために……ズルして、ヒミツにしてるんです……」


 アルは泣きそうな表情をしていた。


「ボクは、お父さんとお母さん、見捨てて逃げたから」


 ヴィオラと共に「それは違う」と言った。


 アルは逃げたわけじゃない。


 地下通路に逃がされて、通路の蓋が開かなかった以上、あの場は……離れるしかなかったんだ。アルの責任は何もない。


 そう言ったが、アルは自分の行動を重く考えているようだった。


「ボクが2人を見捨てたこと、にいちゃんに言ったら……にいちゃんに、嫌われそうだから……言えてないんです……。ボク、そういう、ズルいこと……」


「アル……」


「にいちゃんに嫌われたら、ボク、ひとりぼっちになっちゃうから……」


「「…………」」


 アルは逃げたわけじゃない。


 けど、心配なのはわかる。


 ……怖いよな、本当のことを話すの。


「本当のことを言うのって、勇気いるよな。言えなかったのは仕方のないことだ」


 アルの手を取りつつ、言葉を投げかける。


「お前は何も悪くない」


「で、でも……」


「悪くないし、お前が生きてここにいる事に感謝させてくれ」


 アルが生きているからこそ、俺達は生き残る事が出来た。


 アルがいなかったら、きっと、羊飼いに勝てなかっただろう。


「よく俺達に相談してくれた」


 ヴィオラはともかく、俺に相談するのはメチャクチャ勇気が必要だったはずだ。


 俺は交国軍人だ。かなり言いだし難かったはずだ。


「お前はもう、十分すぎるほど勇気を出したよ」


「ちがっ……。ボク、自分のことしか考えてなくて……」


 アルの瞳が潤んでいく。


 アルの小さな身体を抱きしめる。泣くなら俺の胸で泣けばいい。


 ……本当に小さい身体だ。


 アルはまだ子供だ。


 子供なのに……自分の親が死んでしまったかもしれないという現実と戦っていた。1人で戦っていた。


「ここから先は、俺達にも頼ってくれ」


 信じて話してくれた以上、それに応えなきゃ。


 コイツだけに背負わせていい話じゃない。


「何かあったとしても、俺が命がけで守ってやるからな」


 誓う。


 この誓いは、絶対に守るべきものだ。


 俺は交国軍人。弱者を守るために戦っている。


 相手が交国だとしても……俺は、軍人としての誇りにかけて戦うべきだ。


 絶対に、アル達を守ってみせる。




■title:繊三号にて

■from:憲兵


「…………」





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