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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.2章:寄る辺なき者達【新暦1192年】
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TIPS:流民の兵器利用



【TIPS:流民の兵器利用】

■概要

 流民はずっと苦しい立場に立たされ続けている。


 どこに行っても余所者として見られ、歓迎される事は滅多にない。差別と暴力で痛めつけられ、悲惨な最期を迎える流民は少なくない。


 ただ、そんな流民達にも需要がある。悪い意味での需要がある。


 立場が弱い存在だからこそ、それを「兵器」として利用する者達もいる。


 例えばプレーローマは世界を破壊したうえで、その世界の住民に方舟を与え、「世界と運命を共にするか、方舟に乗って脱出するか」を選ばせる事がある。


 無事に世界から脱出したところで救われるとは限らない。流民と化し、余所の世界を目指して「何とか難民として受け入れてもらおう」と選択するしかない。


 プレーローマはそのような動きを支援し、意図的に敵対する人類国家に流民を流す。流民が殺到した人類国家は「受け入れる」か「拒むか」の二択を突きつけられる。


 今では多くの人類国家が流民を拒んでいるが、拒むと流民が暴徒化し、その世界で暴れる事もある。地下に潜伏した流民が犯罪者として治安を乱し始めたという事例は少なくない。


 流民を意図的に流したプレーローマは工作員等を使い、流民受け入れを拒んだ国家を「非人道的」と批判させる。そうすることで人類の倫理を揺さぶる。


 流民とそれ以外の人類の対立構造を作り、人類同士で争う火種を作る。プレーローマはそのような工作を頻繁に行っている。


 では、流民を受け入れれば問題を解決できるのか? そうとは限らない。


 流民の受け入れは各国財政への負担が大きく、自国民から「余所者に金を使うより、自国民に金を使え」と突き上げを食らう可能性も高い。


 深人化した流民は外見的特徴から特に拒まれやすいため、プレーローマは流民を意図的に深人化させ、送り込む事もある。


 プレーローマは流民達の中に工作員を仕込み、受け入れ先で犯罪を起こさせ、その国の「反流民感情」を刺激する事も忘れない。


 流民と先住の民の間で不和を生じさせ、それが怨恨として類焼していけば、プレーローマが後押しせずとも人類同士の復讐の連鎖に発展していく。


 これが「流民の兵器利用」である。


 プレーローマの一部派閥はこの手を頻繁に使っており、人類文明の「財政」「倫理」「治安」にダメージを与え、人類文明の弱体化を図っている。



■プレーローマ以外の悪意

 流民の兵器利用者はプレーローマに限らない。


 人類連盟の強国すら、他の人類文明に政治的理由で流民をけしかける事がある。財政的負荷を与えるだけではなく、別の目的でも流民をけしかけている。


 やってきた流民に対し、強硬な手段――例えば「軍隊によって虐殺する」といった手段を選んだ国に対し、けしかけた国は「人道に反する行為を止めるため、我が国の軍隊を派遣する」と言い出す。


 流民を守る名目で軍隊を派遣し、現地の国家や政権を打倒し、自国の支配下に置く強国は少なくない。人類連盟加盟国の侵略国家がよく使う手である。


 ただ、あまり大っぴらに流民を送りつけていると自分達が非難されるため、「火付け人」として犯罪組織等を利用する事もある。


 流民流入の陰にいるのが誰なのかは大抵バレバレなのだが、それでも交国などは決定的な証拠は掴ませずに立ち回っている。仮に証拠を掴まれても開き直るため、非常に厄介な行為だ。


 より悪質な行為として、流民達に武装させて後進世界にけしかけ、「現住民を殺して自分達の領地を手に入れろ」と煽る事もある。


 そうする事で「流民と現住民」の対立を作り上げる。剣や弓程度の武装しかない後進世界にとって、銃火器で武装した流民は少数でも大変な脅威となる。


 流民達を送り込んだ者達は、ほどほどに世界が荒れたのを見届けた後、「後進世界の現住民を守るため」という名目で正規軍を派遣する。


 銃火器で武装した流民達も、機兵や方舟を大量に投入してくる正規軍相手には勝てない。蹴散らされ、バタバタと死んでいく。


 正規軍はそのまま「治安維持」名目で居座り、その世界を実効支配をしていく。


 元々は自国政府がつくった火種を消しただけなのに、しらばっくれて正義ヅラをする。交国もこの手を使って支配地域を広げてきた。


 流民を悪用する組織・国家が跡を絶たないからこそ、流民が疎まれ、より一層拒まれていく悪循環が生まれている。


 強者の作る波濤。弱者達はそれに抗う術を持たない。


 だが、それは強者の勝利を意味しない。多くの命が消えても、怨恨は消えない。



■流民を食い物にする流民

 流民を利用する者達は、「火付け人」として犯罪組織等を利用する。


 マッチポンプの明確な証拠を掴ませたくない人類連盟の強国だけではなく、プレーローマも外部勢力の力を利用している。


 その時の利用される者達の中には流民もいる。「流民の犯罪組織が流民の運び屋」として仕事を請け負い、火種を作る事も珍しくない。


 何故、同じ境遇の者達を言われるがままに運ぶかというと、それが1つの事業として成り立つためだ。流民を運ぶことで依頼者達から金銭や物資をもらい、それを自分達の糧にするのだ。


 流民の命は安く利用されており、「同胞」を火種として運ぶ問題を自覚していても、今日を生き抜く糧のために同胞を売る。どこの世界でも受け入れてもらえない以上、運び屋にならざるを得ない流民も大勢いる。


 その手の運び屋稼業に手を染める犯罪組織は、<カヴン>傘下組織にも存在する。自分達の縄張りを持てず、構成員を食わせていくシノギを持てない者達は誰もが嫌がる汚れ仕事をやらざるを得ない。


 プレーローマや強国に使い潰される未来が待っていようとも、それでも運び屋としてやっていかざるを得ない。


 <カヴン>にはこのような「流民の運び屋」を禁止する規則は無いが、カヴンでも上位に位置する組織構成員達は運び屋仕事に手を染める同胞達を「くだらないシノギ」「共食い野郎」と蔑む者も少なくない。


 ただ、プレーローマとのパイプ作りは――人類のためにならなくても――組織にとってプラスに繋がる事もあるので、傘下組織の末端に運び屋仕事を押しつける大組織も存在している。


 カヴン傘下組織の<ロレンス>首領の「伯鯨ロロ」は、流民が流民を食い物にするのをよく思っていないが、そうせざるを得ない窮状も理解していた。


 そのため運び屋仕事に手を染める者達は、他組織の傘下組織だろうと救いの手を差し伸べていた。ロレンスの傘下組織として引き抜き、ロレンスの仕事を手伝わせていた。


 その仕事の多くは「海賊稼業」という犯罪行為に他ならなかったが、それでも「誰かに命運を握らせるよりずっとマシ」だと考え、助けていた。その行為が根本的な解決に至らない事は理解しつつ。


 ロロがそのような救済行動を取っていたからこそ、ロレンス内にはロロを慕う者も大勢いる。ただ、この行動は「運び屋仕事を押しつけている組織」にとって邪魔な越権行為のため、ロレンスはちょくちょく他組織と衝突していた。


 それでもロロがいた時代は、我を通せるだけの力があった。



■暴力的な兵器利用と<泥縄商事>

 前述の通り、交国等は「流民に武器を与えて異世界で暴れさせ、その鎮圧名目に正規軍を送り込み、実効支配する」というマッチポンプに使っている。


 このような極めて暴力的な流民利用の陰には、<泥縄商事>という犯罪組織が頻繁に顔を出している。


 泥縄商事とは「戦争に必要なもの全般」を取り扱う闇商社である。銃火器や傭兵、食料物資に限らず、金さえ積めば機兵や方舟の調達まで行っている。


 人類連盟と敵対している犯罪組織だが、「火種作りに都合の良い」として、人類連盟加盟国も密かに利用している。


 人類連盟の強国の多くが仲介役の組織や個人を介し、泥縄商事を使って後進世界に火種を撒き、正義ヅラをしながら火消しを行って支配地域を広げている。


 一方で泥縄商事は人連の強国から頼まれずとも火種を撒き散らしている。それを目障りに感じる強国達は、泥縄商事を利用しつつも潰そうとしている。あるいは飼い殺しに出来るよう策を練っている。


 人連の国家同士で結託し、泥縄商事に一切金を落とさないように監視しあった事もあるが、泥縄商事はプレーローマに対しても太いパイプを持っているため、人類側からの仕事が無くても元気に火種をばらまき続けてきた。


 その火種が、結果的に人類側にとって利する事もあった。


 歴史上、泥縄商事は何度も壊滅の危機に瀕している。だが、社長が非常にしぶとい存在のため、何度も会社を蘇らせ、多次元世界の戦争の裏で暗躍し続けている。



■プレーローマ内の批判の声

 プレーローマは「流民の兵器化」を最初に始め、現在も積極的に利用しているが、プレーローマ内でもこの工作活動を批判する声は存在している。


 プレーローマ三大天に名を連ね、人類絶滅派のトップとして知られる<武司天>は特に「プレーローマの流民利用」を批判している。



■流民利用に抗った敗者達

 プレーローマが始め、人類連盟加盟国ですら行っている「流民の兵器利用」に対し、抗った者達もいた。悪意の連鎖を断ち切ろうとした者達もいた。


 伯鯨ロロは流民達の未来を案じ、自組織(ロレンス)で行き場のない流民を受け入れ、世界の悪意に抗おうとした。


 だが、伯鯨ロロに全ての流民が救えるわけではなかった。


 救ったところで彼が流民達に与えられるのは「暴力と犯罪」しか無く、根本的な解決は出来なかった。別の不幸を生み、「不幸の相転移」をしただけだった。


 根の国を支配していた<守要の魔神>は<海獣>を創造し、流民達の衣食住を整えようとした。それは一定の成功を収めたが、深人化という問題も作り出した。


 守要の魔神は伯鯨ロロ達に対し、さらなる流民の救済を約束していた。しかし、信じていた者達に裏切られ敗北し、七分割され、生き地獄へと叩き落とされた。


 弱者救済のために動く流民組織<エデン>も、流民の兵器利用に抗っていた。エデン所属の神器使い達はプレーローマや強国の横暴に対し、暴力で抗っていた。


 だがそのエデンも「正しさ」を追い求めているうちに、流民内でも孤立していき、プレーローマの策略によって壊滅に追いやられた。


 悪意によって生まれた暴風は、未だ誰も止められずにいる。


 それどころか、悪意の連鎖がさらに大きな嵐を生み出した。流民を救おうとした者達の中には、その嵐の只中で荒れ狂う「魔王」もいた。


 しかし、魔王は殺された。


 いにしえの魔王は黒海の魔王を見守り、看取った。


 黒海の魔王と共に嵐は消えた。ただ、何もかも元通りとはいかなかった。


 流民という火種は、未だくすぶり続けている。





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