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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.2章:寄る辺なき者達【新暦1192年】
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過去:弱者と強者の生存戦略



■title:ロレンス保有艦<バッカニア>にて

■from:<ロレンス>首領・伯鯨ロロ


「攻撃したのはこっち(ロレンス)が先だが、交国がコソコソしてたのが悪い。不可抗力だったんだ。せめて『ウチは交国です』ってわかるようにしとけよ!」


 そう弁明すると、玉帝の側近は――石守回路(カイジ)は笑みを浮かべつつ、「わかっておる」と言ってくれた。


「さすがに、今回の件を取り決め違反とは言わんよ」


「あの部隊の動きは――」


 カイジが首を横に振る。


「やっぱ知らなかったのか。特佐長官の暴走か?」


「いや、単に現場の人間が勤勉だっただけじゃ。神器使いだけでも生かしてもらえて助かった。出来れば、他の子達もほどほどに脅して撤退に追い込んでくれるだけで良かったんじゃが――」


「無茶言うなよ。部下達の手前、手抜きなんてできねえよ」


 冷蔵庫で冷やしていた酒を2人分注ぎ、カイジにも渡す。


「手抜きしてバレたらどうするんだ。ロレンスと交国が組んでるってよ」


「まあ、確かにな」


 石守回路。玉帝が最も信頼している側近とは、もう長い付き合いになる。


 今から400年以上前、交国という小国(・・)が生まれた。


 交国は今でこそ人類連盟の常任理事国をやっている大国だ。建国時はまだ世界を1つ支配している程度の国だった。他の強国と比べれば本当に小さな国だった。


 だが、交国は小国では終わらなかった。


 歴史の浅い国のくせに異世界侵略を繰り返し、たった数年で立派な侵略国家に成長してみせた。まあ、「その程度の国」なら歴史上、いくらでもあった。


 交国が他と違うのは、無事に生き残ってみせた事だ。


「アンタらとの付き合いも……もう400年以上になるか……」


「いやぁ、まだ397年じゃ。交国が人連とやり合い初めてからの話じゃからな」


「細けえな……」


 人類連盟は交国を危険視した。


 侵略されていく人類文明を「可哀想」と思ったわけじゃない。


 交国が好き勝手に侵略戦争を起こしているから、人類連盟の強国――当時の常任理事国は「オレらの獲物に手を出しやがって!」とブチ切れた。


 結果、「人類連盟加盟国」Vs「交国」の戦いが始まった。


 人連全部とやり合うのは、今の交国でもキツい話だ。当時は「弱小侵略国家」に過ぎなかったはずの交国は、直ぐに捻り潰されると考えられていた。


 オレだってそう思っていた。


 人連は腐っているが、それでも強大で邪悪な「仲良しグループ」だからな。


 人類文明最強最悪の談合組織と言ってもいい。


 弱小侵略国家程度、人連は何度も叩き潰してきた。叩き潰した後、弱小侵略国家の支配地域を「保護する」という名目で分け合ってきた腐敗組織だ。


 交国に勝ち目はないはずだった。


「交国はマジで上手くやったよな。プレーローマの侵攻が重なって、人連の主要国が身動き取れない時期って事情もあったが……それでも10倍以上の軍勢相手に連戦連勝で勝ってみせたんだからよ」


「キミ達、海賊(ロレンス)の活躍のおかげじゃよ」


「へっ……。そう思ってんなら、もっと甘い汁を吸わせてほしいねぇ」


 交国は、オレ達のような「犯罪組織」も上手く使った。


 石守回路はロレンス首領(オレ)に直談判しに来て、協力を要請してきた。


 ロレンスは交国の要請に応え、人連加盟国を襲った。


 対交国戦線のために動いていた国の輸送船を次々と襲い、奴らの補給路を破壊した。十分な補給を得られない軍隊など、交国にとって敵では無かった。


 石守回路はそれ以外にも裏工作に動き、交国の将軍や兵士達も奮戦した。水面下で海賊(ロレンス)が暗躍する事で、交国有利な状況を造り上げていった。


 交国の勢いは本当に凄まじく、最終的に当時の人連の常任理事国を倒すほどだった。新興国家のくせに多次元世界史に残る大戦果を上げた。


「かなり便宜を図っているつもりじゃがのぅ」


「もっと便宜を図ってくれって話だ」


「我らは表向き敵対しておるが、物資も情報も多く渡してきた。そのおかげでロレンスは多数の犯罪組織を従えるほどの大組織になったじゃろう?」


「オレが求めているのは、それ以上だって知ってるだろ?」


「まあのぅ。じゃが、何もかもは難しい。理解してくれ」


「アァ、わかってる……」


 人連に実質的に勝利した交国は、人連の加盟国になった。


 人連はそうする事で、交国に首輪をつけようとしたみたいだが……上手くいかなかった。交国は未だに好き勝手やっている。


 好き勝手やりつつ、ロレンスのような犯罪組織ともドンパチやっている。


 人連が「犯罪組織」として認定しているロレンスとヨロシクやってるのは、人連加盟国として正しい振る舞いじゃ無いからな。


 けど、オレ達は未だに手を結んでいる。


 水面下で密かに手を結び続けている。


 交国にとって、「多次元世界一の海賊組織(ロレンス)」は汚れ仕事を任せるのに最適な組織だ。


 気に入らねえ国の情報をオレ達に渡し、オレ達をけしかける。ロレンスは対価として収奪品と、交国から密かに譲ってもらった金や物資で組織を大きくしていく。


 オレ達なら常任理事国相手でも関係なく喧嘩を売れるからな。交国にとって同じ人連加盟国だろうと、「邪魔なライバル」は海賊と手を結んでも潰したい相手だ。


 オレ達は交国の走狗として動く。


 その対価として金や兵器、時には「流民の安全」をもらう。


 まだ陸に上がれる流民達を、交国で受け入れてもらう。


 そうする事で、流民を救っていく。


 お互い利のある取引関係ってわけだ。


「今回捕まえた神器使い、死なせないよう手厚く看病するよ。適当なタイミングで引き渡すとして……そのタイミングはそっちで考えてくれ」


「ああ、玉帝経由で話を通しておくよ。特佐長官に1つ貸しじゃ」


「身内同士なんだから、負けてやれよ……」


「いやぁ、そうはいかんよ。可愛い弟妹相手だろうが容赦はいかん。あの子達のためにならんからのぅ」


 この取引関係は、お互いに一部の人間しか知らない。


 色々と察している奴は組織の内外にいるはずだが、確たる証拠は掴ませない。オレ達はもう400年近く、この秘密の関係を続けている。


 オレは強い。


 神器使いだから、当然強い。


 だが、オレ1人で全ての流民を守れるほど、この世界は甘くない。


 交国のような巨大軍事国家の汚れ仕事を請け負い、その対価を貰っていかないとやっていけない。組織をデカくし、多くの流民を守れなくなる。


「…………」


 いいように使われている自覚はある。


 本当なら、やりたくない生存戦略(しごと)だ。


 だが、頼みの綱だった<守要の魔神>がいなくなった以上、交国みたいな強国との協力関係は必要なんだ。


 ロレンスは「多次元世界一の海賊組織」であり、<カヴン>との繋がりもある。だが、犯罪組織だけでやっていけるほど、世の中は甘くねえ。


「まあ、ともかく手打ちでいいな?」


「もちろん。今回はこちらの落ち度じゃ。後日、詫びの品を用意しよう」


「いや、ウチには死人が出なかったんだ。そこまでしなくていいよ。オレが殺した交国軍人の遺族への保証に使ってくれ」


 この協力関係は重要なものだが、あくまで秘密にする必要がある。


 オレ達は表向きは敵対し、殺し合っている。


 お互い、もう何人も部下を殺されている。ロレンス側は交国に傘下組織をいくつか潰されているし、交国側も相応に被害が出ている。


 時には談合し、自分達で「死者候補」を捧げ合った事さえある。


 秘密を守り、対外向けの敵対関係を維持するために――。


 流民の仲間が交国軍に殺され、泣いて悲しんでいたとしても、何度も「生け贄」を捧げてきた。それによって、より多くの流民を救ってきた。


 時には……組織運営に邪魔な仲間を交国に突き出す事もあった。


 ロレンス傘下だけではなく、カヴン傘下の仲間組織だろうが、オレ達の邪魔にする時は情報をリークし、交国に潰させてきた。


 オレ(クズ)のやってる事と比べたら、タンブルウィードのやった事なんて可愛いもんだ。これは流民全体にとって必要な取引(うらぎり)だ。


 必要な事だった。


 だが、オレ達以外は誰も納得してくれないだろう。


 子分共にこの談合関係を知られたら、オレは組織を追われかねない。


 それ自体は別にいい。それで多くの流民が救われるならそれでいいが、ロレンスは「真っ当な海賊」をやってるだけじゃダメなんだよ。


「いや、詫びの品は用意させてほしい」


「大首領に取り入るためにか?」


「否定はせんよ」


「アンタも懲りねえなぁ。あの御方は、現世に何の興味もねえぞ?」


 大首領は、オレ達の談合関係に気づいている。


 だが、黙認してくれている。


 あの御方は……現世のことには、なーんにも興味ねえからな……。


 オレ達の命どころか、組織(カヴン)すら重要じゃねえんだ。


「いい加減、諦めろよ。夢葬の魔神は交国に協力しねえよ。部下であるオレ達にすら無関心なんだぞ。のほほんと笑っているが――」


「簡単には諦められんよ。あの御方は、源の魔神(アイオーン)すら凌ぐ力を持っている」


「……それほどの力を持っているのに、何もしないのは……理解に苦しむけどな」


「あれほどの力を持つ『神』だからこそ、無関心なのだよ。俗世にな」


「そういうもんかねぇ……」


 二重の意味でため息をつく。


 未だ諦めていないカイジ達の根気強さに。


 そして、夢葬の魔神の現世への無関心さに。


 まあ……とにかく、先日の件は手打ちに出来て良かった。


 オレが先に手を出したから、もっと責められる可能性を考え、カイジ達の機嫌を取る品まで用意したんだが……そこまで必要なかったな。


 でも一応、渡しておくが――。


「これ、アンタに頼まれていた仕事だ」


 懐から記憶媒体を取り出し、手渡す。


 カイジは微笑したままそれを受け取り、「さて、どの仕事じゃったか……」と、トボけ始めた。確かにコイツに頼まれた仕事は沢山あるが――。


「その形式で渡すのは『最初の(・・・)エデン』に関するデータだよ。ボケたか?」


「おおぅ、そうだったのぅ」


 交国から請け負った仕事はいくつもある。


 いま渡したデータは、珍しく「汚くない仕事」だ。


 ワケありの仕事ではあるが――。


「どこで見つけた?」


「ウチのサルベージャーが深海圏で偶然、見つけてくれた。900年ほど前に沈没した方舟の残骸から引き上げた。今回は本物だと思うぜ」


「年代的には合致してるのぅ。じゃが、『時』が荒れておる深海圏方面から上がってきたとしたら、年代測定はあまり頼りにならんなぁ……」


 カイジは記憶媒体をシゲシゲを眺めていたが、オレに視線を向けて「方舟そのものは引き上げられなかったのか?」と聞いてきた。


 それは無理だった、と返す。


 出来れば方舟ごと持ち帰りたかったが、深海圏は――混沌の海でも特に深い場所は、海がよく荒れ狂っている。


 目的の方舟と接触できただけでも、奇跡みたいなものだ。


「持ち帰れたのは、内部から引き上げたデータと……内部を撮影した記録だけだ。他にめぼしいものは無かったそうだ」


「信用できる部下の情報かい?」


「ああ。見つけたのはエリーラ達だ。アイツらは信用できる」


「ふむ……」


 カイジは記憶媒体を懐に入れ、「データだけでは心許ないが、これだけでもありがたいよ」と言ってくれた。


「サルベージしたデータ、精査したのかい?」


「確認しようにも破損が酷い状態だ。ハッキリ言って、アンタに渡したのはゴミデータだよ。けど、それでもいいんだろう?」


「ああ、何とか交国(こっち)で復元してみるよ。……コピーしてないだろうね?」


「してねえよ。信用しろって! 397年モノの仲だろ~?」


 笑って誤魔化す。


 実際は、コピーを取っている。カイジには指摘しようがない形で。


 最初のエデンのデータ。


 破損が酷いから「ゴミデータ」だが、復元に成功したら――中身次第では――世界を変えかねないデータだ。絶望と希望が同居するデータと言っていい。


 交国はお得意様だから色々と便宜を図るが、交国だけにいい顔を出来るほど困ってないわけじゃない。そこまでしてほしいならオレ達全員を交国で引き取ってもらわないと割に合わねえよ。


 こっちもこっちで、色々と試さねえとな。


 データを秘匿しないだけ、仁義を通していると思ってもらわねえと。


「ふむぅ。まあ、キミと儂の友情に免じて信じるとしよう」


 欠片も信じてなさそうな笑みを浮かべているカイジに、こっちも微笑む。


 微笑みつつ、手もみしながら頼む。


「その友情、ムツキ(・・・)の就職にも適用してくれよ?」


「ふむ?」


「交国との戦闘の所為で、アイツの交国への就職話も『全て白紙』ってなったら困るんだ! アイツも現場にいたが、交国軍人を殺したのはオレだけだからな?」


 今回、神器使いだけを生かした戦闘。


 アレがムツキの今後に悪影響出すのは困る。


 アイツのためにも、オレのためにも――。


「わかっておる。ムツキの手が多少、交国人の血で染まったところで、儂も玉帝も目くじらを立てんよ。実力が全てじゃ」


「それはそれでいいのか? 交国の為政者として」


「加藤睦月には、それだけの価値がある」


 交国とロレンスの関係は、もう397年も続いている。


 交国側は主にカイジ自身が窓口に立ってくれている。


 ただ、カイジも「ロレンス専門の窓口」になれるほど暇じゃない。


 歳を取って一線を退いたとはいえ、多忙な爺だ。


 そんなカイジが今はロレンスに滞在し、ムツキ達の「先生役」を務めつつ、ロレンスの教育プログラム構築を手伝ってくれているのは……ムツキの影響が大きい。


 神器使いの加藤睦月。


 その勧誘を行うため、カイジは少し前からオレ達と行動を共にしている。


 カイジが交国の人間ってことは、ロレンスでも一部の人間しか知らない。オレが「ガキ共の教育のために連れてきた客人」って扱いで同行してもらっている。


 ムツキ自身も、カイジの正体をまだ知らない。


 いずれ、知ってもらうことになるが――。


「しかし、本当にいいのかい? 彼を交国に連れていって」


 カイジがアゴをさすりつつ、「彼の神器(ちから)はロレンスにとっても、喉から手が出るほど欲しいはずだ」と言ってきた。


 いらねえ、と言えばウソになる。


 ムツキの神器は海賊向きだ。経験を積み、さらに神器の使い方を覚えていけば、アイツはオレを遙かに超える神器使いになるだろう。


 混沌の海での戦いで、無類の力を発揮する神器だからな。


 この多次元世界(せかい)じゃ、誰もが欲しがる力だ。


「アイツはロレンスに収まる器じゃない。アンタが鍛えてやってくれ」


 交国はオレ達を上手く利用している。


 石守回路にとって、ロレンスは道具の1つだ。


 だが、コイツは道具相手にも仁義を通してくれる。


 コイツならムツキを上手く活かしてくれるはずだ。交国のためだけではなく、流民のためにもムツキの力を活用してくれるだろう。


 ムツキも流民のために動いてくれる……はずだ。


「それとも、アイツじゃあ不足かい?」


「とんでもない。彼は将来、交国を背負って立つ人材になる。これからの成長次第じゃが……可能なら儂の後継者として育てたい、と思っておる」


「玉帝の側近。それもアンタの後継者か。大きく出たな」


「お前さんもそれぐらい見込んでおるじゃろう? 例えばそれ以上……交国の支配者としての地位すら掴むと思っておるのではないか?」


「ハッ。さすがにそれは言い過ぎだろ。クーデターでも起こせってか?」


 それはそれで面白そうだが、冗句止まりの話だな。


 オレ達が力を貸したとしても、ムツキに交国を牛耳るなんて不可能だ。


 交国はカイジの上役である「玉帝」の存在により、まとまっている。あのネーチャンはクソ堅物だが、同時に「政の怪物」でもある。ムツキじゃあ勝てねえ。


「そこまで交国を軽く見てないよ、オレは。もし仮に玉帝を暗殺できたとしても……それで交国を支配できるほど甘くないだろ? 大義名分も実力も無い」


「その通り。それやって喜ぶのはプレーローマだけじゃろ」


「ムツキはプレーローマに対して、強い憎しみを持っている。アンタらと同じ方向を見ている。勧誘を成功させて、交国に連れて行ってやってくれ」


「そうしたいところじゃが――」


 カイジは苦笑いを浮かべながら眉をイジりつつ、言葉を続けた。


「あの子はお前に心酔しておるからなぁ……。なかなか、ロレンス以外になびいてくれる様子がない」


「アイツはロレンス以外、まともに知らないだけだ。アンタに無理矢理ついていかせて、交国で学んでいたら……もっと広い視野を持つようになるさ」


「それでもなお、海賊の頭目に憧れるようなら?」


「そうはならねえよ。アイツだって、泥船はイヤだろう」


 酒を一気に飲み干し、グラスをテーブルに置く。


「ムツキはロレンスには入れない。アンタの後継者になってくれたら……オレとしても大変都合がいい。これはロレンスのためにもなる選択だ」


 ムツキを交国に行かせるのは、組織(ロレンス)にとっても都合がいい。


 石守回路はもう長くない。


 オレより年下だが、寿命が近づいてきている爺だ。いつか死ぬ。


 カイジが交国側の窓口になってくれているからこそ、オレはカイジを信じて交国に付き従っている。……他のヤツは信用できん。


 流民の生活を知り、ロレンス側の事情も知っているムツキが「石守回路の後継者」として交国に渡ってくれれば、交国とロレンスの繋がりは盤石だ。


 多くの神器使いは不老不死。


 ムツキもそうだろう。


 ムツキがオレに懐いているというのも、なかなかに都合がいい。交国に渡った後も、オレ達に便宜を図ってくれる可能性が残るからな。


「もう少し勧誘してダメなら、オレの方から計画を話す。本当にオレに心酔しているなら、オレの計画(ねがい)を聞き入れてくれるだろう」


「そうしてくれると、助かるが……。まあもう少し頑張ってみるさ。儂にも交国の政に携わる者として、誇りがあるからね」


「お手並み拝見だ」


 カイジがグラスを掲げ、一気に飲み干してみせた。


 常人より長生きとはいえ、もう爺なんだ。あんまり無理すんなよ――と言ったが、カイジは快活に笑って、「なあに、まだいけるさ」と言ってみせた。


「儂の見立てなら、あと50年は持つ」


「それだけあれば、ムツキが一人前に成長するのに十分だな」


「あぁ。彼が儂の後継者になれるか、まだわからんが――」


 カイジが空のグラスをこちらに向けてきたので、少しだけ注ぎ足してやる。


「誰かしら、後継者は必要だ。……後継者作りに失敗したら、玉帝が壊れる」


「自分の主を、そんな不良品のように言うなよ」


「繊細な御方なのだよ。高度な精密機械は内部のちょっとした破損で動かなくなるだろう? それと同じで、高性能ゆえの脆さを持っておるのじゃ」


「ふぅん……。なるほどね」


 石守回路もまた、玉帝の子の1人。


 だが、親である玉帝より先に逝こうとしている。


 定命の者ゆえ仕方ない――などとカイジ本人は言っているが、それでも400年前から生きている。只人種と比べればかなりの長生きと言っていい。


 玉帝はそれ以上の長生きだ。


 途中で何度も別人と入れ替わっていない限りは、長生きだ。


 一体、あの仮面女は何者なのかね……?


 交国との付き合いは長いが、玉帝に関しては未だによくわからん。


「儂が後継者育成に失敗したら、交国とロレンスの関係は破綻するじゃろう」


「おい……。怖いことを言うなよ」


 石守回路は傑物だ。


 コイツ並みの人間を育成するのは、非常に難しいだろう。


 というか……本当に育つんだろうか?


「アンタが頼りなんだ。マジで頼むぜ」


「あぁ、わかっておるよ」


「どうしてもダメそうだったら、せめて昔の約束は果たしてくれ」


「昔の約束?」


「オレ達、流民の『国家』を作る約束だ」





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