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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
107/875

スケープゴート



■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:肉嫌いのチェーン


 隊長と連絡が取れない。


 だが、あの人がやられるはずがない。


 オレ達はオレ達の持ち場で、責任を全うしよう。


 戦い抜いた先に、隊長も待っているはずだ。


「フェルグス。お前は流体装甲に集中してくれ」


『わかった!』


 海上での戦いになった以上、操舵は操舵手に任せる。


 敵艦隊が――敵に奪われた船舶が、こちらに迫ってくる。


 数は13。対してこっちは1隻のみ。


 だが、敵の中で一番厄介な羊飼いは別働隊と交戦中。


 ヤツがいないなら、敵の巫術はフェルグスだけで抵抗できるはずだ。


 問題は敵艦からの攻撃だが――。


『副長。オレ達も出ますよ!』


「まだだ。まだお前らを出すのは早い。海戦はこっちに任せろ」


 格納庫で待機しているレンズから連絡が来たが、出撃は許可しない。


 レンズ達の戦場は繊三号だ。海戦で消耗させるわけにはいかない。


「まだ船の上にいろ。機兵は海戦に不向きだ」


『了解。でも、射撃ぐらいはさせてもらいますよ』


「おう、頼む。けど敵の砲撃に気をつけろよ」


 オレは隊長から指揮を任されたから、まだ出撃できないが……レンズ達には繊三号に乗り込み、スアルタウ達と戦ってもらう必要がある。


 もう少し、繊三号に近づくまで船上で待機してもらう。


「フェルグス。船の流体装甲で機兵対応班を守ってやってくれ」


『任せろ!』


 敵の砲撃が飛んできているが、船の流体装甲で強引に耐える。


 耐えつつ、繊三号に船を近づけていく。


「……敵の砲撃、思った以上に散発的だな……?」


 繊三号は隊長が黙らせてくれたとはいえ、水上船は健在だ。


 敵艦隊からの砲撃はもっと厳しいものになると思っていたが……アイツら、こっちの進路を塞ぐ砲撃ばかりやってくる。


「フェルグス。敵船の中に魂は――」


『今のとこ、1つしか見えねえ』


「つーことはタルタリカだけか」


 背嚢型のタルタリカで軍人を脅し、船を操作してくる可能性も考えていたんだが……軍人の数をそこまで確保出来なかったのか。


 火器の管制要員を数人乗せて、基本の操作はタルタリカの巫術に任せるって手も使えなかったんだろう。普通の巫術師(にんげん)と違って、タルタリカと交国軍人だけじゃそこまで連携取れねえはずだ。


 タルタリカだけじゃ、船の砲塔を十全に活用できないから砲撃が甘いのか? あるいは、別の理由があるのか。


 ともかく、敵船に乗ってるのはタルタリカだけなら好都合。


「タルタリカだけなら、遠慮することはねえな――」


 繊三号側から迫ってくる敵船が、船首に衝角を形成しつつある。


 衝角攻撃(ラムアタック)か。流体装甲を装備している以上、そういう攻撃も出来る。アレなら砲撃が下手くそだろうが、十分な脅威になる。


 ぶつかられるまでに撃沈出来ればいいんだが、敵も流体装甲でガッチリと防御を固めていやがる。


 こっちは繊三号に追いつかないといけない以上、逃げ回って回避する猶予はねえ。こっちもこっちで突っ込むしかねえ。


「ヴァイオレット! ワイヤーの用意出来てるな!?」


『大丈夫です! いつでもいけます!』


 バレット達と一緒にワイヤーを用意していたヴァイオレットに連絡を取る。


 フェルグスにそのワイヤーを使わせる。


 船の流体装甲をワイヤーに纏わせる。


 ワイヤーをフレーム代わりにして、流体装甲の()を生成する。


「フェルグス! 憑依白兵戦(・・・)用意!」


『うしっ! ちょっと行ってくる!』




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:狂犬・フェルグス


 敵の船が突っ込んでくる。


 突っ込んできたが、星屑隊の操舵手(やつ)の操作でギリギリ回避する。


 マジでギリギリだから、敵の船とこっちの船の装甲がこすれあって火花が散った。けど、どっちも無事だ。


 無事だから、沈めに行く。


『食らえッ!』


 流体装甲で生やした腕で、敵の船に殴りかかる。


 少しとがらせて、敵の装甲に腕をブッ刺す。


 その腕経由で敵船に憑依し、乗っ取る!


『悪いな』


 船の中に潜んでいた小型のタルタリカを――巫術を使えるタルタリカを、敵船の流体装甲を使って潰す。殺す。


 これで、この船は完全にオレ様のモノだが……船はいらねえ!


 いるのは、コイツだけだ。


『貰っていくぜ!』


 敵船の混沌機関を盗む。


 混沌機関に繋がってる色んな線をブチブチとちぎりつつ、船の外に持ち出す。


 星屑隊の船が先に行ってる。


 あそこまで持ち帰ってやる。


『ほっ……!!』


 星屑隊(ウチ)の船から持ってきた流体装甲の腕で、奪った混沌機関を放り投げる。手が離れる瞬間、混沌機関の方に魂を移す。


『着地……成功っとぉ!!』


 奪った混沌機関から足を生やし、星屑隊の船に着地する。


 これが欲しかった。


 これで、こっちの船は混沌機関を2つも使える!


『フェルグス君……!? いま、どうやって戻ってきたの!? 憑依解除して戻ってきたんじゃないよね?』


『めんどくせえから混沌機関に憑依してきた』


 最初の作戦だと、投げた瞬間に本体に戻って、星屑隊の船に再憑依。


 船の流体装甲で投げた混沌機関を受け止める予定だったけど、そこまでしなくても何とかなったわ。我ながら天才すぎる。


 最初に羊飼いと戦った時、ちょろっと使った手の使い回しだけど――。


『ヴィオラ姉、盗んできた混沌機関の接続頼んだ!』


『う、うん! 任せて!』


 ヴィオラ姉は混沌機関にも詳しいらしい。


 ムツカシイことはよくわかんねえが、ヴィオラ姉なら奪った混沌機関と、この船の混沌機関を同時に使えるようにしてくれるらしい。


『混沌機関が2つあれば、こっちの力は4倍だ!』


『多めに見積もって2倍だからね……!? こっちの船の混沌機関は潜水艦動かすためにかなり消耗したから、そろそろキツかったし2倍にすらなってないかも!』


『じゃ、じゃあ、もっと奪えばいいんだろ!?』


 混沌機関はまだまだある。


 敵の船を全部襲えば、オレ達の力は100倍だ!


『船もっと来い! 返り討ちにして、混沌機関も取ってやる!』


『無理しちゃダメだからね!? 自分の安全第一で――』


『――あぶねえっ!』


 敵の砲撃が飛んできたから、流体装甲で壁を作る。


 混沌機関の接続作業をしようとしていたヴィオラ姉と、その手伝いで来てた星屑隊の奴らを守る。危ねえ危ねえ、生身で砲弾食らったらさすがに死ぬぞ。


『ヴィオラ姉もオーク共も大丈夫か!?』


『な、なんとかー……』


『くそっ! よくもヴィオラ姉を危ない目に……!』


 指揮所にいる副長に「さっき撃ってきたヤツをブチのめしに行こうぜ!」と言ったが、「アホ! んなことやってる場合か!」と怒られた。


『繊三号に機兵対応班を送り届けるのが先だ。まだ敵が来る!』


 動く島に――繊三号に向かって走るオレ達の少し後ろに、敵の船が追いついてきた。少し遠い。あの位置じゃ、殴り合いを挑めない。


 船に腕を生やしたところで届かない距離だ。


 でも、砲撃は届くから――。


『あの野郎! こっち撃ってきてるぞ副長!』


『防御しろ! いま、倒しに行く余裕はない!』


 憑依が届く距離に行こうとしたら他の敵も来る。


 そいつらに袋だたきにされる。


 一番近い敵からの砲撃は、そこまで痛いものじゃない。


 なんか……本気で撃ってきてない気がする。けど、うぜえ砲撃だ。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:肉嫌いのチェーン


「ちっ……! 嫌な位置につけてやがる……!」


 斜め後方の船が、微妙な距離から砲撃を繰り返してくる。


 フェルグスに防御させているから、あの程度なら凌げる。


 凌げるが……少しマズい。


 防御のために流体装甲を厚めに張ってる所為で、船足が落ちている。


 足を止めたら他の船からもバカスカ狙われる。包囲されて砲撃されたら、機兵対応班を船に送り届けるどころじゃない。


 フェルグスを一時的に機兵に憑依させ、機兵でフェルグスの魂を斜め後方の船に届けて憑依を……。いや、それは危険だ。敵の砲撃で機兵がやられかねない。


『副長! アイツ、ジャマだ! 引き返してでも倒すべきじゃねえか!?』


「くっ……確かに……」


 フェルグスの言う通りかもしれねえ。


 けど、それはそれで敵の思うつぼだ。


 アレを倒すためだけに引き返したら、時間を無駄にしちまう。


 機兵対応班を繊三号に届けるのが遅れる。


『副長さん! ワイヤーの使用許可を!』


 ヴィオラからの通信が来た。


 けど、ワイヤー? それ伸ばしたところで敵まで届かない。


 ワイヤーをフレームにして流体装甲の腕を作っても届かない。


「何をやらせるつもりだ」


『憑依です! この距離なら……いえ、フェルグス君なら届きます!』




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「フェルグス君! さっきの要領でお願い!」


 奪った混沌機関の接続作業をしつつ、フェルグス君にお願いする。


 ワイヤーで流体装甲の腕を再び作成。


 その腕に、流体装甲で作った球を持たせる。


「キミなら出来る! お願い!」


『任せとけ!!』


 流体装甲の腕が球を放り投げる。


 一番近い敵船に向け、投げた球が飛んでいく。


 命中は……してない!


 でも、海に落ちた球と、敵船が衝突した。


 その瞬間、敵船の砲塔が全て爆発した。


 次いで、船のあちこちで爆発が起き始めた。


 投げた玉経由の憑依で敵船を奪取。


 そして、流体装甲で爆薬を大量に作って自沈させていった。


「さすがフェルグス君……!」




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:肉嫌いのチェーン


『ただいま! アレぐらいボコボコにしてやりゃ、十分だよな!?』


「十分すぎる! お前、意外と器用だな!?」


 フェルグスの魂が、斜め後方の敵船から戻ってきた。


 自分で作った流体装甲の腕で球を投げる。


 装甲の指が離れる瞬間、球の方に憑依して敵船に接触。


 そこから船を奪って爆破する。


 こっちの船にはフェルグスの身体があるから、憑依を解除したら即座に戻ってくる。戻ってくるのはともかく、玉で乗り移るのは器用なことやってやがる。


 巫術師の憑依は、対兵器戦で厄介な強さを発揮できる。


 装甲で防御しても、接触された時点で兵器を奪われる。


 その脅威は模擬戦でもよく見せてもらったが、やっぱり恐ろしい技だな。


 ……巫術師自身が機兵に搭乗して、弾丸に魂を込めて敵に当てる。そこから憑依して敵機兵を破壊後、自分の機兵に戻るって事も出来るかもしれない。


 弱点があるとはいえ、そういう無法な運用もできそうだな……。


「副長! 繊三号まで残り50メートルを切りました!」


「良し。この距離なら行けるな――機兵対応班! 出番だぞ!」




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:死にたがりのラート


「待ってました! フェルグス! 頼む!」


『来い! テメエらも投げてやる!』


 船から生えた流体装甲の腕に、機兵で近づく。


 掴んでもらい、繊三号までブン投げてもらう。


 投擲だけじゃ届かないが、流体装甲で作った推進装置で飛距離を稼ぐ。


「ッ――――!!」


 加速に耐えつつ、繊三号に着地する。


 ダスト2とダスト4――レンズとパイプも俺に続いて乗り込んできた。


『スアルタウ達と合流して、基地を制圧しろ! 頼んだぞ!』


『『「了解!」』』


 羊飼いの遠隔憑依対策の避雷針を流体装甲で作成し、設置しながら急ぐ。


 アル達が敵機兵と戦闘している。


 アイツらや船の皆おかげで、繊三号への上陸も上手くいった。


 羊飼いは別働隊の方に食いついている。まだ戦闘中らしい。


 今のうちに繊三号を掌握しきって……羊飼いを迎え撃ってやる!




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:狂犬・フェルグス


 頼んだぞ。


 誰にも聞こえないよう、心の中で呟く。


 オレは船担当。海で戦いつつ、ヴィオラ姉達を守らなきゃいけない。


 基地の方で暴れているアル達は、ラート達に任せる。


 こっちが片付いたら、オレも――。


『フェルグス! 防御頼む!』


『任せとけ!』


 船の流体装甲を操る。


 敵の攻撃で装甲がへこんでも、巫術で操って直ぐに修復する。


 巫術無しじゃ操作しきれないところも、オレがいれば直ぐに直せる。


『射撃はそっちに頼むぜ!』


『了解!』


 流体装甲で作られた砲塔が火を吹く。


 撃つのは星屑隊の射撃員(やつら)に任せる。


 こっちの撃った弾が敵の船に当たり、大爆発が起こる。


 向こうの砲塔に当たって、撃とうとした弾ごと爆発させたみたいだ。


 けど、まだ船に取り付いている魂が見える。


『しぶといな……!』


 敵の船も流体装甲を展開している。


 壊れた箇所を流体装甲で無理矢理直して、沈まないようにしている。


『船近づけてくれ! 接近戦で直接潰してやる!』


 下手な撃ち合いじゃ倒しきれない。


 憑依で敵の船を奪って、船を壊すなり、憑依しているタルタリカを倒せば敵の数を減らせる。敵の方が数は多いが、少しずつ倒していくしか――。


『…………! 来るぞ副長! 新しい敵が!』


 敵は船だけじゃない。


 海を泳げるタルタリカもいるし、他にもいる。


『新手か。どこだ?』


『基地の上! 空から来るぞ!』




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:肉嫌いのチェーン


「対空戦闘用意! ドローンの編隊だ! 撃ち落とすぞ!」


 繊三号から飛び立ったドローンが来る。


 フェルグス曰く、ドローンの中に魂が見えているらしい。


 敵が巫術で憑依して操っているんだろう。


 基地に配備されていた攻撃用ドローンの姿も見える。


 多少は船の流体装甲で受けきれるが、無駄に装甲を張って船足を落とすと、敵の船に接近戦を挑めない。近づけないのはマズい。


 致命打を与えにくい対艦砲撃を減らし、その分のリソースを対空射撃に――。


『また新しいのが来たぞ! 今度は機兵だ!』


 フェルグスの言う通り、機兵が近づいてくる。


 繊三号の陰から、複数の機兵がホバー移動で接近してくる。


 ウチの船より圧倒的に速い。ドローンよりは遅いが、機兵はドローンよりずっと硬い。半端な攻撃は流体装甲に防がれる。


 敵の憑依はフェルグスが防ぐとしても、機兵までウロチョロされるのはマズい。


 マズいが――。


「榴弾装填。手筈通りだ」


 敵機兵は装甲が薄い。


 流体装甲で作ったホバーで海上移動するとなると、機体を重くできない。


 最低限の装甲じゃないと自重で沈む。


 それでもドローンより厚い装甲を持っているが、船からの砲撃を直撃させれば装甲を抜ける。フェルグスに倒してもらうまでもなく、砲撃で倒せる。


 だが、そこまでする必要はない。


 もっと楽な方法がある。


「直撃は狙うな。敵の進路上に撃て!」


 砲弾が風を切り、敵の進路上の海に落ちる。


 一拍置き、爆発が発生。


 爆発でいくつもの水柱が立ち上がり、海が荒れる(・・・)


 それにより、敵機兵2体がすっ転び、水しぶきを上げながら沈んでいった。


「海戦なら機兵は大した脅威じゃない。だが、近づけさせるな!」


 流体装甲によるホバー機構生成は、あくまで移動のためだ。


 揚陸作戦をスムーズに進めるためのもので、海戦用のものじゃない。


 ホバーは波浪に弱い。榴弾で海を荒らしてやれば、バランスを維持するのは難しい。維持出来なければ転ぶ。転んだ機兵は海中に没していく。


 一度転んで海中に落ちた機兵は、しばらく戦線を離脱せざるを得ない。


 海中だと、大量の海水が流体装甲の生成作業を邪魔する。


 流体は水に弱いため、海上走行用や浮上用の装備を再生成しようとしても水に邪魔される。新しい武器の生成も、海中では困難だ。


 機兵は海に浮けるほど軽くない。


 重い体を引きずり、海底をノコノコ歩いて陸地を目指すしかない。


 あるいは船のクレーンで引き上げてもらうしかないが、戦闘中に引き上げてもらう余裕はないだろう。タルタリカの頭じゃ、その考えも出ないだろう。


 沈んでいった奴らはしばらく戦線復帰できないが――。


「フェルグス。敵が見えてるな?」


『当然! いつでも行けるぞ!』


「トドメを刺す。魚雷生成(・・・・)! 目標は海底に沈んだ機兵だ!」


 流体装甲によって、様々な戦況に対応できるのは機兵だけじゃねえ。


 船も様々な役割を兼任できる。


 必要に応じて流体装甲で滑走路を作り、空母としての役目も担える。


 ハリネズミのように複数の砲塔を作り、砲撃戦にも対応できる。


 魚雷や爆雷を作り、海中の敵も狙える。


『行ってくる!』


 フェルグスが魚雷に魂を移し、発進する。


 ソナーを使うまでもねえ。巫術師の眼なら、海中の敵が見える。


 敵の魂が見える。そこめがけて飛んで行けばいい。


「っ……! やったか!?」


『魂は見えるけど、直撃はさせた! 流体装甲は剥げたはずだ!』


 敵機兵への魚雷命中。


 フェルグスの言う通り、流体装甲をある程度剥がせたはずだ。


 流体装甲は防御だけではなく、機兵の動作アシストも行う。金属製の筋肉みたいなものだ。それが破壊されると動くのもままならなくなる。


 陸上なら装甲を再生したらいいが、海中だと海水が邪魔で装甲の再生成も困難だろう。これで機兵を一機、完全に戦線離脱に追い込めたはずだ。


『もう一機やってこようか!?』


「先に船をやる! 白兵戦用意!」


『了解!』


 やれている。


 隊長の言う通り、上手く戦えている!


 敵の方が数は多いが、質はオレ達の方が上だ!


 海に適応したタルタリカの群れも迫っているが、大した脅威じゃない。船の行動範囲が制限されるが、速度で振り切れば良い。


 タルタリカ共は「少し泳げる」程度だ。


 水を克服したとしても、魚のように高速で泳げるわけじゃない。


 機銃や機雷で数を減らしつつ、無理矢理振り切っていけばいい。


 勝てる。


 このままいけば、勝てる。


 繊三号からバカスカと砲撃されると、この船の流体装甲じゃ耐えきれないが……繊三号の防衛設備制御室は隊長が守ってくれている。


 敵機兵の大半も、機兵対応班とスアルタウ達が対処中。


 あとは羊飼いさえ何とかしたら、オレ達の勝ちだ!


「遊星隊の方はどうなってる!?」


「未だ、羊飼いと交戦中! 劣勢のようですが、持ちこたえてくれています!」


「良し……! 奴が留守のうちに全部終わらせて――」


 違和感。


 隊長は「羊飼いが一番の脅威だ」と言っていた。


 敵の実力はハッキリとはわからないが、奴は機兵も見事に操っていた。


 ウチの機兵に憑依し、星屑隊を圧倒していた。


「――向こうの映像を出せ」


「えっ? 観戦なんかしてる場合……」


「早く出せ! どこでもいい! オレの端末でもいいから!」


 携帯端末に向こうの映像を出させる。


 別働隊のドローンは殆ど落とされているようだが、まだ無事なカメラもある。


 青天隊の船のカメラが、向こうの戦場を見せてくれた。


 いくつか船がやられ、機兵部隊にも大損害が出ている。


 だが、まだ負けていない。


 異形の機兵と――羊飼いと交戦中。別働隊の生き残りが交戦し続けている。


 それどころか、羊飼いを押している(・・・・・)


 羊飼いの機兵は防戦一方で、陸地まで後退して――――。


「……違う」


「どうしたんですか、副長」


羊飼いを(・・・・)探せ(・・)! 奴はどこだ!?」


「何を言って――」


「別働隊と戦っているでしょ?」


 部下共がいぶかしげに見てくる。


 オレもそう思った。


 陽動を任せた部隊と戦っているって。


「向こうのは偽者だ! 本物がどこかにいるはずだ!」


「えっ……?」


「思い出せ! 星屑隊(おれたち)でも追い返すのがやっとだったんだぞ!? 実際に別働隊の奴らを複数倒してんのに、今更劣勢になるもんか!」


「けど、映像には確かに羊飼いの機兵が――」


「敵は巫術が使える」


 模擬戦で、スアルタウは機兵を四足歩行に改造してみせた。


 流体装甲を巫術で操り、大きく形を変えてみせた。


 敵も同じような事は出来るはずだ。


「巫術があれば、機兵の流体装甲(みため)は変えられる!」


 おそらく、奴は別働隊と戦闘した。


 戦闘していたが、こっちの動きを知って途中で離脱した。


 流体装甲で見た目だけ整えた別の機兵を囮に、離脱したんだ!




■title:海岸にて

■from:フォーク中尉


「ああああッ! や、やめろッ! 撃つなっ!!」


 交国軍(みかた)が撃ってくる。


 機兵一機で、船と機兵部隊に勝てるわけないだろ!?


 見た目だけ羊飼い(やつ)と同じにしたところで、強くなるわけない!


 むしろ、いつもより操作しづら――――。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:肉嫌いのチェーン


 別働隊と戦闘中だった「偽羊飼い(スケープゴート)」に砲弾が直撃した。


 一拍置き、大爆発を起こして爆散した。


 遠隔憑依対策しているとはいえ、あんなあっさり倒せるはずが無い。


 やはり偽者だ。


「隊長、攻撃隊! 羊飼いが繊三号に戻ってきている! 警戒してくれ!」


 出撃中の皆に警告する。


 奴が姿を消したとしたら、繊三号に戻ってくる。


 あるいは、オレ達の退路を――――。


「――――」


 こちらに接近中だった機兵の群れを見る。


 あと一機残っている。


 大きく揺れる海面をホバーで進み、接近してくる。


 その足下に、黒い電流(・・・・)が走った。


「フェルグス、奴を――――」




■title:繊三号近海にて

■from:使徒・■■■■■■


『さすがに、気づくか』


 先程とは打って変わって、直撃狙いの砲撃。


 榴弾による波浪では私に対応できない。そう悟ったようだ。


 だがその程度、何の問題ない。


 海上で跳び、使い慣れた機兵(すがた)に変形する。


加速(ゆくぞ)




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