穢れた影光
■title:繊三号にて
■from:繊三号守備隊員
何でこんな事になった?
俺達が何か、悪いことをしたか?
そう思いながら、タルタリカと共に走る。
俺達はタルタリカを倒し、ネウロンの住民を守るために派遣されてきた。
タルタリカ殲滅。普通の獣相手とは違うが、プレーローマや他国の軍隊と比べれば「害獣駆除」と言っても差し支えのない仕事だった。
比較的楽だが、誉れの無い仕事のはずだった。
正直、つまらないな……と思っていた。
ただ、まあ、悪くはなかった。
繊三号は無敵の要塞。対タルタリカに限れば絶対に負けない要塞だった。海上に浮かぶ繊三号に対し、タルタリカ達は何も出来なかった。
無敵ゆえに退屈な日々だったが、繊三号で暮らしているネウロン人のガキ共と遊ぶのは悪くなかった。飲み屋で異世界人のねーちゃんと飲む酒は悪くなかった。
次の休みも、ガキ共と遊ぶ約束をしていた。
許可を取って、サッカーの試合をして遊ぶ予定だった。
上を説得して、基地の一角を借りて一時的にサッカー場にする予定だった。
娯楽の提供も軍事行動に必要。何故なら混沌機関は人々の感情から発生する混沌によって動いているから、より良い感情を娯楽で創出する必要がある。
そう言って、上を説得しようとした。
ガキ共のためにも頭をひねって、仲間内でそれっぽい計画書を作って提出した。軍曹殿は呆れ顔を浮かべていたが、それでも一応、受け取ってくれた。
その計画書が基地司令のところまで上がっていたのは予想外だった。
無表情で計画書を読んでいた基地司令に呼び出され、仲間と共にダラダラと冷や汗を流していたら、司令が「馬鹿共が。つまらん計画書を上げよって」とキレた。
キレつつ、「単なる遊びで終わらせるな! 興業として盛り上がるものを作れ!」と言い、参加者をもっと集めるよう指示してきた。
基地祭の名目で軍の予算を使って屋台を出す事になり、屋台をやってくれる人間も探す事になった。
舌が死んでる俺達が屋台やるのは「論外」「お前らまともなもの作れないだろ」と言われ、ガキ共にも手伝ってもらって人を探した。
異世界からネウロンに連れてこられた奴や、馴染みの飲み屋の協力を取り付け、「交国」「ネウロン」「さらに別の異世界」の文化交流を兼ねた複数の屋台が作られる事になった。
当初予算よりオーバーしちまったが、そこは司令が何とかしてくれた。
漁師達も協力してくれた。
サッカーの参加者も集まった。
大半が繊三号で暮らしてるガキだが、8チームも作れた!
交国軍チームも作った。俺達は強いから目隠しで参加、ベンチの仲間に通信で指示を受け、目隠ししたまま走り回る事になった。
練習でやってみたら、ガキチーム相手にボロ負け!
俺達は「うおおおお!」と叫びながら見当違いの方向に走っていき、ベンチで指示を飛ばしている仲間達に「アホーーーー!」と叫ばれ、ガキ共や司令達には大笑いされちまった。
本戦ではもっとマシな試合するぞ! と誓い合い、練習もしてきた。
第十三次殲滅作戦前にトーナメント戦しつつ、皆で大々的に遊ぶ予定だった。
そのはずだった。
でも俺達はいま、タルタリカと一緒に戦っている。
何でこうなった?
どこで道を間違えた?
繊三号の力を過信しすぎていたのか?
海上にいたのに、タルタリカや機兵に襲われるのがおかしいんだ。
基地も町も一気に制圧されるなんて、予想できるか。
精一杯抵抗した。けど、勝てなかった。
出来たのは、一般人を守ることだけ。
……本当に「守れた」のか、わからない。
軍曹達に指示され、「一般人を連れて船に走れ!」と言われたが、船は全然動かなくて……タルタリカに唸られ、繊三号の地下に戻る事になった。
殿として残っていた軍曹達の死体を見かけた。
怯えているガキ共に「見るな」と言うことしか出来なかった。
怖がっているのに、安心させてやることも出来なかった。
フォーク中尉とかいう裏切り者に、タルタリカと仲良くやるよう命令された。
冗談じゃねえ、と思ったが……ガキ程度の大きさのタルタリカを背中に貼り付けられ、「解放戦線を裏切ったら殺す」と言われたら……従うしかねえよ。
死にたくねえもん。
俺、約束したんだ。
仲いいガキ共のチームと、決勝で会おうって。
繊三号でつまらなそうにしていたアイツらに交国の遊びを教えて、一緒に遊ぶようになって……皆の前でサッカーして、大騒ぎする約束もしたんだ。
死にたくねえ。
まだ生きたい。
アイツらと一緒にいたい。
一生、ネウロンに駐留する事になってもいい。
繊三号はもう、第二の故郷みたいなものだったんだ。
尊敬できる上官もいたんだ。
『命令だ。貴様ら、希望を捨てるな』
司令はそう言っていた。
俺達と違って命がけで抵抗して……ボロボロになった身体でそう言ってた。
ボロボロの司令の姿を見た時、俺達は背中に張り付いたタルタリカの存在を一瞬、忘れた。皆で司令のところに駆け寄って、何とか助けようとした。
けど、もう駄目だった。
近くでタルタリカ達が司令の内臓を取り合っていた。サッカーでもするみたいにじゃれながら、司令の大事な内臓を取り合っていた。
背中にいるタルタリカの牙が俺達の身体に突き刺さってきても、何とかしようと思った。けど、どうしようもなかった。
山羊頭の機兵からバケモノが下りてくると、タルタリカ達は怯えた様子で動かなくなった。バケモノ共がバケモノ相手に怯えていた。
バケモノは剣を抜き、司令に向けた。
皆で立ち向かったが、一蹴された。
司令に「やめろ」って言われて……その命令に従った後、司令から最後の命令を聞いた。希望を捨てるなって。
バケモノが剣を振るうと、俺達の希望はスパッと首を落とされた。
その後は、引きつった顔のフォーク中尉に「命令に従え」と言われた。
『従わなければ、ガキ共から殺していく』
そう言われた。
従う事にした。
少なくとも、今は――。
「クソったれ……!」
先を走っているタルタリカの背中を撃ってやりたい気持ちを抑え、今は従う。
逆らうなら、ガキ共を守れるタイミングで逆らうべきだ。
ネウロン解放戦線とかいうクソったれを裏切るなら、友軍が優勢のタイミングだ。そこが俺達の命の使いどころだ。
どうも、繊三号に友軍が来てくれた様子だが……仲間曰く、来たのはほんの一部隊程度らしい。それだけじゃ無理だ。絶対に勝てない。
俺達が負けた相手だぞ。
けど、戦況次第ではそいつらについて、ガキ共を守らねえと――。
「…………!」
銃声と悲鳴が聞こえた。
人間の悲鳴だ。解放戦線側で戦っている奴の悲鳴。
誰かと交戦しているようだったが、断末魔と共に銃声も止んだ。
『暗闇の中に何かいる! 警戒しろ!』
『違う! 光だ! 光を警戒しろ』
仲間の通信。内容がおかしい。真反対のことを言っている。
通信先から銃声が聞こえた。タルタリカの咆哮も聞こえた。
だが、何もかも爆音にかき消されていった。
「今の爆発、近いな……!」
この辺りに敵がいるはずだ。
ひとまず、近くにいる仲間と合流しよう――と思い、速度を緩める。
だが、首元にタルタリカの牙が緩く突きつけられている。俺が裏切ろうとしていると判断したのか? 違う、慎重になっただけで……!
「クソッ、クソッ……!」
タルタリカの牙を突きつけられながら、やむなく急ぐ。
誰かが交戦中なんだ。そこまで辿り着けば、仲間と合流でき――。
「――――」
先行するタルタリカの足下で、銀色の何かが光った。
ワイヤーだ。
タルタリカがワイヤーに足を引っかけたが、構わず走って行こうとする。
だが、それは無理だ。
ワイヤーの端に、手榴弾のピンが複数ついて――。
「――――」
ダメだ。
避けられな――――。
■title:繊三号にて
■from:繊三号守備隊員
「ぐっ……!?」
先の通路で爆発が起こったらしい。
複数の手榴弾がまとめて爆発したような衝撃。
「…………! チャック! 大丈夫か!?」
爆発が起きた通路に、よく見知った仲間が倒れていた。
サッカー大会を企画したチャックだ。
どうやら敵の仕掛けたトラップに引っかかったらしい。
チャックの傍にはタルタリカの肉片が転がっている。チャックではなく、タルタリカがトラップに引っかかって、それに巻き込まれたのか。
「ぐおッ!?」
チャックを助けに行こうとしたが、左腕に衝撃が走る。
進行方向から弾丸が飛んできた。痛みは無いが、動作に支障が……!
「っ! どこのどいつだ!? オレと同じ交国軍だろ!? 部隊名を教えろ!」
元いた通路に戻る間に胴体にも何発かもらった。
痛みはなくても、これは……かなりマズい。
手当する暇はない。敵が来る。
「は……! はっ……!」
敵が駆け寄ってくる音がする。
その音以上に、自分の吐息がうるさい。
通路の曲がり角の床に、敵の影が見えた。
馬鹿が。照明の位置を把握せず、焦って突進してきたな。
曲がり角から出てきた瞬間、仕留めて――。
「――――」
射撃する。
狙い通り、敵が曲がり角から姿を出した。
姿を出したのに、次の瞬間、フッと消えた。
ろうそくの火を吹き消したみたいに――。
「は?」
フッと消えた敵が、反対側の曲がり角から姿を現し、発砲してきた。
曲がり角から曲がり角にワープしたみたいに、移動した?
わからん。
考えようにも、頭に弾丸が――。
■title:繊三号にて
■from:繊三号守備隊員
「行け! 突っ込め!!」
仲間が血と脳漿をブチ撒けながら死んでいった。
その先に敵がいる。
オレの仲間の頭を吹き飛ばし、殺した敵がそこにいる。
小型のタルタリカを先に行かせつつ、射撃して援護する。
頭に「オレは交国軍人なのに、なんでタルタリカと足並み揃えて戦わなきゃいけねえんだよ――」という疑問がわいたが、んなこと考えてる暇はない。
やらないと、殺される。
「逃げんな!!」
敵はするりと左の曲がり角に逃げていった。
タルタリカはそれを素直に追っていった。
一拍置いて、何かが潰れる音が聞こえた。
敵は背中にハンマーのようなものを背負っていた。
曲がり角の先に待ち構えていた敵が、タルタリカをハンマーで叩き殺したんだろう。……タルタリカが抵抗した音は聞こえなかった。一撃で殺したのか?
「くっ……う……!」
相手は、ホントに人間か?
小型とはいえ、タルタリカを一撃で殺した? バケモノめ。
タルタリカに続き、通路を曲がるのを躊躇う。
躊躇ったが、背中に張り付いたタルタリカが後退を許してくれない。
「クソがああああああッ!!」
叫びつつ、曲がり角の先に向かう。
自暴自棄になったフリをしつつ、落ちていた仲間の銃を投げる。
急に飛び出てきた銃に敵が反応したら、隙を作れるはず。
「――――」
発砲音。
暗い通路をマズルフラッシュが照らす。
敵が撃った! 釣れた!
囮として使った銃に引っかかった!
「バカがッ!!」
銃に続いて飛び出て、撃ちまくる。
撃ちまくったが――。
「――――?」
敵がいない。
頭を潰されたタルタリカの死体が転がっている。
敵は、左の曲がり角の先にいたはず。
それなのに、いない。
俺の目の前にあるのは、真っ直ぐ伸びる通路とタルタリカの死体だけ。
逃げ込める脇道なんてない。
あるのは、敵が逃げ込まなかった右の曲がり角だけ。
でも、右の曲がり角に潜むのは不可能だ。
だって、曲がり角から曲がり角に移動しようとしたら、オレから見える。
「どこに――」
■title:繊三号にて
■from:影兵
「どこに――」
そう呟いた交国軍人の頭部と胴体を撃つ。
背後から発砲し、背嚢型タルタリカごと殺す。
弾丸に弾かれ、倒れていこうとした交国軍人の軍服を掴んで保持し、持っていた銃を奪う。敵方に人間がいて良かった。武装が補充しやすい。
「――――」
次の敵が近づいてくる。
■title:繊三号にて
■from:繊三号にいた交国軍人
「…………!」
闇の中に何かいる。
何かが倒れている。
小型のタルタリカの死体と、交国軍人が2人倒れている。
「さっき、ここから発砲音が聞こえたよな? 敵はどこだ?」
「もう逃げて――」
いや、違うか。
倒れている軍人に銃を向けつつ、相方に警告する。
「気をつけろ。どちらか一方が『敵』かもしれん」
相打ちで倒れた。
あるいは、死体のフリをしている可能性がある。
「おい、動くなよ。こっちはもう銃を向けて――」
「――――」
動いた。
容赦なく発砲する。
やはり、死んだフリか。
硝煙とマズルフラッシュの先に、新しい死体が出来て――――いない。
「…………!?」
床に転がっていた交国軍人が、1人だけになっている。
片方が消えた。忽然と。
「前だ!!」
相方の警告を聞き、慌てて正面に銃を向けたが遅かった。
離れた場所から敵が撃ってきた。
先に気づいた相方が撃たれ、背後に倒れていく。
俺が銃を向けるより早く、敵の弾が俺に届いた。
「わ、ワープでもしやがったのかぁっ……!!?」
胴体を叩き、首を抉る弾丸に耐えつつ、相打ち狙いで発砲した。
発砲したが、敵の姿がかき消えた。
最初と同じだ。
床で倒れていたはずなのに、次の瞬間には離れた場所に立っていた。
その場所の斜め後方にいきなり現れ、冷静に俺を撃ってきた。
なんだ、いまの。
マジで瞬間移動したみたいな――。
「て、めッ……! まさ、か、プレーローマの――――」
■title:繊三号にて
■from:影兵
弾丸で黙らせる。
次が来る。
戦闘の音に惹かれ、タルタリカの群れが走ってきた。
コイツら相手に銃は分が悪い。
「――――」
床に向けて発砲する。
その動作により、飛び込んで来たタルタリカの頭上を取る。
ハンマーを振るい、その頭を砕く。
次が来る。
次のタルタリカに向けて発砲しつつ、後方の空間に移動する。
一瞬前、私がいた空間に噛みつき、攻撃を空ぶったタルタリカの頭を潰す。
手榴弾のピンを抜き、3体目のタルタリカの口に向けて放る。
爆発と共に通路の曲がり角まで後退し、壁で爆風を避ける。
逃げた先からもタルタリカが接近中。
床に落ちた照明が作る長い影を、踏みながら疾走してくる。
「良い位置だ」
ハンマーを振るう。
何も無い空間を思い切り叩く。
先頭を走っていたタルタリカの顔面が「ベコッ」とへこみ、弾ける。
「――――」
倒した小型のタルタリカを踏み越え、新手が飛び込んでくる。
敵の勢いも借り、その頭部をハンマーで潰す。
敵の勢いを殺し切れていない。死体が私を押しつぶしてくる。
敵の背後に転移し、敵から逃れる。
地上ならともかく、地下の狭い通路なら大型のタルタリカは入ってこれん。
歩兵の私でも何とか対処できるが――。
「……しぶといな」
最初に頭を潰したタルタリカが再生を開始している。
胴体をハンマーで潰し、黒い肉を掻き分け、脳を握りつぶす。
身体中がタルタリカの死肉で汚れている。だが、こいつらはいい。
流体で出来ている死肉なら、放っておけば溶けて消える。
消えてくれるおかげで、死体処理の手間が大幅に省ける。
問題は人間だ。
人間の死体処理が面倒だ。戦後のどさくさになんとかするしかないが、ひとまず勝たねば「戦後」は我らに巡ってこない。
「…………」
新手が来る。
その足音以外にも、人間の呼吸音がする。
息つく暇もないが、まだやれる。
■title:繊三号にて
■from:繊三号守備隊員
俺はどうも、気絶していたらしい。
……状況がわからない。
さっきまで、銃声と獣の咆哮が聞こえていたが、収まった。
音は聞こえる。よく聞こえる。
「ど……どこだ、ここは……?」
見えない。
なにも、見えない。
顔が何かで汚れている。
顔を拭っても、ドロドロしたそれが消えない。
くそっ……これじゃ、サッカーできねえ……。
「…………あぁ」
そうだ、思い出した。
見えなくても、大丈夫なんだ。
どうせ、ハンデで目隠しするんだ。
ベンチにいる仲間の声に導いてもらえば、問題ない。
練習したんだ。ガキ共に、カッコイイとこを見せてやろう。
「は……。はっ……」
「大丈夫か?」
「…………?」
誰かが近づいてきた。
見えないが聞こえる。知らない声だ。繊三号の人間じゃないのか?
「…………」
声が上手くでない。
けど、背中は軽い。
そうだ……。さっきの爆発のおかげだ。
タルタリカがトラップにかかった時、逃げようとして背中を向けた時……爆発で背中のタルタリカを殺せたんだ。多分、そうだ……。
俺は自由だ。
ガキ共と、サッカーができる。
「生きているのか?」
「ぁ…………アンタは……?」
「助けに来た。私は交国軍人だ」
「…………あぁ」
良かった。
まだ、希望はあったんだ。
司令の言っていた希望は、これだったんだ。
■title:繊三号にて
■from:影兵
「…………」
撃鉄を起こす。
■title:繊三号にて
■from:繊三号守備隊員
「おれは、だいじょうぶ……です」
「そうか」
「じ、自分のことは、なんとかします」
希望はあった。
けど、まだ心配なことがある。
「下の倉庫区画に、まだ……子供達が……」
「…………」
「サッカーする、約束……。あいつ、ら……守……。助け……あげて――」
■title:繊三号にて
■from:影兵
「わかった。任せておけ」
発砲し、殺す。
死体からまだ使える拳銃を回収しておく。
貴様らは殺す。
タルタリカに脅されている軍人を救うのは、不可能ではない。
だが、困難だ。
この権能を使わず勝てるほど、私は強くない。
権能の行使を目撃されれば、工作員の存在がバレてしまう。
しばらく1人で戦う必要がある。必要以上に助けながら殺す余力がない。
繊三号にいた交国軍人には悪いが――。
「一般人は可能な限り助ける。私を呪い、眠れ」
【TIPS:天使】
■概要
源の魔神が創造し、配下として使っていた知的生命体。
創造主である源の魔神の命令に従い、数多くの人類を抹殺してきた事もあり、源の魔神死後も「人類の敵」として恨まれている。
多くの天使達が暮らすプレーローマ内にも「人類と和平を結び、争うのをやめよう」と主張する穏健派の天使もいる。だがそれは少数派で、大多数の天使が源の魔神の死後も人類との闘争続行を主張している。
穏健派が「人類は非常に数が多く、滅ぼしきるのは難しい」「救世神不在で人類に完全勝利するのは不可能」と説いても、人類を下等生物として見下す者達の心には響かない。
響かないどころか、人類との和平を望む穏健派の天使を激しく差別し、時にはプレーローマから追放する事もある。
追放された天使が人類側にすり寄ったところで、「天使」という存在そのものが人類から強く憎まれているため襲われる。
強硬派の天使達は源の魔神死後も積極的に人類と敵対しており、それによって人類はさらに天使を憎み、終わりの見えない闘争が続く悪循環が発生している。
■天使の容姿
天使は一見、只人種に似た外見をしている者が多い。ただ、頭に光輪を持ち、背に光翼を背負っている。身体能力や寿命も只人種とは大きく異なる。
天使の外見的特徴である光輪と光翼は意図して消す事も可能だが、「我々は人間のような下等生物とは違う」というプライドの高い天使達は光輪も光翼を意図して消さず、自分達は天使だと積極的にアピールしている。
人類の文明圏で「私は天使だ」と積極的にアピールすると、人類に命を狙われる事になる。そのためプレーローマを追放された天使の多くは、自分達が天使であるという素性を可能な限り隠す。
追放されていなくても、人類との揉め事を嫌う者は光輪や光翼を積極的に隠す。そういった天使を人間と見分けるのは非常に難しい。
■現プレーローマの支配体制
多次元世界最強とも謳われた<源の魔神>が存命の時、プレーローマは多次元世界の殆どを支配していた。
しかし、源の魔神が死んだ後はその支配体制が維持出来なくなった。
プレーローマ内でも源の魔神――プレーローマで言うところの<救世神>の次に「プレーローマを治める者」の座を巡って、激しい権力闘争が繰り広げられていた。それによって生じた混乱等の隙に、人類文明は盛り返していった。
現在のプレーローマは以前と比べれば大分、政情も落ち着いている。
今のプレーローマは「三大天」と呼ばれる3体の天使が分割統治しており、その3体が協議してプレーローマの行く末を決めている。
ただ、三大天同士でも考えが異なるため、一致団結してプレーローマを運営できているわけではない。今もプレーローマ内部では権力闘争の火種がくすぶり続けている。それでもなお、人類はプレーローマに勝利出来ていない。
人類勢力の方が遙かに数が多く、プレーローマは魔神勢力にも脅かされているのだが、それでもなおプレーローマは強大な組織として君臨し続けている。
数で劣っていても、<権能>を持つ天使達は非常に強力な存在である。
■天使の手先
交国などで多く見受けられる<オーク>達は人類の一員だが、かつてはプレーローマの尖兵として人類と敵対していた。
源の魔神の死後、混乱期に入ったプレーローマはオーク達を管理しきれなくなり、オーク達はなし崩し的にプレーローマから独立していった。
尖兵時代の所業により、オーク達を憎み嫌う人類も多い。だが、多くのオークが「人類の守護者」として戦っている交国の尽力もあり、オーク達に対する差別も昔よりはマシなものになってきた。
天使達の中には只人種ではなく、オークに似ている天使もいる。
ただ、天使達にとってもオークは「消耗品の下等生物」という扱いだったため、そんなオークに似ている天使はプレーローマ内でも蔑まれている。




