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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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裏切り者のスリーパー



■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:肉嫌いのチェーン


「近くで何か爆発した時は肝が冷えたけど、意外と何とかなるもんですね!」


「なってねーよッ! 敵のド真ん中に出ただけだ!」


 フェルグスに操作させていた船を、海中から浮上させる。


 遊星隊を筆頭に味方の4部隊は別行動。


 向こうに敵を可能な限り引きつけてもらいつつ……星屑隊は繊三号に近づく。そして繊三号を制圧するのが今回の作戦だ。


 ただ、普通に近づいたら気づかれる。


 だから、隊長は巫術を利用した。


『船の流体装甲を展開し、一時的に潜水艦に改造する。貴様らも海中から近づけ』


 実質、単身で先行していた隊長とは別ルートで移動。航行中の繊三号の航跡をなぞりながら近づき、背後から襲う。機兵部隊を繊三号に送り込む。


 隊長の立てた作戦はカンペキだったが、敵も容易く接近させてくれなかった。


 感づかれた。


 繊三号周辺に展開した船舶が、こちらに向けて攻撃してきた。海中でも見つからないよう偽装したが、巫術で注視されたらさすがに気づかれるか……!


「フェルグス! 敵にバレた以上、偽装の()はもう必要ねえ! 捨てろ!」


『あいよっ!』


 潜行用に取り込んでいた海水と共に、事前に捕まえていた魚を放出する。


 敵には巫術師がいる。


 巫術の眼は、海中に隠れ潜んでいるオレ達の魂も見つけ出す。


 見つけ出すが、魂の1つ2つなら海中の魚達と見分けがつかない。


 船に星屑隊の34人と、第8の2人分の魂がギュッ詰まってるから見つかりやすくなるが……そこは魚群になりきる事にした。


 捕まえておいた魚を適時放出しつつ、小魚の群れのフリをした。


 最終的に感づかれたが、それでもそれなりに距離を詰めることに成功した。


 敵艦からの砲撃が飛んできているが、まだ散発的。


 狙いの甘い砲撃だ。これなら十分耐えられる。


 それに――。


「繊三号の様子は!?」


「流体装甲、まだ展開してません!」


「よしッ! 隊長がやってくれたか!!」


 繊三号に近づくうえで、一番厄介だったのは繊三号からの砲撃だ。


 繊三号を動かしている混沌機関は、ネウロンに配備されている混沌機関の中で指折りの性能を持っている。オレ達の船とは比べものにならないモノを積んでる。


 流体装甲も装備しているため、繊三号の混沌機関から混沌を供給し、全力で武装を展開されるとウチの船でも凌ぎきれない砲撃の雨が降ってくる。


 本来なら、この距離でも降ってくるはずだったが……繊三号は動かない。


『こちら、星屑隊隊長(スイープ)


 繊三号妨害(それ)をやってのけた人から、通信が来た。




■title:繊三号・防衛設備制御室にて

■from:星屑隊隊長


『隊長! ご無事ですか!? お怪我は!?』


「問題ない」


 制御室内にいた最後の小型タルタリカをナイフで始末する。


 ここまでは概ね予定通り。


 海中から繊三号に侵入後、巫術師達と別れて潜伏。


 作戦開始に合わせて繊三号の防衛設備制御室を襲い、中にいたタルタリカを全て殺した。予想通り、背嚢型のタルタリカが守備隊の人間に取り付いていた。


「予定通りだ。中枢は押さえた」


 繊三号の防衛設備は、こちらの手に落ちた。


 星屑隊の船が、繊三号から強烈な砲撃を食らう事はなくなった。


 ただ、繊三号周辺に展開していた水上船艦隊の無力化は出来ていない。


 繊三号にあった機兵部隊も未だ健在。


 どちらも対処が必要だ。


「このまま敵を掃討する。ロッカ、スアルタウ、グローニャ。船を援護しろ」




■title:繊三号にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


『了解です!』


 隊長さんからの通信。


 それを聞いて、ドローンで飛び立つ。


 隊長さんが海を泳ぎ、ボクらの魂を繊三号まで運んでくれた。


 それと、ボクらのための装備を――小型のドローンも運んでくれた。


 そのドローンで飛び立ち、繊三号の地表部を飛ぶ。


 ボクらの担当は、皆のための「道」を作ること。


 皆のジャマしてくる機兵を、ボクらが倒す……!


『いた!』


 星屑隊の船の方に向け、移動しようとしていた機兵を襲う。


 ドローンにつけたワイヤー越しに機兵にタッチし、憑依(ハック)開始。


 この機兵の中に見えた魂は2つ。


 1つはタルタリカ。もう1つは――。


『大丈夫ですか!?』


「うおわっ!? だ、だれだっ!? ころさないでくれ……!」


『違います! 助けに来たんですっ!』


 隊長さんの言う通り、機兵の中に交国軍人さんが乗っていた。


 巫術を使えるタルタリカは、ボクらみたいに射撃が下手。


 だから敵は、背嚢型のタルタリカで交国軍の機兵乗りさんを脅して、代わりに射撃させようとしていた。でも、タルタリカさえ倒せば解放できる。


 軍人さんの首元を狙っていたタルタリカを、操縦席の流体装甲を操作してやっつける。「ごめん」と思いながら槍でタルタリカの魂を串刺しにする。


 その後、機兵の外に投げ捨てた。


 後で……後でちゃんとお墓作るから……。


 ボクらもちゃんと、地獄(バッカス)に行くから!


『安心してください! ボクら、皆さんを助けに来たんですっ!』


「殺さないでっ!」


『えと、えとっ……! あとの説明、お願いしますっ!』


『了解! 次も頼むぞスアルタウ!』


 星屑隊の船に通信を繋ぎ、混乱している機兵乗りさんへの説明をお任せする。


 ボクはドローンに戻って、次の機兵を――。


『――――』


 敵機兵の攻撃。


 ぶん、と振られた手にドローンを叩き落とされる。


 もう気づかれた。


 でも――。


『これ、もらうね!』


 ドローンを叩いてきた機兵の手越しに、憑依して機兵を奪う。


 この機兵の中には、魂が1つしか見えなかった。


 操縦席に軍人さんの姿はない。


 これは巫術使えるタルタリカが動かしていた機兵。


 ドローンを壊されちゃったから、この機兵で他の機兵を触りに行こう。


 機兵と軍人さんを解放していけば、敵の数を減らせる。


 逆に、こっちの数は――。


『うおおおお~! グローニャさまのお通りだ~!』


『わっ! グローニャ!? ボクだよっ! 味方だよっ!』


 ぶんぶんと機兵の手を振り回しつつ、グローニャが近づいてきた。


 グローニャもドローンを壊されちゃって、機兵で移動してるみたい。


 ……敵の機兵が、何体もこっちを見てる。装備を出し始めた。


『グローニャ、敵の武器、壊せる!?』


『らくしょー!』


『ボクが憑依で止めに行く。援護して!』


 グローニャに援護射撃を任せ、敵の機兵に駆け寄っていく。


 思ったよりすんなり機兵を奪えなかったけど……ボクらに気を取られてくれるなら、大丈夫! にいちゃんやラートさん達を狙う敵が減ってくれる。


 ラートさん達が繊三号に上陸するまで、ここで大暴れ。


 それがボクらの役目!


『こ、来い! キミたちなんて……こっ、怖くないんだからっ!』




■title:繊三号にて

■from:水が怖いロッカ


『2機目、解放した。この機兵乗りにも説明よろしく!』


『おう、任せろ!』


 アルとグローニャが大暴れしている陰で、ドローンを飛ばす。


 敵はアル達の機兵に気を取られている。


 アルは怖がりながら大暴れしてるっぽいけど……オレが陰で飛び回っていることに気づいているっぽい。敵の注意がオレに向かわないよう動いてくれてる。


 アル達のおかげで、オレは陰で好き勝手できる。


 機兵も乗っ取り放題だ。


 それに感謝しつつ、敵機兵にドローンで接触する。


退()けよッ……!』


 この機兵は、敵が巫術で憑依しているだけ。


 タルタリカが憑依で動かしているだけ。


 コイツは羊飼いほど強くない。オレ1人でも追い出せる。


『お前は海で寝てろ!』


 機兵の身体にローラーを生やし、それを稼働させて機兵を運ばせる。


 海に落とせば、敵も簡単には再起動できねえ。


 ドローンに戻り、繊三号の外の海に向けて走っていった機兵から視線を切り、低空飛行で次の機兵へと向かう。


『…………!』


 倉庫の陰から飛び出てきたタルタリカを回避する。


 慌てて避けて、倉庫の隙間に潜り込んで急上昇。


 敵を撒いて、今度こそ次の機兵に向かう。


『ドローン捌きなら、フェルグス達にも負けねえんだ……!』


 こっちは、バレットに色々と教わってんだ。


 機兵戦では足手まといでも、こうやって機兵を解放していくぐらい出来る。


『大丈夫か!? 助けに来たぞ!』


「なっ……! 誰だ? 子供の声……?」


『オレ達は味方だ!』


 解放した機兵乗りへの詳しい説明は、星屑隊の奴に任せる。


 敵に脅され、動いている機兵乗りを解放するほど味方が増える。


 繊三号の地下で戦っているはずの隊長が言っていた。


 ここにいる交国軍人は脅されて、仕方なく敵側についているだけ。


 解放していけば味方が増えていく。羊飼いと戦う戦力が増えていく。


 まるで将棋(ショーギ)のようなものだ――って言葉はよくわかんなかったけど、要はオレ達が頑張れば味方が増える!


 戦力差をひっくり返せるかもしれねえ。


 どんどん解放していく。


 どんどん戦力を増やしていく。


『大丈夫。オレ達ならやれる……!』


 見てろよ、バレット。


 オレ達が守ってやるよ。勝ってやるよ!




■title:繊三号・防衛設備制御室にて

■from:星屑隊隊長


「諸君を救うために、友軍が奮闘している。繊三号の設備で彼らを援護してやってくれ。我々が生き残る道は、その先しかない」


 制御室の交国軍人らに対し、状況を説明する。


 羊飼い以外の機兵は、第8が可能な限り数を減らしてくれる。


 彼らなら脅されている味方機兵乗りも解放しつつ、上手くやってくれるだろう。


 水上船艦隊は、副長とフェルグス特別行動兵達に任せている。


 もう少ししたら、副長以外の機兵対応班も上陸してくるだろう。


制御室(ここ)は諸君に任せる」


「ちゅ、中尉はどちらに……!?」


「ここに敵が来る。私が対応する」


「無茶ですよ! タルタリカがたくさんいて、奴らに脅された軍人も歩兵として襲ってくるはずですよ!?」


「歩兵だけでも、数十人……。タルタリカはその数倍もいるのに――」


「だが、この制御室が作戦の要なのだ」


 繊三号の防衛設備は黙らせた。


 だが、ただ黙らせるだけでは足りない。


 作戦終了まで守り通し、利用(・・)する必要がある。


 羊飼いに勝つには、それしかない。


「出来れば指揮所と海門の制御室も奪還したいが、まずは制御室を守り通す」


「だから、それを貴方1人でやるのが不可能なんです!」


「わ、我々も……! 我々も援護します!」


「不要だ。諸君は繊三号の設備を使い、地上の友軍を援護してくれ」


「しかし――」


「タルタリカはともかく、歩兵は諸君のように脅されているだけだ。背嚢型のタルタリカさえ倒していけば、味方になってくれる。私は1人ではない」


「な、なるほど……」


 ここに来る途中に奪った拳銃を構えつつ、1人で廊下に出る。


 背嚢型のタルタリカに命を脅かされている歩兵の解放は、もう困難だ。


 制御室にいた者達は「奇襲」によって解放できた。


 だが、これから襲ってくる歩兵相手に完璧な奇襲を行うのは難しい。


 敵はもう、こちらを警戒している。


 解放は困難。


 だから殺す(・・・・・)


 足りない武装は現地調達。


 ここは単独(ひとり)で片付ける。


 そのためには――。


権能起動(エウクレイデス)


 手段不問。勝利優先。


 権能(ちから)を使わざるを得ない。





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