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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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不審な魚群



■title:海岸にて

■from:使徒・■■■■■■


『…………』


 交国軍がここまで愚かとは思わなかった。


 繊三号に攻撃を仕掛けようとしていた方舟を撃墜した事で、敵も少しは慎重になると思っていた。だが、たったの4隻で挑みかかってきた。


 交国軍そのものが愚かなのか、ネウロン旅団だけが愚かなのか。


 これは前者と言っていいだろう。ネウロンという辺境の世界の戦いに過ぎないとしても、旅団の長の暴走を止められていない時点で交国軍そのものに問題がある。


『評価を修正する必要があるか……?』


 改めたところで、交国軍は厄介な存在だ。


 目覚めた後、交国軍に関してある程度調べたが、数と支配地域の大きさは脅威だ。十分な情報収集を行えていなくても、うかがい知れる強大な国家だ。


 私だけで挑みかかっても、交国に勝つのは不可能だろう。


 別にそれでも構わん。目的さえ達成できれば――。


『……1000年経っても、人間は大して変わっていないのかもしれんな』


 魂を陸地に戻したが、繊三号に接近しつつあった敵艦艇は仲間割れを起こしている。私が少し船に憑依し、強制的に同士討ちを発生させただけで錯乱し始めた。


 私が既に憑依を解除した船舶に対し、執拗に砲撃を行っている。


 2隻は砲撃を続けている。そうせねば自分達が死ぬと判断している。


 1隻はまだ私を狙っているが――。


『――――』


 船舶からの砲撃を弾く。


 上手く弾き損ね、後方にいるタルタリカに砲弾を当ててしまった。


『敵も弱いが、私も弱いな。……シシンに笑われそうだ』


 1000年の眠りがここまで悪しき影響を生むとは、思わなかった。神器を使えなくなった影響も大きいが、私自身の怠慢も大きいのだろう。


 怠慢という贅肉を削り落とすために、良き好敵手(ナイフ)が欲しかったのだが……ここに望みの者はいないらしい。


 かろうじて錯乱せず、私を殺そうとしてきている部隊がいる。たった1部隊に過ぎないし、稽古相手に出来るほど強くはない。


『……奴らはいないのか?』


 2度。あるいは3度、私がけしかけた軍勢に対応した者達。


 繊十三号(ケナフ)


 フロシキ地方。


 そしてニイヤド。


 3度凌ぐどころか、繊十三号ではこちらの手勢を見事滅ぼしてみせた。


 奴らなら、少しは相手になりそうだったが……この場にはいないらしい。仕掛けてくるなら、いてもおかしくないと思ったのだが……敵もさすがに温存したか。


『まあいい。さっさと終わらせて――』


 まだ錯乱せずにいる船に向け、巫術を行使しようとした。


 だが、失敗した。


『…………?』


 遠隔で憑依し、さらなる同士討ちを起こそうとしたが、しくじった。


 降り注ぐ砲弾の雨の中、自分の手中を眺める。


 この程度をしくじるほど、私は鈍っているのか?


『否。それだけではない』


 敵は遠隔憑依対策を用意してきた。


 海上に浮かんでいる浮標(ブイ)に避雷針が取り付けられ、こちらの術行使が浮標に誘導されている。


 だが避雷針だけで誘導するなど、不可能だ。


『敵がヤドリギを使っている……?』


 避雷針に加え、ヤドリギも使い、遠隔憑依を防いでいる。


 ヤドリギを使っているだけなら、まだわかる。


 ネウロンにまだ無事なヤドリギが眠っていて、それを発掘して再利用しているのだろう。だが、単にヤドリギを使うだけでも対処は出来まい。


『誰だ。私の(わざ)を理解しているのは』


 初撃が通った。だが、それ以降はほぼ完璧に対処している。


 直接接触での憑依が封じられたわけではないが、遠隔憑依には対応できている。対処の的確さと、眼前の混乱の乖離が理解出来ない。理解し難い。


 ……まさか、あの子がいるのか?


 何故? 何故、こんなところにいる……!


『タルタリカ。退け! 貴様らでは、駄目だ』


 獣達では殺してしまう。殺さなくていい者も殺してしまう。


 敵にけしかけていた群れを後退させる。


 私自ら、相手せねば。




■title:海上にて

■from:遊星隊の機兵乗り


『羊飼い接近! 迎撃してください!』


「直接来るかよ……!」


 敵機兵が迫ってくる。


 海上を滑るように走り、距離を詰めてくる。


 射撃したが、全ての弾丸が流体装甲の盾に受け流される。


 それどころか――。


「っ……!!」


 盾を刃に変形させ、こちらに思い切り投げてきた。


 当たったところで致命傷になる様子は無かったが、回避する。


 回避した拍子に、敵を見失った。


 回避に集中した一瞬の隙に、敵が姿を消した。


「どこに……!?」


『ヘロー2! 上だ!!』


「――――」


 羊飼いがこちらの頭上を飛び越し、驟雨隊の船に接近していく。


 しまった、抜かれた……!


「誰か、奴を止め――」


 海上をホバー移動していた驟雨隊の機兵が、羊飼いに斬りかかった。だが、攻撃をかいくぐられ、水中に蹴落とされた。


 羊飼いはろくに止まらず、驟雨隊の船に乗り込んだ。


 乗り込み、何かをしている。


 例の憑依ってヤツか!?


「背中が隙だらけ――」


 こちらも驟雨隊の船の甲板に飛び乗り、味方ごと撃とうとした。


 だが、羊飼いの機兵の背部装甲が蠢き、凄まじい勢いで伸びてきた。


 槍のような触手に機兵の手足を切り飛ばされ、胴体だけで甲板に落ちる。


「く、くそっ……!」


『ヘロー2! 機兵を放棄して逃げ――』


 急に、通信が途切れた。


 機兵のコントロールが一切利かなくなった。


「なっ……! なんで! 動けっ! うご――」


『違うな』


 濁った電子音声が聞こえた。


 操縦席の流体装甲が蠢き、それが無数の眼になって俺を見ている。


『貴様では、ない』


「――――」


『貴様ら、あの子をどこに隠した?』


「なっ、何のこと――」


 全身に異物感。


 全方位から、流体装甲の槍が襲ってきた。


 回避なんて当然できず、自分の身体が穴だらけになるのを知覚した。


 痛みなんてない。俺達はオークだ。


 痛みなんてない。だが、恐怖は――。




■title:海上にて

■from:使徒・■■■■■■


『――どこだ』


 同士討ちしている交国軍を強引に止める。


 まさか、こんなところにあの子がいたとは……!


 だが、何故だ。


 交国軍は、何故、あの子をこんな場所に連れてきた。


 あの子の価値を、理解していないのか……!?


『――どこだ!? 返事をしなさい!』


 あの子なら、私の声がわかるはずだ。


 呼びかける。返事はない。


 飛んでくるのは鬱陶しい攻撃のみ。


 斬りかかってきた機兵の操縦席から上を切り飛ばし、中を確認する。


 違う。殺す。


 艦内の一角に隠れ潜み、ガタガタと震えている軍人の顔を確認する。


 違う。殺す。


 部下を待避させ、拳銃を撃って私の注意を引こうとする者がいる。


 邪魔だ。海に払いのける。


 逃がそうとしていた部下達を確認する。


 違う。握りつぶす。


 あの子は、こんな醜い生物(オーク)ではない!


『どこだ。どこにいる。貴様ら、あの子をどこに隠した!?』


 戦場から逃げ始めた機兵に追いすがり、憑依で中身を確認する。


 違う。殺す(ちがう)。こいつは違う。


 あの子は、間違いなくいる。


 生きていた。無事だったのだ!


 ネウロン人共に、(なぶ)り殺されたわけでは無かった。


交国軍(てき)は間違いなく、ヤドリギを使っている』


 発掘したヤドリギではない。


 おそらく、新造されたヤドリギ。


 私がよく知るあの子なら、ヤドリギを作成できる。当然だ。


 ヤドリギは巫術師の憑依可能距離を延長するもの。だとすれば――。


『奴らか。奴らと共にいたのか』


 三度、私の支配したタルタリカに対応した部隊。


 あの部隊には巫術師がいた。


 繊三号上空を飛んでいた飛行物体(ドローン)に、魂が宿っていたように見えたのは見間違いではなかったのだ。アレはヤドリギによるものだったのだ。


 私が遠隔憑依する直前に、敵の巫術師が逃げただけ。


 逃げた先にいたのは、間違いなく繊三号から逃げおおせた部隊だ。繊三号の掌握など放り出し、奴らを追うべきだった。


『奴らはどこに逃げた。あの子を連れて、どこに逃げたッ!!』


 交国軍人を機兵の操縦席から引きずり出し、問いかける。


 喚くばかりで明確な答えが返ってこない。こいつは駄目だ。


『どこかに、いるはず……』


 捜索する。


 だがいない。


 あの部隊そのものが、この場にいない。


 繊一号(カシミヤ)に逃げたのか、あるいは――。


『――繊三号。応答しろ』


 タルタリカも使い、掌握した繊三号に連絡する。


 こちらの支配下に置いた交国軍人に問いかける。


 そちらに何か異常がないかと問いかけたが、中枢からの連絡が返ってこない。


 そうか、なるほど。


 ここにいる部隊は、陽動か(・・・)


『――――』


 巫術の眼による索敵に集中する。


 タルタリカ共も利用し、繊三号近海を精査する。


 繊三号周辺に敵の船は見当たらない。


 船は見当たらないが、不審な魂の群れが見えた。


 一見、魚群に見えるが――。


『指定地点に砲撃を行え。直撃はさせるな』


 繊三号周辺に展開させている艦隊から、繊三号の後方に向けて砲撃させる。


 着水後に弾けた砲弾が、いくつもの水柱を作り上げていく。


 普通の魚の群れなら、爆発の衝撃で殺せる。


 殺せずとも気絶させるか、追い払うことが出来る。


 ……だが、あの魂の群れは一切ブレず、繊三号に迫ってくる。


 そこか。


 そこにいるんだな?




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:肉嫌いのチェーン


 船外から爆発音が聞こえてくる。


 生きた心地がせず、冷や汗を流しているとフェルグスが声をかけてきた。


 憑依した船のスピーカーを使い、慌てた様子で声をかけてきた。


『副長! これ、気づかれてねえか!?』


「だなっ……! ここらが限界か……!!」


 あと少し。


 あと少しで、敵に見つからず繊三号に到達する事が出来た。


 予定通りとはいかなかったが、羊飼いが別働隊と交戦中なら悪くない。


「仕掛けるぞ――急浮上開始(メインタンク・ブロー)ッ!」




■title:海上にて

■from:使徒・■■■■■■


 繊三号の後方。


 こちらの強奪した水上船に砲撃させていた近場の海。


 そこから、海水を割り(・・・・・)、黒い船が現れた。


 ただの船ではない。


 (シャチ)の如き流線型をしている。


『流体装甲で、潜水艦を(・・・・)編んだのか』




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