プロローグ
みんなは魔法と言われたら何を思い浮かべるだろうか?
人によっては黒歴史を刺激するであろう痛々しい詠唱に魔法陣、某アニメ主人公がやるみたいに口から炎を吐くとか色々と思い浮かぶだろう
それじゃあ実際、魔法は?となるだろう
実際、自分も火を出したり水を出したりするイメージしか出てこない。
それは現代社会に住む住人にとっては当たり前なことであり、共通の認識であると思う
だがしかし!そんな固定概念をぶっ壊す者たちがいるのも確かである
万有引力を発見したニュートン然り、進化論を唱えたダーウィン然り、世界で最初に飛行機を作ったライト兄弟然り……
今、挙げた例以外にも多くの偉人たちが既存の常識をぶち壊してきたのだ
そう、つまりはこういうことなのだ 俺TUEEEやチートといった言葉が流行っているこのご時世において、魔法という存在はまさに異端児と言えるわけだ!…………いやまぁ分かってるよ!? どうせお前だって厨二病拗らせてるだけなんだろって言いたいんだよね!? でもね、これは仕方ないんだよ 誰しも一度は想像するでしょ?もし自分が剣と魔法の世界で最強だったら……
もし自分の目の前に美少女が現れたら……
こんな妄想をしたことがない人なんていないはずだ!! だから俺は悪くない!!! 悪いのは全部、厨二病な俺が悪いんだーっ!!……コホンッ!失礼しましたまぁとにかく、ここまで長々と語ってきたけど要するに俺は異世界転生や魔法、妖怪といった非現実的なことが大好きだ
だから今日も黒歴史を作るべく痛々しいことをしていたんだけど……
まさかそれが本当に起こるなんて誰が思うだろうか? 少なくとも俺は思わなかったし、夢にも思ってなかった
だけどこれは紛れもない現実であった
いつものように痛々しい言動をしながら自分の部屋で手を掲げてた
すると手からバチン!と音をたてながら火花がたった
初めは静電気じゃないかと思ったがすぐに違うと確信した
なぜならその火花は一向に消える気配がなかったからだ
それに気づいた瞬間、俺は思わず叫んでいた
俺の手から出たその火花はまるで生き物かのようにうねり、そして天井へと向かっていき当たる寸前で消えた
これって……もしかして魔法使えるんじゃね?と そこからの行動は早かった
まずは親がいない間に庭に出て試してみることにした
火に水といった物語であれば基本的な魔法は使うことが出来た
彼は生まれてから初めてここまで興奮していた
その後、軽く調べて分かったことは魔法とは『現象をイメージによって理を改竄する技術』それが魔法だ
まぁ、現代社会において魔法を空想の産物で特技で魔法が使えますと言っても痛い目で見られるかマジック出来るの?見せて見せてとトランプを渡されるがオチであろう
そんな中で彼は体験した
SNSや動画を通じてこの喜びを共有しようと拡散したがCGやフェイクと笑われた
そんな批判や嘲笑いを無視し、彼は追究した
それほどまでに嬉しかったのだ
(何だこれ!!楽しい!!!)
そう 楽しかったのだ
目の前で起きた神秘に彼は魅了された
彼は人生の全てを初めて魔法を使えた時から死ぬまでの時間を魔法の原理を知るために捧げた
初めこそ、CGやフェイクと笑われたと笑われていたが次第に見た人たちは彼のことを凄いマジックだと思うようになった
(自分が求めていたことはこれではない!)
しかし、彼の思いは届かなかった
彼の元には弟子にしてくれと来る人もいた
そんな者たちに彼は根気よく教えようと技術を伝えようとしていたがそこでも嘲笑わた
「本気で言っているんですか?」、「本当のこと教えてください」、「冗談はやめてください」
誰もが彼が使っている技術をタネのあるただのマジシャンだと思っていたのだ
(この技術はそんなものじゃない!)
それから彼は人々の前ではマジシャンとして活動し、それ以外の時は魔法の研究をしていた
そんな彼に転機が訪れたのがあと余命も僅かしかない94歳の夏の日だ
何処から嗅ぎつけたのかこの技術がただのマジックではないと気づき、奪おうとしている者たちに狙われたのだ
長い間、彼は世界を転々とし、逃亡しながらの研究生活を余儀なくされた
(こんなところで終わるわけにはいかない まだ魔法の深淵を見ていないのだ!)
彼が逃亡生活を初めて2年が経ったある日、彼が生活物資を買っている時に拠点としていた場所でドカーン!!!と爆発音がした
「っち!」
男は舌打ちすると急いでその場を離れた
遠目に武装した集団と黒スーツの格好をした男たちが見えた
「ここももうだめか」
老人がそう呟き逃げようとすると
ダンっ!と銃声とともに壁に弾痕が付く
そして後ろを振り向いたそこには拳銃を構えた1人の男が立っていた
「さて、観念してその奇妙な技術を教えてもらおうか」
拳銃をこちらに突き付けながらそう言う男
「奇妙というなよ 魔法だって何度も言っているんだろ」
呆れたように返す老人
(私の人生もここまでか この技術を誰かに託したかったがそれも叶わない願いそうだな)
ドタドタドタドタッ!!! 複数の足音と共に部屋に入ってくる武装集団
どうやらここを取り囲んでいるようだ
「山本様、この建物の包囲が完了しました」
武装した男の一人が報告をする
この部屋にいる武装集団も武器をこちらに向ける
そして老人は諦めた顔をし、 まるで遺言のように最後の言葉を発した
これが彼の人生最後の魔法の言葉になる
この世界の誰一人として知らない魔法を使う
彼は伝える
自分が培った技術を
彼は託す
自分が調べ、検証し、得た知識を
彼は思い紡ぎ、言葉に乗せる
彼の周りには無数の魔法陣が浮かぶ
「っ!!!彼が何かをするぞ!!」
銃を持った男の焦りを含んだ叫び発砲する
「おい!止めろ!!」
山本と呼ばれた男が叫ぶが銃声によってかき消される
だが銃弾は彼の目前で止まる 否、正確には彼の目の前にある透明な壁のような物に当たり地面に落ちたのだ
彼らは驚愕の表情を浮かべるがすぐに冷静になり銃を構え直し、再び撃ち始める
(もう少し・・・もう少しなんだ・・・)
徐々に透明な壁にひびが入る
そして遂に障壁は砕け、無数の弾丸が老人を襲う
しかし、それらは老人に当たる前に体を逸れる
(もう防御に割けるほどの魔力の余裕はない)
さらに撃ち続ける男たち
撃ち続けると次第に弾丸が老人に当たるようになってくる
(っ!もう少しなんだ)
血を流しながら最小限の防御で言葉を紡ぐ
その時だった パリンッ! ガラスが割れるような音ともに光が溢れ出した
それは今まで見たことのない光量で思わず目を瞑ってしまうほどだ
(やった!これで俺の生きた証を残すことが出来る)
そう思った時だった パンっと乾いた音が鳴り響いた
それと同時に激痛が走る
恐る恐る目を開けると視界に映るのは自分の体から流れ出る赤い液体とこちらに向けられている銀色に輝く銃口だった
それが老人の最後であった
「うわ!!」と驚きの声をあげながら少年は飛び起きた
周りを見るとそこはいつもの自分の部屋であった
先程までの出来事は全て夢だと分かり安堵のため息をつく、 ベッドの上で大きく伸びをし、時計を見る 時刻はまだ午前4時を指していた
もう一度寝ようと布団を被るも目が冴えてしまい寝れそうにない
(しかし、かなりリアルな夢だったな)
そんなことを思いながら目を瞑ろうとするとズキッと頭が痛み始めた
(何だこれ?)
不思議に思っているとだんだんと痛みが増していき立っていられない程の頭痛になった
(これはヤバい!マジで死ぬかも)
激痛を感じながら頭に入り込んでくる知識とその使い方の数々
しばらくすると痛みは引いた
身体を確認するが何処にも異常はなく至って健康体のようだった
(一体なんだったんだ?もしかして・・・・)
少年は埋め込まれた知識の中にあった一つの言葉を紡いだ
「ignis(火よ)」
呟く言葉とともに指先に火が灯る
これがこの世界において数世紀ぶりに灯された魔法の光であった