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87.新たな世界への冒険

「ねえ、ジェームス。暇ねぇ……」誰も来ない魔道具屋と言う名の雑貨店。丁度、買い物客のピークは終わっている。


 私達は、オスマンでのデスマーチは一旦休止して、ロンドンに戻って来ていた。あちらの進捗は悪くない。それなりに新人官僚は増えているし、きちんと引き継いでやれば特に問題は無いだろう。


 今必要なのは、時間経過による意識改革だ。ずっとかかりきりになる訳にも行かないし、自分達で改革を進めている実感と言うものを体験させる必要もある。今は自立する事を認識するターンである。


 後は、皇帝陛下を預かった関係もある。どういう訳か、彼はいきなり料理に邁進している。千鶴ちゃんがサポートに入り、屋台を切り盛りしているらしい。いつもお昼休みが大変だと愚痴をこぼしている。


 ……お互いに普通の生活を、と言う希望には合っているのだろう。中々良い雰囲気だ。千鶴ちゃん曰く、ロンドン市内のデートが楽しかったらしい。はいはい、ご馳走様。


 確かに、ロンドン市民の生活を知りたいのなら、屋台と言うのは悪い選択肢ではない。まあ、勝手気ままに楽しんでいるので何よりだ。


 魔道具屋はと言うと、グレッグさん一家は長期休暇を取って貰った。働き続けなので、リスボンへのんびりと行商人の頃の様に世界を移動しながら、なじみの皆に挨拶していこうという事だ。


 ……随分と久しぶりに、この店の店長に戻った。ジェームスと二人、客を相手に商売をする。


 あの頃とは、ジェームスとの関係も人生経験も変わってしまったが、この店先でのんびりとする雰囲気は変わらない。売り物と買い物客の数だけが変わっている。


 ジェームスは、暫く溜まっていた魔道具の研究に取り組んでいる。目をキラキラと輝かせて、東洋の魔道具を勉強中だ。何でも天候を変える魔道具を作ろうとしているらしい。


 放置された自分は魔道具に嫉妬の炎を燃やすが、そもそも勝ち目も無い。研究の邪魔をするのも無粋だし、二人きりで過ごしているので多少は我慢は出来る。


「……たまにはこういう時間も必要だぜ。アキラはいっつも走り回っているからな。新商品でも考えたらどうだ?」

「そうねえ、主婦向けのアイテムかぁ……。倦怠期の夫婦に効果のある魔道具って無い?」

「ぶっ、お前なぁ。別に俺達は……」ジェームスが反応した。どうやら多少の自覚はあるようだ。

「……一般論じゃないの。それとも、放置している自覚はあるの?」

 


 全く、こうやってじっとしているのも性に会わない。安住する事を許さない『冒険者魂トラベラー』の本能、という奴だろう。そのせいで忙しくなるのも考え物だが。


 マードックさんメンバー達は、相変わらずだ。鉄道が開通したと思いきや、更に規模を拡大するらしい。こちらの利益は増えるので、更に投資を倍プッシュという事にした。まあ、商売繁盛は大歓迎だし。


 レイ君は、大喜びで鉄道敷設に邁進している。体を動かせるのが楽しいらしい。ホルス君とメルちゃんは魔法修行を特訓中だ。


 暫く、サボっていた勘を取り戻すとの事。魔導師は大変ねぇ。メルちゃんは一緒に居られるチャンスという訳だ。


 ジェンナー博士は、忙しく各国を飛び回っている。国内の活動は順調らしいし、良い事だ。


 フランス包囲網は解除され『魔導石』市場も、落ち着きを取り戻した。こちらの貿易は、一般物資に切り替わっている。ようやく、戦争が終わってひと段落と言った感じである。


 カレー屋フランチャイズは、規模は変わらないが取り扱う商品の差別化が始まっている。プリマスからの商品輸送が開始され、豊富な海鮮類の入荷も増えたので提供する料理も、随分とバラエティー豊かになっている。


 その一因と言うか、元凶がダニエル君とムラトさんの料理対決である。何でも、毎週大勢の観客を集めて変わった食材をお題にお互いの料理を競い合うという、何処かで聞いたようなイベントを始めた。


 因みにイギリス料理の権威がダニエル君で、和食の鉄人がムラトさんである。知らない所で、色々と始めてしまっている。人々に余裕が出来た、という事なのだろう。


 随分とロンドンも変わってしまった。もちろん良い意味でだ。地方からの人々の流入は留まる事を知らず、各々得意な技能を生かして商売を始めるのが普通となった。


 どこもかしこも賑やかで、華やかなる『魔都ロンドン』の喧騒は、常に流行と儲け話で満ちている。


 もう、私が口を挟み込む余地もなさそうだ。私が暇なうちは、平和なのだろう。個人的には残念だが。



「なぁ、アキラ。そろそろ他の世界に行きたいのか?」

「そうねぇ。ムラトさんも馴染んだし、別の世界も経験させたいわね。とは言っても、あまり良い案も無くてね……」

「その件なんだが、ダルイムの街の近くには『門』があるって言っていただろう?」


 古代ローマに繋がっていると思われる場所だ。ちょっと躊躇してしまう。後は、それらしいところも見つからなかった。ひょっとして、何か『門』が開かない様に何かしたのかもしれない。


「アキラの能力って、未だに他の使用者が見つからないだろう?」

「そうね。もしかしたら特殊過ぎて、誰も持っていないんじゃないかしら……」

「だったらさ、こっそりと少人数で乗り込んでしまえば、問題は起きないんじゃないか?」


 ……あっ、成程。それは盲点だったわね。聞き込み調査だけして、問題があるか確認するだけでも良いのだ。接触したら戦闘になると思い込んでいた。


「なんでもっと早く言ってくれなかったのよ! 心配しただけ無駄だったじゃないの!」

「俺だって、最近気づいたんだよ! もっと、別の問題があると思ってたし……」


 そうね、確かにジェームスに八つ当たりするのはお門違いね。その内、メンバーを集めて方針を決めようか。ダルイムの街をムラトさんに体験してもらうのも良い。


「いつまでも料理対決という訳にも行かないしね。ミドハト様が困るもの」

「……あれ、楽しみにしてたんだよなぁ。賭けの胴元も儲かるし」ジェームス、どさくさに紛れて何やってんのよ。


 まったく、そんなことする暇があったら、嫁の機嫌でも取りなさいよ!


「それはともかく魔道具工房にも足を運びたいし、良い機会だ。こっちの店はお休みにするか?」

「もうすぐグレッグさん達も戻って来るわ。ある程度、準備も考えて時期を決めましょう。うん、ワクワクするわね!」


 もう、飛び上がらんばかりに嬉しくなってしまう。どんな世界があるのか、この不安と期待の入り混じった感覚が好きなのだ。きっと、今までとは違う人々や商品を見る事も出来るだろう。


「準備する事はいっぱいあるわよ! ジェームス、嫁を放置した罰よ。しっかりと付き合って貰うからね」

「へいへい、分かりましたよ。……まったく、いつもの癖は変わらないな。あいも変わらず爆弾みたいな女だよ」

「もう、人を危険物みたいに!」


 もう良い。ともかく久しぶりの『冒険者魂トラベラー』が疼くのだ。私は、まだ見ぬ世界を早く見つけたいと望むのだった。

 古代ローマ編とムラトさんのお話です。


 まだプロットは固まっていませんが、物語の核心部分に触れていきたいです。


 詳しい内容は、少しずつ公開するような感じです。

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