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7.美味しいイギリス料理の作り方

日本食はチートスキル。はっきりわかんだね。

 顔見知りのダニエル君から相談されたのは、いつもの客が居ない道具屋での出来事だった。


「……という訳で、料理を教えて欲しいんです」

「うん、君がこの店の事をどう思っているかは知らないけど、此処は道具屋だからね?」


 この子は、以前に開いたカレー店で売り子をして貰っていた。


 その時に料理の面白さに目覚めて色々と教えた結果、個人で料理屋を開くという、なかなかに商魂逞しい子だ。


 小柄で若く見えるが、実際まだ二十歳にもなっていない。


「どうにも納得のいくメニューが出来なくて……ちょっとしたコツだけで構わないので教えてください」


 真剣に頼まれると、断りにくい。とは言っても、料理は専門ではないので今ある料理の改良の方向で考えてみる。


「……じゃあ、よくある料理の仕方を見直す、って事で良いかな?」


 青年は飛び上がらんばかりに喜んだ。イギリス人の癖に、料理に拘りを見せる「変人」である。


「アキラ店長なら、大丈夫だと思っています」別に料理人じゃあ、ないんだけどね、私。



 イギリスに来て二年。まずいとは言っていた料理だが、それは致命的な問題ではなかった。


 一つは材料である。そもそも、ロンドンに新鮮な食材は存在しない。肉や野菜はそれなりに良い品物があるのだが、海鮮系がなぁ。テムズ川の汚れは、史実同様にひどい物なので、そこで採れる魚が美味い筈も無いのだ。


 そして、こちらが致命的であり、個人の力でどうにもならないのだが「雑」な料理方法、という問題である。焼くか煮る、と言う選択肢の狭さとともに、ダシの概念が無い・下ごしらえをしない・味見をしないという、三点セットのメシマズである。

 

 特に、ハギス。てめーは駄目だ!! あれは、人間の食い物ではない。

 

 ともかく、きちんとした段取りさえすれば、まともな飯が作れる事は目の前の青年を見れば証明済。後は、商人であるメリットを生かした材料の調達、と言う解決方法を取る。


「個人的には、フィッシュアンドチップスとかどうかな、と思うんだけど」と、提案してみる。


 ダニエル君とジェームスが、それぞれ顔を見合わせる。


「別に、あれは美味しいじゃないですか」「俺は、酒に合わせて食うのが気に入っているが、何か問題が?」と、それぞれ反論する。


 ……それはそうなのだが、やはり日本人としては、もう少し改良を行いたいのだ。『魔改造こそロマン!』という訳ではないが、出来る事はやってみたい。


「少し改良するだけよ。失敗しても、文句言わないでね」と、言って全員で厨房へ向かう。


 此処には、各国から個人的な要望で集めた、結構な材料・調味料が並んでいる。ソーセージをドイツから、イタリアからはオリーブ油を、といった具合だ。


 もちろん、海鮮類の宝庫である、北海の恵みを生かさない手はない。直接漁師と契約を結び、毎日新鮮な食材を届けて貰っている。月1ポンドなら、問題のない範囲の出費だ。


 余った食材は、店頭に並べて売り物としている。そろそろ、スーパーマーケットに変遷しそうな我が道具屋だが、ご近所の認識を確かめてみた方が良いのかもしれない。


「ダニエル君には、その漁師さんを紹介してあげるから、そこから食材を入手すれば良いよ」と、アドバイスした。


 実際、近海でとれる魚や貝類は、実に豊富である。ロンドンまでの輸送が確立すれば良いが、それまでは直接船でこちらに来てもらうしかない。


 そこまでしてと思うかもしれないが、実際新鮮な食材は死活問題である。この時代のロンドンに衛生観念と言う概念はない。


 『ちょっと腐っていても大丈夫』と言うのが、この町の問題点なのだ。


 ダニエル君と言えば「ここにある食材は、少しも匂わないんですね。凄いです」と、目を輝かせている。


 やはり、君は料理人が天職であったか。


 そういう訳で、新鮮なタラを使い揚げる油をオリーブ油にする。本来は牛脂なのだが、個人的には胃もたれするのだ。また、衣には卵を混ぜてみる事にした。


 ……つまり『天ぷら』に変更するのだ。



 早速ダニエル君と、一緒に調理を始める。ジェームスは、見ているだけ。イギリス人代表として、感想を言ってもらう事にする。油の温度は、百八十度を目安に、高温で一気に上げてしまう。


 下ごしらえとして、タラの切り身は一度蒸すことにした。個人的な好みではあるが、ある程度の臭みを取る事にもなる。そうして、衣を纏わせた切り身を鍋にそっと入れる。


 パチパチと激しい音がするが、しばらく様子を見る。天ぷらの要領で揚げるので、衣から水分が蒸発して少し浮かび上がってきた所を見計らって取り出す。


 続いて、少し薄めに切ったジャガイモはそのまま素揚げする。


「……あの、少し薄くありませんか?」と、ダニエル君は疑問に思ったようだ。

「気分の問題だけどね。『食感』を楽しむには、こっちの方が良いと思って」


 日本人の料理独特の概念として『食感』がある。もちもちとした米とか、サクサクとした揚げ物、と言った食い応えのある方が好みなのだ。その辺も含めて、二人の意見が聞きたい所だ。


 それぞれ、油を切った所で盛り付けて塩とビネガーで味付けする。実にお手軽だ。


 さて諸君、試食の時間だ。



 という事で、丸々上がった魚のフライは実に三十センチはある。ほんのり黄色く色付いている。ちゃんと、『天ぷら』になっているようだ。


 三人ともテーブルについて、味を確かめてみる。


 ……うん、これはこれで一つの料理ではないだろうか。実にサクサクとした、歯ごたえになった。しかし、ジャガイモはもう少し分厚くても良かったか。ホクホクとした食感の方が、私の好みかも知れない。



 二人の反応は、と言うと黙々と食っている。それでは、試食と言わない。まあ、いつも食べているフィッシュアンドチップスとの比較に驚いているのだろう。


「どう?」と、私が訪ねると、二人して頷いている。さっさと食べて欲しい。


「うまいです、これ。今までにない味わいですね。こんなに食べやすくなるとは、思いませんでした」と、ダニエル君。

「俺は、どちらも好きだけどな。多分、酒と一緒に食うには上品なんだ、これ」と、ジェームスのコメント。確かに、お酒には濃い味付けが合うらしい。これはどちらかと言えば、ディナーで食べるのが良いかもしれない。


「でも、これは凄く勉強になりました。申し訳ありませんが、ウチ独自のフィッシュアンドチップスとしてメニューにしても良いですか?」

「うん。その代わりうちらが食べに来た時は、おごりで頼むね」と返すと、皆で大笑いした。



 さて、これは良いとして問題はこちらである『ウナギ』だ。此処、ロンドンにはイギリス料理の殿堂入りである「ウナギのゼリー寄せ」がある。


 これが不味い。どう不味いかだが、具体的には細かい骨が邪魔・皮が固くて、嚙み切れない・味が薄くて魚臭い、と言った所か。日本人として、放っておく訳にもいくまい。


 一体、なぜこんな料理を? とは思うのだが、手近にあってとりあえず……という、安くて不味いイギリス料理の代表格なのではないだろうか。


 要は手間の問題なのだ。



 まず、ウナギは水につけて臭みを取ろう。半日も置いておけば良いだろう。後は、味付けか。此処には醤油が無い。


 手に入れる事が出来ないか、と言えば日本に行けば入手自体は出来る。


 だが、鎖国真っただ中の日本に「ちょっと醤油を下さいなー」などと、頭のおかしい開国を迫れば、スタイリッシュ国際問題である。無い物はない、ある物で代用すべきである。


 という訳で、代用品として『マーマイト』を用意する。こちらで使ってみてわかったのだが、単体で使うから独特の苦みや塩辛さがあるだけで、隠し味として使うのであれば優秀なのである。


 ダシを用意して沸かしておき、お砂糖を大さじ三杯、ウイスキーを大さじ1杯。マーマイトは小さじ1杯程度の分量で煮込んでいく。


 所謂「かえし」という奴である。つまり『鰻の蒲焼』を再現してみたいと思う。


 少し煮立った所で味見をして塩で調節する。……うーむ、なかなか上手くは行かない。若干砂糖と酒を多めにして様子を見よう。そして臭み取りにネギとリンゴ、生姜を入れてそのまま煮詰める。


 大鍋一杯に作ってしまったので、後戻りはできない。



 とりあえず、この日は解散して一人厨房で奮闘する。出来れば儲けもの程度の事である。概ね味が整ったと思うので、火を止めて明日まで置いておく。こうすれば、若干味が馴染むはずだ。


 そうして翌日、ウナギの下ごしらえに入る。まず、頭にナイフを刺して固定する。見よう見まねで捌いていくが、確か血に毒があったはずなので要注意。何とか、中骨を取る事に成功した。


 そのまま蒸し焼きにする。個人的には関西風のカリッとした方が好みなのだが、臭みを取るため仕方がない。


 串打ちなどできる筈もなく、コンロに網を敷きそのまま焼きに入る。菜箸は自分しか使わないが、これの為にトングを用意しておくか、と考える。


 皮の方を一気に高温で焼き上げる。カリッと焼き目が付いたら、昨日作っておいた「かえし」に一度突っ込む。そうして、二度目の焼きに入る。


 なかなか、良い匂いがする。これを繰り返すこと3回。「かえし」の味が薄いため、繰り返してカバーする。


 何とか、それらしい物が出来たようなので試食と行こう。



「……物足りない」と、それが私の反応だった。本物と比べるべくも無く、一応、魚の照り焼き?程度の味にはなっている。


 さて、二人の反応はと言うと……。めっちゃ喜んでいるな。そりゃ、蒲焼を食っていなくてゼリー寄せしか経験になければ、そうもなるだろう。


「いや、食べやすいし柔らかい。味も独特ですけど、濃厚ですね」と、ダニエル君。

「俺も、これなら食えると思う。ウナギって、こんな食べ物だったのか」ジェームスは、ウナギで何かトラウマがあったらしい。


 思ったよりも高評価である。

 

「やはり、味付けが問題だね。あれは繰り返し、ウナギを漬けていく事で油が落ちるの。だから使い続けて減った分を新しく追加すればもう少し……」と、私は分析していく。さすがに素人が秘伝のたれを作る事は出来ない。

「いえ、今日は色々な調理法や臭みの抜き方を教えて頂いて、ありがとうございました。これからの料理の参考になります」と、ダニエル君は頭を下げた。


 少しでも役に立ったようで、何よりだ。


 とはいえ、和食の再現は難しい。食材やら調味料は、どうしようもないからなぁ。でも、物凄い安い価格で照り焼きのような、ウナギが食べれるのであれば御の字であろう。


 という事で、チャイナタウンにあるダニエル君のお店には定期的に通って、味のチェックを行うことになった。


 決して、タダ飯に釣られている訳ではないのだ。

「それはもう、美味いイギリス料理じゃねえ。日本食に魔改造するな!」と思った奴、手を上げろ。


……私もそう思った。魔改造はロマン、異論は認めない。


 さて、今回の元ネタは「トトリのアトリエ(アーランドの錬金術士2)」です。


 あのゲーム、錬金術師なのに何故だか料理関係が充実しています。いや、面白いけど。


 この物語を書くにあたって実際、物凄く影響を受けてます、ノリとかコメディーとか。


 特にイベントの勢いが好き。上手くは説明出来ないけれど……。


 天然毒舌キャラのリズさんも、このゲーム主人公が元ネタだったりします「た~る」。


 あと恋愛要素も多めですね。この物語でも20話位から恋愛系をやっています。


 なるほど、面白いと気になった方は、評価☆やブックマークを付けて頂けないでしょうか。また、感想などもお待ちしています。

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