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82.皇子様は全てを受け入れる

「皇子様、私は人よりも外見が優れているという事は自覚しています。そして、外見だけで近寄る輩が大嫌いなのです。皇子様は、私の何処に魅力を感じましたか?」

「……分かった、まずは君の事を知りたい。それを聞いてから判断する事にしよう」


 おう、皇子様。男前な発言じゃない? ポイント+1ね。


「……お前が決める事じゃないだろう?」

「良いのよ。千鶴ちゃんは、家族同然なんだもの。こっちだって、選んで断る権利位はあるでしょう?」

「無茶苦茶だよ、まったく……」


 千鶴ちゃんの反応は……意外ね。怯む事はしないのね。皇子様、意外と外見も良いし、お似合いだと思うんだけどなぁ、知らんけど。


「では、海賊としての私を見に来ますか?」

「ふむ、海賊とは勇ましいな。是非、将来の王妃となる人の仕事ぶりを見てみたい」

「……アーリ様。皇子様は生来、あのような性格なのですか? それとも、後宮で変わったとかは……」

「ああ、皇子様が後継者に選ばれなかった理由となるな。全て『是』として受け入れるのだよ」


 つまり、イエスマンだと。……確かに皇帝として相応しいかと言えば、傀儡だわね。


「……酷いものですよ。覚悟は宜しくて?」

「ああ、構わんよ」


 千鶴ちゃん、ああ見えて頑固だからなぁ。皇子様がショックを受けないと良いけど。



 ……多分『あれ』を見せるんだよね。


「なあ、千鶴ちゃんの仕事って事は……」

「ええ『あれ』よ。海軍相手の訓練ね」ジェームスが頭を抱える。


 ……あれを見てなお、YESと言えるようなら大人物ね。


 皇子様は、顔を隠して市街地を歩く。恐らく初めての体験にワクワクしているのだろう。千鶴ちゃんは容赦なく相手の心を削る。


「皇子様、あそこの街角に居る人々が見えますか?」

「ああ、良く見える。困っているようだが……」

「仕事も無く明日への希望も無く、ただ日々を過ごしています。死んだ魚のような眼をして……。皇子様がもし、皇帝陛下になられたら、あの者達をどうしますか?」

「……うむ、全て支える。仕事をさせて飯を配り、明日への希望を持たせる。間違っているだろうか?」


 間違いも何も、答えになっていない。このお方は苦労を知らない。つまり、どうやってそれを行うかは、分かっていないのだ。成程、そりゃ立憲派になるわね。


「……そうですか、頑張って下さい」千鶴ちゃん的には、ポイント-1かねぇ。

「皇子、今の発言は……」アーリ様がフォローしようとする。

「うむ、私には方法が分からない。だが、問題がある事は理解したぞ。それでは駄目だろうか?」

「そうですな、その為の『タンジマート』ですな。今、千鶴嬢が行っている仕事もそれなのです」


 世間知らずのお坊ちゃんなのだ。これで開明的な発言が出たら驚きだわ。俗世間に、揉まれる必要があるわねぇ。


「頼もしいな。既に、千鶴は方法を見つけたのか! 是非教えを請いたいな」

「……驚きになられませぬよう」アーリ様が苦笑する。今後の展開を予想したのだろう。


 私もそう思う。普通に驚くというか、腰が引ける。


 長年一緒の私やジェームスでさえ、結構ショックだったもの。



 そう思う間に港に着いた。例の高速船が並んでいる。


 最初に訓練した連中を少し混ぜてはいるが、殆どが新規の海兵だ。恐らく、例の奴をやるのだろう……。


「よし、お前ら準備は良いか! 船に乗り込め! さっさと配置につくんだ! 貴様らに優しくする必要も無ければ、神のご加護も無い! ゴミ以下のお前達を今から最低の船員にするまでは、その口から垂れる私語を辞めて、言葉の最初と最後に『サー』を付けろ! ここはもうオスマンではない、イギリスだと思え! 分かったらさっさと返事をしろ、このうすのろ共め!」

『サー。イエス、サー』

「声が小さい! お前ら、それでも一物ぶら下げてるのか! この馬鹿野郎! 腹から声を出せ! クズ共にはそれしか出来ないんだ! しっかり返事をしろ!」

『サー!イエス、サー!』


 いつもの奴だ。しかも少し口汚くなっている。……これを見て、まだ求婚する余裕があるか?



 ふと、皇子様の方を見る。


「……素晴らしい! 成程、こうやって人を動かすのか!」全く動じていない。

「これが我々が旗頭として、この皇子を支持する理由なのです」アーリ様とミドハト様が頷く。


 ……うん、理解した。徹底的なイエスマンって、そりゃ大人物だわ。全て肯定するのって逆に難しいのよ。


「千鶴、私も船に乗りたいが、宜しいか?」

「邪魔をしないなら、隅っこに立ってな! とっとと乗りな、訓練の時間は短いんだ! ほら、他の皆も乗るか?」

「ええ、乗りましょう。ちゃんと見届けなきゃ」私達も船に乗り込む。


 全員、邪魔にならない様、旗艦の隅っこに立つ。……皇子様、全く動じず。無礼とも言わない。うん凄いね、この人。清の『康熙帝』を思い出すわ、この性格。


「千鶴の凛々しい姿を見る事が出来て嬉しい。彼女は、良き王妃となろう」

「……本気なんだ、あれ。ジェームス、どう思う?」

「ああ。……何か良く似た人を知っている。あの『皇帝陛下』そっくりだ」だよね。


 船は、港を出て内海に出る。流石に黒海の波は穏やかだが、皇子様はそれでも酔った。……流石に肉体的には無理よね。だが、彼は笑顔を崩さない。自然に吐き、何も言わずに千鶴ちゃんのみを見る。


「このうすのろ! さっさと持ち場に行け! 綱を引っ張るんだよ、もっと力を入れろ! お前ら、そんな事も出来ないのか! このくそ野郎共め!」

『サー!!イエス、サー!!』


 千鶴ちゃんは、船の上での行動を普段と変える事はしない。『海賊魂』とはそういう物だ。叫び、罵り、そして指揮をする。決して、皇子様の前で隠す事も無い。それが自分の本性だ、とでも言うように。


「そうか! 先程の人々もこうやって仕事をすれば、良いという事だな!」

「……概ね、合っておりますな。造船所も同様ですから。アッラーに頼らず、自分の力で立つ。そのようです」


 この皇子様、ひょっとして物凄い掘り出し物なのでは? ジェームスを見ると、もう色眼鏡で見る事は無くなったようだ。恐らく、この後の造船所でも怯まず、色々と学ぶのだろう……。



「アーリ様、皇子様は何時からこのように?」

「私が幼少の頃に色々と教えていた頃には、既に『タンジマート』を理解しておりました。頭の良い方なのです」


 ……えっと、今二十歳位だよね。八歳頃としたって、改革が始まった頃じゃないの!


「父君も理解は早かったのです。しかし、皇子はまだ八歳の頃に、西洋について父君よりも理解しました」


 ミドハト様様が呟いた。そしてアーリ様も頷く。


「何でまた、これだけの人が幽閉を?」私が当然の質問をする。

「……優秀過ぎるからです。皇帝陛下として、当然表に立てば比較される。そういう事なのです」アーリ様が苦痛に歪んだ顔をする。


「もしかして、私何かやっちゃいましたかね?」

「……得難い素質です。是非、広い世の中を見せてやりたいのです」ミドハト様は語る。


 そこには優秀な官僚はいなかった。ただ、自分の息子のような青年を見る、壮年の老人しかいなかったのだ。


「……成程ね、それは危ない橋を渡っても、叶えたい夢ですね」私は納得した。


 恐らく、ミドハト様にとって自分の最後の仕事を、憲法を受け渡す相手として彼を選んだのだろう。


 彼は、あの皇子様は何も躊躇せずにYESと言うだろう。……それがミドハト様の最後の意思と認識した上で、正しく受け取るのだろう。


 ……千鶴ちゃんは、彼をどう見るのだろうか。何もかもを躊躇無く受け取り、叶える人物だ。正直、器が大きすぎる。英雄・名君の類だと思う。


 彼は、千鶴ちゃんの本質を見極め、その上で純粋で傷付き易い彼女を求めた。


 恐らく、それが彼にとって最初で最後の我儘なのだろう。皇帝としては何も望まないし、望めない。……そういう人物だ。


 皇帝の座を継ぐ事を受け入れ、その先に待ち構える様々な困難な事業を受け入れて、全てを飲み込み自分のものとする。それはもう、人間と言って良いのだろうか?


 ……自分にはもう、千鶴ちゃんに何も言う権利が無くなった。


 私は、願わくば千鶴ちゃんがあの可哀想な皇子様の我儘を、受け入れてくれる事を祈るのだった。

無知の知、と言う言葉があります。皇帝として必要な資質・才能。


それを持つものは、既に人であり神のような者なのでしょう。


全てを持ちながら、受け入れられない程の悪意を受け、その為に死んだ皇帝。


ここでは、この人物をそのように解釈しました。

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