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79.お船が大好きな皇帝陛下

 造船所に乗り込み、アーリ様と一緒に改革活動を始めて一ヵ月。住む所と食事、臣民としての手続きは完了した。


 ……とはいっても、住む場所はアーリ様のお屋敷で、居候と言うか食客と言う感じである。まあいいけど。


 毎日造船所に通い、フリゲート艦の方を改造している。一応『蒸気機関』は二つの種類に分けた。ちょっと圧力を上げた高出力の高速タイプと量産タイプになる。


 高速タイプが十ノット、量産タイプが六ノットにしている。そろそろ造船所では、高速タイプの新造を計画している。


 高速タイプは思い切ってマストを外した。見栄えも良いし、必要な乗組員も少なく済む。アーリ様曰く『皇帝陛下は船に夢中でな。新型と聞けば印象が良くなる』との事だ。


 戦列艦の方も何とかしたいが、予算と言うか材料になる物が無いのだ。具体的には鋳鉄を貼り付けたい。


「皇帝陛下は西洋好きで、装甲艦を希望してるって事よね。だったら、戦列艦を改造したいのだけど……」

「そうですね、大量の鉄を予算で賄えないって言うのは問題ですね」

「交易品を売却して……ってのは駄目なのか?」ジェームスの提案である。


 あまりこちらを目立させたくはない。予算が足りない時の保険にしておきたい所だ。


「そうだな、私の知り合いを頼む事にしようか。現状の様子を伝え、予算を増額するよう働きかけるかな?」


 アーリ様の言う事も一理ある。ここはフリゲート艦と海軍の練度をアピールすれば、何とかなるか。


「ええ、乗組員については問題ありません。立派な観艦式も出来ますよ」千鶴ちゃんも担当の仕事をきっちりと完了させてくれている。

「そうね。もう改造するフリゲート艦は無いし、新造した船を輸出する方向で進めましょう」


 技術的にはイマイチだが、沿岸用であれば十分な性能である。南北戦争が続くアメリカに流すのが良いだろう。一応、大西洋を横断する位は問題無い。


「じゃあ、高速タイプをメインに話を進めるとしようか」アーリ様の方も決まったらしい。相手が誰だか知らないが、海軍提督と一緒に献策すれば良いと思う。


 アメリカ方面では、まだ十分な蒸気船は配備されていないので、結構な需要が見込めそうだ。前に言っていた同僚のミドハト様から上層部への献策を行って貰う事になった。



 ミドハト様はヨーロッパでの視察旅行済なので、そこら辺も含めてこの船の利点を伝えて貰おう。


「お久しぶりです、アーリ様。造船所の監督官に移られたとお聞きしましたが」

「ああ、この度技術協力を受ける事が出来てね。イギリスの助力無しに蒸気型のフリゲート船を作り上げる事が出来た。皇帝陛下に献策願いたいのだ。新造したいのだが、こちらの予算が無い」


「ほほう、それはまた良い知らせですな。海軍維持に掛かる費用は莫大でしたから。とはいえ、諸外国の建艦競争は激しいので削減する事も難しい。皇帝陛下もお喜びになるでしょうな」

「合わせてこちらのオスマン帝国海軍との協力で、乗組員についてもイギリス人無しで操船できるようになった。是非、その練度をご覧頂きたいと考えている」


 私達は、一応後ろに並んで頭を下げている。質問を受ければ、回答する手筈となっている。


「成程、では事前に拝見させて頂いて宜しいかな。最新の造船技術は、視察の際に把握している。こちらで意見を添えれば、アーリ様への不評も撤回されるでしょうな」

「……ミドハト殿。それは私の諫言も原因なのだ。それとなくで構わん」


 二人はお互いの言葉に笑い出した。どうやら、諫言の内容には両者共に同意しているらしい。まったく、どんな皇帝陛下なのやら。


「気になるのはイギリスの動向ですな。こちらが不利になるような借款を繰り返している。出来れば手を切りたい所ではあるのだが……」

「ええ、額が酷いですから。簡単には行きますまい……」

「そちらについては、イギリスからの軍艦の購入を辞めて国産化し、戦争中のアメリカに売却する事で補填したいのだ。その旨も説明を頼む」


 ミドハト様は頷いた。その辺り、意見は一致しているようだ。ここで躓くようなら、そもそも無理な話という事だ。


「それでは、港に向かうとしよう。既にマストの無い高速艦を準備させておる。見た目は十分に先進的ですぞ」


 二人は皇帝陛下の軍艦好きを把握しているのか、笑い合っている。どんな皇帝なのよ、本当に。



「これは随分と立派な!二十隻はあるではありませんか。しかも、あの海軍がこんなにも一糸乱れぬ操作を……」

「これらは、こちらの外国人の知識によるものでね。紹介させて貰いたい。こちら我が食客として招いている商人のアキラ殿と技術者のジェームス殿。そして、海軍の訓練を担当頂いた千鶴殿だ」


「おお、これは宜しくお願いします。私がミドハトと申します。今は法律を担当している事について……」

「初めまして、アキラと申します。アーリ様からお聞きしておりますわ」私はにっこりと微笑んだ。挨拶は大事。商人の基本である。


 やはり、こちらの方も現場たたき上げの官僚、と言った雰囲気である。その辺り『タンジマート』により、抜擢されたメンバーという事なのだろう。


「私共はイギリスにて造船や法律、商売に関して学んでおります。その知識をこの国の為に力を尽くしたいと、アーリ様に申し出ております」

「それは素晴らしい! 我が国が西洋から遅れている事を憂慮する者は多いのです。ご協力頂きたい」


 中々に好感触だ。やはり、アーリ様と同様にこの国の未来を苦慮しているようだ。


「それでな、皇帝陛下にはこの者達の事は伏せたいと考えておる。目を付けられてどのように判断されるか分からぬのでな」

「ああ、そうでしょうな。これだけの技能を持つものなら、是非手元にと考えてもおかしくありません」

「私共も名誉栄達を望む訳ではありません。ただ、イギリスによる支配を退ければ、とだけ考えております」


 暫くは裏方に徹したいのだ。要らぬ横やりがどこから来るのかもわからない。『オスマン帝国』自体は、外国人や女性に対する差別的な物は感じない。だが、妬みによるトラブルは避けるべきだろう。


「解かりました、いずれメフメト・フアト様も戻られよう。その頃を見計らって献策させて頂こう」

「ありがとう、協力を頂けて嬉しい限りだ」

「いえいえ、こちらこそヨーロッパ視察の良い土産になります。思いがけぬ知らせですよ」

「そうそう、法律の立案についても専門の知識を持っておる。是非一度相談の場を設けたいが」


 順調な滑り出しである。法律立案はジェームスをメインに据えて、あちこちでの聞き取りを千鶴ちゃんとホルス君に任せよう。警戒されないように注意さえすれば、色々と動き回れる筈だ。青年改革派、とやらの動きも気になるのだ。


「そうですな、実際の所は視察には行ったのですが、イマイチこちらの慣例には合わない気がしていて、悩んでいたのです」

「そうですね。一度に公布するよりも実例を絡めて検討した方が、見える事も有ります」ジェームスの一言は実際の経験もあるし、頼りになりそうだ。


 あくまで目立たず、こちらの方々を立てながら権力の中枢に切り込みたいのだ。要らぬ詮索をさせたくはない。商人として振舞うのは、もう少し後だ。


「では、いずれ詳しい話を出来る場を設けたいと思います。今後も良い関係を築きたい」

「こちらこそ宜しくお願い致します。お力に添えれば良いのですが」


 私達は、これから『オスマン帝国』の中枢部分に介入する。地味で目立たないが、今後を考えると必要な事だ。


 私は、今からやらなければならない課題を数えつつ、少しうんざりしながら今後の手順を考えるのだった。

闇のブレーン的な動きに徹するオスマン編。


まるで悪役みたいだなあ、と思ったり。


そうでもしないと、権力なんて握れない訳ですが。商売人でない事は確か。

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