73.ちょっとした寄り道も
「じゃあ、行ってきまーす」私達はフルトンと一緒に、マリアちゃんと三人組に『蒸気船』を体験させるべく船に乗り込んでいた。
この試作機は、改修されないままに最大十七ノットと言う、この時代のオーバーテクノロジーを唯一残している。きちんと保管・整備されて、何時でも出航出来るのだ。
まあ、一種の記念みたいな物。大西洋最短横断記録を持っている船を改修するのは、気が引けたというか。
「へへっ、イカす、イカすぅ―!」フルトンが頑なにこの船だけは、と反対した為である。どうにも『蒸気船バカ一代』にとって思い入れがあるらしい。
私達も異論はないので、こっそりと残しているという訳だ。
「へえ、凄いですね。この船、マストも帆も無いのに早いです」ホルス君も気に入ったようだ。
「お姉さん凄い! こんな船、リスボンには無かったわ!」そりゃそうだ。あって貰っちゃ困るのだ。
マリアちゃんも気に入ってくれてよかった。まあ、リスボンに戻って話したとしても、子供の戯言で済むし。
「千鶴ちゃんがね、もっと早く! って言いながら作ったのよ。あの子、船と海が好きだから」私は微笑む。今頃は、アフリカのどの辺りに居るだろうか。
「千鶴お姉ちゃんも夢中だったのね! 凄く分かります」マリアちゃんも海の女なのか、興奮している。
色々な体験と出会いをして、逞しく成長して欲しいものだ。……仕事は程々にね。
「私も気に入りました! こんな船があったら、私の村も楽しいのに!」
「ホルス君、あの村ってどんな船を使っていたの?」
「……丸太をくり抜いただけの原始的な奴ですね。レイが漕ぐので早いですけど」
「俺、船好き!」おう、楽しんでくれて嬉しいわ。
全員思い出作りをしたところで戻ろうか。フルトンが操縦すると、大西洋を横断しそうだ。
私達は、ロンドンで色々な物を見物していた。『蒸気機関車』に乗ったり、お店を手伝ったり。マリアちゃんがはしゃいでいる。リスボンの大人びた営業スマイルも頼もしいが、本来はこうやって無邪気に遊ぶ年齢なのだ。
どうやら、年の近いエマちゃんとメルちゃんを『お姉ちゃん』と言って慕っている。とても可愛らしい。
二人も満更でもないらしく、可愛い妹を可愛がっているようだ。
そろそろロンドンに来て半月になる。楽しい時間はあっという間だ。名残惜しいが、そろそろ帰る準備をしなくては……。
「はい、お姉ちゃん。お母さん達が心配しない様、早めに帰りましょう!」おお、やはりマリアちゃんはしっかりしているなあ。
「残念ね、また遊びにいらっしゃいね」エマちゃんも寂しそうだ。
「また、三人で逢いましょうね!」メルちゃん達、三人組で楽しんでいたものね。
せっかくだし、本部と遊牧民の村にも寄ってみようかな? それほど日数は掛からない筈だし。
「マール君の故郷と変わった人達がいるところですか。行ってみたいです!」うん、じゃあ途中で寄り道をしようかな。
「私達も楽しみです! 遊牧民の村!!」
じゃあ、ロンドンの皆に挨拶して帰るとしよう。
「それじゃあ、暫くしたら、また来ますから―。元気でね!」
「ほいよ。そっちも仲良くな」グレッグさんも笑いながら挨拶する。
なんだかんだ言っても、二人の事を心配しているのだ。長い付き合いだしね。
短い間だったが、賑やかな日々だった。結構、思い出に残るロンドンの滞在だった。
「お姉さんも寂しいですか?」
「マリアちゃん、私は何時でも会えるから寂しくないわ。人の『縁』って強いのよ」
「はい、私も皆と沢山『縁』が出来ました!」マリアちゃん、寂しいのに我慢してるのね。
思わず、マリアちゃんの頭を撫でてやる。楽しかったものねぇ。
「……えへへ、これから行く所でも『縁』が出来ればいいな」マリアちゃんは可愛いなぁ。
「いい子だな、マリアちゃんは。遊牧民の村も活気があって良い場所だぞ」ジェームスなりに気遣ってくれるようだ。
うん、子供って可愛いわよねぇ。……流石に今から作る、という訳には行かないのだが。……ちょっとは考えてはおこう、将来の事。念のためよ、一応ね。
そんな取り留めも無い、未来の事を考えながら本部に着いた。到着すると同時に、リズさんが飛び出してきた。
「きや~、マリアちゃん初めまして~。リズって言うの。よろしくね」随分とご機嫌のようだ。
……何も言ってないのに、どうしてマリアちゃんが来た事が分かるのか。
「う~ん、可愛い女の子は別腹なのよ~」言っている意味は分からないが、何となくわかる。
「初めまして、マリアと言います。お姉さんがいっつも書類を溜める『ブラック企業』の人ですか」
「……あぁ、言っていたわね。そういえば。まあ、そうなのよねぇ」
リズさんががっくりと項垂れた。何をやっているのやら。
「お姉さん、算盤を教えてあげますから頑張って下さい!」
「やる~」そういう事になった。
微笑ましい光景である。まあ、リズさんの役に立つとは思えないが。
「おお、賑やかじゃと思ったら、お主達が来ておったか」お婆さんが珍しく、そっちからやって来た。
そりゃ、これだけ賑やかなのだ。気が付いても当然だ。
「お婆さん、こんにちは。三人であちこちの世界を廻っています。結構勉強になります」
「たーのしい!」
「うす!」
三者三様の感想ね。異世界を楽しんでいるようで、何よりだわ。
「おう、婆さん。まだ生きてたか」ジェームスは平常運転である。
「お主も、面白い『運命』じゃのう。まあ、アキラと一緒に頑張るんじゃぞ」
「まあな、そこら辺の覚悟は出来ているぜ」
ジェームスも『運命』かぁ。まあ、そうだろうなあ……。こいつはこいつで、どっぷりと世界を股にかけているのだ。こいつが居ないと、こちらも上手く動けないし。
「じゃあ、皆で団長の所に行きましょう。特に報告する事は無いけど」
『おう!』
『……よく来た』団長、もう少しマリアちゃんに反応しても。
「困っておるな。珍しい」お婆さんも、その挙動が気になるようだ。
「ふ~ん。本当は嬉しいくせに~」
「初めまして、団長さん。いつもお姉ちゃんがお世話になっています」完璧な営業トークである。
団長、マリアちゃんの事を結構気に入っていたけど……。緊張しているのかな?
『……いつもアキラが話しているからな。大きくなったものだ』
「そうね~、皆マリアちゃんの事は~良く聞いているのよ~」
「何じゃろうな、初めて会った気がせんわい」
……そういえばそうだ。私がいつも話をしているので、そう言う反応になったのか。
「えへへ、私そんなに変ですか?」マリアちゃん、そうじゃないのよ。
「アキラちゃんが~、いっつも可愛いって言ってるのよ~」
「……ええ、恥ずかしいです」マリアちゃんが動揺している。顔が赤くなった。
そういう事もあるね。ま、これも『縁』って事で。
「それじゃあね~、気を付けて~」
皆のお見送りで、遊牧民の村に向かう。ちょっとした寄り道も良い物だ。
「楽しかったです、皆が優しかったの」
「皆に会わせてあげられて良かったわ。いつもリスボンの事、話していたからね」
そんな話をしながら、敦煌に到着する。この辺の移動はもう目を瞑っていても、マール君が覚えている。
「いよいよダルイムの街よ。賑やかな所だし、きっと楽しいわよ」
「はいっ、楽しみです」
相変わらず、この街は人の出入りが多い。賑やかだし、活気が溢れている。
「わあ、リスボンと同じ位賑やかですね」マリアちゃんの感想は、中々的を得ている。
此処は、東西の貿易拠点だ。リスボンと同じく、沢山の人種と品物が行き交う中継基地なのだ。
「やっぱりリスボンに居ると、そういう事に詳しくなるよね」
「はいっ。両替商に居ると、そういう商人さんと一杯お話しますから」
「ああ、営業トークな。解かるぜ」ジェームスが把握したようだ。こういう事は詳しいな、やっぱり。
あのお店、こんな小さな子供に任せて、今大丈夫なのかと少し心配になった。エリオだし、まあ大丈夫か。
「おお、お嬢。今度は随分と仲間が増えたのぅ」
「お爺さん、こんにちは。この子がリスボンのマリアちゃんよ。この子達は、戦闘メンバーで入ったの」
「ほう、それは頼もしいの。わし等は騎馬兵を率いておる。何かあった時は一緒に戦う事になりそうじゃの」
……まあ、そんな事はあまり考えたくは無いが、そういう事もあるだろう。
お爺さん達が『魔導石』を使って、軍事力を強化している事は知っている。ジェームスから聞いた。別にそれ自体は問題無いのだが……。どうも、皆が『命を捨ててでも!』と言っているらしい。
それはそれで、困るというか。そこまで覚悟を……という事だ。こんなに沢山の命を預かるというのは、正直荷が重すぎる。
いずれは、この近辺の『門』を調べて……と言う可能性はある。その時、皆に命を懸けて戦うように言う事が出来るのか、だ。
そりゃ、この街を作った切っ掛けにはなった。だが、それとこれとは別の問題だ。私達の問題にどこまで突き合わせるか。恐らく、話を出した瞬間には覚悟完了していると思う。
自分も腹を括らなければならない。それだけの命を背負わなければ……。
どうやら、ジェームスにはお見通しのようだ。「心配するな。俺も一緒に矢面に立つさ」と言ってくれた。
そうね、一人では無理でも二人なら出来るかもしれない……。もう、本来の意味での『相棒』なのだ。
「……ありがとう、ジェームス。気が楽になったわ」
「俺だって、ここには思い入れがある。絶対に皆を死なせないようにするさ」
小声で喋っているつもりだったが……その会話は、お爺さんには聞かれていた。
「ふぉっふぉっ。二人とも、こちらが勝手にやっておる事じゃ。お前さん達は気にする事は無いぞ。遊牧民は、受けた恩を絶対に返す。それだけの事じゃ」
参った。このお爺さんには頭が上がらない。息子さんもにっこりと笑う。
「解かりました。いざと言う時は頼らせて貰います。全員生きて帰るつもりで」
「……それで良い。お主らが背負う事は無いぞ。この老体が背負えば良い事じゃ」
お爺さんは大笑いしている。もう、すっかり『偉大なる大ハーン様』となってしまった様だ。初めて会った時とは大違いだ。
「お姉ちゃんも色々な人に守られているんですね」マリアちゃんの言葉にハッとする。
「そうね、知らない間にそうなっていたみたい。皆を守っているつもりだったのにね」
皆、その言葉で笑い出した。『クリルタイ』からこっち、ずっと守っていると思い込んでいたのだ。
いつの間に入れ替わっていたのか。まあ、頼りになる事は間違いない。
皆で宴会を開いて賑やかに過ごした後、マリアちゃんを連れてリスボンへと帰る事にした。マリアちゃんのちょっとした冒険。また、来られる様に考えておこう。今度は千鶴ちゃんも一緒だ。
沢山の世界と色々な人達。それを『運命』と言う一言では、括りたくない。
……私達の紡いだ『縁』は、何処までも繋がっている。私は、そう改めて認識させられたのだった。
旅歩きの回です。
色々と伏線も張ります。とにかく、マリアちゃんは可愛いなぁ!!
ずっと言っていますが、まあこの子の成長でどの位時間が経ったか、と言うのが分かるので。
そう言う意味では、レギュラーに近いのです。




