72.ロンドンでの披露宴
「スポンサー様! 久しぶり、イカす、イカすぅ―!」フルトンも平常運転のようだ。
「全員揃ったわねぇ。何かあの大西洋横断が、随分昔の事みたい」
「……なあ、俺を忘れていないか?」あっ、モーズリーさん。忘れてないわよ。何時からここに?
「最初から居たんだがなあ……。何故挨拶が無いのか、詳しく説明して欲しいが」
まあ、良いじゃない。細かい事は。ともかく、せっかく集まったんだし何かやりたいわね……。
「そうだな、確か別れる前にパーティーを開いたかな。積もる話もある。俺達の披露宴、と言う名目で集まるかな? どうだ、アキラ」
「良いアイデアね。ダニエル君の所には、和食の調味料一式を持っていくし、それで行きましょう」
『賛成!』と、皆でその日の夜に集まる事にした。
せっかくだからネルソン提督も誘っちゃいましょう。
「アキラ店長、結婚おめでとうございます! ……しかしまあ、急な話ですね。ジェームスさんとは長い付き合いでしたが、そんな話一度も有りませんでしたし」
ダニエル君が急な宴会の準備をしながら、ぼそっと呟く。彼はジェームスや私とも、長い腐れ縁だ。出会ってから、もう三年以上経っている。そう思うのももっとな話だ。
「そりゃそうだ。突然何かやりだすのは、今に始まった事じゃない。そこら辺はダニエルも知っているだろう。……巻き込まれたのさ、まったく。酷い話だぜ」
「何よ、ジェームス。後悔しているの? ……私を捨てて、行ってしまうのね」本気で思っている訳ではない。あくまで、いつものじゃれ合いでしかない。
いいぞ、やれやれ! とグレッグさんがけしかける。良い頃合いに酒が入って、みんな酔っぱらっている。
そういう事なのだ。つまり、私達の結婚話を酒の肴にして、楽しく騒ぐだけの集まり。
「それにしても、千鶴ちゃんが航海中で残念ね。皆でお祝いしたかったのに」
「そうね、随分と人数が増えたけど少し寂しいわ」エマちゃん、ありがとう。千鶴ちゃんには後で伝えておくわ。
「それにしても、そんなそぶりも無いのに、いきなり結婚とはなあ」マードックさん、色々とあったんです。
「イカすぅ―!」黙れ!
全く、酒飲みたちときたらもう。
「……しかし、俺としてもどうしようもなくてなぁ。突然すぎて何も準備出来なかった」
「諦めろよ、こうなったら尻に敷かれるしかないんだからな」グレッグさんも黙って。
「何か、披露宴じゃなくて、私の糾弾会みたいになっているのだけど……」
解せぬ。祝っているのやら、呆れられているのやら。
「……お姉ちゃんは、どうして結婚しようと思ったんですか?」
マリアちゃんには、きちんと分かり易く説明が必要だ。どういえば良いのか?
「前々から好きだとは思っていたのよ。ただ、こういう事って最初の一歩が踏み出せなくてね」
「一歩目が地雷だとは、思ってなかっただろう」モーズリーさん、混ぜ返さないで。
「……まあまあ、若い者が恋仲になるのはええ事じゃ。儂はお祝いするぞ」
ネルソン提督が真面目だ。だが、この爺を甘く見てはいけない。
さっきから「腐った納屋の扉を蹴っ飛ばせ」だの「リメンバー パールハーバー」だの、おかしな電波を拾っているのだ。……だから、何でそんな言葉を知っているの?
「よし、カンナエの戦いで頑張ったお嬢ちゃんには、この木イチゴをやろう。あとカルタゴに塩を撒くな」
……だから、どんな毒電波なのよ。知らないわよ、そんな事は。
ネルソン提督、そろそろボケたんじゃないの? まったく。
「それにしても、店長には醤油や味噌、味醂も頂いてしまって。料理の幅が広がります」
「店長は、あの後で何処へ行って、どんな事をしていたの?」エマちゃんも興味があるのね。
「……ああ、未来の日本に行って『イギリス料理』を出すホテルを立てて、この子達を拾ったの。『イギリス料理』完全に魔改造もしたわね。……どうにも変人が集まってばかりで、しょうがないわねえ」
私の愚痴は、ちゃんと理解されているのか分からない。呆れれているような気がする。
だがまあ、楽しそうに騒ぐだけで良い。みんな元気で楽しそうだし。
「また、変な事に首を突っ込んだんですか?」フルトンには変だとは言われたくない。
「突っ込んだんじゃないわよ。むしろ突っ込まれたのよ」と言うと、意味の分かったおっさん共が大爆笑。
……まあ、ちょっと位羽目を外すのも良いでしょ。こういう物よ、披露宴なんて。
惚気話に花を咲かせて、楽しくお酒が飲める。こんなに幸せな事は無いでしょう。
「それにしても、変わらないわね。もう、結婚したんだから大人しくしないと」オリヴィエさん、それは無理な話よ。どんな状態であっても「ロンドンの女帝」なんだから。
「あくまで自分の気持ちに踏ん切りを付けただけよ。……別に家庭に入って子供を産むって訳じゃないし」
「……社長は変わりませんなあ。まったく、面白い人だ」マードックさんこそ、変人集めて楽しんでるじゃない。お互い様よ。
此処には居ないが、ワット博士やその『鉄道バカ一代』も含めて、この時代は面白い。何が始まるのかは、誰にも分からないのだ。この時代特有の、新たな未来へ向かう雰囲気というのは、ロマンと一攫千金が詰まった玉手箱のような感じだ。
だから、私はこのロンドンと言う街が好きなのだ。ここに居る全員が、そういう気持ちを共有している。
「色々な世界に行くのも分かる気がしますよ。新しい発見に心躍る気持ちは、我々技術者全員が持つ魔力みたいなものですから」マードックさんが代弁してくれた。
「そうね、まだ見ぬ世界と新たに出会う人達。私にとって、此処に居る皆も宝物みたいな物よ。大切な『縁』ね」
そう言うと、全員から拍手を受ける。……何だ、皆も同じような事を考えているのね。
「何しろ、スポンサー様が居なけりゃ、ただの妄想野郎ばっかりでしたからね」フルトンも色々考えているんだ。
偶然とはいえ、変わった個性豊かな人間が惹かれ合う。……何かしらの『運命』という奴が、働いているのかもしれない。
「ただまあ、個人的な好みを言えば、もっとまともな人が良いのにねぇ……」
『あんたが言うな!』皆からのツッコミが激しい。解せぬ。
そういう流れで、私達の披露宴はお終い。実に私達らしい感じである。ごった煮と言うか、寄せ集めと言うか……。とにかくどういう訳だか、私の周りは実に個性的だ。自分も含めて、と言うのは納得できないが。
『18世紀末の魔都 ロンドン』魅力的な場所だ。ここには老若男女問わず『ロンドンに行けば何とかなるだろうという希望だけを持って集まってくる』のだ。
そりゃ、魑魅魍魎の類が集まる。そしてそれを私が見つけてやり、仕事をやらせるのだ。……結果、ありとあらゆる偶然が寄せ集まって、可能性を追求する。それなら理屈は解かるわ、そんな異常事態なら史実も前倒しするってものよ。
何と言うか、そうしてしまった私が言うのもなんだけど、このロンドンの歴史の修正力とやらは耐えきれるのだろうか。何時か、この街がその修正力を超えてしまった場合……。
もはやそれを止められる者は居ないのだろう……。これ以上関与すべきか、悩む。
「どうした、アキラ。何を悩んでいるんだ?」ジェームスが声を掛けてくる。
「私はこの街が、住人達が好きよ。でも……私のする事で歴史が変わるわ。本当に……それは正しい事なのかしら?」
……私は何をやっているのか。もしかしたら、善意で全てを駄目にするような事は無いのだろうか?
「それなら簡単だ。俺が、この町を代表して答えてやろう。……良いか、この街の誰もが、くそったれなこの街の住人達は皆、お前の事が好きだ。お前と会って後悔している奴などいない。より楽しい明日を信じて生きられるのは、お前のおかげさ」
「ジェームス、ありがとう……。何か今、心のどこかで引っ掛かっていたものが取れた気がするの」
何だろう、自分と言う異物。異世界からやって来た私が、認められたと思った。この街で最初に見つけた知り合いで、大好きなジェームス。
「……やっぱり、間違ってなかった。好きよ、ジェームス。貴方が好き。この街もね」
「ああ、知ってたさ。初めて会った時から……」
彼に抱き寄せられて、キスをする。
……この街を全部使った披露宴だ。私は満ち足りた気分で、自分の気持ちに正直になる事が出来た。
披露宴回です。人が多くて大変。
何と言うか彼ららしい、結婚披露宴でした。いいよね、こういう話も。
少しロマンチック成分多めで、最後の方はまとめてみました。定期的に恋愛話もやりたくなります。
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