71.エマちゃん達はお年頃
「わあ、マール君に乗るの久しぶりだわ。大きくなったわね、私の事覚えているかしら?」
マリアちゃんとマール君に相乗りして、ロンドンに向かう。そういえば、あの頃はまだお互い小さかったが、随分と成長したものだ。
マリアちゃんは、メルちゃんとお友達になったらしい。メルちゃんが色々と話しかけて、マリアちゃんが感心したり驚いたり、と言う感じだ。異世界の風習と言うのは、結構盛り上がる。私も時々詳しく質問したりする。
女三人寄れば姦しい、という奴だ。年相応の女の子同士の会話と言うのは、微笑ましいものだ。
ジェームスとホルス君は、魔道具や魔法について熱く語り合っている。どちらも理論派だから、自然と専門的な話題になる。……実際、内容についていけない。
レイ君はきょろきょろと何かを見つけては、面白そうにしている。
皆、道中を楽しんでいるようだ。仲よき事は美しき哉、良い事である。
ロンドンに到着するとジェームスは懐かしがり、他のメンバーはその賑やかさに驚く。
「いやあ、テムズ川の匂いが無いってのは少し寂しくもあるが、ロンドンに帰って来たという実感があるなあ」ジェームスはご機嫌だが、グレッグさんから何を言われるかは、考えていない様だ。
どうせ、グレッグさんが嬉々として、からかって来る筈なのだ。今から気が重い。サンダースさんが暇を持て余して、あちこちに噂をばら撒いているらしい。
すっかり大型雑貨店として繁盛している、我が魔道具屋に帰ってくる。魔道具の修繕をサービスしてくれるご近所の便利屋と言うスタンスだ。どうしてこうなったかなぁ。
「おお、若奥様じゃないか。どうだい、新婚生活は?」
グレッグさんが、いきなりぶっこんで来る。まあ、その流れは想定済みだ。
「ええ、賑やかだけど楽しい物よ。ね、ジェームス」
「まあな、まったくどうしてこうなったのやら」
「ははは、さらば独身の自由と楽しい放蕩の日々よ。ようこそ、人生の墓場へ。ジェームス、一緒に語り合おうじゃないか」
「あんた、店長やジェームスさんをからかうんじゃないよ。良い事じゃないか、おめでとう二人とも」
オリヴィアさんが祝ってくれる。そうそう、こういうのでいいんですよ。こういうので。
「若奥様がどうやって押し掛けたのかは、サンダースから聞いているぜ。中々洒落たプレゼントだよな。首にリボンを付けて、全裸で夜中に突撃したとか? 一晩中、滅茶苦茶にヤリまくったそうじゃないか。いやあ、若いって良いねぇ」
グレッグさん、言い方を! それに、色々と噂に尾ひれが付いちゃっているわよ。こんな事マリアちゃんに聞かせる訳には……と思う前に、ホルス君がガッチリ聞こえない様にカバー。
流石よホルス君。我らの司令塔らしい、素晴らしい働きだわ。
「店長さん、結婚おめでとうございます……。あ、あの……もう、そういう事……しちゃった、って事ですよね。詳しく……教えて欲しい、なぁ」ひそひそ声で、エマちゃんが話しかけてくる。
エマちゃんはお年頃だ。そういう事に興味津々なのかぁ。『乙女心』全開なのだろうね。分かるわ、自分も苦労したもの。メルちゃんも気になるようだ。……ホルス君の事、好きなんだよね。
個人的に『乙女心』はクラスチェンジして『女の欲望』となっている。実際問題、経験があるという事で物凄い心理状態になってしまうのだ、嫉妬とか独占したいとか色々。……まあ、暴走するのはいつもの事だが。
せっかくなので、初体験については事細かにエマちゃんとメルちゃんにしか聞こえない様、こっそりと教えてあげよう。先輩からのアドバイスである。
「……えぇ、そんなに出来るものなんですか? 八回も……。しかも、そんな事まで。はしたないけど……気になります。うつ伏せでも色々と、うわぁ。そ、それで自分からも……恥ずかしい。えっと、気持ちいいんですか、そんなにも一杯? ……凄いですね」
エマちゃんが私とジェームスを繰り返し見ている。少し恥ずかしい。ジェームスは気づいていない。気が付かれると困る、色々と。
「……『紳士』って凄いんですね。そんなにも丁寧に……。やっぱり、甘える方ですか……。えっ、そんな恰好してまでするなんて……。いやん、恥ずかしい。色々とためになります! 私も頑張らなくちゃ、やっぱり思い切って突撃かな……。それで最初は異物感、と。段々良くなるって……そこまで、気絶しそうな程!?」
メルちゃん、ちょっと焚き付け過ぎたかも。ホルス君、頑張れよ。何を、とは言わないが……比較されないようにね。まあ、そこまで行けるかどうかも分からないけど。メルちゃん、思い込みが激しいからなあ。
惚気話に花が咲く。久しぶりの再会でこういう話も良い物だろう。特にグレッグさんには、色々と心配やアドバイスもさせているので、一安心と言ったところだろう。ええ、色々心配をおかけしました。
エマちゃんとメルちゃんは、まあその、人の事は言えないが程々にして欲しい。周りが心配しない程度でね。どの口が……と言う突込みは不可で。
マリアちゃんと気が合ったのは、意外にもオリヴィアさん。お友達と言うより保護者と言った雰囲気。まあ、人の出会いは多いほど良い。……どうやら少し早い、初孫的なやり取りだ。
……何と言うか、私の子供じゃないですからね。色々と誤解を受けそうだ。
「商売も順調そうね。カレー屋の様子はどうかしら?」
ここに来るまでに、何軒か覗いてすっかり様子が変わった事は確認済。賑やかな事で大変結構。
「そうだな『大陸封鎖令』も結局解除されてしまったし、ロスチャイルド家のお坊ちゃんが、時々嫌味を言いに来るよ。……随分と厳しく親に怒られたらしい。知った事じゃないが」
グレッグさん一家と大笑いする。いい気味だ、ざまあみろ。
「どっちかと言うと『蒸気機関』の導入が進んで、工場が乱立している。田舎からの流入が激しくて、どんどん人が流れ込んできている」
マードックさんの方も順調そうだ。後から様子を見に行くとしよう。
「そうねえ、ネルソン提督が会いたがっていたわよ。新しい船が沢山欲しい、って愚痴を言いに来てたわ」
オリヴィアさんがゲラゲラ笑っている。あの爺、ウロチョロしないでちゃんと仕事をして欲しいものだわ。
そっちは放置で良いだろう。何となく、何処かでばったりと出くわしそうだが。
「ワット博士は、結構話題になっているぞ。何でも、幾つかの発明で認められて表彰されたとか。ジェンナー博士の活動も順調でな。追加の寄付を大分としているぜ。『蒸気船』のメンバーは、いつも通りだ。皆、嬉しそうに船やら、良く分からない物まで作っているぞ」
そっちも気になるわね。色々とあったようだ。あの変人共が真っ当に仕事をしているとは思えない。奇天烈な物を作り出す前に、確認する必要がありそうだ。
魔道具屋から工場へと移動する。エマちゃんも、結構出入りしているらしく付いて来た。
「フルトンさん、面白いんですよね。……傍から見ている分には。あそこで商売の種になりそうな物を物色していて……。一応、営業担当としてお手伝いしてます」エマちゃんが商魂逞しくて、頼もしい限りだ。
工場は増設を繰り返したらしく、三倍程の規模になっていた。各国からの注文が絶えないらしい。
「社長、お久しぶりです」マードックさんが出迎えてくれた。元気そうで何より。
「商売は順調そうね。何か新しい物造ったの?」
「ええ、今度は『蒸気機関車バカ一代』のスチーブンソンと言う男と組んで『蒸気機関車』を完成させました。今は、ロンドン~プリマス間の鉄道建設の計画を進めています。いつ完成するかはわかりませんが、物凄い勢いで線路を作っていますよ」
また、変人か。まあ、放っておいても構わないだろう。どうして、このロンドンには英国面全開の奴しかいないのだろうか。何かする度に史実が前倒しされるのだ。
……今回は二十年位かな? 誤差の範囲で収まりそうだ。
どうにも変人は惹かれ合うらしい。イギリス中の変人が此処に集まるのも、遠い日ではないだろう。
全く、いい加減にして欲しいわね。こっちはもう、変人の相手はウンザリしているんだから。
私は懐かしさよりも、これ以上変人が増える事がありませんように、と言う無駄な祈りを捧げるしかなかった。
久しぶりのロンドン一同との再回です。
惚気話と言うか、少し卑猥な会話です。まあ、表現的には大丈夫でしょう。
色々と妄想を繰り広げて下さい。
なお、変人は増える事はあっても減る事はありません。1人見かけたら30人は居ると思ってください。




