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70.可愛いマリアちゃんに旅をさせる

「ええと、戦力は増えているとしても、出来るだけ争い事を起こしたくないわね」


 本部で今後の方針を検討している。新戦力の三人は頼もしい限りだ。だが、いざと言う時に連携できるかと言われると自信がない。


「まあ、そうじゃな。随分と時間も経っておる。今までに出会った人との再会を優先してはどうかの?」

「……そうだな、確か千鶴ちゃんはインドへの航海が近いんだろう?」

「はい。事前に準備も要りますし、このままリスボンへ行く方が良いでしょうか?」

「そうねえ。リスボンとロンドンの様子は、私も見ておきたいわ。何か問題が発生しているかも……」


 この前は、余裕があると思っていたリスボンに、大問題があったのだ。顔を出しておきたい所ではある。


「俺達、まだ別の世界って言うのに慣れていないので、連れて行って貰えますか? 出来るだけ迷惑はかけませんので……」


 ホルス君、もう仲間なんだから遠慮は無しよ。大船に乗った気で任せなさい。


「おお、俺も興味ある。強い奴、居ない?」レイ君はそっち寄りか。

「アタシ、賑やかなところ、好き!」メルちゃんは自由奔放だ。


 ここは、皆を紹介しつつ色々と廻るのも良いかもしれない。そういえば、ジェームスもリスボンは初めてか。……何と言って、こいつとの関係を紹介するか、個人的に悩む。


「じゃあ、リスボンに寄って……。そうだ、マリアちゃん、ロンドンに連れて行かない?」

「……成程、そろそろマリアも大きくなったし、それも良いじゃろう」

「面白い皆さんに、マリアちゃんを紹介します。ロンドンで『蒸気船』に乗せるのも良いですね」千鶴ちゃん、航海はどうするのよ。


 まあ、全員一致でリスボンへ。マリアちゃんについては、エリオさん達の了解も取らないとね。


「そうね。何はともあれ、久々にリスボンへ行くわ。提督達の顔も拝みたいしね」

『賛成!』そういう事になった。


 三人組は道中の様子に驚いている。『魔族』が居ない世界ばっかりって聞いて、残念がっているけれど……。そんなに戦いたいのかねぇ?


「いや、体が鈍ると言いますか……。良いです、やっぱり」

「そうそう、戦う場面は無いわねぇ……変人共の相手は必要だけどね」

「ああ、師匠に比べれば大した事は無いですよ」うん、私もそう思った。



 何事も無くリスボンに到着した。三人とも歩きなのに早いなあ。馬に乗っているのはジェームスと私だけ。


「馬が必要だったら言ってね。ダルイムの街に行けば、良い馬がいるから」

「俺、馬乗れない……。足が短くて」

「私も馬は駄目だわ!」


 そういう事なら、歩きで良いか。変に苦手意識を付けるのもなんだし。マリアちゃんはどうして居るかなあ。ポニーに乗って練習してそうだけど。


 両替商と貿易会社。どちらも人の出入りが多い。保険の窓口は貿易会社にしたから、バランスは良い様だ。街もかなり人が増え、インドからの香辛料を求める人々で溢れている。


 両替商の裏口からお邪魔する。


「エリオ、こんにちは。久しぶりねぇ、お仕事の調子はどう?」

「ああ、商会長。こちらは順調です。職員全員が算盤を使えるようになって、業務も問題ありません」

「良かった。また店が閉まっていたら、どうしようかと」

「ええ、苦労した甲斐がありました。そういえば、こちらの可愛いお嬢さんは?」

「私ですか? 恥ずかしいですね!」


 ああ、油断していた。エリオの癖が出たようだ。まあ、ナンパするのはいつもの事だ。むしろ安心感さえある。


「この三人が新規メンバーなの。あぁ、気を付けないと強いからやられるわよ」

「ええと、うん。そうですね。今回は遠慮しておきましょう。商会長、マリアが七歳の誕生日を迎えて……。そろそろ、私の仕事が無くなりそうです」


 エリオ、嬉しいのか悲しいのか、はっきりしないわね。しかし、マリアちゃんが店長代理かぁ。


「マリアちゃん、こんにちはー。元気にしてた?」

「あ、お姉ちゃん。ようこそいらっしゃいました。私はこちらで業務中なので、ひと段落付いたらそちらに参りますね」


 マリアちゃんが、営業スマイルと敬語をマスターしているだと! 完璧じゃないか。凄いなエリオ。英才教育と言うレベルではないようにも思える。


「ええ、親として成長してくれたのは嬉しいのですが……。やはり年ごろの娘として、遊ばせてやりたいと」

「ねえ、相談なのだけど……。マリアちゃんさえ良ければ、ロンドンに旅行しない?」

「えっ、本当ですかお姉ちゃん。マリア、ロンドンに行ってみたかったの」


 ようやく年相応の反応が見れてほっとした。そうね、お金儲けは楽しいけど。休みは必要だわ。


 ……何よ、ジェームス。こっちを見て。


「どこぞの守銭奴さんにも、聞かせてやりたいよ。……プライベートは大事にしないとな」

「わかっているわよ、それ位。たまたま、仕事が忙しかっただけだもの」


 ……ふん、だ。構って欲しい時は、甘えに行くわよ。そのうち、部屋に押しかけてやるんだから。……一応、隣の部屋には気を付けないとね。


「お父さん。マリア、ロンドンに行っても良い?」眩しい笑顔で強請られるエリオ。

「ああ、店の事は任せて思う存分行ってきなさい。商会長には迷惑を掛けないようにな」

「うん。あっ、お母さんにも聞かないと」マリアちゃん、報連相が徹底しているな。素晴らしい。


 うんうん、あのマリアちゃんも大きくなったものだ。そういえば、身長も随分伸びたが、可愛らしさは変わっていない。むしろ、少し大人びた位だ。



「それじゃあ、マリアちゃんと一緒にお家にお邪魔するわ。晩御飯も一緒に食べたいわね」

「はい、宜しくお願いします。私も仕事が一段落したら帰りますので」


 マリアちゃん含め、両替商を出る。


「マリアちゃん、提督達の所に寄って行っても良いかな?」

「はい、いっつも遊びに行っていますし。提督、お菓子をくれるんです」


 ほほえましい光景である。思わずほっこりとしてしまう。


「……本当に賑やかですねぇ。おい、メル。露店に見とれていると迷子になるぞ」

「ホルス、何か私の方が小さい子みたいな扱いで、失礼でしょ!」


 こちらはこちらで、本当にほほえましい光景である。


「ああ、欲しい物とかあったら言ってね。別にアクセサリーでも良いわよ」

「やったー、ホルス! 良いの選んでね!」

「俺かよ、まったく……」


 後でホルス君にもお小遣いをやろう、代表で。……多分、大事に使ってくれる事だろう。


「お姉ちゃん、随分とメンバーの人が増えたのね?」

「そうね、他の世界にも増えたわ。ロンドンに行ったら、紹介してあげる」

「わーい、楽しみー!」



 賑やかな一団が貿易会社に到着する。どうやら、インド航海の準備中のようだ。もう少しすると出航するだろう。準備が大変そうだ。


「おお、隊長。お久しぶりですな。千鶴お嬢さんもお元気そうだ」

「提督、何か問題は無い?」

「ええ、アフリカの交易も順調ですし、保険の方も取引が活発で。リスボンはますます発展しそうですな」


 商売が繁盛して何よりだ。


「お姉様、あの保存食はどうします?」

「……そうねえ。出来るだけ作って来たし、有るだけ渡すわ」


 結構な期間、保存食開発を進めていたのだ。


 日本の産物も使えるから、結構長持ちする物が出来た。ちゃんと栄養バランスも摂れているし、味も改良した。


 まあ、それでも航海は大変だろうけど……。


「ありがたいですな。乗組員の唯一の懸念点が『隊長の飯が食えない』事でしたから」


 千鶴ちゃんと提督、私と周りの乗組員で大笑いした。


 カリカットのカレーの件含め、随分と好評だったようだ。


「大丈夫よ。今回、千鶴ちゃんがホテルで料理を作っていたから。カレーの作り方もマスターしてるわ」


 ……周りに居た連中が万歳している。まったく、この欠食児童共め。


「じゃあ、千鶴ちゃん。心配はないと思うけど。出航の時は見送るわね」

「はい、お姉様も。護衛はホルスさん達にお任せします!」


 よし、こっちは問題なしっと。ディアナさんの所へ行って、ロンドン旅行の話をしなきゃ。



「こんにちは、ディアナさん。大人数でお邪魔します。マリアちゃんの事で相談が……」

「あら、アキラちゃんに千鶴ちゃん。お久しぶりねぇ。まあまあ、凄い人数。夕飯食べて行きます?」

「あ、はい。お願いします」

『お邪魔しまーす!』皆を紹介していく。


 ジェームスについての説明は、私の『彼氏』という事にしておいた。


 ……ディアナさんに私が結婚した、という事を説明するのはちょっと躊躇ったのだ。


「宜しくね、皆さん。それでマリアの話ってなあに?」

「ええ、丁度良いので出航を見届けたら、ロンドンに行かないかって話をしていまして……」

「良いわねえ。マリアったら、遊びもしないで両替商でお仕事ばっかり……。変な所がエリオに似てしまって」


 まあ、それは否定しない。もう少し、遊びの時間も必要だろう。


「それで、結構な期間預かると思います。ちゃんと護衛になるメンバーもいるので、安心して下さい」

「アキラちゃん、出来ればマリアにはお友達を作ってあげたいの。よろしくね」

「それは責任重大ですね。頑張ってみます」


 まあ、エマちゃんやメルちゃんとは、仲良くなれそうだし。……そこら辺は本人次第だ。


「じゃあ、暫くお世話になります」


 私達は千鶴ちゃんの見送りを待って、数日間リスボンの散策を楽しんだ。


 皆であの丘に行って、リスボンの夕焼けを飽きるまで眺めていた。


 遠い異国の地で、仲間になったメンバーやジェームス達と、リスボンの街を存分に楽しんだのだ。


 数日後、私達は千鶴ちゃん達の出航を見送り、マリアちゃんを連れてロンドンに向かうのだった。

 楽しい旅回です。何も起こらず、のんびりと言うのも良い物です。


 ……前の話との落差が酷いですなあ。


 元々、マリアちゃんは成長させて時間経過を知らせる役、だったのです。


 ただ、色々な人に合わせた反応が純粋そうなので、こういう風になりました。

 

 別に変人だけ書きたいんじゃないんです。常識的な子も必要なんです。


 というか、ここに至るまでジェームスがリスボンに行っていない事に驚きました。

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