69.何、この・・・何故?
レイ君が見つかってから、一ヵ月あまり経つ。そろそろ迎えに行くか、という提案により『兵馬俑』の向こうの世界に向かう事にした。ホテルは再開したし、直ぐに戻って来るから大丈夫だろう。
むしろ、あの野生児を放置しておくと、何処かに行方不明になるのでは? という予感がしている。手元に置いておかないと危ない系の変人である。
ともかく、三人いないとパーティーの戦闘力が落ちる、という問題もあるし。預かると決めた以上はしっかりと面倒を見ないといけない。何と言うか、子猫でも拾って来たような感想だが仕方がない。
本人に自覚がない以上、ふらふらされると問題なのだ。あと、師匠なる人物にも挨拶はしておかねば。保護者的な人なのだろうし、土産も持った。それでは行くとしようか。
ジェームスは未知の魔道具や鍛冶の話でワクワクが止まらないし、千鶴ちゃんは戦闘したくてウズウズしている。当然のようについて来る。まあ、良いけど。
流石に、もう変人の扱いにも慣れている。どんな変人だろうと対処可能だ。
……そう思っていた時期が、私にもありました。
「……」何か喋って!
無言で生のエビを齧るおっさん。彼が師匠だ。うん、どこからどう見ても変人だ。なぜ生で? いや、突っ込む所はそこでは無いだろう。色々と問題だらけだ。
まず、レイ君が居る。それは良い。だが、彼も生のエビを食べている……。
「ホルス君、君の世界ではエビを生で食べるものなの?」思わずそう聞いてしまう。
「……はあ、そんな訳無いでしょう。ちゃんと焼いたり煮たりしますよ」
「ああ、変人ってこのレベルなのね?」私は頭を抱えた。
食べながら、鍛冶をしている。まあ、防具を作っている位は理解出来る。ただ、何故素手で真っ赤に焼けた鉄を叩けるのか? 常人では真似が出来ない二人の行動。
ジェームスもさすがにドン引きだ。そりゃそうだ、真似したいとも思わない。
「なぁ、アキラ。俺の目がおかしくなっていなければ、素手……だよな?」
「うん、素手……だよ。どうやっているのかは、分からないけどね」
ホルス君とメルちゃんは平常運行だ。つまり、これが日常って事か。
……世の中は広い。どんな変人が居るか分かったものではない。
そう思っていると、真っ赤に焼けた鉄をひょいっと掴み、燃え盛る火の中に突っ込む。
「うわあ、熱そうですねぇ」千鶴ちゃん、感心するポイントが違うと思うの。
「……やはり、師匠は変人だったでしょう?」
……ホルス君、変人ではないのだ、ビックリ人間は管轄外なのだよ。
えっ、もしかして剣士とかって、このレベルの生命力が必要なの?
「レイも師匠も耐性持ちですからね」ホルス君、そう言う問題でもないのだよ。
さも説明した風に納得しないで欲しい。誰か説明して下さいよ!
「あのね、レイと師匠は修行で色々な耐性を付ける訓練をしていて、これが火耐性の修行なの!」
メルちゃん、理解出来ないとまでは言わない。だけど、生のエビを齧る意味は?どこから突っ込んだらいいのか……。まあいい、そう言うものだと理解しておこう。
「あの、師匠さん。ちょっとお話をしたいんですが……」
「……エビ、食う?」と差し出してくる。私が躊躇している所、ジェームスが躊躇わずに対応する。
「食います!」おお、何となくカッコいい雰囲気を醸し出しそうになる感じ。
私の事を庇ってくれたのか、と思うより前に生のエビを食べなくても良い、という安心感を覚える。
流石にジェームスは変人共と仲良くしていたからなのか、その辺の耐性があるらしい。
そう思っていたら、「カニ、食う?」とカニを差し出された。ああ、気に入られたのは私の方か。
「……いえ、結構です」必死に拒否する。特に師匠は気にせず、カニを食う。生で。ボリボリ食っている。
……異文化コミュニケーションというより、同じ人間かが心配になる。
「……探してくれて、ありがとう。心配……していた」あぁ、やっとまともな台詞を聞く事が出来た。
良かった、一応人間の範疇にギリギリだが収まっていた事に安堵する。ともかく、言語が通じるならまだ可能性はある。価値観の違いというか世界観の違いになりそうだが、会話を続けてみよう。
「レイ君達を連れて行きたいんです。仲間になってくれると約束しましたから」
「……ああ、構わん」良かった、通じている。今、異星人とのコンタクトに成功したような感動を覚えた。
ホルス君とメルちゃんがびっくりしている。えっ、そのレベルで貴重な発言だったの?
「凄い、師匠と初めて会って話が出来るなんて!」いや、待って欲しい。どういう驚き方なの?
「ホント、アキラさん凄いですね! 私なんか、一カ月以上まともに会話出来なかったわ!」
おう、酷いなあそれは。……変人というレベルではない。良くそれで生活が出来るなぁ。
「……エビ、焼いても良いっすか?」ジェームスもさすがに生では無理だったらしい。
師匠は頷いた。それを見て、ホルス君がさらに驚いた。
「師匠、なんか変な物でも食べたんですか?」いや、私達から見て現在進行形ですが。
ともかく、師匠という人物が良く分からないが、同意は貰えたようだ。
「レイ君、君も一緒に行きましょう。三人パーティーなのよね?」
「うん、俺なんでも食う」
話が噛み合っているか、微妙に気になるが一応本人の同意も得られた。これ以上の会話が成り立ちそうにない。ジェームス、もうエビは良いから行くわよ。
「メル、ホルス。体……気を付けろ」師匠が別れの挨拶を告げた……と思う。少し自信がないが。
「は、はい師匠。ありがとうございます。今までお世話になりました!」
「師匠! 私……」
感動のシーンだ。それまでの経緯を忘れれば、だが。
……彼らにとっては、重要な事なのだろう。師匠と弟子、その旅立ちに立ち会えたという事だ。
「うむ。エビ、食え!」と、二人にエビを手渡す。良く分からないが、そういう儀式なのだろう。
異世界の風習に常識を求めてはいけない。うむ、ジェームスはエビを美味そうに食っている。結構神経が図太いな、お前……。
レイ君の防具も新調出来たらしい。別れの挨拶も終え、我々と一緒に来る事になった。
今更ながら『外れ』の世界観には驚かされる。いや、この師匠が特別な可能性も無くはない。
「ちゃんと、師匠に認めて貰えてよかったです。レイを探しに行った時は無断でしたから」
……黙って友を探しに、師匠に逆らうホルス君の友情が伝わる、良い話だ。
「間違えて師匠が行く事になったかも知れないので、黙っていたんです」
「……それは、危険だ。確かに声を掛けなくて、正解かもしれない」私は、納得した。仕方のない事だ。
さっきの感動は返して欲しい。良い話だと思ったのに。そしてジェームス、エビを持ったまま付いて来るな。早く食え!
「結構美味いぜ、このエビ」と言うジェームス。知るか!
「このエビ、凄く貴重で……分けてくれるのって、凄い事なんですよ」ホルス君が貰ったエビを見ながら呟く。
「師匠……優しかった!」メルちゃんが泣いている。
……まあ、異世界なんだし、価値観の違いってそう言うものだよね、知らんけど。
「まあ、正式にウチのメンバーになったという事で、宜しくね三人とも」
何と言うか、どっと疲れたがこれからは仲間なのだ。打ち解ける必要もある。挨拶は大事。商売の基本だ。
「はい、宜しくお願いします」「うす」「頑張ります!」それぞれ、元気に返事をする。
まあ、貴重な体験ではあった。あぁ、世界って広いんだなあ……。
「それで……対戦して貰えるんですか?」千鶴ちゃんがウズウズしている。そういえばそうだった。あまりにインパクトが大きかったが、その辺の話もあったのだ。
「そうですねぇ。あまり遠くに行くと『魔族』の縄張りに入ります。何処か、広い場所でやりたいですね」
「じゃあ、このまま本部に挨拶がてら、そこでやれば良いと思うわ。人が居ない世界だから」
最悪リズさんが居るので、間違いは起こらないだろう。間違ってリズさんが参戦する可能性は否定できないが。……あの人、普段は怠けるのに面白そうなイベントには興味あるから困るのだ。
「そうですね、ちゃんと見つかったお礼も言いたいですから」ホルス君の常識を信じておこう。
「やったぁ、強い人、強い人ー」千鶴ちゃんもバトルジャンキーである。
正直、なぜそこまで戦闘に拘るのか、一般人の私には理解出来ない。見ておくだけにしておこう。本部について、皆に挨拶した後で対戦する事になった。全員、何があっても良い様に遠巻きで眺めている。
「行きますよー」千鶴ちゃんが戦闘態勢に入る。どうやら、いきなりフルスロットルらしい。
海賊との戦闘で見たように、物凄い跳躍から一気にホルス君めがけて殴りかかる。超スピードでの一撃だ。これで決まる、と思った。
いや、レイ君が物凄い速さでカバーする。蹴りと肘鉄が入るが全く動かない。
千鶴ちゃんの力を知っていると、おかしいと感じる。山賊が吹き飛ぶ程の破壊力だ、あんなのをまともに食らって、何もダメージを受けていないレイ君。
千鶴ちゃんが、フェイントを織り交ぜてレイ君からメルちゃんに移動しようとするのを、完全にブロックする。どういう理屈だろう。
……恐らくだが、ホルス君が真っ先に仕掛けた。レイ君への補助魔法と千鶴ちゃんへの阻害魔法が発動していると思う。千鶴ちゃん自体には魔法が効かない。だが、阻害魔法は別なのだろう。
……千鶴ちゃんのスピードが遅いのだ。時間操作が発動している時には、千鶴ちゃんが見えなくなる筈だ。だが明らかに遅い。多分、開始と同時にホルス君が仕掛けた。レイ君の動きが速いのもそうだろう。
ホルス君の思考が、完全にこの戦場を支配しているのだ。
「これで終わりです。『ソウルスティール!』」とホルス君が魔法を発動させると、千鶴ちゃんの方が身動きが取れなくなる。
後はメルちゃんの魔法で終わりだ。確かに千鶴ちゃんの全力攻撃が完封されてしまった。
「これが俺の本来の必殺技『ソウルスティール』です。相手の魔法を全て消し去り、魔力をこちらに奪います。……他の魔法は『オマケ』なんですよ」
あれだけ持っている、数々の強力な魔法が全て『オマケ』扱いかぁ。そりゃ、必殺技だわ。
「三人いれば、破壊神も倒せます。ただ、リズさんにだけは勝てません。あの人は、メルの魔法を全てカウンターで相殺しますから。何で、こっちの最大火力を相殺出来るのやら……」
「ああ、私は魔法連射があるからね~。魔法戦で勝てる相手は誰も居ないわよ~」
リズさんは別格、って事か。しかしまあ、派手な戦闘だ事……。一般人にはついていけないわ。
私は、思いがけない戦力増加に戸惑い、今後の予定をどうするか検討する羽目になるのだった。
強いて言うなら異世回です。
……書いている方も分かりません。異世界ものならば、異世界との価値観の違いを見せたかった。
絶対に理解出来ない人、という事でこういう風になりました。
理由? 無いですよ。何かの伏線という訳でも無し。




