表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/158

68.魔王様の晩餐会

 行方不明者を見つけた事だし、レイ君は村に届けておいた。新しい防具を師匠に作って貰うらしい。


 メルちゃんを含む一行は、横浜へと戻った。ホテルの再開まで数日ある。丁度良いので、まだ手を付けていないイギリス料理の魔改造を進める事にしよう。


 犠牲者……、もとい試食の方々に困る事は無い。存分に楽しんで言って貰う事にしよう。


 まずは、食パンを大量に薄切りしてサンドイッチを作っていく。前菜という奴だ。


 そして、まずはミートパイなのだが……このままでも十分にうまい類のイギリス料理だ。しかし、ここは一つ別の料理と組み合わせてみよう。


 まずひき肉を入れる代わりに、ゴロゴロとした肉の入ったビーフシチューに変更してしまうのだ。そして、半熟卵を作り、スコッチエッグにする。黄身がトロトロの方が良いだろうと判断した。


 そのスコッチエッグをミートパイに入れてやる。オーブンで焦げ目がつくまで焼けば完成だ。


「アキラ、随分と色々と作業していたが、普通のミートパイに見えるぞ」

「ふふふ……。馬鹿ね、ジェームス。黙って食べてご覧なさい!」


 ……私のテンションが上がって来た。どうにも笑いが止まらない。


 スプーンをパイ生地に突き立てると、トロっとした中身が出てくる。パイ生地にしみ込んだビーフシチューによって、さくっ、へたっという、二種類の食感になる。


 そこへスコッチエッグを割ると、半熟卵の黄身が合わさって異なる味になるのだ。


「へえ、これは面白いな。味が混ざり合って、別の料理みたいになっている」

「お姉様、これは美味しいです。この料理の名前は何ですか?」

「うふっ、そうね。爆弾ミートパイというのはどうかしら?」スコッチエッグが爆弾みたいだし、面白いかもしれない。


 皆、美味しそうに食べている。……うむ、魔改造こそ我がロマン! という奴だ。



 次に、スターゲージパイだ。こいつを如何した物かと、ロンドンでは悩んだものだ。


 だが、今は醤油を始め味噌や日本酒など、多種多様な調味料が手に入る。何とかしてみる事にしよう。


 まず、小振りなアジを用意して片栗粉をまぶす。あらかじめ油を熱しておいて、素揚げするのだ。


 カリッと揚げたアジを甘酢でしっとりとさせる。アジの南蛮漬けにしてやれば、骨や頭まで全部食べる事が出来る。ビジュアル的には少しあれだが、しっかりと再現しつつ、魔改造する事が出来た。


「なんというか……いつ見てもおかしな見た目なんだよなあ」ジェームスがウンザリとしている。

「その魚、丸かじり出来るようにしてあるわよ。食べてみなさいよ」

「おお、本当だ。ちょっとした酸味も、良いアクセントになっているな」


「うふふ、ふははっ……どうかしら皆さん、私のお料理は」テンション上げで高笑いである。


 なかなかの出来である。まあ、普通のパイで良いじゃない、と言われればそれまでだが。


 だってしょうがないじゃない。……魔改造したかったんだもの。



 そして、以前は蒲焼にした『ウナギのゼリー寄せ』となる。こいつを蒲焼で出してもタダの日本料理である。それでは、『イギリス料理』を看板に掲げる意味がない。


 ここは、それらしくしてやる事にしよう。まずはウナギは白焼きにする。細かく刻んでおこう。


 『かえし』を煮立たせてやり、そこに寒天を加えて白焼きを入れる。火を止めて、冷やし固めてしまおう。


 つまり『ウナギの煮凝り』である。これなら、イギリス料理の魔改造という事になるだろう。


「成程、これならウナギのゼリー寄せという事になりますね」

「味付けもいいな。これならロンドンで食べたよりも美味しいぞ」

「ふっふっふ、あっはっは!! ジェームス、私を誰だと思っているのよ。日本人の魔改造魂を舐めて貰っては困るわね。さあ、いよいよ今回の本命になるわ」


 なかなかに楽しいものだ。やはり厨房に立つと心が躍るようだ。


「……なぁ、アキラ。何でそんなキャラになったんだ? 女王というより魔王だぞ、それ」

「いいじゃない、どっちでも。……今日の私はとても興奮しているのよ! 素晴らしいわ、最高よ!!」

「……お姉様も『魔改造』が始まると、こっち側の人間になりますね、ジェームスさん」

「あまり認めたくないな、それ」

 


 さて、今回の一番の問題児の登場という事で『ハギス』である。


 とにかく内蔵系の食べられない部分を刻んで腸詰にしたという、冒涜的な食べ物である。


 幾ら考えても、人間の食べるものではない。流石にこれについては、全く手を付けられなかった。


 ……だが、内臓という事は『ホルモン』として処理してやればどうだろうか?


 元々、下処理という概念の無いイギリス料理だ。こいつの味と匂いはしっかりと下処理してやれば、何とかなるかもしれない。


 日本人に掛かれば、食べれない物など無いのだ。日本食の魔改造は世界一ィィィィーーーーッ! である。


 まずは各種ホルモンを細かく刻む前に下茹でする。大量の灰汁が出るので、茹で零して塩で洗う。


 とにかく、繰り返し洗うしかないのだ。


 何回か茹でたり塩を付けて擦り、ホルモンの下処理は完了した。随分と手間がかかるものだ。


 そして、出し汁に醤油と酒、砂糖を入れて隠し味として味噌とマーマイトを少量。これで柔らかくなるまで弱火で煮ていくのだ。


 つまり『ホルモンのもつ煮』を作っていく。随分とハギスとは遠い所に行ってしまったが、まあ材料は同じだ。魔改造の範囲で収まると思う。


 トロトロになるまで随分と時間が掛かる。まあ、これは数量限定品とするしかない。宿泊客専用にすれば、人気になるだろう。


 しっかりと火が通った所で、同じく丁寧に下処理をしておいた牛の腸を用意する。


 此処に煮込んだもつ煮を詰めて、ハギスっぽくしてやる。


 これを先程までに詰めていたもつ煮のスープで、徹底的に煮込んでやるのだ。


 もう、ハギスに親でも殺されたのか、というような風情ではあるが、どうしても『イギリス料理』の魔改造をコンプリートしてやる一心である。


「お姉様、随分と手間を掛けていますね。実際手間賃を考えたら大赤字じゃないんですか?」

「良いのよ、千鶴ちゃん。『ハギス』を攻略せずに『イギリス料理』を完成させたとは言えないもの。ほーっほっほっほ!!」

「……何だよ、そのテンションは! 変だぞ、それ?」ジェームスは呆れている。


 なんだっていい、ハギスを魔改造するチャンスなのだ。


 ……なんと言うか、もつ煮である。随分と小さくなってしまった。


 ともあれ、ハギスのもつ煮、完成である。


 ……ローストビーフは流石に、手を加えるのが難しい。まあ、牛のたたき風に表面をあぶって、後から塩を振りかけてやる。


 デザートは、スコーンにジャム。これでミッションコンプリートである。


「出来たわ。これで『イギリス料理のフルコース』よ! 看板商品になりそうな一品ね。どうよ、皆さん」

「実際、これ食べる人が居るんでしょうかね?」千鶴ちゃん、そこでマジになられても困る。

「俺達には、よく分からない世界だなあ。何故そこまでして?」ホルス君、考えるな。感じるのよ!


 ともあれ、結局物凄い手間を掛ける事になってしまった。


 実用的でない事は確かである。だが、そこに『イギリス料理がまずいから』という理由がある。それだけで十分やる甲斐のある仕事であった。やるだけやったら満足した。



「……という訳なんですよ。まあ、予約限定ですねぇ」


 結局、常連さんからは説明は求められるが注文して貰えないという、本末転倒した魔改造なのであった。


 まあ、楽しかったので問題は無い。話のネタにでもなるし、暇を持て余した私の趣味である。


 私は、思い残すことなく『イギリス料理』を極めたと、自信をもって胸を張るのであった。

久々のグルメ回です。どうにもやりたかった。魔改造+女王=魔王である。間違ってはいない。


せっかく調味料は手に入ったし、何となくそれっぽい感じに。何でこんなテンションになったかは謎。


いちいちレシピを確認するという、手間の入れようです。


……無駄に手間の掛かる回でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ