68.魔王様の晩餐会
行方不明者を見つけた事だし、レイ君は村に届けておいた。新しい防具を師匠に作って貰うらしい。
メルちゃんを含む一行は、横浜へと戻った。ホテルの再開まで数日ある。丁度良いので、まだ手を付けていないイギリス料理の魔改造を進める事にしよう。
犠牲者……、もとい試食の方々に困る事は無い。存分に楽しんで言って貰う事にしよう。
まずは、食パンを大量に薄切りしてサンドイッチを作っていく。前菜という奴だ。
そして、まずはミートパイなのだが……このままでも十分にうまい類のイギリス料理だ。しかし、ここは一つ別の料理と組み合わせてみよう。
まずひき肉を入れる代わりに、ゴロゴロとした肉の入ったビーフシチューに変更してしまうのだ。そして、半熟卵を作り、スコッチエッグにする。黄身がトロトロの方が良いだろうと判断した。
そのスコッチエッグをミートパイに入れてやる。オーブンで焦げ目がつくまで焼けば完成だ。
「アキラ、随分と色々と作業していたが、普通のミートパイに見えるぞ」
「ふふふ……。馬鹿ね、ジェームス。黙って食べてご覧なさい!」
……私のテンションが上がって来た。どうにも笑いが止まらない。
スプーンをパイ生地に突き立てると、トロっとした中身が出てくる。パイ生地にしみ込んだビーフシチューによって、さくっ、へたっという、二種類の食感になる。
そこへスコッチエッグを割ると、半熟卵の黄身が合わさって異なる味になるのだ。
「へえ、これは面白いな。味が混ざり合って、別の料理みたいになっている」
「お姉様、これは美味しいです。この料理の名前は何ですか?」
「うふっ、そうね。爆弾ミートパイというのはどうかしら?」スコッチエッグが爆弾みたいだし、面白いかもしれない。
皆、美味しそうに食べている。……うむ、魔改造こそ我がロマン! という奴だ。
次に、スターゲージパイだ。こいつを如何した物かと、ロンドンでは悩んだものだ。
だが、今は醤油を始め味噌や日本酒など、多種多様な調味料が手に入る。何とかしてみる事にしよう。
まず、小振りなアジを用意して片栗粉をまぶす。あらかじめ油を熱しておいて、素揚げするのだ。
カリッと揚げたアジを甘酢でしっとりとさせる。アジの南蛮漬けにしてやれば、骨や頭まで全部食べる事が出来る。ビジュアル的には少しあれだが、しっかりと再現しつつ、魔改造する事が出来た。
「なんというか……いつ見てもおかしな見た目なんだよなあ」ジェームスがウンザリとしている。
「その魚、丸かじり出来るようにしてあるわよ。食べてみなさいよ」
「おお、本当だ。ちょっとした酸味も、良いアクセントになっているな」
「うふふ、ふははっ……どうかしら皆さん、私のお料理は」テンション上げで高笑いである。
なかなかの出来である。まあ、普通のパイで良いじゃない、と言われればそれまでだが。
だってしょうがないじゃない。……魔改造したかったんだもの。
そして、以前は蒲焼にした『ウナギのゼリー寄せ』となる。こいつを蒲焼で出してもタダの日本料理である。それでは、『イギリス料理』を看板に掲げる意味がない。
ここは、それらしくしてやる事にしよう。まずはウナギは白焼きにする。細かく刻んでおこう。
『かえし』を煮立たせてやり、そこに寒天を加えて白焼きを入れる。火を止めて、冷やし固めてしまおう。
つまり『ウナギの煮凝り』である。これなら、イギリス料理の魔改造という事になるだろう。
「成程、これならウナギのゼリー寄せという事になりますね」
「味付けもいいな。これならロンドンで食べたよりも美味しいぞ」
「ふっふっふ、あっはっは!! ジェームス、私を誰だと思っているのよ。日本人の魔改造魂を舐めて貰っては困るわね。さあ、いよいよ今回の本命になるわ」
なかなかに楽しいものだ。やはり厨房に立つと心が躍るようだ。
「……なぁ、アキラ。何でそんなキャラになったんだ? 女王というより魔王だぞ、それ」
「いいじゃない、どっちでも。……今日の私はとても興奮しているのよ! 素晴らしいわ、最高よ!!」
「……お姉様も『魔改造』が始まると、こっち側の人間になりますね、ジェームスさん」
「あまり認めたくないな、それ」
さて、今回の一番の問題児の登場という事で『ハギス』である。
とにかく内蔵系の食べられない部分を刻んで腸詰にしたという、冒涜的な食べ物である。
幾ら考えても、人間の食べるものではない。流石にこれについては、全く手を付けられなかった。
……だが、内臓という事は『ホルモン』として処理してやればどうだろうか?
元々、下処理という概念の無いイギリス料理だ。こいつの味と匂いはしっかりと下処理してやれば、何とかなるかもしれない。
日本人に掛かれば、食べれない物など無いのだ。日本食の魔改造は世界一ィィィィーーーーッ! である。
まずは各種ホルモンを細かく刻む前に下茹でする。大量の灰汁が出るので、茹で零して塩で洗う。
とにかく、繰り返し洗うしかないのだ。
何回か茹でたり塩を付けて擦り、ホルモンの下処理は完了した。随分と手間がかかるものだ。
そして、出し汁に醤油と酒、砂糖を入れて隠し味として味噌とマーマイトを少量。これで柔らかくなるまで弱火で煮ていくのだ。
つまり『ホルモンのもつ煮』を作っていく。随分とハギスとは遠い所に行ってしまったが、まあ材料は同じだ。魔改造の範囲で収まると思う。
トロトロになるまで随分と時間が掛かる。まあ、これは数量限定品とするしかない。宿泊客専用にすれば、人気になるだろう。
しっかりと火が通った所で、同じく丁寧に下処理をしておいた牛の腸を用意する。
此処に煮込んだもつ煮を詰めて、ハギスっぽくしてやる。
これを先程までに詰めていたもつ煮のスープで、徹底的に煮込んでやるのだ。
もう、ハギスに親でも殺されたのか、というような風情ではあるが、どうしても『イギリス料理』の魔改造をコンプリートしてやる一心である。
「お姉様、随分と手間を掛けていますね。実際手間賃を考えたら大赤字じゃないんですか?」
「良いのよ、千鶴ちゃん。『ハギス』を攻略せずに『イギリス料理』を完成させたとは言えないもの。ほーっほっほっほ!!」
「……何だよ、そのテンションは! 変だぞ、それ?」ジェームスは呆れている。
なんだっていい、ハギスを魔改造するチャンスなのだ。
……なんと言うか、もつ煮である。随分と小さくなってしまった。
ともあれ、ハギスのもつ煮、完成である。
……ローストビーフは流石に、手を加えるのが難しい。まあ、牛のたたき風に表面をあぶって、後から塩を振りかけてやる。
デザートは、スコーンにジャム。これでミッションコンプリートである。
「出来たわ。これで『イギリス料理のフルコース』よ! 看板商品になりそうな一品ね。どうよ、皆さん」
「実際、これ食べる人が居るんでしょうかね?」千鶴ちゃん、そこでマジになられても困る。
「俺達には、よく分からない世界だなあ。何故そこまでして?」ホルス君、考えるな。感じるのよ!
ともあれ、結局物凄い手間を掛ける事になってしまった。
実用的でない事は確かである。だが、そこに『イギリス料理がまずいから』という理由がある。それだけで十分やる甲斐のある仕事であった。やるだけやったら満足した。
「……という訳なんですよ。まあ、予約限定ですねぇ」
結局、常連さんからは説明は求められるが注文して貰えないという、本末転倒した魔改造なのであった。
まあ、楽しかったので問題は無い。話のネタにでもなるし、暇を持て余した私の趣味である。
私は、思い残すことなく『イギリス料理』を極めたと、自信をもって胸を張るのであった。
久々のグルメ回です。どうにもやりたかった。魔改造+女王=魔王である。間違ってはいない。
せっかく調味料は手に入ったし、何となくそれっぽい感じに。何でこんなテンションになったかは謎。
いちいちレシピを確認するという、手間の入れようです。
……無駄に手間の掛かる回でした。




