67.とっても変な三人組
「……驚いた。本当に近いじゃない」
兵馬俑の『門』を超えた先、そこは海。遥か遠くに小さな富士山が見える。
此処は伊勢の国。この近くにホルス君の村があるという。
「うーん、ここの世界は西暦何年なんだろうね?」私は首を傾げる。『魔族』がいる時点で、西暦も何もない気がするが……。
「多分、まったく異なる世界なんだろうな。辛うじてそこに『伊勢神宮』がある位だ。それ位しか共通点が無いんじゃないかな」ジェームスの意見ももっともだ。
「……魔法の違いも考えると、まったくの別世界ですね。『殴り巫女』は居ないんですか?」
「えっと、逆に『殴り巫女』じゃない巫女さんがいるんですか?」
ホルス君との異文化コミュニケーションだ。え、全員戦えるの?
「『魔族』と戦うためなので、普通の女性の一般教養というか……大人になると『殴り巫女』の修行をします。悪霊とかが普通にいますから」
……ああ、文化というか既に生活から違うのね。
「成程『外れ』の世界での価値観の違いって、このレベルなんだ……」流石に、これでは商売出来ないかなあ。残念だ。
「それだけ魔道具は発達してそうだな。……楽しみになって来た」
「私の知っている日本とは違いますねぇ」千鶴ちゃんでさえ、驚いている。
とりあえず村へ向かおう。神隠し扱いだから心配していた人も居るだろう。
……と思っていたら、こっちに飛び出してくる女の子がいる。
「ホルス―! 良かった無事で。……どうして帰ってこなかったのよ」
「仕方ないだろ、あの『門』が開かないと帰ってこれないからな。今回、レイを見つけてくれた人達だよ。仲間に入れて貰う事にしたんだ」
「じゃあ、私も入る!」おおう、いきなりだなこの子。
どうにも元気が空回りする様だ。他人には思えない。……ジェームス、分かったからこっちを見るな。
「メル、お前だけじゃ危ないだろ」
「私だって戦えるもの。ホルスだって一人じゃ危険よ! 二人いれば何とかなるわ!」
「……すみません、こいつが仲間の一人のメルと言います」
「妻のメルです! よろしくお願いします!」
「だから、ただの幼馴染だろ。どうしてそうなるんだよ」
なんと言うか、危なっかしいというか。思い込みも激しいのね。……だからジェームスはこっちを見るなって。自覚はあるんだから。
「三人でパーティを組んでいました。二人じゃバランスが悪いので、メルは留守番させて俺だけが探しに行ったんです」
「いいわよ、宜しくね。メルちゃん。『青い鳥』にようこそ―」
「宜しくお願いします。『殴り巫女』の千鶴です」
「ジェームスだ。魔道具師をやっている」
いつもながら、テキトーなメンバー加入だ。まあ、出来る事をやって貰えばいいし。……変人には慣れているのだ。
「こいつは魔法担当なんです。魔法だけなら、リズさんよりも上だと思います」
「えっ、そんなに凄いの?」
「……こいつ、五音節以下の魔法が使えないんです」それはまた、変わっているなあ。
「いいじゃん、バンバン強い魔法でなぎ倒せば!」
そして危険思想の持ち主、と。成程、実にウチのメンバーらしい感じだ。
「まあ、こいつがパーティーのアタッカーで。魔法が発動するまでこいつを守らないと、案山子以下の戦闘力しかありません」
「ホルスなら絶対守ってくれるし。レイもいるから大丈夫よ。アイツ、見つかったんだって?」
「ああ、居場所だけな。とりあえず、生きている事だけは確かだ」
「……アイツなら何処に行っても死なない、とは思ってたけどね!」
……謎の信頼関係。ああ、今回も駄目だったか。やはり変人しか来ないなぁ。
「すみません。俺が器用貧乏というのは、こいつら基準なんです。レイが防御役で、俺が妨害と補助。こいつがトドメで三人いないと全く無力で……まあ、三人揃えば千鶴さんの最強状態でも完封出来ますよ」
千鶴ちゃんが安い挑発に乗りそうだ。忘れてたけど、基本的に強敵と戦いたいという希望はあるんだった。
「いいですねえ。三人揃ったら、力試しさせてくださいね」あ、挑発に乗った。
「……バリアの魔道具、作っとくわ」ジェームスが反応する。うん、ヤバそうだこれ。
「ともかく、レイを探しに行こう。メルも来るか?」
「行く!」そういう事になった。
そうは言っても、近いんだこれが。奈良のどの辺かは探す必要があるけれど、まあ時間は掛からないだろう。
「本当に、その『宝玉』便利ですね。何となく、その機能はオマケで別の能力がありそうですけど」
「うん、それについては全然分からないのよ」
まあ、便利だから気にしない事にしている。
「あっちの方ね。お寺……じゃないわね。山の上だわ」
「あぁ、それじゃあ『石舞台』ですね。あの辺りは、良くうろついていました」
古墳の中の石だけが露出した古代の遺跡。どうも、物凄く昔に分岐した世界かも知れないなあ。
「あれです」と指さした先には、十m位の巨大な岩がある。元居た世界にもあったと思う。
どれどれ。ああ、丁度岩の上にあるのか。もしかして、元々古墳じゃなくて『門』の足場だったのかも。
「条件は……三十年間で十日だけ。うーん、これは普通に無理だわ」
「なんて確率で落ちたんだアイツは……まあ、アイツらしいか」
その友人、どういうポジションなのか気になるわね。
「とっとと開けてしまいましょう。近づいたらペンダントで分かるのよね?」
「はい、方角も分かるので、何とかなると思います」
その道具、とっても便利ね。……ジェームス、作れない?
「そこまで難しい訳じゃないが……東洋系の魔道具かな?」
「ええ、魔除けみたいなもので。師匠に聞けば分かるんですが……」
「何か問題でも?」
「その……師匠、凄い変人で。あの……まともに会話できるかどうか」
任せなさい、変人の取り扱いについてはベテランなのよ。言ってて悲しくなるけど……。
「それは後にして……こっちですね」どこを見ても森しかないんだけど。
「えっと、歩ける?」
「枝を切りながら何とか……」本当にこんな所で、二年も生きている人間がいると。
特にペンダントの反応は動かない。少し色が濃くなった感じだ。
「その……本当にこの世界に人は居るんでしょうか?」千鶴ちゃんの疑問ももっともだ。
「レイは生活力があるというか……多少気にしないというか」
「はっきりと『原始人並み』って、言った方が良いと思うの!」メルちゃんは辛辣だ。パーティーの仲間なんだよね?
まあ、それでも何とか森を切り崩していくと、少し高い丘の上に出た。
「レイだ! 何してるのよ、あんた」メルちゃんは、周りを放っておいて突撃する。なんか親近感が沸くなあ。
「……何か、似ている奴を知っているな」ジェームス、はっきり言いなさいよ。
ごちゃごちゃと、ゴミみたいなものに埋め尽くされた中に、人が倒れている。いや寝ている。
「……生きているのよね?」
「はあ、いつもの事です」ホルス君もちょっと、メンバーに対する態度なのか疑問が残る。
「……あれ、メルじゃないか。久しぶりー」
「何寝ぼけた事言ってんのよ! 二年も何してたのよ、あんた。皆死んだと思ってるわよ!」
レイ君はゆっくりと立ち上がった。……姿絵とはずいぶんと違うけど。
「レイ、お前成長期か? ずいぶん大きくなって……」成長期と呼ぶには、何か大きくなり過ぎだと思う。
二m近いんですけど。何と言うか、面影らしいものも無い。
「ホルスか。えっと『魔族』退治に来たら、何処にも居なくてな。面倒になってうろうろしてた」
「……普通、それ『遭難した』って言うんだぞ、レイ」
どうにも話が噛み合わないが、一応助けたって事で良いのかな?
「あーあ、防具も全然小さくなって……師匠も心配してたんだ。帰るぞ」
「はいよー。帰る」
「あぁ、皆さん。こいつがレイです。見た通り、あんまり……その、ええと『野生児』なんです」
とうとう言葉が出なくなった。ホルス君、分かるよ。どう見てもそうなるよね。
「もう、あんたはいっつも迷惑を掛けて!」
「ごめんごめん。じゃあ、帰ろうかー」
「彼が例の魔法剣士なの?」どうにも、こん棒とか斧が似合いそうなんだけど。
「正確には、この魔法剣を持った剣士なんです」ああ、やっぱりそうなんだ。
つまり、本人は剣士というか『野蛮人』って感じなのね。その師匠が魔法剣を作ったと。
「……魔法剣というのは、剣の魔道具とは違うのか?」
「ええ、魔術回路とかは無くて、魔法銀を混ぜ込んだ剣ですね」
「ほほう、詳しく」あ、ジェームスが食いついた。
「師匠だけしか作り方は知りませんけど、魔法を取り込んでそのまま叩きつけるんですよ」
「じゃあ、本人は魔法は使えないの?」
「ええ、レイの技能は『物理特効』だけなんです。だから防御担当になっています。本人の生命力が高いので、どんな攻撃でも受け止められます」
ああ、千鶴ちゃんの好きそうなタイプだなあ。実際気が合いそうだ。
「なぁ、ホルス。この人達……誰?」やっと気が付いたのか。えっと……もしかして。
「この人達にお前の捜索を頼んだんだぞ。まったく、お礼を言えよ、レイ」
「……ありがとう」
……ああ、ホルス君がパーティの頭脳、というか考えないと大変な事になる訳だ。
「申し訳ありません。本人はいたって良い奴なんです」
「あぁ、気にしなくていいわよ。変人の扱いは慣れているし」
「……その、こいつ仲間に入れます?」何で疑問形なのよ。……まあ、三人纏めて面倒見ようじゃない。
変わったメンバーだけど頼もしい? じゃないのよ。実際強そうではある。
考える知能があるのか、心配にはなるのだが。まあ、何とかなるわよ。
「すみません、お世話になります」ホルス君、君がこのパーティの被害担当者、という事だけは良く分かったわ。
私は、個性的なメンバーを見ながらやはり変人ばっかりか、と溜息を吐くのだった。




