表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/158

5.ちょっと異世界ぶらり旅

「それでは、希望の品はお聞きしました。次回、多分一月先位にこちらへ参ります。……この子も一緒に」


 私が旅立つ日になると、集落全員のお見送りで帰る事となった。


 裁縫用の針と糸各種、それを染めるための染料一揃い。出来るだけ色は大目に仕入れよう。他に問題になるのは、水の確保だろう……。これについては、帰ってから作戦を練らなければならない。


 食料と水をそれなりに分けて貰い、バッグに収める。途中の町で追加補給すれば、特に問題はない。日除けのため、お母さんが昔使っていた白いマントとターバンを譲って貰い、身に着けている。


 よくよく考えてみると、これって私が思い描くイメージ通りの商人の格好だ。ちょっと面白い。


 念のために近くの町までは、族長の息子さんが送ってくれるそうだ。良かった。これで遭難だけはしなくて済む。


「では、気を付けて帰るのだぞ。決して無理して行き倒れにならぬようにな」お爺さんからの皮肉が入る。


 そうですね、倒れてましたもんね、私……はい、気を付けます。とりあえず、この子もいるので移動日数は大幅に短縮できそうだ。まずは敦煌まで走らせてみて、大丈夫か様子を見よう。


「そうじゃ、お嬢。あと二カ月程すると、我ら一族の『クリルタイ』がある。次来る時には、もう少し長く滞在していくとよい。賑やかになるからの」と、お爺さんからのお誘いがあった。


「クリルタイって何ですか?」と聞いたが、集会みたいなものだとしか分からなかった。


 それについては、次回のお楽しみとしておこう。


「それじゃあ、そろそろ行きます。皆さん、色々とありがとうございましたー」と、私は大きく手を振った。皆も同じように、手を振っている。そして元来た道を、今度は馬に乗って駆けてゆく。


 ……振り返ると、小さく見える集落で何時までも手を振っている皆が見えた。



 そして、思った以上にこの子は力強く走り続けた。もちろん、揺れて気持ち悪くなったりもしていない。


 予定を遥かに短縮し、出発してすぐに目的地の敦煌周辺にある遺跡に到着した。何の変哲もない場所に見えるのだが、ここに『門』がある。


 『門』のある場所には、必ず古代遺跡や墓所、何らかの施設が建造されているのだ。



 そういう訳で、今この場所である『17世紀頃の敦煌の遺跡』に、今回の帰路となる第1の『門』があり……。

 そして、最終的な目的地は「ストーンヘンジ」がある『18世紀頃のイギリス』となる。そこまでに必要な『門』の通過は七回。およそ二週間の日程だ。


 別にタイムマシンを使う訳ではないのだ。いわゆるパラレルワールド、と言う方が誤解を招きにくいのだろう。『門』を通じて異なる世界が繋がっていて、それぞれの歴史上の時間は一致していない。


 そこら辺の詳しい話は自分を含め、誰も知らないらしい。


 この『門』と言う、黒い球を潜り抜けると別の世界に移動出来る、という事だけは辛うじて理解している。


 ともかく『そろそろ西暦1801年になる、あるロンドン市内』には、私の経営する魔道具屋がある、というのは間違いない事実。


 ……別の世界にもロンドンはある。だが、そこのロンドンとはまったく関連性が無い。ややこしいのだが仕方がない。


 従業員にして魔道具師兼、店長代理という超ブラック勤務の人がおり、いつも「早く帰って来いよ!」と、怒られてしまう。なので、可及的速やかに帰る必要があるという事だ。


 うーん、分かりやすくはなったのだが、帰る気持ちは少なくなったよなぁ……。



 私は、周りに誰も居ない事を確認して胸に着けられている『宝玉』を操作した。いつものように『宝玉』が何回か点灯と点滅を繰り返して、近くにあった『門』が開く。


 先ほどの空間には、半径五m位の丸くて真っ黒な『門』がある。……いつ見ても不気味である。知らなかったらここには絶対に入りたくない、と思う。


 真っ暗な空間にしか見えない、その『門』に向かって私と子馬が歩いて中に入っていく。子馬は怯える事もなく、その暗いトンネルを静かに進んでくれた。



 この『門』という奴を通り抜ける為には、一定の条件を満たす必要がある。


 まず『門』には、決まった期間や特殊な条件を満たさないと『門』が発生する事はなく、目視する事さえ出来ない。


 また、生まれつき見えないという人も結構な割合で存在し、その人は『門』を通る事が出来ない。


 ただし私の持つ『宝玉』があれば、何時でも『門』を通り抜ける事が出来る。それが私の特別な能力。


 『宝玉』を使う事で、本来通れない期間に『門』を通過したり、『門』の場所や発生条件を確認する事だって出来る。


 何なら、どの『門』を経由すれば目的の世界に行けるかを、地図の様に見る事だって可能だ。


 まるで、カーナビか何かのようだ、とは思う。


 思うのだが、……その機能は、何気に『宝玉』を色々弄っていた時に偶然気が付いただけ。


 操作というか、自分で『こう動かしたい』と念じて手に触れているだけだ。


 ……私にとっては『便利だなぁ』以外の感想は無い。


 だが、それを誰かに教えて貰った訳ではないし、もしかしたら他にも機能があるのかも知れない。


 そもそも『宝玉』がどうやって私の手元に来たかさえ、今のところ分かっていない。


 当時の人から聞いた話では、私が元居た世界から飛ばされた時には既に持っていた、との事だった。



 その後、他の誰かが使えないか『門』を起動する技術や理論についても、高名な魔導師や魔道具師にも調査して貰ったが、誰一人『門』の起動さえ出来なかった。


 ……魔道具なのか、他の技術が使われているかも不明。


 ある魔道具師曰く『悪魔や神様でもなければ、こんな代物は造れないよ』と、太鼓判を押されてしまった。


 どんな技術で作られたのか『宝玉』には組み立てる為の継ぎ目も無く、その中心部には何かの呪文のような物が細かく刻み込まれているらしい、との事だ。いわゆる『オーパーツ』と言えば良いのか。


 こちとら、一般の女子高生である。そんな難しい事を言われて悩むほど、人間は出来ていないのだ。ある物は使う。ただそれだけの事として、割り切ってしまおう。細かい事は知らん。


 ある物は使わなければ意味がない。たとえ悪魔が作り出した物だとしても、私は元の世界に帰るために躊躇しないと思う。


 知らない使用リスクがあったとしても、私は新たな世界を探して何処までも進むだろう……。私は『冒険狂トラベラー』なのだから。


 それが、私が未知なる世界を旅をする目的でもあるし『今、ここにいる理由』なのだ。



 そんな事を思い出しながら歩き続ける事、小一時間。やっと、真っ暗なトンネルから抜ける事が出来た。ロンドン到着までに残り六回もこれを繰り返すのか……と思うと、今から憂鬱が止まらない。


 目の前の子馬は『ほら、頑張れ!』とでも言うようにヒヒーンと嘶き、私は驚いて鞍からずり落ちそうになるのだった。

 序盤は、少しずつ世界観を含めた話になります。後半になる程、トラブルの規模が大きくなります。


< 史実商人紹介 >

テコ入れなのか、チラシの裏なのかとりあえず続くこのコーナー。「絶対それ商人じゃない」と、反論が来そうだが、戦国時代の大物を紹介しよう。


織田 信長(1534-1582)


 戦国時代の天下人。言っている事がおかしいと思うが、あの時代で一番『お金』の概念を持っていた人、という事でエントリー。そもそも大幅補正が入っているせいで超有能扱いされているが、あまり戦争は上手ではない。調略させると謀反人が出まくる、そして死ぬ。この人、内政以外はイマイチなのだ。

 上洛して最初の希望が「大津と堺が欲しい」である。そこは戦国時代でもトップ5に入る、超商業都市。


 明らかに金が欲しい、と言っている。そして、戦争では維持費が掛かりまくる鉄砲隊を指揮し、常備兵を整えた。先進的なのではない。「重臣も兵士も居ないが金だけはある」ので仕方なくやった事だ。


 商売人扱いも当然と言える。茶の湯を推し進めて、領土の代わりに渡した等の逸話も同様だろう。


豊臣 秀吉(1537-1598)


 戦国時代の天下人。此方は全てを金の力でゴリ押ししたので、エントリーである。金で朝廷を動かして、新しい『氏姓』を貰う、と言う時点で物凄いゴリ押し。現代人の感覚でいう苗字ではない。それまで「源・平・藤・橘」しかなかった『氏姓』に追加させたのだ。


 その他にも「城を兵糧攻め」「城を水攻め」「城の周りで遊びまくり」と、金にモノを言わせた合戦が沢山ある。全国の鉱山を直轄地にして金銀を貨幣にしたり、太閤検地で石高を上げたりと、やっている事が全て金に関連している。商売人と言って差し支えないだろう。


 大阪で人気なのは分かるとして、京都人が金でゴリ押した件をどう思っているのか、聞いてみたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ