64.魔法の申し子の実力は
「俺の名前はホルスと言います。皆さんの言う通り魔導師です」
ホルスと名乗る青年は、例の親友について教えてくれた。
「あの、俺の親友は魔法剣士で同じ師匠から戦闘技術を学んでいました。その師匠からお互いの無事が分かる様に、ペンダントを貰ったんです。近くに居れば色が変わる。そして……光が消えたら死亡、と」
そのペンダントを胸元から出して見せて貰った。確かに暗い赤色に光っている。
「それで他の世界の噂を耳にして……きっと別の世界に居ると思い、色々と彷徨いました」
「大変だったでしょう。『門』が何時開くか分からないのに……」
「ええ、最初の『門』を見つけるのに一年掛かりました。そこからは、『青い鳥』の噂を聞いて。ダルイムの街で、ここの噂を聞きつけてようやくこの店に……ただ、どうやって話を切り出そうか、と思って」
「あぁ、それで毎日通っていたと……御免なさい、気が付かなくて」
千鶴ちゃんが居なかったら、絶対に気付かなかっただろう。それにしても、自力でここまで来るのは苦労しただろうに。
「……『門』を見張り続けるのに精一杯で、お金を稼ぐのも一苦労で。飯もろくに食ってなかったんです」
「そうだったの、じゃあ『夜鳴きそば』を持って来てあげるわ。千鶴ちゃん、魔法について聞いておいて貰える?」
「はい、わかりました。私も興味があります」
厨房に戻ると、もう客はほとんど帰っている。安藤さんが売上台帳の整理が終わったらしく、こちらに来ていた。在庫も結構あるし、イギリスとの貿易はしばらくお休みして、ウイスキーの一般販売を行って貰っている。
「あら、安藤さん。夜遅くまで大変ね、どうしたの?」
「いえ、仕事に熱中しすぎて、晩飯を食うのを忘れていました」と、にへらと笑った。
「駄目ですよ、体には気を付けなきゃ。そうだ『夜鳴きそば』を作るから、食べて行きなさいよ」
「蕎麦……ですか?」
「正確にはラーメンね。食べた事無い?」
安藤さんとラーメン、何か忘れているような気がした。なんだろう?
「いえ、食べた事はありません。麺料理なんですか?」
「説明するより食べた方が分かりやすいわね。今温めるから待っていてね」
元々、4人前準備するつもりだったのだ。一人分増えても問題は無い。
「……安藤さんの下の名前って、何か読み辛かったと思うんだけど。どんな名前でしたっけ?」
「ああ、良く言われます。『安藤 百福』って言います」
「ふーん、変わったお名前ねえ……?」
……ん? ラーメン。百福ねえ。何処かで聞いたような、組み合わせのような……? あっ、思い出したわ。
チキンラーメンだわ! 日清食品の創業者だった人……何でこんな所に居るのよ。今まで気が付かなかったわ。だって……履歴書の名前、読めなかったんだもん。
なんという『運命』の悪戯か。私が彼にラーメンを教えた事になるのだ。まあいい。細かい事は忘れよう。確かチキンラーメンの発売は戦後の筈だ。ここが戦争で焼けたら、そういう運命を辿るのだろう。
「はい、安藤さん。これがラーメンよ。とっても美味しいから覚えておいてね」
「……美味い、これは凄く美味いです。蕎麦よりもモッチリとした麵に、絡みつくスープがすっきりとしています! これが、これがラーメンなんですね!!」予想通り物凄い反応だった。
ああ、歴史書には書かれない、何と言うか壮大なのか微妙なのか分からない『運命』の会合である。私は、特に何もするつもりは無い。きっと勝手に悪戦苦闘しながら、インスタントラーメンを開発するのだろう。
「気に入ってくれて嬉しいわ。お仕事も良いけど、ゆっくり休んでね」と、声を掛けて貿易会社に戻る。
……分かってくれないだろうなぁ誰も。無駄に奇跡の化学反応が起こった事を、理解してくれる人は居ないだろう。だって、日清食品の事を知っているのは、私だけなのだから。
なんというか、どうにも不条理を感じながら、全員に『夜鳴きそば』を配る。皆美味しそうに食べる。何時かお湯を掛けただけで食べられるようになるよ、とは言えないなあ。
「ありがとうございます。色々話をして、女将さんがあちこちで他の世界を探している事は理解しました。俺の特殊能力なんですが……魔法を解析する、と言ったら良いのかな? 一度見た魔法を覚えらえれるんですよ」
うん、何かおかしい話があったような。確か、生まれた世界以外の魔法は使えないと聞いたのだが。
「……羨ましい、それ。何処の世界の魔法でも、覚え放題なの?」
「いえ、特殊な契約や肉体的な条件が無いものに限りますね。魔道具の魔術回路をコピーする事も有りますよ。多分、千鶴さんの使う魔法は無理かと……」
「あぁ、私なんて『オド』だけが物凄く多くて魔法の無い世界生まれだから、魔法が使えないのよ。羨ましいわ」
くうー、その能力をちょっと分けて貰えれば、魔法が使い放題なのに! ちょっと、コツとかないかしらね?
「『オド』が凄く多い……羨ましい。俺は、生まれつき『オド』が低いから必死に修行して、魔力の変換効率を上げているんです……。それに、お金持ちだとも聞きました。もう、俺は貧乏で苦しい目にばっかり……」
何だろう。隣の芝は青い、どころの騒ぎではないなあ……。
「俺の特殊能力で、魔力の流れや構造・魔術回路などが見えるんです。そうやって解析して、色々と練習して魔法を覚えるので、他の人には出来ないです。残念ですが……」
「むう、悔しいなあ。それで……その魔法って結構違うものなの?」
「今まで移動した世界の魔法は、ほとんど使えます。例えば回復系で二十種類とか、風魔法で十五種類とかですね。必要に応じて、使い分けをして戦うのが基本スタイルです」
この人は魔法の天才なのだろう。だが、こんな天才であっても、本部は迎えに来ない。……私以外で本部からの保護があった話を聞いた事が無い。……何か隠されている気がする。
「……とりあえず、ウチに泊まりなさいな。実際に魔法を見せて貰いたいし、暫く待ってもらえば、本部にも連れて行くわよ」
「良かった。これで親友を探せるかもしれません。宜しくお願いします」
「ホルス君、ようこそ『青い鳥』へ!」
皆で迎え入れる挨拶をする。まあ、別に条件もテストも無い訳だが。いつも、テキトーに仲間扱いしているだけである。
ただ、彼の魔法には興味がある。だって、回復魔法が二十種類って。どんな効果があるんだろう。明日、手の空いた時に披露して貰おう。
「へえ、変わった特技だねぇ……。魔道具も見れるって事は、俺の手伝いをお願いしたいね」
「私は戦ってみたいです。思う存分力試しが出来ます」
「あの、千鶴さんは魔法効かないですよね。俺の天敵なんです、それ」
「あ、そこまで分かるんですか。凄いですね」
何だか、色々と盛り上がっているなあ。まあ、頼もしい仲間である事に違いない。私の『宝玉』も解析出来るのだろうか?
「ねえ、ホルス君。私の持っている『宝玉』は、何時でも『門』を開けるのよ。解析出来るかしら?」
「そりゃ便利ですねぇ。どれどれ? ……うん、わかりません!」
なんだそりゃ、まあ期待はしていなかったけどね。
「多分、魔道具だとは思いますよ。ただ、複雑すぎて魔術回路が読めないです。どうやって手に入れたんですか、それ?」
「うん、私にも分からないの……。気が付いた時には手元に有って。使い方も詳しく知らないの」
やはり、これを把握出来る人は居ないのか。……少し残念だ。
「俺も、あれを見たがさっぱり分からん。今までに見た東西の魔道具のどれにも当てはまらないからなあ」
「ジェームスさん、東西の魔道具を知っているって凄いですね。とても興味があります」
「ああ、今度研究を見せてやるよ。結構面白いんだぜ、東洋の魔道具って」
……あぁ、やはりホルス君も変人枠だったか。どうにも、そう言う人間を呼び寄せているように感じる。
「じゃあ、お話はこれ位にして。ホルス君の部屋に案内するわ」
「ありがとうございます。何から何までお世話になって……」
「良いのよ。仲間だもの、遠慮する必要は無いわよ」
さて、ホルス君については色々と聞きたい事もあるが、お互いの利益も一致しそうで良かった。
私は、新しい仲間と出会う事が出来て、明日の楽しみを抑えるのに、かなり苦労しながらも眠りについた。
新キャラのお披露目会です。大量の魔法が使える便利キャラで頭脳派。参謀的な立ち位置になります。
何時、活躍するかはわかりません。ホルス君と親友の元ネタは……分かる人には解るでしょう。
なので、あえて書きません。
能力については、独自設定ですが。多分使えそうだよね、とだけ。
流石に安藤さんの正体は分からなかったと思います。実際偉人ですよね。




