63.新たな仲間との出会い
ホテルを開業してから半年。イギリスから戻った安藤さんとジェームス達。色々なイギリスの商品やウイスキーを独断と偏見でジェームスが選んだ。景徳鎮はイギリスで人気が高く、結構な額となった。
予想外なのが、ウイスキーでなく蒸留所を購入した事。何でも、アメリカの『禁酒法』と不況の為、大きな蒸留所でさえ廃業するところが後を絶たず、資金投入して再開させる方が安い、という事だった。
最近『禁酒法』が廃止されたこともあり、業績が上がっているそうだ。酒好きのジェームスでないと思いつかない発想だろう。予想外だったが、輸入してきたウイスキーの質と量ともに良く、口の肥えた海軍のお偉方にも好評だ。
海軍関係者はイギリスへの留学・赴任が多い。自然とイギリス料理を懐かしむか、ウンザリするかのどちらからしい。そして、このホテルの料理は、全て私が日本風に魔改造済である。
どちらの方からも評判が良く、打上げや会議の続きというお客様で満員である。最近は宿泊しないが料理だけを、というお客様も多い。
女性の私が言うのは恥ずかしいが、横浜は男性向けのお店が揃っており、女性と『同伴』する前の食事処として利用されている。まあ、常連になってくれるのは有り難いが、そう言う事が目的で宿泊するのは断っている。
今日も常連のお爺さんが来客している。初めての方を連れており、色々な思い出話に花を咲かせていた。
「まあ、お爺さんいらっしゃいませ。すみません、厨房が忙しくてお迎え出来なくて」
「ははは、構わんよ。女将さんの料理は絶品だからな。商売繁盛で何よりじゃ」と、まるで達磨さんのような恰幅のある常連のお爺さん。もう一人は随分とお年を召した、何処か『海』の香りのする老人だ。
「注文が御座いましたら、どうぞ」とメニューを渡す。
ウイスキー用のメニューだけでも二十本以上ある。最近の人気は、初心者向けのブレンデッドウイスキーだ。所謂「ジョニ黒」と呼ばれる、ジョニーウォーカーの黒ラベルになる。他で購入すると二百円はするが、ここなら六十円程度なのでお土産としても重宝するらしい。
その他、アイリッシュやハイランドと言った、各地方の拘りある個性豊かなメニューがあり、その為だけに来客する方も多い。
「うむ、女将さん。ハインツのベイクドビーンズがあると聞いた。それを貰えるかな。後は、枝豆を二つ」
「変わったご注文ですね。もちろん御座いますよ」
「ははは、すまんのぅ。今日は二人の共通の友人の命日でな。豆が好きじゃったから、お供え替わりじゃ」
……何だか、複雑な事情があるのだろうか。
「それはまた、変わったお話ですね。良ければ、詳しく聞かせて貰えませんか?」
「ああ、日露戦争での話じゃ。こちらの老人が海で戦い、儂は金を用意したもんでな。儂の教え子がこの老人の部下じゃった。頭の良い若者だったが、わし等より先に死んでしまいおって……」
「奴は豆が好きでね……。イギリス料理が美味いという、変わり者だった」
成程、二人とも寛がずに酒を煽っているのは、そういう訳だったのか。
「私は、お二人とも長生きして頂いて、ご来店されるのが何よりですわ」と、笑って雰囲気を変えようとする。
「そうじゃな、すまんすまん。湿っぽい話は終わりにしよう。アイツも賑やかなのが好きだったしな」
「……ああ、変人だったな。周りにいる奴に迷惑ばかり掛けていたものだ」
何とか、雰囲気は変わったらしい。二人とも懐かしそうに話を続ける。
「ああ、愛すべき馬鹿『秋山 真之』の冥福を祈り、乾杯!」
「乾杯!」
酷い言われようだ。しかし、死んで冥福を祈って貰い、思い出話をするのも良い供養だろう。日本人らしい感想であるが、理解は出来る。
「それでは、また何かありましたらお呼び下さいね」と、挨拶をして席を離れた。
後で、あの二人について聞く機会があった。達磨のような老人は『高橋 是清』。日銀総裁や大蔵大臣を務めた政治家だ。日露戦争ではイギリスに戦時国債を売ったり、日本経済を世界恐慌から立ち直らせた、辣腕政治家。
もう一人の老人が『東郷平八郎』。世界三大提督の一人と呼ばれる名将。日本海海戦でバルチック艦隊に完封した、勝利の立役者。
その両名の知人『秋山 真之』が日露戦争の名参謀だった。「本日天気晴朗ナレドモ浪高シ」の電報を考えられたのもこの方。東郷提督が自分の後継者に、と考えてもおかしくない。
いずれ劣らぬ、日本の偉人達である。お店に来ればただの酒飲みの爺さんだ、とは言えない。
……成程、皆さんイギリスとの『縁』浅からぬ面々である。私のホテルにやって来たのも『運命』の悪戯であろう。まさか女将が「ロンドンの女帝」とは思うまい。
そういう訳で、このホテルに魅入られた人々は様々な思いを交わし、話し合うのだ。その先にはいったい何があるのか。……死かそれとも戦場か。
どうにも、私には船や海との因縁があるらしい……。私が何かを引き付けるのか、彼方が寄ってくるのかは知らない。
ただ、お婆さんが言っていた人との出会い『運命』と言うものを感じずにはいられなかった。
どうやら、横須賀の鎮守府では、このホテルの女将の正体が知れない、との噂が流れているらしい。大昔の航海の話がやけに具体的だとか、実際に体験しないと話せないような海での出来事を知っているとか。
……お客様が増えるのは構わない。だが私に会いたい、という方が多くなった理由はそれか。
別に困りはしないが、横浜七不思議のひとつとか言われても困る。パン屋の配達人に、じろじろ見られたのもそのせいか。……全く迷惑な話である。
「千鶴ちゃんも、誰かに嫌な目に逢わされたりしていない?」と、心配になる。
セクハラ、などと言う概念の無い時代だ。何があってもおかしくはない。
「いえ、皆さん優しいですよ。どういう訳だかお酒や料理を進められるので……あっという間に料理が消えるのが、不思議だそうです」
ああ、横浜七不思議の二つ目が此処に居たわ。もはや怪異ではないが、そうもなろう。
……この分だと、残りの五つもウチ関係ではないだろうか。実際ありそうで困る。
そういえば、料理屋兼酒場として繁盛している所に最近、変な客が来る。
一番安い酒とつまみだけで何時間も粘る。まあ、それだけなら良い。
千鶴ちゃん曰く「あのお客さん、物凄く強いですよ。多分リズさんと同じ位。間違いなく魔導師です」らしい。それは是非、声を掛けてみなければ。
「お客さん、いつも通って頂いてありがとうございます。これをどうぞ」
「あ、はい。いつもスミマセン。ここで飯代わりに、酒とつまみだけ頂いていて……」
「……何か理由がありそうですね。良かったら、お聞きしてもいいですか?」
私より少し年上の、穏やかな青年だ。良く見れば、この世界以外の着物や飾り物を持っている。
……どうやら『当たり』かも知れない。
「ある人物を探しています。……俺の親友で、神隠しにあったんじゃないかって。皆は死んだというけれど、何処かで生きている。そう信じて……旅をしています」
「神隠し……貴方どの世界から来たの?」と私は聞いた。
青年は思い当たる節があるのか、ビクッと反応した。
「……ど、どうしてそれを?」
「まあ、雰囲気と持ち物ですかね。いえ、私も同じなんですよ。『青い鳥』ってご存じですか?」
「……その組織を探していました。その旅団なら他の世界にも詳しい、と」
「良かった。私達、仲間になる人を探していまして。強い人が良いなあ、と。あなたはどうかしら?」
私は、お店を他の人に任せてその青年と千鶴ちゃんを連れて、貿易会社の方に来た。
「おお、アキラ。何かあったのか。……その男は誰だい?」
「ジェームス。多分、お仲間だと思うわ。魔導師の人で『青い鳥』入団希望者になるわね」
「……あんた達は『青い鳥』のメンバーなのか?」
「ああ、此処に居る三人とも他の世界から来ている。希望すれば、本部に連れて行くが」ジェームスの質問に青年が頷いた。
何か問題を抱えている事と、非常にウチ向きの能力持ちである事は間違いない。
本人の意思確認と事情を聴くべく、三人と青年で応接室に移る。私は、この青年の希望を叶えてやりたいと思う。恐らく『門』での事故者なのだろう。……やはり、問題は向こうからやって来るようだ。
彼が、何故友人が生きていると確信しているかは不明だ。だが私達で何か力になれれば良いのに、と考えるのだった。
主人公の女将さん役が、何となく年齢が高そうに感じます。
言葉遣いなのか、達観した感じだからかはわかりません。
何となく『妖艶な』と言う雰囲気だけは感じます。
元ネタは「レミュオールの錬金術師」が近いかも。フリ-ゲームですが、良い出来の作品ですね。
お店を出して料理やお酒を作ったりと、地味に好きな作品です。




