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60.ああ、懐かしの日本

 とんだ乱入者があったが、予定通り『門』から抜け出した。どうやら海が近いし、木々も生い茂っている。建物は瓦葺やコンクリート造りの建物が混在し、それなりに街中という印象……どこか懐かしい感じがする。


「……千鶴ちゃん、どう思う?」

「なんというか……故郷に近いというか」


 皇帝陛下とジェームスは、よく分からずきょろきょろ周りを見渡している。


「……おお、あれなんだ? 凄い綺麗な山だ」

「成程、美しいな。あのような立派な山を見るのは初めてだ。異国というのは良いものだな」


 二人の視線の先を見ると、明らかに見知った物がそびえ立っていた。


 富士山である。どう考えてもここが日本、それも関東地方である事が確定した。


「千鶴ちゃん、やったわ日本よ。日本に来る事が出来たわ!」

「やりましたね、これでご飯とお味噌汁が食べられます」ああ、そして店を食い潰すんですね。わかります。

「へえ、ここが日本か。随分と気候も良いし、草木も生い茂っているな」


 とにかく場所は、ある程度推察出来た。後は時代と、科学か魔法のどちらが主流かだ。


 恐らく、コンクリート製の建物がある事から、明治から昭和あたりだろう。どちらにせよ言葉や文字が分かるのは大きい。何処かお店を探してお金を手に入れなければ。


「さあ、皆急いで街中に急ぐわよ。無一文でうろうろして警察に捕まったら、怪しい人確定だわ」

「ああ、出来れば質屋が有れば良いんだがな」

「あっちの方に商店街があるようですよ。あと神社、ですかね?」


 ……よく見ると、立派な神社の脇である。看板を見て何処に出たのか理解した。


「鳥居……ね。あれは、鶴岡八幡宮。間違いないわ、私修学旅行で来た事がある。ここ、鎌倉だわ」

「鎌倉、ですか。それで富士山が見えたんですね」千鶴ちゃんは瀬戸内海出身。ここまでは来たことが無いだろう。おおよその位置は分かっているだろうが。

「いつもの古代の建築物の付近、という奴か」

「そうね。ここの歴史は古いわ。千年近く前から要所になっていた理由、分かった気がする」


 つまり、守りやすい地形以外に、ここに幕府が置かれた理由となる。


「ああ、なるほどな。あそこに妙な格好の人が居るぞ。話を聞いてみたらどうだ」ジェームスの示した先に、恐らく宮司さんらしき人が居る。

「そうね。今が何時頃なのかだけでも、聞いてみましょう」


「すみません、今の年号は何年ですか?自分の干支を忘れてしまって……」適当な事を言いながら聞いてみる

「ああ、昭和八年だよ」

「……あぁ、なるほど。ありがとうございました」と言って、怪しまれる前に別れる。


 とりあえず繁華街に向かおう。昭和八年。太平洋戦争の終戦日が1945年で昭和二十年だから……。


「西暦1933年……って、何があったんだっけ?」自分の知識の無さが悔やまれる。


 今までと違って、他の世界の歴史を参考に出来ないのだ。今まで見つけた世界では、1860年までの出来事しか確認出来ていない。辛うじて、私の知識で大まかな動きが分かる程度。


 確か、第一次世界大戦と世界恐慌が起こった後。戦争はしていないけど、数年後には泥沼の戦いが始まる筈だ。原因は経済の不況が世界規模であった事。……きな臭い事限りない。


 歴史の授業をもっと真面目に受けておくべきだった、と後悔した。


「まあ、色々と話を聞けば、何とかなるんじゃないですか。本を読めば、それなりに情報を得られますし」


 千鶴ちゃんの言うとおりだ。まずは先立つものと情報収集だ。商店街が見えたので、適当な店に入る。


「すみません、この辺に質屋は有ります?」

「質屋なら、向かい通りをもう少し海側に歩けば、ちょっとボケた爺さんが居るよ」

「ありがとうございます。ここは雑貨屋ですか?」

「ええ、何か欲しいものは有りますか」

「いえ、少し見させてもらっていいですか?」と断りを入れて、商品の物色だ。


 質屋はあるとして貨幣価値や品ぞろえから、色々と推測出来る。


 このやり方は、何処に行っても通用する。貨幣の単位から必需品まで、こういう雑貨屋が一番調べやすいのだ。どうやら、ここも魔道具を扱っているようだ。魔法世界なのは確定か。今までいくつもの世界を廻って来たが、魔法のない世界には出会う事は無かった。


 一円が、恐らく現在の五百円程度。一銭が五円。まあ、大まかにその程度か。お米五㎏で五円だし、まあ妥当だと言ったところか。


「魔道具類って、結構お値段がするんですか?」世間話を装って、ちょっと情報を集める。

「そうねえ。普通の魔道具はそんなには高くないけど、一部の商品はお金持ちしか買えないわね」

「魔道具専門店があるんですか?」

「ええ、さっきの質屋さんの近くにあるわ。まあ、輸入が少なくなって舶来物が品薄らしいけど」

 

 成程、その辺も調査が必要だわ。良い情報を入手できた。恐らく、輸入が少ないのは不況の影響が大きく、輸入する為のお金がない、もしくは海外が貿易をしないようにしているかだ。ブロック経済、という言葉を聞いた事がある。


 たしか、世界不況の対策で植民地や関係諸国との交易を独占して、利益を得ようとした時代だ。植民地の奪い合いの結果、第二次世界大戦に向かう、という流れだったと思う。


 なんにしても、どうにも目立つし何か考えなければ。幸い、横浜に近いから外人が居ても、それほど違和感はない。着る物についても、この時代は結構ハイカラだ。お金があれば洋服を着るし、和服の人も居る。そこまで我々が目立つ、という訳でも無い。


 とにかく、お金が必要。別にお金儲けがしたい訳ではない。行動の範囲が広がるからだ。


「金目の物が有れば良いんだけどね」

「金銀の価値は、それほど変わらないからな。結構な量揃えていたから何とかなると思うぞ」

「成程な、異世界と言うものは色々と考える必要があるのか」皇帝陛下は面白そうに話を聞いている。


 全く、のんきなもんだ。こっちは必死なのだ。観光気分でいて貰っては困る。


「皆、出来るだけ固まって。怪しい動きをしないでね。警察官もこの時代にはいるから」

「分かった、俺は外国人扱いされるから特に気を付ける」ジェームスが一番目立つ。幸い戦争中でないので、黙っていれば、そこまで違和感も無い筈だ。


 出来れば、横浜辺りまで出て居場所を作りたい。お金を積めば、何とか戸籍をでっちあげる裏商売の店もあるだろう。そういう店は、何処にでもある物だ。


「じゃあ、質屋に行って換金しましょう。あまり不自然な物は出さないようにね」

「ああ、親の形見だとか言っておけば、納得して貰えるだろうな」


 質屋にはボケっとして座っている店主が居る。何とか、上手く誤魔化そう。


「すみません、買取をお願いしたいんですが」

「おお、お客さんかね。買い取りかね。構わんよ、品物を見せて貰おうか?」

「はい、こちらになります。最近外国から帰って来たばかりで、手持ちのお金が足りなくて……」

 

 そう言いながら、それっぽいアクセサリーや細工物などを幾つか手渡す。


「……ふむ、中々良い品物じゃな。まあ、このご時世あまり豪華な品物は人気が無いんじゃが……。まあええ、六百円でどうじゃ?」

「そうですか。母の形見なので、出来れば手放したくないんです」適当な事を言う。


 日本人の大好きなお涙頂戴、という奴だ。


「わかった。そういう事なら七百円にしてやろう。頑張るんじゃぞ」

「ありがとうございます!」


 ふふふ、日本人の好みならどの時代でも分かる。商人は何でも利用するのだ。


「ふはは、面白いなお嬢さんは。全く頼もしい限りだね」皇帝陛下が下々のお話にお喜びである。

「それにしても、上手く行きましたね」

「そうね、日本で良かったわ。知らない外国だったらどうなったか」


 まずは横浜に移動しよう。繁華街があるから活動しやすい。田舎では結構な監視があるので怖いのだ。


「まずは宿屋とご飯ね。あちこちで少しずつ換金しながら情報収集よ」

「おう、魔道具関係なら俺も参加出来る。幾つか売り払うのも良いだろうな」

「忙しくなりそうですね。お姉様、気を付けて下さい」


 そうだ、油断をしてはいけない。目立つ行為は出来るだけ避けねば。まあ、鎌倉はそれなりに大きな街だし、横浜なら海外の様子も聞けるだろう。


 私は、妙な懐かしさと親近感を覚えるこの世界に、長く留まりそうな事。皇帝陛下を連れて帰れるかなあ、と何となくズルズルと長引きそうな、嫌な予感を頭の中で考えながら今後の予定を練るのだった。

 日本編の開始です。


 戦争中ではないが、徐々にそちらに傾き始めるややこしい時代ですね。あまりゲームにならない時代とも言います。


 何人か、意外な偉人を出したいと思っています。


 このメンバー、中々バランスが揃っています。皇帝陛下は平常運転ですね。


 未知の世界の珍しさと、無一文からの試行錯誤の繰り返しですね。


 別の新しい世界に行ける、というこの物語特有のリセット可能な設定のメリットです。

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