58.戦力増強の必要性
いつもの三人で久しぶりに世界を移動する。どうにも懐かしい。ロンドンの滞在は結局一年近くあったし、その間、他の世界に行く暇も無かった。
リスボンも遊牧民の街も順調だし、サンダースさんが逐一各世界の情報を教えてくれていたので、心配する必要は無い。
マリアちゃんは大きくなっただろうか。提督のインド航海も一年以上先の予定だし、その頃には千鶴ちゃんを連れて行く必要がある。
そして、新世界での金の稼ぎ方を考えなくてはいけない。無一文でうろうろする訳にもいかないので、結構な数の民芸品やアクセサリー、食料や高価な品を選んでマジックバックに放り込んである。
まずは、質屋か道具屋を探して交渉する事になるだろう。市場調査もしなくては、お金の流通や価値観の違いなど、やる事は多岐に渡る。こういう事が旅の醍醐味なのだ。
そんな事を考えながら、本部に到着した。ロンドンでの顛末は報告しないといけないし、遊牧民の街近辺にあるであろう『門』については、懸念点もある。そこら辺相談したいと思っている。
「こんにちはー、消防署の方から来ましたー。消火器を買ってくださいね」と、入り口で叫ぶ。
「押し売りなら必要無いわ~。とっとと帰りやがれ~」と、リズさんが出てくる。いつもの茶番だ。
「あらあら、アキラちゃん。随分と久しぶりねぇ~。今日はどうしたの~?」
「耳を揃えて借金返済です。ロンドンの事業は、順風満帆。今度は別の世界に行きたいので」
「それじゃあ、団長の所に行きましょうね~」
いつものやり取りを済ませ、お婆さんの所に行く。
「こんにちはー、お婆さん。そろそろ死にましたかー?」
「わたしゃ殺されたって生きておるよ。まだ死相は出ておらん」
「しぶといですねえ。占い当たるんですか、本当に」
もしかしたら、死相なんて出さない様にしているのではないか、と疑っている。大体、お婆さんが何歳なのかも知らないし。
「まあええ、だいぶ足場も固まった様じゃの。何処の『門』を調べるつもりじゃ?」
「そこら辺を相談したくて。ちょっと気になる事も有りますし」
「ふむ、団長の部屋で聞く事にしようかの」
もう恒例になった流れで、団長の部屋に向かう。
『……とりあえず、ロンドンでの対応は良くやった。あまりに技術が発達されても困る』
「変な記録が出来たりしましたが、まあ何とかなるでしょう。で、他の『門』を調査したいんですが……」
「あれじゃな、遊牧民の街にある『門』の事じゃろう。そちらは今まで探しもしなかった様じゃが」
そうなのだ、あの辺りに『門』があるのは確定だ。だが、私の勘は『その世界はヤバい』と告げている。
「お婆さん、あの場所以外に『呪いの魔道具』は有りましたか?」
「……いや、見つかっておらん。気になる事があるのか?」
「はい、あの魔道具を古代ローマを滅ぼすために作ったとしたら、何処が一番良いと思います?」
「それは、古代ローマに近い方が……成程、そういう事か」
つまり、あの近くの『門』は古代ローマに繋がっていると予想する。そして、我々は彼らにとって『反逆者』であろう。接触して戦闘になれば、超魔導の世界だ。何も出来ずに全滅するだろう。
「……危険だと思います。古代ローマの認識が掴めない事、戦闘になる事を考えると、出来るだけ放置しておくのが得策だと思います。我々には軍と呼べるものがありません。出来るだけ戦力が欲しいです」
『……確かにその懸念は尤もだ。だが戦力と言っても、集める方法は難しいな』
「そこが困った所で……遊牧民の街から希望を募れば参加してくれそうですが、正直厳しいです」
「私と千鶴ちゃんで~、多少は持ち堪えられるけどね~。多分押し負けるわ~」
「そうじゃのう、流石に軍団とまではいかんが、もう少し強力な仲間を集めるしかあるまい。千鶴ちゃんのような特殊な人間も多かろう」
まあ、確かに。色々な世界に行けば、そういう人にも出会えるかもしれない。
後は……私自身の強化。何か出来ないものか。
「そのー、『宝玉』とかにそういう機能、在りませんかねー」とりあえず言うだけならタダだ。
「そういえば~、アキラちゃん。魔法は使えないけど~『オド』は多いのよね~」
「ああ、あの検査の事ですか?もう何回も測定器が壊れてますけど」
「勿体ないわよね~。多分『オド』だけなら誰より凄いのに~。無駄に高性能って奴~」
余計なお世話だ。相変わらずリズさんの毒舌は絶好調だ。まあ、簡単に言うと電池だけ一杯持っていて、電球が無い状態、と言えば良いのか。
要するに、魔法を発動する為の力は腐るほどあるが、魔法が使えないので意味がないという事だ。そんなものが多くても役には立つまい。
「まあ、何かのはずみで、知らない機能が使えるようになるかもしれんの」お婆さんがさりげなくフォロー。
まあ、そんなファンタジー的なご都合主義があるなら、もう少し色々と助かるのだが。そういう物には縁がない様だ。
「とにかく、魔法が使える者が沢山居れば、ある程度勝負にはなる筈じゃ。千鶴ちゃんの能力も魔法じゃからのう」
そうだった。魔道具と魔法の格差は、絶対的な物がある。強力な『魔導師』一人で戦争が変わるのは、清との戦いで証明済。何人か集めれば、勝負になるかも。
「……とにかく、『紫禁城』の世界に行ってみようと思います。遊牧民の街の方は、近づきたくないです」
「それが無難じゃろう。まあ『運命』とやらが味方するなら、必要な者がお前さんに近寄って来る筈じゃ」
「その『運命』って、何なんでしょうね? ロンドンで逢ったみたいに、変人が集まりやすいとか?」
「まあ、そういう者が揃ってしまう偶然が重なる、という事じゃな。人との出会いを大切にせいよ」
まあ、そうね。今までだって色んな人が偶然集まった訳だし。そう言うものだと思っておこう。何となく変人しか集まらないのではという、碌でもない予感はあるのだが。
『……引き続き、サンダースのサポートは入れておく。居場所が出来ればこちらに連絡しなさい』
「そうですね。お金も必要だし、身分を証明するものが無いと怪しまれますし」
ロンドンで他人と『養子縁組』をしたが、そうでもしないとお店を持つような公的な手続きが取れない。新しい時代程、そう言う制約がある。逆にそういう問題を解決できれば、過ごしやすいという意味でもある。
「今まで見つけた世界で、一番新しいものでも1860年でしたね。何で、時間が少しずつずれるんでしょう?」
「そこら辺は、わし等にも分からん。別の世界に別れるタイミングではないかの?」
さっぱり意味が分からない。この辺、誰か詳しい人は居ないものか……。
「まあ、悩んでいても仕方がないので、何時ものように『高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に』という方針で行ってみます!」
「行き当たりばったり~」リズさんは黙っていてくださいよ。出発する気力が削がれる。
「気を付けるんじゃぞ。まあ、お前さんなら何とかしそうではあるが。たまにはこっちへ戻って来いよ」
「はい、では何かあれば戻ってきます。いってきまーす」
本部を後にして敦煌を目指す。一旦遊牧民の街で準備もしたい。景徳鎮の陶磁器なら、どんな時代でも重宝されそうだから、追加で持っていこう。出来れば、何かしらの拠点を持てる位の費用が欲しい。
「ジャラン、ジャラジャラ。お金儲けはたのしいなー」と、でたらめな歌を口ずさむ。
「緊張感が無いなあ、もしも危ない所だったらどうするんだ?」
「まあまあ、よっぽどの事が無い限りは、私がお守りします」千鶴ちゃんが頼みの綱だ。
正直『外れ』の可能性もある。開けてビックリ玉手箱、って感じではある。
久しぶりの遊牧民の街に戻り、いつもの顔ぶれを見る事を楽しみに、私は旅を続ける事にした。
状況確認の回です。前振り、という奴ですね。
何時か大戦争を書きたいですね。もちろん、ロマン成分マシマシでフルスロットルですよ。
ただまあ、プロットが固まらないです。最後だけは、決めていますが。
日本編は、殆どコメディー無しでしょう。きな臭い時代ですし。




