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【番外】私の大切なお姉様

 お姉様は変人だ。


 とにかく何かあると、自分から問題に突っ込んでいく。危なっかしくて見ていられない。護衛として雇われたからには、守らなければならない。


 自分で言うのは何だが、これでも腕っぷしには自信がある。物心ついた時から修行に明け暮れ『殴り巫女』として、また海賊として陸よりも海に居る方が長い位に、唯々それだけを行うような生活を過ごしてきた。


 とは言っても、それはお父様やお母様に言われて黙々と続けて来ただけだ。自分の意志ではない。だが、今でも毎日修業は欠かさずに続けている。お姉様からは呆れられているが、息をするように金儲けをするような人に言われたくはない。


 ともかく、強さだけを求めて日々鍛錬に努めてきた。強くなる為の魔法もそうだ。仙人になりたい訳ではないが『仙道』の習得にも余念がない。


 元々は、来島村上水軍の跡取りとなるための修行だった。だが、戦乱の世が終わると海を取り上げられて、一族は小さな内陸の村を領地として与えられて、武士になった。


 私は、猛烈に怒った。来島村上水軍は、海で生まれて海で死ぬ。お父様から、耳にタコが出来る程聞かされてきた一族の掟だ。何が武士だ。遥か昔から海賊として生きて来た、来島家はもう居ない。私はその最後の一人だ。


 年頃になった私は、誰とも知らぬ殿方と婚姻を交わして、子供を産むだけの未来しかない。ふざけるな! あの毎日の鍛錬は何だったのか? 一度も自分の力を試す事も無く、海で暴れる事も無い。そんな未来に怒り心頭だ。


 いい加減、一族の不甲斐なさと心躍る事も無い『運命』も糞食らえだ。



 腹に据えかねて、こっそりと舟を買った。吹けば飛ぶような小舟だが、海に浮かべば何でもいい。海賊なら船は選ばずだ。ある晩、持てるだけの食料と水だけを積み込み、私は脱走した。


 こうなったら、来島家など捨ててやるのだ。……大陸へ行こう。どこか遠くに行けば、私の力を試すだけの強者もいるかもしれない。何でも良い、自分の存在意義を探すのだ。その為なら海を捨てても良い。


 初めて、自分の意志で行動した。お父様もお母様も既に亡くなっている。何もかも捨てて、何処かに旅をしよう。初めて、心が躍るような気持ちになった。そうだ、強敵と死闘を繰り広げ、殺されるのでも良い。とにかく、何でも良いから未知の世界に漕ぎ出すのだ。


 小舟で大陸まで航海するのは多少骨が折れたが、海賊にとっては、こんなものは歩くのと変わりはない。


 上海に着いたは良いが、お腹が空いて動く事もままならない。ええい、何でも良い。無銭飲食してでも良いからご飯が食べたい。


 ふと入った料理屋の食料を空っぽにするまで食べまくった。後の事など考えるものか。出たとこ勝負も良い所であるが、何とかなるさ。


 案の定、従業員に無銭飲食である事が分かると、いざこざとなった。腕力に訴えればどうにでもなる。


 そう思っていた所、仲裁に現れた女性と出会った。これがお姉様との出会いである。



 いやな顔一つせずに飯代を払って貰う。どうして見ず知らずの人間に、そんな事をするのか全く分からなかった。とにかく、助けて貰ったお礼はしたい。


 けれどお姉様は、私の面倒を見るという。どうやら他人を放っておけない、そんなお人好しらしい。私としては何でもいい。全て捨て去った身だ。何処かの組織に入る様に言われたが、詳しくは分からない。


 成程、お姉様に付いていけば、何かに出会えるかもしれない。少なくとも退屈だけはしないだろうと思った。


 話によるとお姉様は商人だという。つまりお金儲けをするという事だろう。そう思って聞いてみたら、人助けが何とか、世界が笑顔にという意味が不明な事を言う。


 お人好しなのが徹底されているようだ。それで商売が出来るのかと思ったが、商人とはそう言うものらしい。人助けをするとお金が稼げる、と言うのは聞いた事が無いが実際にお金を持っているし、納得するしかない。


 良くは分からないが、人助けをしながらお金を稼ぐ、凄い人だと感心した。


 どうにも、人を疑う事を知らないという、変人である事は分かった。お姉様を護衛するのであれば、自分の力を生かせるだろう。


 後は、如何にも軽薄そうな男性を連れている。お姉様の想い人かと思ったら、魔道具師をやっている従業員らしい。どう見ても付き合っているとしか思えないのだが、本人達はただの腐れ縁と言う。


 全く理解は出来ないが、とにかく色々な世界があるという。あちこちを廻り巡っていけば、強い人にも出会えるだろう。渡りに船とはこの事だ。


 どうやら、何かの組織に属して旅をしているとの事。組織に一人で5万人の兵隊を追い返した『敦煌の魔女』と言う、凄い人が居るらしい。是非戦ってみたいものだ。


 それから三人で行動を開始した。ジェームスさんと言う人は魔道具を見ると怪しい動きを始め、凄い笑顔で気持ちの悪い独り言を言う。お姉様に聞くとこれが普通だという。恐らく、自分が船に拘る様に、ジェームスさんは魔道具に拘るらしい。


 やっぱり変人だと思う。自分もそうなので、人の事は言えないが……。



 異国の船に乗って北京へ移動する。やはり海は良い。心が躍る。思わず、乗っ取ってしまいそうだ。


 でも、お姉様はそういう事が好きではないようなので、出来るだけ自重した。船に乗ると気分が高揚して、体が勝手に動くのだ。『海賊魂』とはそう言うものだ。


 私は『海賊』以外の生き方を知らない。そう言ったら「随分歪ね、これから商売も手伝って貰うから、色々な事を教えてあげるわ。しっかりと勉強してね」と、お姉様に言われた。


 商売も勉強もした事が無い。海賊以外の生き方は無かったのだ。でも、そういう事も出来る、と聞いて違う自分になれるのかも、と思うと少し面白そうだと思った。


 商人と言うのはとにかく走り回るものである、という事は分かった。中国を一周したと聞いてびっくりした。まあ、お姉様からは小舟で海を渡るなんて、と驚かれたのでお互い様だ。


 そして、皇帝陛下への謁見に連れて行かれる。私は、ただの小娘なのに……と思ったが、これも護衛の為と納得した。


 皇帝陛下は……気さくな人だった。それしか感想は無い。凄い人なのだろうが、あまりにも噛み合わない。近所のおっちゃん、と言うのが一番しっくりくる。やっぱりこの人も変人だ。


 

 別の世界に移動する。初めて見る別の世界は驚きの連続だ。詳しくは分からないが、自分のいた世界とは違う時代らしい。初めての旅だが、こんなに面白いとは思わなかった。来島家に居た頃には想像もつかないような、毎日が刺激的な日々を送る事が出来た。


 リズさん、と言う人に会う事が出来た。一目見て強い魔導師だと感じた。こちらの魔法や『殴り巫女』にも詳しい。凄い人だと感心したが戦闘する訳ではなく、お金と書類の処理をする人だという。


 全く意味が分からなかった。強いのにそれを振るうでもなく、ダラダラしているのは勿体ないのではないか。そんな事を考えた。どうやら、この組織は戦争をしないらしい。こんなに強い人が居るのに。


 ……どうにも理解が追いつかない。だが、それもよし。


 もう強い人と争うより、見たり聞いたりと今までに無い事を体験する方が面白くなってしまった。


 

 リスボンと言う港町に着いた。随分と船がある。でも、自分が知っている船よりも凄く小さい。自分が居た世界より昔らしい。この街が賑やかな事は間違いないようで、船が出入りする度に人が群がり、お金のやり取りがある。随分と景気が良い様だ。


 だが、お姉様の経営する両替商は一時閉店していた。何でもお金が溢れて、置く場所が無いらしい。


 そんな話始めて聞いた。お金って有れば有るだけ良いと思っていたが、有り過ぎても困るのは知らなかった。エリオさんと言う人は悩んでいる。お姉様も同じ。自分はお金に縁がない生活を送っていたので、助言さえできない。


 とにかく煮詰まった時は、気分転換だ。自分の場合は稽古をして体を動かすと、頭から悩みが消える。欠点としては、何の解決にもならない事だが。


 エリオさんの一家にお邪魔する。可愛らしいマリアちゃんとお友達になった。奥さんのディアナさんは料理が得意だ。見た事も無い異国の料理だが、海鮮類が豊富でとても美味しい。


 しかし自慢ではないが、私は海と船の事しか知らない。手助けが出来ればいいのだけど、と思う。


 お姉様は『保険』と言う仕事をすると言い出した。良く分からないが、船が沈むと儲けになるそうだ。


 やっぱり商売は奥が深い。損をするのに儲けとは一体……。


 ともかく、遠くに航海をするという事が分かった。それなら私に出来る事がある。来島流の秘伝は、もう伝えるべき人が居ない。もし私に子供が出来たら教えるだろうか……。


 今まで考えた事も無かったが、修行に明け暮れる毎日を、今では後悔している。今はもっと色々な事を経験したい、と思っている。


 だから、来島流の事を教える事にした。どうせこのまま忘れられる技術だ。惜しむ必要は無い。


 海の香りがする提督さんから、前回のインドまでの航海の話を聞く。ヨーロッパにアフリカにインドかぁ……。まさかそんな大航海が出来るとは、日本に居た頃は想像もつかなかった。困難な航海程、心が躍る。飛び上がらんばかりに嬉しくなってしまう。


 海賊時代に、捕虜から東南アジアの事を聞いていた。何でも、香辛料や色々な工芸品が集まる街があるらしい。そして、お父様から聞いていた嵐の途切れぬ海域の事。


 ……後から『吠える四十度』と言う名前を聞いた。あの嵐を利用して、航海をする時代もあるという。凄い事だ。私は、あの嵐を超える性能の船を、何時か作ってみたいと思う。


 一か八かだ。危険に身を晒しても、成し遂げたい事がある人達しか此処には居ない。それならいっそ、思い切って嵐の途切れぬ海域を使って、遠方まで航海すればいい。


 何、たかが失敗しても命が失われるだけだ。私は小さい頃から船に乗って、何処までも航海する事を夢見ていた。自分の夢と皆の明日の為だ。危険を顧みずに航路を皆に説明する。


 どうやら、納得して貰えたらしい。初めて自分の知識が役に立ってとても嬉しい。ああ、お姉様に付いて来て本当に良かった。こんな楽しい事で、世界は満たされているのだ。


 航海の準備は徹底しなければいけない。舵の指示や帆の操作、他の船との連絡方法。来島流を提督や乗組員に、毎日繰り返し教えた。何とか形になったとは思う。


 後は船の改造だ。単純な横帆しか付いていない。風が渦巻く海域では危険だ。ちょっと扱いは難しいが、縦帆に変更する事にした。船体の補強も必要だ。やるべき事は幾らでもある。


 後はぶっつけ本番となる。自分だって話に聞いただけだ。何が起こるか分からない。



 実際に体験して、ここは地獄だと実感した。自分の力では、何とか船が沈まない様、抵抗するので精一杯。二日ぶっ続けで指示し続けていたら、気を失った。


 気が付いたらお姉様が居た。早く指示に戻らなきゃ、と焦る。お姉様は、他の人達が頑張っているから大丈夫。今は休むようにと言われた。私は安心して、意識が途絶えた。


 目を覚まして窓から空を見た。千切れるような勢いで雲が流れている。船の揺れはそこまで酷くはない。


 問題は、この嵐が何日間吹き続けるかだ。……こんな嵐は初めて体験する。来島流、などと粋がってみても出来る事は少ない。自分の無力さを認識させられた。


 お姉様が様子を見に来た。美味しそうな汁物を持って来てくれた。少し辛いが、いい匂いと味で夢中になって食べてしまった。これがカレーと言う食べ物らしい。


 どうやら、乗組員全員に食べさせたそうだ。そんな発想思いつかなかった。乗組員の皆は美味しいものを食べて安心したらしい。


 甲板に出てみて驚いた。ギリギリではあるものの、提督や乗組員の皆が来島流の秘伝を、少しづつ学んでいたのだ。指示を出さずに波をかき分け、帆を操っている。


 何とかなりそうだ。提督と交代で、危ない所だけ指示を出す。これなら、こちらの負担は少ない。もしかしたら、上手く行けばこの嵐を抜けられるかもしれない。


 しかし、それから十日以上嵐が止む事は無い。そろそろ、精神的にも肉体的にも限界が来ている。


 ふと、海の方を凝視する。潮の香りを嗅ぎ、波の行方を確認した。


「潮の流れが変わりました! 北東へ舵を切って下さい。ここから北上します!」と、大声で叫ぶ。


 来た! これで嵐から逃れられる、ここから東南アジアまでどの位あるかは分からない。だが、我々はあの海域を通過出来たのだ。


 皆でバンザイと喜び合い、歓声を上げた。無事に生き延びる事が出来たのだ。まあ、目的の東南アジアに着く頃には、ヘロヘロに疲れ果てていた訳だが。


 もう、自分が生きる意味と言うものを探す必要も無かった。唯々楽しかった。自分の力を振り絞り、皆との絆を高め合った。来島流が乗組員に伝えられた、この船団が私の新しい居場所になった。



 航海が終わり、乗組員と提督は『クルシマ東インド会社』と言う貿易会社の社員となった。来島流の名前が付いているのは恥ずかしいが、名前に負けない様頑張ろうと思った。


 どうやら、お姉様の抱える問題は解決したようだ。そして、私の目的は『自分の力を試したい』から『お姉様と一緒に居たい』に変わっていった。



 ロンドンにも行った。お姉様のお店はどう見ても雑貨屋か食料品店だ。魔道具って何?と、皆思っている。ロンドンは賑やかな街だ。テムズ川の匂いには閉口させられるが、色々な人が居るのが面白い。


 お姉様と会う人は、皆変な人ばかりだった。船や『蒸気機関』と言うものに夢中な、変人の方達が集まって来る。私も船が大好きなので、直ぐに仲良くなった。


 船の設計をフルトンさんと作業しながら、色々な事を教えて貰う。絵画の事、計算の仕方や文字の書き方、テーブルマナーなど、暇な時になると皆が知らない事を教えてくれる。


 勉強するのが楽しいと思ったのが、この頃だ。皆さん、変人だけど大学の教授をやっている人も居る。教え方が凄く上手で、面白い話もしてくれるのだ。


 お姉様と一緒に居ると楽しい事で一杯になる。嬉しくてはしゃいでしまう。恋愛相談については、自分も経験がある訳でもないが、とにかく突っ走ればいいのに、とは思う。


 船の事ならネルソン提督とも仲が良くなった。少し女好きで変人だけど、海と船が好きな人に悪い人は居ない。直ぐに仲良くなった。いやらしい事は止めて欲しいのだが、まあ仕方がない。


『蒸気船』という、勝手に動く船を作る事になった。そんな物が造れるとは思わなかった。でもマストも帆も要らないなんて凄い!皆で凄い船を考える。とても楽しい。


 勢い余って物凄く速い船を作りたくなってしまう。お姉様に呆れられた。


 結局、ぶっつけ本番で大西洋を横断する。台風さえ問題にならない凄い船が出来た。目指せ20ノット! 船の名前は、お姉様のあだ名『ロンドンの女帝』だ。新聞記事に面白おかしく書かれたけど、お似合いだと思う。


 もう私の夢は変わってしまった。自分の力試しは必要ない。もっと面白い事、楽しい事。見た事も無い世界に行って、色んなことを体験したい。そして、ずっとお姉様と一緒に居たい。


 リスボンで航海もしたい。来島流の名前が何時までも残る様に頑張りたい。


 お姉様に会えてよかった。これからもずっと一緒に居て、色んな事がしたい。


 私はお姉様が好きだ。一緒に居る皆も好きだ。これからも仲間が増えたり、笑い合ったりするのだろう。


 私のお姉様、私に沢山の物をくれてありがとう。今度は私がお返しする番。お姉様が喜ぶ事を考えよう。


 それが私の今の目標だ。皆で幸せになれる商人の事が、私は大好きなのだ。

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