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54.発進! 未完の最新兵器

 試作機爆発から二ヵ月。テムズ川対策にやっと重い腰を上げた政府機関。どうやら、議会と提督がすったもんだの大騒ぎをしてくれたらしい。予算も付いて、専用の運搬船と廃棄物処理に関する法案が可決された。


 今まで、文句を言っていた住民達もやっと普通の生活が出来ると、ご近所でも評判だ。


 こちらの方は、モーズリーさんが問題を解決したり散々試作機を魔改造しまくった挙句、船を木造製から鋼鉄製に変更してしまった。アイツら、加減ってものを知らないから困る。


 まあ、価格についてはフルトンがあちこちの造船所と談判した結果、量産コストが向上して一般の人でも購入できる範囲に収まった。


 一方で、デモンストレーションという名のロマン成分たっぷりの大型船については、性能改善という名の魔改造の為に、いまだに『高圧蒸気機関』が完成しない。だから、あれだけ新機能は付けるなと言ったのだ。


 そして、問題はそれだけではない。どうやら大型船の同型艦が作られているらしい。ネルソン提督の独断でだ。どういう訳だか、テムズ川対策のオマケで費用を捻出したらしい。何やってんだ、あの爺は。


 ウチの商会へ、その大型船に搭載する『高圧蒸気機関』一式の注文が来ている。結果的に大型船の建築費用を賄える金額である。


 まあ、忙しいからという理由で、返事はしていない。実際、ウチのメンバーはああでもない、こうでもないと会議をしたり、新機能の調整や試作機でのテストを繰り返し、実用化がいつ終わるのかも未定だ。


 ジェームスに至っては、テムズ川の浄化作戦で使用する、大量の魔道具発注に苦戦している。あの分では、『蒸気船』の改良に手を付けるのは無理だろう。

 

 自分達だけの問題であれば、それなりの状態で組み込めばいいが、納品するとなれば話は別だ。


 あの爺さんの事だ。どうせ対外的に大掛かりな式典を用意しているに違いない。進水式でエンストしたり爆発すれば、無駄な税金を使いやがって、と大ブーイングの嵐となるだろう。


 結果、しっかりと準備とテストが必要となってしまった。むしろ、デモンストレーション用の船が試作機になりそうだ。何のために開発したのか、ますます良く分からなくなってくる。


 ともあれ『蒸気船』に対する評価が上がる事にデメリットは無い。


 将来的な見通しも立ったので、普通サイズと大型船の両方を開発させている。この『蒸気船』が完成の暁には、借金などあっという間に返済して見せるわ!


 この商会も他国からの注文で潤う筈だ。がっぽりと儲ける事が出来て、大変に心踊る話である。



「度重なるテストの結果、外輪の水をかき分ける形状は、内側にひねりを加える方式で確定しました」

「『高圧蒸気機関』の高圧時の爆発は、鋼鉄製のリベットを導入する事で対策が完了した」


 千鶴ちゃんとモーズリーさんは、それぞれの課題を終わらせたらしい。一方で、マードックさんは鉱山用の製品開発の方に掛かり切りとなり、外輪を逆回転させる歯車の発明に苦戦している。だから、新機能は要らないって。


 ジェームスの課題である、出力調整もある程度の所で開発がストップしている。まあ、十段階なんて出力調整をする必要性はない。アイツのマッド気質を満足させるより、まずは製品化だ。


 幸いな事に、三段階での出力調整の開発は出来ているので、特に問題は無い。


「つまり、性能強化を考えなければ、完成したって扱いで良い訳よね?」

「……くそう、もう少し。もう少しだけ時間があれば、私の夢がぁ」と、憤るマードッグさん。


 アンタ、最初に会った時は特許が取りたいって言ってなかったっけ? 今は、そっちの夢で我慢しなさい。


「ああ、無段階での出力調整に挑戦する筈だったのに!」ジェームスは通常運転である。


 必要無いじゃない、それ。何でやろうと思ったのか。手頃な成果で満足すればいいのよ。


「それでね、特許庁には既に理論図と設計資料を提出済よ。もちろん特許の代表者はマードックさんにしているわ。良かったわね、歴史に名前が残るわよ」と、皆が拍手でマードックさんを称える。


 なんだかんだ言っても、今回の開発のリーダーとして頑張って貰った。時々暴走したけど、それも含めてこの変人共を纏め上げたのだ。当然の結果だろう。


「ありがとうございます。これで私の夢が叶いました。後は、大西洋横断の最短記録を打ち立てるだけです!」


 ……なんでハードルを上げるのよ。良いでしょ、無理をしないで。


「ともあれ、後は大型船への組み込みをして、大型試作機を完成させる。問題があれば対応してからネルソン提督の船に納品して完了、って流れよ。皆よく頑張ったわね」

「ああ、提督から催促があったぞ。先のトラファルガーの海戦一周年の記念式典で、その『蒸気船』の進水式をするらしい。納期は二ヵ月後だな」


 グレッグさん、そういう事はサラッと言わないで! こっちにも予定ってものがあるんだから。


「お、落ち着きなさい。皆、スケジュールと作業分担を決めるわ。こうなったら死ぬまで働きなさい!」

『おう!』皆の士気は高い。こうなったら我が商会は、全戦力を以て今よりデスマーチを行うのだ。



 まったく、このくそ忙しい時になんて爺だ。式典までの間に、試作機で大西洋横断をしてやるしかない。多少、未完成の所があってもいいから二ヵ月以内で完了させるわ。


「じゃ、マードックさんは式典用の船の艤装の担当ね。フルトンもサポートを頼むわ」

「よし、後から調整するとして外見だけでもいい。きっちり作業を終わらせるぞ!」


「そして、千鶴ちゃんとモーズリーさんは試作機の方をお願い。こっちはぶっつけ本番で大西洋横断を成功させるわ。稼働テストしながら、艤装を進めて!」

「解かりました。船と海の事なら任せて下さい!ああ、風向きを気にしなくていい船なんて素晴らしいです」

「『高圧蒸気機関』の高圧テストは俺が担当するよ。間違っても爆発なんぞは起こさせんぞ」


「ジェームスは、テムズ川浄化作戦の魔道具制作と、実行部隊の指揮をお願い。イギリス海軍ロイヤル・ネイビー主導だから、実働部隊との打ち合わせと使用方法の説明が必要だわ」

「任せろ、きっちり仕事はこなしてやるぜ。店長、そっちこそ倒れるなよ」


「最後に私は提督との打ち合わせと新聞社への顔繫ぎ、各国からの問い合わせの対応をするわ。世界初の『蒸気船による大西洋横断』を記事にして貰う。この計画が成功すれば、各国から大量の『蒸気船』の発注が来るわ。お金稼ぎはここからが勝負なのよ! ばっちり儲けて、一気に借金を返済してやるわ。皆、失敗は許されないのよ。死ぬ気でやりなさい」


 私が拳を振り上げて、士気高揚を図る。『Yes、Master!』皆の気持ちは一つになった。


 こうして我が商会の未来と夢を乗せて、終わりのない作業が開始されたのだった。


 

 ……それから二十日ほど経過した。各自、作業が忙しすぎて顔を合わせる暇も無い。


「ふう。こっちはずっと打ち合わせと会談、外国からの問い合わせの対応で、碌に寝る時間も無いわ」

「店長の方も大変だな。店にも問い合わせが殺到していてな。ずっと俺が矢面に立ってた。ああ、コーヒーと紙巻煙草の売れ行きは好評だぞ。バンバン注文が来ている。オリヴィアとエマが駆けずり回っているな」

「……良かった。赤字が出たらどうしようかと思ってたし」まずは一安心。


「おう、店長も無事か? テムズ川の浄化作戦は順調だ! かなり水質が安定してきた。ただ、住民への通達が間に合ってなくてな。近隣住民も巻き込んで大騒ぎだぜ」


 ジェームスを見るのも久しぶりだ。お互い、連絡を取る時間さえ無いのだ。


「あと、千鶴ちゃんから伝言だ。試作機の艤装が完成したらしい。出航に向けて物資の積込みが、明日には終わる。三日後に出航だからな」

「分かったわ。トラブル対応の為に、ジェームスとグレッグ一家以外の全員が乗船するわ。私はこっちとアメリカの新聞社に出航日を伝えなきゃ」全く休む暇も無い。大西洋横断をしながら休むしかないか。

「おう、店長も頑張れよ。こっちはテムズ川を綺麗に掃除してやるからな」


 お互いの健闘を祈りつつ、私は提督の元に向かう。いい加減、この打ち合わせも終わらせたい。


 マードックさんとフルトンが、プリマスの造船所に籠りきりになって十日は経つ。あっちもほぼ完了している筈だ。


「スポンサー様! 進水式には何とか間に合いそう。イカすぅ―!!」お前は船に関わっていれば幸せそうね。正直羨ましいわ、フルトン。

「おお、店長。試作機の方は無事完了したかい?」やつれたマードックさんが出てきた。提督との調整中だったらしい。

「ええ、三日後に出航となるわ。こちらの作業は引継ぎして、進水式とニューヨーク到着を同時に出来るよう、調整しなきゃ」


 そうなのだ。新聞社とのやり取りの結果、最もインパクトのあるイベントとして、ニューヨークへ到着したと同時に進水式を執り行う、という事になった。もちろん、提督も大賛成してくれた。


「この歴史的な瞬間に立ち会えるのは、あの海戦で死ななかったからな。良い記念になるわい」と、提督が呟く。どうやら、イギリス王室としても国の威信を上げる良い機会だ、という判断になったらしい。


 ……色々と苦労があったが、これさえ成功すれば無事にロンドンでの問題も、解決出来るだろう。


 正直、テストを行ってはいるが、未完成の試作機だ。ぶっつけ本番で無事にニューヨークにたどり着けるかどうか。やはり、こういう未知の冒険というのは、滾るものがある。


 そして出航当日。プリマスの造船所に二隻並んだ『蒸気船』がある。


 帆船の時代は終わり、このマストの無い船達が七つの海を、縦横無尽に駆け巡る事になるのだ。


 新聞記者や海軍関係者に見送られながら、世界初の『蒸気船による大西洋横断』を達成すべく私達は船を出航させ、一路大西洋に漕ぎ出した。煙突からの煙が、勢いよく風に流されていく。


 これが新しい時代を切り開く、第一歩になるのだ。私は一人の冒険者として、心を躍らせて水平線を見つめるのだった。

 いよいよロンドン編もクライマックスを迎えます。


 大航海の始まりです。なお、技術レベルの前倒しについては、十年程度までと制限しています。


 ……何故か、それを超えようとする変人達が居る訳ですが。


 一体、彼らは何と戦っているのか。それは誰にも分からないのです。


 ロマン主義というか、男のロマンというか。戦艦大和を十隻作ったり、超巨大な飛行機を飛ばしたり。そういうの大好きです。


 元ネタは「提督の決断(初代)」とか、「ハーツオブアイアンⅡ」とかでしょうね。あの辺のゲームって空母が強いにも関わらず、不要な戦艦を作りたくなりますので。


 艦これなんかも同じですね。何故か大艦巨砲主義になりがち。


 ニコニコ動画の『日波同盟』というキーワードでニヤニヤ出来る人とは、良い酒が飲めるでしょう。ああいう歴史のIFがやりたいのです。


 そう言うのが好きな方や同意して貰える方は、評価☆やブックマークを入れて貰えると、自分の物語に自信が持てます。よろしくお願いいたします。感想もお待ちしています。

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