表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/158

53.プロジェクト✕ ーテムズ川の汚染を浄化せよー

 ロンドンを横断するように流れる、テムズ川。そこは悪臭と汚泥に塗れるロンドンの汚点。


 川の汚れに苦しみ嘆いていたのは、庶民だけではない。議会もその悪臭に耐えかねていた。だが、政府機関が公害対策を行う事は無かった。

 無能と囁かれる政府機関の人々は苦しむ住民を無視して、ただ時の流れるままに放置していたのだ。


 何時しか誰もが仕方のない事だと、諦める日々が続いた。

 ……だが、そこに断固として立ち上がる一団が居た。『ロンドンの女帝』である。


 という、昔見たプロジェクト何とかいう番組風に考えてみたのだが、どうにも上手くいかない。まあ、ぶっちゃけ言えばテムズ川の汚れを誰か何とかしろよ、と国が動くのを待っているのだろう。


 実際の話、悪臭だけならまだ許せる。百歩譲って耐えたとする。だがしかし、テムズ川の問題はそれだけではないのだ。……コレラの大発生である。


 健康問題に発展するまで、もう時間も無い。『天然痘』程でないにしても、対策せずに済ませようというのは、随分と政府の事なかれ主義ではないのか?と思う。


 イギリス政府には、多少のコネとそれなりの無茶なら、聞いて貰える程度の恩を売ったと思うので、ここはズバッと解決方法を何とか打診すべきではないのかね? ジェームス君よ。


「俺に言ったって、何も出来ねえよ。大体、被害を被ったのは千鶴ちゃんだろう」


 そうなのだ、夏のこの時期にテムズ川に飛び込む事になった千鶴ちゃん。まあ、ヘドロと悪臭に塗れた水も滴る美少女……いや、かなりの性癖持ちでもない限り、それに興奮を覚える輩はおるまい。


 テムズ川の水がとにかく酷く匂う。そして、時期も悪く特に乾燥が続く為、濃縮された川の水はとても人が入れるものではなかった。


「私は海賊ですので水を怖がる、という事はありません。ですがあれは駄目です。もはやあれを水と呼ぶのは冒涜です」と、千鶴ちゃんに愚痴をこぼされると随分と心が痛い。


「うん、流石にこれは駄目だね。何とかしよう」と、とにかく全員で彼女に水をぶっかけながら、私は呟いた。一見、何か特殊な儀式のようなのだが、そのままバスタブに入れる訳にもいかない。


 ここは魔道具の出番だろう。おい、ジェームス何とかしろ!


「そんな事言ってもなぁ。『浄水の魔道具』を強化……出来ない事も無いな」え、出来るの?

「ほら、東洋の魔道具を纏めた資料さ。あれに西洋とは違う魔術回路があった」

「いいじゃん、それ。何で言わなかったのさ」

「ええと、結構複雑な割にあんまり効果が無くてな。そもそもちょっと汚れた位なら、別に普通ので済むだろ?」


 つまり、ある程度ではあるが強力な効果のある魔道具を用意して、テムズ川を浄化すると。


「それに、どのみち浄化した後の廃水は、結局テムズ川に流されるんだ。対策が必要だろ?」

「確かにそりゃそうだ。廃棄物処理場……か? うーん、何とか出来るかなあ」


 お金とコネで何とかなるこの世の中だ。私が手を伸ばして叶えられるのなら、やってみるか。


「という訳でね、ネルソン提督経由で国に文句を言って欲しいのよ、グレックさん」

「無茶振りには慣れたつもりだが、いきなりだな。……まあ、手紙を出すだけなら何とかなるか。それで対策はあるのか?」

「そうねえ、とにかく綺麗にする為には川から他の場所に移すしかないでしょ。結局、埋め立てするしかないよね」


 どんな世界だろうと、汚れた物を真っ新にする事など出来ない。どこかで帳尻合わせをする必要があるのだ。随分と目的と手段がずれまくっている気もするが、有能な従業員にトラウマを作る前に対処しよう。



「……まあ、議会でも色々と提案されてはおるんじゃがな。どうにも対策が取れなくてなぁ」提督との会談と相成った。


 とはいっても、ここは狩猟場であるリッチモンド公園予定地だ。どこかの建物で密談するのも目立つし、ここなら誰にも聞かれる事も無いだろう。


「私への借りもお忘れなく。いい加減人死にが出ますよ、このままじゃぁ」

「ふむ、近隣住民の不満も抗議ではなく、暴動寸前らしい。良い知恵があれば何とかしよう」

「そうですね……まあ、魔道具を使うというのが手っ取り早いとは思います。結局、汚れを何処かに捨てないといけないんですけどね」


 そんなに都合の良い場所があるとも思えない。どこかに誰も近寄らない、ゴミ捨て場は無いものか。


「……ふむ、テムズ川の浄化は、船で行うのかね?」

「規模的にそうなるでしょうね。それが何か……」

「いや、いっそ船で遠くの泥炭地まで運び、そこに穴を掘って埋めるというのは可能かな?」

「ああ、なるほど。廃棄物を運搬する船を作って、そこに回収して海を渡るという事ですか。それなら何とか……お金は掛かりそうですねぇ」


 私は、心底嫌そうな顔をする。あまり見られたくはないが、実際そんな事に金を掛けたくはない。


「なあに、そういう事ならこちらの権限じゃわい。船とくれば、イギリス海軍ロイヤル・ネイビーじゃ。文句なんぞ言わせるものか」


 おお、恐い怖い。権力を振るうというのは、呪いにも似ている。一つ間違えれば穴二つ、という奴だ。


「成程、そっち方面から崩すんですね。もちろん、浄化に使う魔道具は強力な物を用意させて貰いますよ。……もちろん値段もですがね」私は、にやりと笑った。意外な収入に笑いが止まらない。


「お主も悪よのう、商会長殿」「いえいえ、提督程では……」そろそろ、三文芝居も終わりにしよう。


「そういう訳で、儂の方から一大キャンペーンをぶちかましてやるわい。我が栄光あるイギリス海軍ロイヤル・ネイビー、その英雄たる儂に真正面から向かえる奴などおるまい……もっとも、財務大臣は除くがな」


 ……全く、オチが酷いなあ。未来のイギリスの大蔵省を見るようだ。史実でも『英国病』とかいう経済不振で「予算カット」が叫ばれたというが。その力関係は、何時の時代も変わらない様だ。


「まあまあ、可愛い千鶴ちゃんのためにも頑張って下さい。海賊の娘が水を怖がるなんて、笑えない話ですもの」

「そりゃまた酷いのう。それじゃあ一つ、良い所をみせねばのう」私と提督は、思わず笑いだした。


 まったく、ここに誰も居なくて良かったわ。……下手すれば、千鶴ちゃんが提督の愛人扱いされかねないもの。まったく、余計な苦労ばっかりだわ。



「おう、店長。上手くいったかい?」店に戻ると、グレックさん一人しかいなかった。

「何とかね。栄光あるイギリス海軍ロイヤル・ネイビーまで、引っ張り出して大騒ぎよ。楽しみねぇ」


 他のメンバーは、皆『蒸気船対策』と『嗜好品開発』で出払っている。


 問題なのは、モーズリーさん。苦労して開発した『ねじ切り旋盤』の見直しが必要となった。もっとも、削り出しの部分を『鋼鉄』に変えるだけとの事なので、そこまで深刻でもない。


 ただ、一ヵ月はその問題に掛かり切りになるから、他のメンバーは並行して『蒸気船』の実験を繰り返している。

 『高圧蒸気機関』の出力は上げずに、安定化を見直すとの事。元々、その課題は、試作機で実施する予定だったから、そこ迄問題でもない。どちらかと言うと、その試作機の修理に時間が掛かっていたのだ。


 派手に壊れたしねぇ。仕方がない事ではある。プリマスの造船所では、大型の『蒸気船』の船体が出来上がりつつあるという。後は、改良した『高圧蒸気機関』を載せるだけらしい。


 ……ただねぇ、暇を持て余した変人共が、黙って大人しくしている訳が無い。


「外輪を逆転させませんか! 後ろ向きに動く船って、凄い革新的ですよっ!!」と、言う千鶴ちゃんの思いつきに「よし。俺はせっかくだから、この赤い歯車を改良するぜ」と、反応するマードックさん。

「グヘヘヘ、俺は『魔導石』を組み合わせて、出力を細かく調整できるようにしてやろう!」とジェームスが対抗しているのだ。


 お前ら、一体何と戦っているんだ。しっかりと現実を見ろ!


 特にジェームス、お前は暫くしたら『テムズ川浄化プロジェクト』で、大量の魔道具を作る羽目になるんだぞ。いい加減に自重しろ、まったく。


 まあ、誰も気落ちしていないのは良い事だ。失敗も手探りの作業も、ある意味経験である。少しでも、何か良い技術が見つかれば、御の字だろう。


 私は、こいつらが何処迄暴走するか、心配になりながらもしっかりと見張る事にした。

 ちょっとしたコメディー回です。


 一度やってみたかったんですよね、このネタ。「その辺のペガサス~。隣合わせの神社~」と言う、例のOPの替え歌でもテキトーに脳内で流しながら、お楽しみください。


 『蒸気船』ではなく、テムズ川中心のお話としました。脱線しすぎとも言いますが。


 しかし、史実でも酷い匂いだったという。色々な物を垂れ流しですし。


 フルトンの描写はありませんが、どうせ「イカす、イカすぅ―!!」と言いながら、船を作っているだけなので、書かなくても問題は無いでしょう。本当は偉人なんですけどね。


 しかし、このロンドン編『英国面』っぽくすると、人数も多いので面白おかしくなってしまいます。


 変人達の行動も、随分とキャラが経ってきました。


 マードックさんの台詞、元ネタは「デスクリムゾン」コンバット越前のセリフですね。


 主人公、口先だけで息をするように金儲けを始めるキャラになり始めました。


 意識していたとはいえ、金と言葉だけであらゆる問題を解決する、と言うのは想定外。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ