50.偉人・変人 大集合
全開フルスロットルのコメディー回です。
可哀想なマードックさん?残念だったな、そいつはもう死んだのだ。
ここに居るのは、暴走が止まらない面白変人だ。
「では、改めましてウィリアム・マードックと申します。ワット博士の元で助手をしていまして……」
翌日、色々な手続きは後に回すとして、ワット博士の所からマードックさんをウチの魔道具店に呼んだ訳だ。これからこの魔道具店と工場を行き来して『蒸気機関』の改良を行うのだ。
『蒸気機関』の熱源部分は『魔導石』だ。ウチの特許なら『小型魔導石』の組合せで代用出来る。しかも安全装置があれば、蒸気機関の制御がやり易くなる。他の会社では出来ない筈。
「ほう、これがその『魔導石』の配列ですか。成程、これなら安く『蒸気機関』を作る事が出来ますね」
「マードックさん、失礼ですが……『蒸気機関』の仕組みについて、どれだけの技術をお持ち……」
私の質問を遮って、マードックさんは説明を始める。
「ワット博士は誰もが知る偉人です。ですが発想力があっても、実務的な事や技術開発はイマイチで……。私が雇われてからの発明、全て私が担当しました」えっ、どういう事?
「今まで特許を取った発明は、ワット博士の名義です。ですが、本人はそれを理解出来ていません」
何という事だろう。『蒸気機関』の技術はマードックさんだけでいい、と。とんでもない拾い物だ。
「何でそんな貧乏くじを引く事になったんだ?」ジェームスが少し怒りながら質問する。その気持ちはわかる。
「雇われ人……ですから。裏方と実務に回っていました。『蒸気機関』の技術向上の為なら仕方ないと。ですが、一人で密かに研究をしていました。自分の特許を取る事が夢だったんです。しかし、発明した物はワット博士から妨害されてしまいました……。」
これは酷過ぎる。その才能を世に出す事も無く、全ての名誉と成果を奪われたのだ。
「ジェームス、マードックさんと作る『蒸気機関』は、マードックさんの名前で特許を取るわ」
「おう、俺は技術者として我慢出来ない。アンタは世間に名前を残すべきだ!」
「評価して頂いて恐縮です」真面目な人だ。良し、一気にそこら辺の発明と開発は、全力を以て進めよう。
実際、とんでもない拾い物をしてしまったようだ。
ワット博士が激怒したのも、そこら辺の暴露が怖かったからだろう。
「あと、『高圧蒸気機関』も私が発明しました。そちらを作る事も出来ますよ。ちょっと準備が必要ですが」
……なん……だと。もう出来ているの? バカな……早すぎる。あちこちで改良しようと頑張っているのに。
とんでもない事を彼はさらっと言った。だが、それは天才ゆえの行動だ。『機械』と言うものを知り尽くしているから言えるのだ。
「それでですね、提案があるんですが。……デモンストレーションとして『蒸気船』を作りませんか。二人ほど知り合いがおりまして、多分喜んで手伝う筈です。その、変人で良ければ、ですが」
……変人なら沢山いるし、正直今更って話だ。こっちは全然構わない。
「いいわよ、どんな人なの?」
「一言でいうと……まあ『蒸気船バカ一代』ですね。『蒸気船』が作れるなら、悪魔にでも魂を売れる男達です」
「……それが二人もいるの?」
「はい、そうなんです。前の会社で知り合いまして。『蒸気機関』を船に乗せろ! と毎日のように……」
何故か嫌な予感がする。組み合わせてはいけない、何かを召喚するような気分だ。こういう勘は当たるのだ。
「……まあいいわ。実際見た目が変わらない『蒸気機関』より分かりやすいしね。それで行きましょう」
「では、一人には手紙を書きます。これを『王立芸術院』に届けて下さい」さらさらと書いた紙を受け取った。
「フルトンへ 蒸気船を作る。青い鳥道具店ロンドン支部 マードックより」とだけ書かれている。
えっ、これだけ? そして、これを『王立芸術院』へ? ……一体何故なのか。
「ああ、そいつは元絵師でして。そこに届ければ分かる筈です。多分明日には、店に飛び込んできます」何を言っているのか分からない。何で絵師が『蒸気船』を?
「もう一人は、この近くで工房を持っています。今から行きましょう。そいつが『高圧蒸気機関』に必要な機械を持ってます」と、マードックさんは簡単に説明する。
そういう流れで、少し離れた通りまで皆で歩く。確かに工房がある。
「モーズリー! 『蒸気船』が作れるぞ、『ねじ切り旋盤』を寄越せ!」飛び込むなり、壮年の男性に叫んだ。
「おう、マードックか。ワット博士のところ、クビになったのか?」
「スポンサーが付いたんだ。幾らでも金が使えるぞ!」あの、デモンストレーションですよね?
……マードックさんは、常識人だと思っていたのに。
もしや、彼を世に出してはいけないのでは? と少し不安になった。
「おや、スポンサーは『ロンドンの女帝』か。成程そりゃいいや」と、禿げた頭を叩く人。
「こいつがヘンリー・モーズリー。『蒸気船』を作る為に、ネジを作っている変な奴です」
「初めまして。何ともまぁ、変な経歴ですね?」と、私は首を捻る。
「いやいや『高圧蒸気機関』を小さくして船に乗せるのには、必須なんですよ。おかげで随分と回り道をしましたが……」
確かに変な人だ。どう考えても『ねじ切り旋盤』の発明の方が重要だと思う。
「ところで、『ロンドンの女帝』って私の事ですか?」
「ああ、ロンドンにカレーを広め、大量の魔道具を作って食料品店を繁盛させている、今話題の女商人でしょう?」
「ええと、私のお店は魔道具屋なんですが……」
「まあまあ、似たようなもんですよ!」と、目の前の男性は大笑いしている。
何となく気が付いた。こいつら似た者同士なのだ。魔道具を見た時のジェームスと同じタイプ。
つまり変人だ。マッドサイエンティストだ。もしかしたら、暴走するマードックさんがワット博士を振り回し、それを必死に制御していたのかもしれない。
……なんというか、馬鹿らしくなってきた。私以外の全員が、船と『蒸気機関』の話で盛り上がっている。
「えっ、帆の無い船が作れるんですか? 凄いですね!」
「ああ。長い間試行錯誤していたが、やっとこの『ねじ切り旋盤』が完成した。小型の『高圧蒸気機関』さえあれば、大西洋だって渡れるぜ!」
「おお、そりゃ良いな。良いデモンストレーションになる!」
「よし、大出力の魔道具を作るぜ! こうなりゃ惜しみなく『魔導石』を使うぜぇー」
ああ、ジェームスと千鶴ちゃんが、あっち側に行ってしまって……。
……そして、これにもう一人追加かぁ。どうあっても、私の周りには変人しか集まらないらしい。
念のため覚悟をしておこう。もうこうなったら、どんな奴でも驚かないぞ。
そんなふうに考えていた時期が、私にもありました……。
「おい、マードック! 『蒸気船!』『蒸気船!!』が作れるって? イカす、イカすぅー!!」
王立芸術院へ使いを出した時の反応は「また『フルトンの馬鹿』か。全くあいつときたら……」だったのだ。
やはり、変な奴だった。そして飛び切りの変人なのである。……もう助けて。
「よく来たなフルトン。この人がスポンサー様だ、挨拶しろ!」と、マードックさんも随分、砕けて来たなあ。
「初めまして。俺が『フルトンの馬鹿野郎』さ。『蒸気船』が作りたくて技術者になった! 宜しくねスポンサー様!」
「え、えぇ。よろしく……。あのね、皆。言いにくいんだけど……」
『何ですか? スポンサー様!!』と、一斉にいい笑顔で聞いて来る。
『やめて! そんなに予算を使わないで』とは、皆のこの勢いのせいで言えない。どうしよう……。
「それで、どの位のサイズで作るんだ?」と、フルトンが言う。
「そうだなあ、出来れば大きい方が良いんだが……全長百m位?」マードックさん、ちゃんと抑えて下さいってば。
「やっぱり『吠える四十度』を超える為には、出力が大事だと思うんです!」と、千鶴ちゃんが火に油を注ぐ。
「なんだって! そりゃ大変だ。もっと『蒸気機関』を強力にしなくちゃ!」と、モーズリーさん。
「よし、魔道具は任せて置け。とっておきの『魔導石』、ここで使うぜっ!」ジェームス帰って来い、お前迄暴走するな!
くっそ、こいつら。無尽蔵に金が使えると思っているな。一つ、厳しく言っておかないと……。
「アンタ達、いい加減にしなさいよ! デモンストレーションの意味わかってるの? 何で実用レベルにまで上げようとしているのよ」
「いや、でも実際強力な方がインパクトあるでしょう」マードックさんがすっかり面白キャラに。どうしてこうなった。
「そりゃ……そうですけど、限度ってものがあります!」
それを聞いた、皆の落ち込み具合が激しい。何か罪悪感を覚える。なんでさ。
「じゃあ、もう大西洋横断で我慢します」マードックさん、それ限度って言わない。
「もうひと声!」黙れ、フルトン。
「……お姉様。私、大きなお船が欲しいんですよ。ねえねぇ」ええぃ、子供みたいにねだるんじゃない。
「うーん。まあ外洋に出れる位にはしたいよなあ」そう、そういうのでいいんですよ。
「でも、小型化はレベル高いぜ。大きな方が確実だぞ」
「そうだなあ、少なくとも全長五十mは無いと……」
『うーん』皆で首を傾げる。ですから、借金の事も考えて下さい。本部に追加の借金申し込みが必要になるんだから。
全く、いい大人が大きなお船を浮かべて、いい笑顔で楽しんでるんじゃありません。
私には、変人共がもうこれ以上増えない様に、と祈る事しか出来なかった。
最初は『本当の偉人とは』と言うタイトルで、可哀想なマードックさんを取り上げる筈だった。
「もう少し偉人を出したいなあ」という事で、色々と調べたのだ。
だが『蒸気船』と言うキーワードで調べたのがまずかった。
どいつもこいつも、おかしな奴ばっかり。
何故か『英国面』全開なのである。アメリカ人もいるのに……。
わけがわからないよ。どうしてイギリス人は、そんなに魔改造にこだわるんだい?
こんなのぜったいおかしいよ。
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