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48.ロンドンの商売人達

「おう、店長。久しぶりだな。こっちは女房の尻に敷かれっぱなしでな、やってられねえや」と、グレッグさんが店の奥から挨拶する。随分と久しぶりだ。


「あら、初めまして。私が妻のオリヴィアです。店長のお噂は色々とお聞きしていますよ。何でも料理が得意だとか。随分良い食材を仕入れて頂いて、商売繁盛で言う事はありませんわ」


 どっしりとした『女将さん』と言う風情の奥さん。これでは、尻に敷かれても仕方がないだろう。


 久しぶりに戻ってきたロンドンは、賑やかな店内で随分と景気が良さそうだ。魔道具屋をやっていない方が繁盛するとはどういう事だろうか?まあいい。


「初めまして、店長のアキラです。グレッグさんにはいつもお世話になっていて。今回もわざわざサポートに来て頂いて、感謝しているんです」

「そんな事ありませんよ。私と娘はずっと、リスボンの方で行商ばっかりやっていましてね。いい加減、腰を落ち着けたかった所なんです」


 なるほど、お金の勘定もしっかりしているし愛嬌もある。不愛想なグレッグさんよりも客商売向きなのは、仕方のない事だろう。


「エマ、あんたも店長に挨拶しな」

「はーい、私が娘のエマです。店長さんよろしくー」第一印象が可愛い、眼鏡で黒髪の女の子だ。

「お父さん似じゃないね。エマちゃんよろしく。こっちが千鶴ちゃん。ええと、エマちゃんは何歳?」

「今年で十六歳になります。ねえ店長、私も商売の事が好きなんです。色々教えてくれませんか?」


 なるほど、しっかりした子だわ。この子は私の書類整理の手伝いをして貰う事にしよう。


「エマちゃん、じゃあ書類整理とかを手伝って貰うね。台帳を持ってきてくれる?」

「はーい、ただいま」と、奥から台帳を持って来て貰う。


 ふむ、成程。相変わらず食料品の売れ行きが良い感じだ。こうなったら、徹底的に食料品店にするのも有りかも知れない。ジェームスは嫌がるだろうが。


「店長が居ない間に、色々とあってなぁ。こっちはその対応で手一杯だ。全く、早く帰ってきて欲しいのにインド航海とはねえ……」と、グレッグさんが愚痴をこぼす。

「誰か来たの?」

「ああ、一人目はネイサンって若い男だ。あの『ロスチャイルド家』のお坊ちゃんさ」


 私でも聞いた事がある。『ロスチャイルド家』と言えば、大富豪の金融商だ。この時期に大儲けしたとか何とか。詳しくは知らないけれど。


「まあ、ぶっちゃけて言うとウチと取引のあるフランスの貿易商を紹介して欲しい、っていう申し出なんだが……」

「何かマズイ事でもあるの?」

「イギリス黙認でフランスに密輸したいそうだ。フランスがトラファルガーの海戦で大敗しちまってな。『大陸封鎖令』とかいうので、ヨーロッパ各国とイギリスとの貿易を禁止したんだ」


「ふうん、そりゃまた大変ねぇ。で、何を売るって?」

「何でも、イギリス国内でコーヒーやら砂糖、煙草なんかが輸出出来なくて、物凄い安値らしい。後は、綿織物工場も困っているらしいぞ」

「それを第三国経由で密貿易と。そりゃまた、舐められたもんねぇ。商人の目の前でそんな事させたくは無いわね」


 どうにもけしからん。全く、そんな美味しい話……いや、密輸なんて言う、悪い事は許せない!ぜひウチが……じゃない、対抗策を講じたい所だ。


「ねえ、店長。それってお金儲けになるんですか?」と、エマちゃんが質問する。

「そうねえ、『ロスチャイルド家』はヨーロッパ本土にコネがあると思うわ。フランスの窓口さえ何とか出来れば、大儲け出来るんじゃないかしら」


「……現役商人に頼みに来る事じゃないですよね?」

「まあね、そんな美味しい話を見逃すのも……ねぇ」私とエマちゃんが、にやりと笑う。千鶴ちゃんは分かっていない。ジェームスもこの手の話にはめっぽう強い。ゲラゲラ笑っている。


 エマちゃんには商売の才能があるようだ。大変に頼もしい限りである。グレッグさんは苦笑い。どうやって断るか考えていたようだ。オリヴィアさんは豪快に笑っている。


「店長、何かいい方法があるのかい?」オリヴィアさんから質問される。

「コーヒーに煙草。所謂嗜好品ね。こういうのは、一度流行ればガンガン需要が生まれるわ」

「コーヒーハウスか……。今は紅茶が流行しているし、大分廃れたらしいぞ」

「ああ、上流階級の人の好みは関係ないわ。こういうのは、大量のロンドン市民に配るのよ」


 コーヒーの淹れ方の問題だ。まだイギリスではネルドリップ方式が使われていない。未だに煮出したコーヒーしか淹れ方を知らないのだろう。それでは苦くて広まらないと思う。


「フランスやアメリカでは、新しいコーヒーの淹れ方が流行っているのよ。煙草もそう。その辺の品を安く買い占めましょう。新しい商品を開発して、大量に安い価格で広めるのよ。ウチの利益は度外視して」


 幸い、借金返済の必要が無くなって、ロンドンにはかなりの利益がある。フランス様々である。


「でも、そんなにお店を建てるのも難しいでしょう?」


 ああ、エマちゃんは来たばかりだから分からないのか。ウチには特別な販売網がある事を。ロンドン中にある、カレー屋のフランチャイズチェーンである。最近の店舗数はやや縮小気味らしい。


「うん、お店は必要ないのよ。ロンドン市内には、カレーを売る露店が五百店舗ほどあってね。ウチに上納金を払っているのよ。露店を利用するのは、中流以下の階級の人達。露店にそのコーヒーや煙草を売ってもらえばいいのよ」


 エマちゃんがびっくりしている。そりゃ、カレーの露店を見た事があっても、ウチとの関係は分からないだろうね。


「なるほど、そりゃ良いな。嗜好品が安く手に入るなら、ガンガン消費するだろう」と、グレッグさんは分かったようだ。

「そうそう、密輸なんかしなくても、国内需要が有ればいいのよ。ロンドンだけじゃなく、イギリス中に広めたいわね」

「そりゃ、私達の得意技ね。行商人なら幾らでもいるわ。良い商品なら喜んで売りに行くわよ」と、元行商人のオリヴィアさんのお墨付きだ。


 ふん、ちょっと成金のお坊ちゃんに、本物の商売って奴を教えてやるわ。私は各自に指示を出して、買占めをして貰う。商売は早さが命。皆には少し頑張ってもらう事にしよう。


「……それでな、他にも面会者が居るんだ。ネルソン提督だ。どうやら非公式に『魔導石』をイギリス海軍ロイヤル・ネイビーに売った件でお礼が言いたいらしい」

「えっ、ネルソン提督が生きているの?」史実では、トラファルガーの戦いで亡くなった筈。

「例の不良品のせいらしい。狙撃されそうになったが、暴発で助かったようだ」

 

 自分の知らない所で、微妙に歴史が変わっているようだ。大丈夫なのかな?


「ああ、本部には確認済みだ。提督が生きていても、特に影響はないらしい」

「そうなの。フランスにとっては、頭が痛い話ねぇ」


 海上封鎖しようにも、提督が生きているなら阻止されるだろう。そのまま、フランスが弱っていくのが目に見えるようだ。


「恐らくだが、陸軍にも『魔導石』を売って欲しいんじゃないか?」グレッグさんは言う。

「その内、フランスの大陸軍グランダルメと戦うつもりかしら」グランダルメはナポレオンが育てた世界最強との呼び声高いフランス自慢の陸軍である。


「知らん、そこら辺は会って聞くしかない」

「分かったわ。返事を書いておいてくれるかしら」

「ああ、適当に日程を合わせておく」


 イギリスには貸しを作ったと思ったけど、更に倍プッシュなんて事があるのだろうか。まあ、特に思う処は無し。必要なら言い値で売ろう。


「でな、後二人ほど面会の依頼があるんだ……」と、グレッグさんがげんなりとしながら伝える。


「寄付の依頼が一件。業務提携と言う名のタカリが一件だ。話を聞いたら、もっとうんざりすると思うぞ」


 そりゃ、店番やるのも嫌になるか。最近、ウチの景気が良いのを見て接触して来ているのだろう。どんどん、細かい問題が積み重なりそうだ。リスボンが平和になったと思ったら、今度はロンドンかぁ。


 ……流石に面倒なのだが、話を無視して後で後悔するのも嫌だし。


 私は、グレッグさんの愚痴を聞きながら、頑張ったらちょっとはお金儲けにならないかな、と少しだけ期待を込めて祈るのだった。

ロンドン編の開始です。


ネルソン提督はともかく、ロスチャイルド家はマイナーかな。


色々と問題が出てきて、お金儲けを始めます。


この頃の煙草は嗅ぎ煙草や葉巻がメイン。パイプを咥えて、と言うのがメインになるのは、もう少し後の話かな。


今回の元ネタは「Victoria3」最近発売された、所謂『パラドゲー』という奴です。


産業革命時代を主題にして、需要と供給をコントロールしながら植民地拡大と内政をガンガンやる、そっち方面の人大喜びなこのゲーム。


植民地でプランテーションを作って、労働者POPに買って貰って、と……定番ですね。


とっても商売向きの面白い作品です。


バージョン上がってからやっていないので、暇を見つけてやりたいです。

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