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3.交易開始と歓迎の宴

「お爺さん。何か必要なもの……なんですが、ここって砂漠のど真ん中ですけど、どうやって焚き付けとか薪を用意しているんですか?」


 ここに来るまでに考えていた事を思い出して、お爺さんに質問してみた。名前も聞いていないし、何となく『お爺さん』って感じがしたので、これからはこう呼ぶ事にした。


「確かに、この辺には碌に木も生えておらんのでな。家畜の糞を乾燥させて、それで火を付けておる」


 それはそれは、凄く……匂いそうです。食べ物には近づけたくないなぁ、それ。


「だったら良い物が有りますよ。ちょっと外に行きましょう」


 皆を外に連れ出してゲルの裏手に回る。バックを取り出し、一から十まであるボタンを押しながら顔を近づけて中の品物を探していく。


「ええと、どこにあったかなあ。確か前の街で補充してたはず……」と、バックの中に顔を突っ込んで確認する。


 もう少し整頓する必要があるな、これ。六番目のボタンを押したところで、倉庫の中に例の物がうず高く積まれているのを発見した。


 バックをひっくり返すと、大量の黒い塊がざあーっと溢れていった。ちょっとした山が出来上がる。


「これは……黒い、石かね?」とお爺さんが首を捻った。手に取って感触を確かめている。


「これ、石炭っていう燃える石です。鉱山の町があって、そこで掘り出しているんですが……」と、言いながら黒い石を手に取って少し手に力を加えた。


 黒い石は簡単にグズグズになって、残りカスが砂嵐に舞う。


「これ、石炭の中でも質の悪いボロって言って。まあ、いらないので大量に積み上げられているんですよね」と、苦笑する。


 正直、処分するにも手間と金がかかるので、ボロ山として放置されている中から適当に拾い上げた物だ。タダ同然で手に入る。


「それは、なんとも勿体ない事を……。これを譲ってもらえるのか?」

「ええ、使い道が無くて入れっぱなしにしていたので差し上げます。命を救って頂いたお礼としては、ショボいですけどね」


 これは、私が商売するのに失敗続きの時「これは使える」と気が付いた最初の商品だった。


 なにしろ、捨ててあるのだから。


 銀貨一枚を鉱山の守衛さんに渡して、ボタ山に入れてもらっただけ。採っても採っても、キリがなかった。マジックバックに大量に保管出来て持ち歩きも簡単なので、とりあえず入れてあったのだ。


 だが、そのマジックバックの購入費のせいで大きな借金があり、その返済にヒイヒイ言っているのは忘れる事にした。そういえば、もうすぐ来月の返済時期かぁ……忘れたいなぁ。


「早速使ってみるぞ、袋を持ってこい」と、お爺さんが近くの若い衆に指示していた。


 バタバタと歩きながら、さっきの族長のゲル、その中心の暖炉で一同が輪になって見つめている。石炭を数個暖炉に置き、火を点けてみる。直ぐに燃え出して大きな火が上がった。


「おお、凄い火力だ」「こんな便利な物があるなんて」と、一同が声を上げている。どうやら、この辺には石炭を産出する場所は無いらしい。


 とりあえず役に立ったようで嬉しい。皆が喜ぶ瞬間が商人としての醍醐味なのだ。これで、少しでも助けて貰った恩を返せたと思って良いだろうか。


 そう思っていた所お爺さんが少し泣きながら、こちらの手を握りぶんぶん振ってきた。


「ありがたい事じゃ。これで女子供に重労働をさせずに済みます」と、感動している。


 聞く所によると、家畜の糞を集めて形を整え、天日で乾かし回収する作業を延々と毎日数時間も繰り返していたそうだ。それは大変だったろう。


 あれだけの石炭があれば、少なくとも数か月は持つと思われる。次来る時は、鉱山の町まで行って石炭を回収して、こちらに補充しておこう。


 まさか、こんなに喜ばれるとは思わなかった。こういう時は商人をやっていて良かったと思う。


「よし、宴を開くんじゃ! 皆の者、羊を数頭捌いて来なさい。あと酒の準備も忘れるでないぞ」


 族長ことお爺さんは、皆に色々と指図をしながら、てきぱきと準備を進めていく。


「族長、何の宴をするのですか?」と、若い男性が質問してきた。

「もちろん、お嬢とわし等の出会いの幸運を、祝うために決まっておろう」


 偶然の連続ではあったが、今後も仲良くお付き合いを続ける事だけは確定したようだ。



 そうして、宴の準備は進んでいった。女性陣がたくさんの料理を運び込んでいく。


 餃子みたいな物やうどんのような食べ物、お肉は茹でたり焼いたりした物が、大量に皿の上に盛り付けられている。


 スープにパイ包み、肉団子にサラダ、デザートらしき物まで様々だ。


 時々、これは何だろう? という食べ物もあるが、とっておきのご馳走である事は間違いない。


 そして、この集落の全員が集まった頃には、歓迎の宴の準備が完了していた。


 ちなみに、お酒は馬の乳を発酵させて造るとの事だったが、お断りして乳茶にしてもらった。乳茶は最初に飲んだので印象に残ったと言うのもあるが、お酒があまり好きではないからだ。


 全員のコップに酒やお茶、よく分からない飲み物を含め準備が整ったところで、お爺さんのお話が始まった。


「~であるから……」「……でこの度は色々と~」「~があり、しかしそれでも……」と、長々と話が続く。皆が苦笑して「族長、そろそろ……」と、催促を始めた。


 年寄りの話が長いのは、万国共通なのだろう。わかります。


「あ、うん……。それでは、乾杯!」


 並々入った器を持ち上げると、あちこちから「ヤーラ!」「ヤーラ!」の掛け声が聞こえる。


 後で聞くと、盛り上がった時に叫ぶ言葉で特に意味はなく、部族によっても異なるのだそうだ。つまり、自分の部族を賛美するときの掛け声らしい。


 宴が始まり、各々が目の前の食べ物に手を出しているが、私の方はというと、食事のマナーがわからないので、きょろきょろと周りを見ながら食べ方を探っていた。


 お爺さんがそれに気が付いたのか「お嬢、異国の旅人に対して、食べ方をどうこう言う事はない」と教えてくれた。


 よかった、結構私はこういう場所でやらかす事が多い。異国では宗教的なルールや食事のマナー、話し方などの思わぬトラブルが発生するからだ。


 気を取り直して、まずは大きなお肉から食べる事にした。羊肉のリブかな、これは。そぎ落とすように、肉に嚙り付くと独特の匂いがする。ちょっと獣臭いといえば、そんな感じ。


 味覚の違いや風習はあれど、ある程度は気にせず食べ進める。まあ、全体的に少し味が薄い気もするが。


 次は、これ……揚げ餃子、もしくはラビオリ? な感じの何か。小麦粉で包んである。これはサクサクしていて、食べやすい。中から肉汁が溢れてくる。


 お茶を飲んでいると、女性陣が周りに集まっている。どうやらここの宴会では、主賓にお酒やお茶を注いでもてなすのがルールらしい。


 慌てて器を空にすると、たちまちお替りが注がれる。そのうち、髪の艶が良いとか肌が綺麗とか色々話しかけられた。あの飾り物が良いんじゃないかとか、この服が似合うとか言われながら女性陣に囲まれた。


 もう少し髪を伸ばせばよいのに、という問いかけには「旅をしていると面倒なんですよ」と、苦笑しながら答える。


 特に入浴。洗うのも乾かすのも時間が掛かるし、髪質が固いのでごわっごわになるのだ。


 しかし、この格好って変なのかな……? と少し気にもなった。私だって女の子である。どこの世界でも着る物と飾り物が嫌いな女性はいない、というのは同じなのだ。



 宴も進み、段々と男性陣の酔いが回ってきたのだろう。あちこちで笑い声が聞こえてくる。そういえば、別の世界のお酒ってどうなんだろう?


 ふと自分の荷物にあったのを思い出して、お爺さんに話しかける。


「他の国のお酒も色々とありますけど、どうですか?」

「ふむ、それは気になるのぉ……。よし。皆の衆、珍しい酒があるらしいぞ!」


 お爺さんが声を掛けると、男性陣が集まってきた。この国では、お酒の好きな人が多いらしい。


 とりあえず、幾つかバックの中から出してみよう。鉱山の町で買った三十年物のウイスキーに、港町で飲まれていたワインの果実漬け。


 リキュールもあったかな? と取り出していくと、あっという間に目の前から消えていった。


 結果、一番人気があったのはウイスキーだった。蒸留酒って度数が高いからかな。


 誰かが「なんだこれは!」とか、「これは凄い!」とか言っている。随分好評らしい。あちらでは、馬乳酒とリキュールのチャンポンが始まった。一体どんな味がするのだろうか?


 一方、お爺さんはウイスキーを舐める様に飲んでいた。



 そういえば気になった事があった。ここにたくさん並べられた料理、全体的に薄味だと思ったのだ。


「お爺さん、ここの料理って全部塩味ですけど、もしかして塩って貴重なんですか?」

「塩か……。時々街に買い出しをしてはおるが高くてのぅ。この辺りでは、採れる場所が遠くてなかなか手に入らん」


 内陸だしねぇ、やっぱり。岩塩とかは、取れる地域が限られるし運ぶのも大変だ。ここでは塩が金より貴重なのかもしれない。


「えっとですね。塩持ってますけど、差し上げましょうか……?」私は、恐る恐る話してみた。


 ……皆が一斉に、こちらへ視線を向けた。怖い。すごく怖い。


「本当か、ぜひ譲ってもらえんか。わし等で出来る事であれば、必ず礼をさせてもらう!」


 まあ、港町ではそれほど高い訳でもなかったし、結構な量を持っていたはずだ。


 マジックバックをのぞき込んで、塩の在庫を確認してみる。袋一杯に詰め込まれた塩が、全部で二十袋あった。少なくとも百㎏位はあるだろう。


 ……すとん、すとんと袋を積む度に、お爺さん達の顔色が変わっていく。


「いや、待て。待ちなさい。こんな大量に貰っても、返礼が出来ん!」

「えっと、大丈夫です。これも安く手に入る場所があるので。適当に何かある物で構いませんよ」


 女性陣が大騒ぎで、袋の中身を確かめ始めた。確かに料理には必需品だし大喜びしている。男性陣はと言うと、円陣を組んで必死に返礼の品を考えているようだ。


「……あれはどうだ?」「しかし、それでは足りんだろう」「族長、あれも出さなければ……」とか聞こえてくる。


 宴の場は、一気に緊急会議に変わってしまった。助けて貰ったお礼のオマケ、と思っていたのだが……。


 私は、何時も調子に乗ってやり過ぎてしまう事がある。まったく、異世界交流は難しい。


 基本的に現実世界+魔法が使われる世界観と思ってください。


 そもそも現実世界と異世界が一つしかない、というのに違和感があります。沢山の異世界があるうちの一つ、だって問題は無いでしょう。自主的に異世界を渡り歩くって作品、ほとんど無いんですよね。


 やはり、心躍る本格的な冒険や頭を抱えるようなトラブルを解決するカタルシス、と言うのがやりたいのです。後半に行くほど、トラブルが多くなります。本番は、もっと先です。


 徐々に成長する主人公と頼れる仲間達(ただし変人ばっかり)の物語です。


< 史実商人紹介 >

需要があるかは分からないが、とりあえず続くこのコーナー。戦国時代から2名をエントリー。


安井道頓(1533-1615)


 戦国時代の大阪商人。『道頓堀』の由来でもある。私財を投じて『道頓堀』を開発した。大坂夏の陣で豊臣方について討ち死に。それ以外はこの人、詳細不明なのだ。


 ただ、コーエー系のとあるゲームでは、主人公に商売についてみっちりと教えてくれることから「道頓先生」と敬愛される、愛され系大阪商人。個人的には凄く好きなんだが、知名度はそれなり。


 三大商人の一つ「大阪商人」と言えば、という事でご紹介。大阪商人自体は、米の先物売買をやったり今も使われる「ローソク足」を発明したりと、先進的で結構凄いのだが。


大久保長安(1545-1613)


 此方は商人でなく戦国時代の武士なのだが、戦争に出た事も無く、ただひたすら鉱山開発を行ったという、変わり種。実質内政官なので商人枠とした。


 コーエー系の某ゲームでは、鉄壁の自宅警備員であり絶対に仕官せず、主人公の商人プレイでお世話になる、ニートの鏡。「天下の総代官」とかいろいろ逸話もあるが、知名度はイマイチ。こちらも個人的に好きな人物である。

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