44.いざ、交渉のバトルフィールドへ
藩王との会談を迎えたのは、到着から二日後。提督と二人で会談に赴く。ここで前回の提督の対応を挽回しておかないと、後にも影響する。
提督のトラウマ克服のためにも、ぜひとも「あっ」と言わせねばならない。
まずは提督が挨拶する。
「お久しぶりで御座います。この度は国王の命を受け、正式に商人をお呼び致しました。ポルトガルより献上品をお持ちしております。お確かめ下さい」と言うと、千鶴ちゃんが献上品を運び込む。
やはり、千鶴ちゃんは見た目が美人でこういう役がとても良く似合う。
献上品は、金銀細工を二百個程『浄水の魔道具』を五十個程とその他織物など、結構奮発した筈だ。侮られない様、駄目押しする。
「私が交渉を行います商人に御座います。こちらに証明としてマジックバックをお見せ致します」
四十個のマジックバックを恭しく取り出した。流石にこれを無視する事は出来ないだろう。
「ううむ、確かに拝見した。今回は本当に『交易』としてこちらに来られたという事か」
「はい、正式に『交易』を行いたいと思いますので、国王陛下への謁見の機会を賜りたい」と、提督が挨拶する。こちらは裏方に徹する事とする。
「そうか、正式な『交易』であれば、関税を支払って貰う事となるがよろしいかな?」
「ええ、香辛料が豊富なこちらとの商売が行われれば、本国への良い土産となります。是非ともよろしくお願いしたい」
この場はこの程度で問題無い筈だ。本題は、イスラム商人が独占している王国でのシェア争いとなる。そこへの顔繫ぎと提督の名誉挽回と言ったところ。
力関係でいえば、インドがイスラム勢力に対して一方的に優遇している状態だ。経済的属国と言っても良いだろう。
「よろしい、この事を国王へお伝えして謁見の機会を設けよう。実際の『交易』に関してはこちらが窓口となる。では、追って日程を伝えよう」
「ははっ、有難き幸せ」
宿屋に戻った所で、乗組員達に周辺の酒場へ赴かせて噂を流す。それとなく、西洋から大掛かりな貿易をしにやって来た、程度の噂話だ。
大船団を仕立てて、国交を結びたいと考えているという話を酒の席で語らせる。もちろん、イスラム勢力に聞こえるようにだ。
この話は出来るだけ大掛かりな会談として注目させる必要がある。まずは、謁見の間に主要な実力者をおびき寄せるところから、策略を巡らせるのだ。
私にとっては、一世一代の大博打である。ここで相手に主導権を握られると、インドへの介入は今後不可能となる。なるだけ相手にダメージを与えるよう、コントロールしないといけない。
謁見の日程は一週間後となった。首都のハンピは少し内陸部にある。そこまで、乗組員を含めた百人以上の大行列を作って煽り立てる事にした。
豪華な装いに着替えた異国の水夫たちを見た現地の人々に、強烈な印象を与える為だ。
ポルトガルの国力を実力以上に大きく見せるためとはいえ、まあ派手な物である。
私も正式な商人の衣装と個人的に思っているターバンを巻き、緑色のジャケットに派手なスカートを付けて、精一杯インパクトを与えようと必死である。
だが悲しいかな、実際に周囲の印象を集めたのは千鶴ちゃんだった。献上品を運ぶ彼女の美貌は、特に男性の視線を集めている。悪かったな、貧相な体つきで。
それはともかく、首都近辺の最高級の宿屋を貸し切ってポルトガルの国旗を飾る。
こうまでしないといけない、こちらの事情は個人的に悲しくなるが、ここ一帯はイスラムの独壇場である。幾らでも耳目を集めないといけない。
流石に首都は素晴らしい彫刻を施された寺院や水道橋など、独自の文化が発達している。黙っていると、こちらが圧倒されそうになる。
我々の噂が首都中に広まるまで、せいぜい派手にやらして貰う事にしよう。商人の『戦争』は、既に始まっているのだ。
そして、謁見当日。派手な衣装に身を包み、『目玉商品』も持って交渉の場へと望む。まあ、どうやっても手荒な事になるのは間違いない。
見眼麗しいインドの女性達に案内され、国王への謁見が始まる。
「お初にお目に掛かります。我々は遠く西洋はポルトガルより友好の使者となるべく、派遣されました商人の一行に御座います」と、恭しく頭を下げる。
「……ようこそ、我々と『交易』したいとの報告は受けておる。こちらとしては、特にその必要性は感じておらぬが」と、国王陛下の一言。
どうやら、あちこちから我々の一挙手一投足について、噂を聞いているようだ。
周りを見ると、如何にもイスラムの高官と思われる連中が集まっているようだ。ここで押し負けると終わってしまう。
「はっ、まずは我々からの献上品をご覧頂きたく」と、私が手を叩いて献上品を運ばせる。
一人、また一人と様々な産物を持ち込む。ずらりと派手な衣装の乗組員達が、国王陛下の前に大量の献上品を置いていった。今まで節約していた、とっておきの宝物だ。
これでも『目玉商品』の前座である。
「ほう、金銀細工に魔道具か。これはまた、色々と……。なるほど、友好を結びたいとの意思はよく分かった。だが……」と、国王陛下は特に豪華な衣装を身に着けたイスラム商人に目を向ける。
「こちらは、特にムスリムの国々との結びつきが強い。幾ら宝物を積まれようと、それは出来ぬ相談なのだ」
「はい、こちらもそれは承知しております。その上でまだ最後の献上品をお渡ししておりません」と、にっこりと笑って、周囲を見渡す。
どうやら、今の献上品でも相当動揺しているようだ。中々にしぶとい連中である。
そりゃ数十年、下手をすると百年単位で懇意にしているのだ。その仲に割って入ろうとするのに、この程度では無理があるだろう。
だが、こちらの『目玉商品』を見てもそれを続けられるか。ここが勝負の肝である。
「国王陛下、こちらにお持ち致しましたのは我がポルトガルにて開発致しました、最新の銃器に御座います」
「銃器……とは?」と、こちらに興味を示した。
「飛び道具に御座います。弓よりも遠くまで届き、相手を焼き尽くす強力な兵器に御座います」
そう、経済的属国であるインドに対して、絶対にイスラム商人達が渡せない商品がある。武器だ。
自分達の権益を覆すような危険な代物など、絶対に渡していない。先程の国王の反応で分かる。
恐らく、イスラムにもあるだろう、普通の銃すら渡していない様だ。
そして、直接この献上品の価値を見れば、その価値観が一変する筈である。
これが私の『目玉商品』。どの世界を探しても、此処にしかない最新兵器である。
ジェームスが発見し、私との話し合いで見つかった『安全装置付きの小型魔導石による銃』である。
この銃であるが、単純に安全装置があるというだけではない。作ってみて、初めてその威力を発見したのだ。まず、現状存在する銃は『中型魔導石』を使っている。
この銃に比べて、製造費用が高いという問題もあるが、我々が発見したのはそれだけではない。『魔導石』が発動するまでのチャージ時間である。
『魔導石』の魔力が発動する時間は、その大きさに比例する。現状存在する銃であれば、一発撃った後に三分ほどの時間が必要となる。
だが、我々が作った銃は『小型魔導石』しか使っていない。連射が出来るのである。
チャージ時間は三十秒にも満たない。そろそろ、フランスはウチの商会から渡った製品を使って、この利点を発見しているかもしれない。
そして、もう一点。安全装置の仕組みの複雑さだ。これはあのジェームスを以てしても、簡単に製造できない代物である。献上した銃は国王経由でイスラム側に流されて、研究品として分解されるだろう。
だが、あまりにも緻密でぎっちりと重ねられた装置は、まともに分解も出来ない。複製品を作ろうにも、そもそも理論を知らないイスラム諸国では、絶対に真似出来ないのだ。
もちろん、渡す際にはメンテナンスの方法は教える。だが、製造方法を教える訳が無い。つまり、この兵器を求めて『交易』をするしかなくなる。イスラム側でも複製できない強力な兵器。
インドが喉から手を出しても欲しがる一品である。
「陛下、こちらの献上品の威力をご覧下さい。何処か安全な広場をお借りしたい」と、私が申し出た。
国王陛下は、うんうんと頷いている。イスラムの高官が物凄い顔でこちらを睨んでいる。
まあ、そうだろう。最悪、インドとの戦闘になりうる可能性があるものな。だが、私は自重しない。
中庭に交渉の場を移し、幾つかの的を離れた場所に置いてもらう。
私は、この銃を構えて立て続けに打ちまくった。
二発、三発と続けて打ち続ける度に、国王陛下の顔色が変わる。まるで玩具を与えられた子供のようだ。
結局、五分程で十連射したこの銃を、全部で十丁献上する事となった。
「素晴らしい! こちらの銃をこれからも、ぜひ譲って欲しい。もちろん最大限の優遇を約束する!」と、良い返事を貰う。
もしかしたら、これが原因でイスラム勢と殴り合いの喧嘩になるかもしれない事は黙っておく。
「ありがたき幸せ。我がポルトガルと貴国との友好が永く続きますよう、宜しくお願い致します」
この勝負、我々の勝利だ! 私は、心の中でガッツポーズをする。さて、イスラム商人達がこの後どのような妨害工作を仕掛けてくるのか。そこら辺の読み合いまでが今回の重要なポイントだ。
カリカットでの『交易』と、イスラム圏からの出航が残っている。
私は、もう一度この駆け引きを終わらせるまで、気を抜く訳にはいかないと、再度気合を入れなおすのだった。
商売回のクライマックスです。やっと、『目玉商品』を説明出来ました。
そろそろ、リスボン編も佳境に入りました。
この物語は、主人公の内面的な成長を描いています。数々の交渉を経て、狡猾で強かに成長する姿をお伝え出来ていれば良いのですが。
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最後は、千鶴ちゃんに大暴れして貰いたい所です。




