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43.カリカットは遠かった

 いよいよインドへ向かっての航海となる。船団のうち一隻はマストが一本折れている為、交易品は詰まない事にした。荷物を減らして船足を確保し、何とか遅れないようにする為だ。


 いざとなれば、放棄せざるを得ないかもしれない。修理しようにも、この周辺に造船所は無い。辛うじてモザンビークに小さなドックがあるため、そこまで何とかして向かうしかない。


「提督、インドへの道のりだけど、どの程度の日数になるのかしら?」

「積み荷の事もあるが、沿岸沿いの測量もある。危険は無い筈だし途中で補給も出来る。二カ月程度と見てよいだろう」


 あの暴風圏が速かっただけであり、本来の航海とはそういうものだ。マラッカからリスボン迄、未踏破地域を地図に記録して、初めて探検が完了となる。


 各自担当の世界では、ちゃんと仕事をやっていると思うがワーカホリック気味の私としては、もどかしく感じてしまう。ちょっとそこまで、などと言う事は出来ないのだ。


 まあ、他の旅団メンバーがやっている旅というのも、こういうスケジュールなのだろう。私の持つ『宝玉』が特別なだけだ。


 偶にはゆっくりとした旅と言うものを味わう、という事にしておかないと気持ちの整理が付かない。


「まあまあ、お姉様。焦って交渉が失敗しても困りますし、どっしりと構えて皆に任せるというのも『隊長』の役目ですよ」 

「……私、何時から『隊長』になったの? そう言うのは、提督がいるじゃない」

「私を含めて、乗組員全員がそう思っていますよ。航海も交渉も全てを導いているのは、貴女ではないですか」


 解せぬ。年上を差し置いて『隊長』と呼ばれるのも何か変な感じがするし、航海だって食事を作っていただけだ。むしろ場違いな気がしていたのだが。


「自覚を持って頂きたいものだ。『隊長』はこの航海を提案して、ずっと皆を勇気付けてきた。ここまで順調に来られたのも、貴女の存在が大きいのです」と、提督が言うと周りから拍手された。


「そうです、お姉様の食事も自覚は無いかもしれませんが、皆にとっては希望なんですよ。船乗りにとって、食事以外に楽しみは有りません。美味しい物が食べられるから、ギリギリの限界を耐えられるんです」


 『海賊魂』を持つ千鶴ちゃんから太鼓判を押されるとは。少しは自覚した方が良いのだろうか。


「分かったわ。あまり自信は無いけれど『隊長』として頑張ってみるわね。……そうそう、今スパイスが無いから約束が守れていないけど、カリカットに到着したら自慢のカレー料理を振舞うわ」


 私がそう告げると、皆から拍手喝采される事になった。そうまでしてカレーを食いたいか。この欠食児童共め。仕方が無いから、本格的なスパイスを使った特別製の奴を考えておくとしよう。


 ……私にとって、カレーとは切っても切れない縁があるようだ。ロンドン、香辛料交易に今回の航海もそうだ。


 手軽に作る事が出来て、刺激的な香りと味。単なる料理とは言えないのかもしれない。実に魅力的な食べ物なのだ。



 成り行きで『隊長』となってしまった私だが、やる事が変わる訳ではない。毎日食材の管理と食事の準備。時々、探検と航海の進捗を話し合いながら過ごしている。


 途中の村を見つけては水や食料を入手するのも、私の役目だ。『隊長』とは一体……。


 アジア圏であるため、主に米を使った料理に切り替わる。既にリスボンで積み込んだ食料は消費してしまっている。


 水牛一頭を丸ごと譲って貰ったり、魚を定期的に釣ったりと誠にのんびりと旅を続ける。


 個人的には、和食を再現したいという欲望が湧き出るのだが、さすがに調味料が足りない。醤油に砂糖、味噌があれば、幾らでも作るのだが……。


 まあ、無い物ねだりをしても仕方が無い。少しでも美味しく食べられる様、工夫を凝らす。


 魚を食いなれていない乗組員達を考慮しながら、献立を考える。もう米には慣れたらしく、特に不満は出ていない。壊血病もバランスの良い食事をとっているので問題ない様だ。


「千鶴ちゃん、小魚と油があるから丸揚げにしたいんだけど、人手が足りないから手伝ってくれない?」

「はい、分かりました。航海は順調ですし、食料の補充も楽で助かりますね」


 そうなのだ。あまりにも航海が順調すぎて、二人とものんびりと毎日を過ごしているのだ。千鶴ちゃんの能力を生かす事件などが起こる事も無く、毎日提督が魔道具で位置を確認して、地図を埋めるだけ。


 時々その地図をチェックして、進行方向を相談する程度だ。


 暇を持て余した私は、調理室に籠って変わり種の食材を色々と工夫して、メニューを考える毎日を続けている。まあ、前半がハード過ぎただけだ。


 何時になったらインドに到着するのやら。マラッカを出航してから一月半位経った。もうそろそろ、セイロン島に到達する頃だろう。


 お茶やサトウキビがあるので、交易品ではなく日常品としていくつか買い物をしたい所だ。


「提督、そろそろインド圏内に入りそうね。妨害とか困った事は無い?」

「そうですな。波も穏やかだし、嵐も無い。イスラム商人の船や海賊も姿を現さない。強いて言うなら風も吹かないので、船が進まない程度だろうか」


 それはさすがにどうする事も出来ない。東洋の魔道具の中には天候を操るものもあるとは聞いたが、詳しくは知らない。


 ジェームスは上海で魔道具の技術交流中だろうか、何だか無性にアイツの顔を見たくなる。何というか、そう言う色恋沙汰の感情ではなく、見知った人々の様子を見ておきたいだけだ。


 ロンドンのグレッグさんもそうだ。ずっとお店を任せっぱなしだが、サポートの女性はどんな人なんだろう。エリオやマリアちゃんの様子も気になる。


 もうすぐマリアちゃんも六歳の誕生日を迎える筈だ。大きくなっているかもしれない。


 気になると言えば、遊牧民の街も気になる。もう、収穫が終わり畑を拡張しているのだろう。のどかなあの街にも顔を見せに行きたい。


 航海と言うものは、自由に身動きが出来ないのが難点だ。自分にとっては、あちこち走り回らないと仕事をした気にならない。カリカットに着けば、やる事は山盛りである。


 準備を始めてはいるのだが、行ってみない事には何が起こるか分からない。


 その時はその時、と頭を切り替えて準備をするしかない。



 それから十日ほど過ぎて、ようやくカリカットにたどり着く事が出来た。幸いな事に乗組員も船も全く問題が無い。後は私が頑張るしかないという事だ。


 宮殿に向かい、この地の藩王への会談を申し出る。提督とは知らない関係ではないが、あまり良い雰囲気でもない。この辺の統治は『ヴィジャヤナガル王国』である。藩王を通じて謁見を依頼しなければいけない。


 さて、どの程度の献上品が必要かと悩んでいる。『交易』するのは、カリカットで藩王の影響が強い。とは言っても、国王に斡旋して貰えなければ、無事に『交易』することもままならない。


 どちらを優先すべきか、と言う話ではあるがポルトガルの力を見せつけるのであれば、藩王には取次のみで済ませ国王から直接的に藩王への指示をして貰うのが最善だろう。


 とにかく、街中の様子も見ておきたい。宿泊施設なども含め、乗組員の一部のみを上陸させて後は留守番にしよう。ここはイスラム商人の勢力圏だ。何か嫌がらせをされても困る。警備はしっかりとさせておく。



 大きな宿泊施設を見つけ、交渉に必要なメンバーと半舷上陸する乗組員の待機場所にする事とした。少なくとも一カ月は滞在すると思う。調理場を使いたい、と言うと不思議な顔をされたが了解を貰えた。


 市場に行って、色々と物色しよう。手持ちのスパイスの補充もしたい。昔、デリーに行った時の事を思い出す。大量の香辛料が所狭しと並んでいる。地元の商人に混じってイスラム系の商人達も店を広げていた。


 ともかく、あちこちの商店を見て回る。サフランが売っているので、サフランライスにしてしまおう。あとはスパイスも大量にある。


 今まではそれほど種類を混ぜずにカレースパイスを作っていたが、此処なら幾らでも入手できる。


 思う存分スパイスを使ってみよう。幸い、ロンドンでも香辛料の種類は豊富なので色々と知識はある。主な香辛料は「クミン」「ターメリック」「コリアンダー」「唐辛子」「胡椒」と言ったところだ。


 ガラムマサラだけでも膨大な種類があるのだ。色々味見をして幾つか購入する事にした。後は……ショウガやニンニクも使うかな。「シナモン」や「カルダモン」もビックリする位に安い。流石はインド。


 日本風のカレーも美味しいのだが、せっかくだから本格的なスパイスカレーに挑戦する事にしよう。


 具材は処理済みの鳥が丸ごとで売られているので、ダシを取るための鳥ガラとチキンカツにしてしまおう。結構な数を購入する。


 宿に戻って皆に振舞うための準備を始める。千鶴ちゃんも手伝いに慣れたようなので、参加して貰う。まずはスパイスの分量を慎重に決めて、擦り潰して貰おう。


 その間に鶏ガラを煮だして、チキンカツの準備もする。パン粉は無いが、ビスケットを砕いて代用する。市場で油や卵も購入しておいた。百八十度の油で一気に揚げる。


 野菜は細かく切ってルーに溶かす用と、具材として大きめに切った物をそれぞれ用意する。炒め終わったら、弱火でじっくりと煮込む。カツとは別に具材として鶏肉を小さめに切って投入する。


 何時ものように灰汁を取りながら、スパイスを投入する。千鶴ちゃんにはご飯を炊いてもらい、サフランライスを作って貰う。流石に日本人なだけあり、ご飯の調理には困らない様だ。


 ようやく準備が整ったので、約束通り本場インド風のカレーライスを乗組員達に食べさせる。カツカレーなのは日本風なのだが、特に問題は無いだろう。


 味付け的には少し辛めにしてある。どいつもこいつも大汗をたらして、黙々と食べ続けている。


 私達も一緒に食べる事にする。味付けはインドカレーのスパイシーさを意識しつつ、ご飯に合うようにとろみも付けている。更なる魔改造を施したカレーであるが、やはり香辛料が新鮮だと辛味も強くなるらしい。


 私達は、その辛さでインドに来た事を再確認しながら、お腹が一杯になるまでお替りを繰り返すのだった。

 丸ごとグルメ回です。魔改造はロマンなのです、異論は認めます。


 カレーに妥協しない主人公。お前はキレンジャーか、とでも言うように色々と工夫しています。


 すっかり香辛料の種類を覚えてしまいました。


 今回の元ネタは「ATLAS」シリーズです。冒険家を雇って地図作り。


 「信じる? 信じない?」という奴ですね。

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