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42.国王様、貿易をしたいのですが

 村で数日分の食べ物を頂いた。ここら辺ではどこでも手に入る米だ。ジャポニカ米ではなく、細長いインディカ米は初めて見る。


 確か、蓋をせずに煮る様にして調理する筈だ。各船の調理担当を集めて、試しに調理してみる。


「うん、まあこれなら大丈夫そう……。ふっくらとしているみたいね」

「……成程。小麦とは違いますが、水分が少ないので保存も効くようですし、癖も無いので何とかなります」


 食べ慣れるのに時間が掛かるかもしれないが、不味い食べ物ではない。どちらかと言えば、がちがちに焼き固めたビスケットの方が食べ辛いのだ。


 乗組員達の健康状態に問題は無し。マラッカまでは三日もあれば到着出来るだろう。今まで役立たずだった私ではあるが、此処からはこちらのターンだ。商人として交渉と謁見、交易品の調達を行うのだ。


 ふと、謁見は初めてと思ったのだが、よく考えたら既に皇帝陛下に二度も謁見している事を忘れていた。


 『ナポレオン』は、既に頭の中から消えている。


 『康熙帝』の方はと言えば、逆にインパクトが強すぎて皇帝陛下という事を忘れそうになる。


 ……成程、どちらも交渉の参考にはなりそうにない。


 一応、提督と千鶴ちゃんを交えて、プランⅭまで検討してある。出来ればその辺のパターンなしに済ませたい所だ。まあ、此処にはイスラム商人は居ない。


 多分、絡んでいるとしてもこの時代の中国、明への朝貢貿易がある位だと思う。


 言わば前哨戦という奴だ。ここで躓いていては本番が心許ない。『目玉商品』を使わずに進めたいものだ。


 リスボンの貴重な国内通貨の大枚をはたいて、金銀細工などを交易用として大量に入手してある。魔道具も含めて、これらの献上品は温存しておきたいのだが、とも考える。


 だが、出し渋って交渉に失敗するのも困るので、三人で相談して適切な量を検討する。だが、以前インドで交渉を行った提督の表情は暗い。どうやら、過去のトラウマがあるらしい。


「国王からの献上品ではなく、個人としての贈り物である!」と、ゴリ押ししたそうだ。それはまた酷い思いをしたと思う。


 やはり献上品で国力を推し量られるのは、何処でも同じらしい。その経験も参考にさせてもらい、旨く交渉を進める事にしよう。



 謁見を申し出ると、思いのほか反応が良い様だ。恐らくではあるが明に朝貢した事はあっても、された事は無いのではないか?それならそれで、対応を考えるとしよう。


「国王陛下、我々西洋国家ポルトガルより国王の命を受けて、交易に参りました商人一行で御座います」と、頭を下げてマジックバックを取り出す。


 四十個のボタンが付いたそれを、今まで国王は見た事も無かっただろう。遊牧民の村は、本当に良い仕事をする。これが無ければ、この交渉が不利になる可能性だってあったのだ。


 恐らく、私の事をポルトガルの王族か何かだと思っているに違いない。ただの商人が持つ代物ではないし。


「こちらに我が国の産物である、金銀細工の数々を献上致したく存じます」と、私が手を叩く。


 千鶴ちゃんが恭しく献上品である品を差し出した。それなりに数を揃えたので、何とかなる筈なのだが。国王は幾つか手に取って、出来を確認している。


 リスボンがこの手の品物が揃うというのは誠に都合が良い。金銀はどの国に行っても価値が変わらないし、細工の精密さはそのまま工業技術が表れる。


 ポルトガル自体は、ヨーロッパの中でも力がある方ではない。この時代は圧倒的にスペインとイスラム諸国が強いのだ。だが、そんな事は国王陛下は知らない筈。黙って献上品から推察して貰うのだ。


「うむ、誠に良い品々である。……それで、そちらは何を望むのか?」


 想定よりも反応が良いのでプランAを続行する。


 因みに無反応ならプランBとして、献上品を倍プッシュ。敵対的な反応なら実力行使、のプランⅭとなる。まあ、それは本当に作戦なのか? と言われると困るのだが。


 ともあれ、ポルトガルの国力を実体以上に見せる事は出来たと信じて、ここから交渉の始まりだ。


「はい、我々ヨーロッパの国で最初にここまで訪れる事が出来ました。国に帰れば、この地の豊かさを他の国々に喧伝する事となりましょう」と、私は芝居がかった台詞で浪々と語り始めた。


 これが商人の『戦争』である。平和的、かつ上手い事を言って良い条件を引き出す戦いなのだ。


「ですが、我々に敵対する国も御座います。その国にこの地の事を知られれば……いっそ実力行使を、と言う可能性もあります」

「……成程、それで貴殿らは、どうする積りか?」と、国王陛下からの質問だ。上手く言い包めるぞ。


「はい、我が国と交易の独占権を結んで頂ければ、他のヨーロッパの国々を牽制して見せましょう。我々は、平和に交易を行いたいのです」


 その回答に国王は考え込む。そうそう、嘘は言っていない嘘は。どう牽制するかなんて知らん。口先三寸、という奴だ。


「こちらは明との朝貢貿易がある。そちらと問題になる事はあるまいな?」

「ええ、我々も中国との関係がございます。決してその結びつきを邪魔する事は無いと誓いましょう」


 どの時代の中国か、とは言っていない。明との関係なんぞ無いが、嘘ではない。


「分かった。貴国との交易を認めよう。もし、他の西洋の国からの接触があった場合は、この交渉は破棄するものとする。それで良いな?」

「はっ、ありがたき幸せに存じます」と、私達は恭しく頭を下げた。


 茶番劇が終了し、交易については国が支払ってくれる事になった。交易に金銀細工の品々を使わなくて済むのは、正直ありがたい。思う存分、インドにぶん投げてやろう。



 市場に行って、目的の香辛料の値踏みをする時間だ。噂が流れるのは早い。何時だって、素早く正しい情報を入手しようと、商人達が躍起になるのは同じなのだ。


 これも商人の『戦争』である。王宮でのやり取りは、市場にまで届いている。思う存分『交易』をしてやる事にしよう。


「ふむ。『胡椒』に『チョウジ』『ナツメグ』が大量にあるわね。香料や象牙はどうする?」

「象牙はヨーロッパでは人気が無いし、嵩張るので不要だな。香料は需要があるので出来るだけ欲しい所だ」

「じゃあ、香辛料はあるだけ積み込んで。香料はこちらで選んで積み込みを行うわ」と、役割を分担する。


 二十隻のうち半数以上が香辛料等で満載になった。後はインドでの『交易』次第だ。今の状態でも十分に黒字が確定する筈だ。


 まあ、平和に『交易』出来た事で次の航海が楽になるのだから、なかなかに良い成果だ。後はマラッカとの関係性を他国に知らせて、事実上の独占を行う。


 例え、今回の航路を知ったとしても暴風圏を体験している者でなければ、ここまでたどり着く事は出来まい。


 我々の乗組員には、既にその経験が身に付いているのだ。次回の航海も問題ない筈だ。


 他国は、せいぜい我が商会に『保険』を掛けて、沈没した船の払戻金を受け取るがいい。


 出航前には、忘れずに食料と水も満杯に補給する。ここからインドまでの道のりは結構長い。決して準備を怠ってはいけないのだ。


 いやあ、お金稼ぎは心が洗われるようだ。今の私の心中はとても清々しい気分である。


 長い間先行き不安で精神が乱れていたから、思う存分荒稼ぎ出来て大変スッキリとした。いつもこんな調子なら良いのに、と思う。



 いよいよインドでの決戦となる訳だ。断言しても良いが、こんな温い交渉になる筈も無い。しっかりと権益と国政にしがみついた、イスラム商人とのガチンコ勝負である。


 必要な物も十分に準備した。『目玉商品』を含め、恐らくこちらの手札を全て使い切って、ようやく勝ちの目が見える状態、と言った所だろう。決して油断は出来ない。


 どんな無理難題を言われても良い様に、私は気持ちを落ち着けると次の交渉への気合を入れ直すのだった。

思う存分、商人をやります。平和的かつ、狡猾に動かねばいけない時もあるのです。


嘘は言っていない嘘は。ただ真実を語らないだけです。


騙し騙されはこの世の常。商人の道のりは険しく厳しい。


決して「ざまぁ」と言いたい訳ではないのです。


ともあれ、この主人公えぐいコンボを発動するものだ。


自分は新ルートで莫大な利益を出してそれを他人に伝える。

だがそのルートは初見お断りなのだ。自分以外は沈没確定。

沈没した船をさらに保険事業で自分の利益に、と言うマッチポンプである。


知らなかったと言わせない。とんだ銭ゲバである。

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