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37.新商売と冒険者達

シリアス回です。


商人一人のアイデアで世界の仕組みが変わる瞬間です。

 この場に居る三人は『保険』と言う単語に首を傾げていた。


「『保険』ですか……。確かジェノバの辺りでやっている、とは聞きますが。あれは国が行うものでは?」エリオは一応知っていたらしい。

「エリオ、私達の持っている資産は、既にそこらの小国よりも上なのよ。出来ない事は無いはず」

「しかし、商会長殿。もし航海に失敗したら、あなたの商会が莫大な損をするのでは?」


「私共の問題は『外貨を保管しきれない』という事なので。むしろ積極的に損を出したいのです」と、私が言うと提督はまたもや首を傾げた。


 まあ、商売人として『損を出したい』などと言う発想が出てくる事自体がおかしいのだ。


 まさか、リズさんの「お金をバラまく」がヒントになるとは思わなかった。『保険』での支払いを、外貨で行えば良いのだ。


 相手には「そちらの通貨へ両替する際の手数料は不要ですから」と、言っておけばお得感も出るだろう。全く酷い話である。


「大枠はこうね。まず船団単位ではなく、船1隻単位で支援して貰う事にしましょう。その際、支援金の1割をレアル通貨で掛け金として商会に払ってもらうわ。対象の船が未帰還、もしくは成果なしであれば、商会から掛け金の十倍を外貨で支払うの」と、私はテーブルの上で図を描きながら説明する。


 具体的には、一隻の船に十万レアルの支援をするとしよう。一万レアルをウチの商会に掛け金として支払うと、失敗しても十万レアル分の外貨で支払われるので、損失は一万レアル分だけだ。


 もし成功したら、その船に支援をした金額の割合で報酬が支払われる。商人にとっては、大損する可能性を限りなく減らす事になる。支援する際のハードルが大きく下がるだろう。


 こちらは、一定の国内通貨収入を増やすと同時に、失敗時には外貨が減る事になるので大助かりだ。ウチが両替商だから出来る裏技である。



「という訳で『保険』を広めれば、提督は商人からの支援が増える。商人は失敗時のリスクを減らせる。ウチの商会は外貨を各国に流しつつ、ある程度の利益も出る。『交易』する船団が増えれば市場が儲かる。皆が幸せになれるわね。どうかしら、エリオ。これなら何とかなりそう?」


 目立つのは提督であり、こちらはその裏方になるので問題ない。『保険』によって、今まで資金不足や失敗による破産で出来なかった『交易』もやりやすくなるだろう。


 インド向けの航海だけではない。新大陸向けにも同じように『保険』を適用すれば、更に経済規模は増える筈だ。


 ウチとしては倉庫の維持費が減るので、どんどん失敗してくれて良い。そして『交易』が増える程、リスボンにお金が集まり、ウチの両替商の利益も上がるのだ。良い事尽くめである。


「そうですね。どの程度成功するか掴めないので大まかに考えると、成功率三割でも恐らく外貨の流れを作り、経済効果の増加が見込めます。『保険』に加入する人数が多い程、安定する筈です」


「そういう事で、提督にはこの『保険』の話を出来るだけ広めて欲しいの。後は、インドとの交渉に私が参加する事も付け加えて。その上で支援をお願いすれば、商人達も納得するでしょう」

「……なんという事だ。たったそれだけで、そのような大きな話になるのでしょうか?」


 これはギャンブルだ。それも、こちらが胴元なのだ。賭ける人間が多い程、胴元が儲ける事になる。ジェームスが居たら、きっと大喜びでこの計画に参加するだろう。


「一人の商人として断言出来ます。……安定を求める商人は、絶対に『保険』を必要とするでしょう。逆に掛け金を嫌がる程度の商人は、最初から支援なんて行う訳が無いですよ」

「なるほど……これが商人の考え方なのか。確かに理解は出来ん。だが、これなら説得出来るでしょう」と、提督も納得したようだ。


「後は、細かい契約と条件のすり合わせですね。難癖をつけて、失敗の条件を拡大解釈する奴が出るでしょう」と、エリオが実務者モードに入った。つまり、この案が具体的な検討段階に入ったという事だ。


 ふう、こんなに頭を使って考えたのは、何時以来だろう。その場で倒れこみそうになるのを抑えて、皆の話を聞いている。



「すみません、インドへの航路なんですけど。提督さん、地図はお持ちでしょうか?」と、千鶴ちゃんが話し始める。

「もちろん、支援する際には決まって説明を求められる。ここに広げましょう」少し歪んでいるがヨーロッパからインド大陸までの地図をテーブルに広げる。


 赤い線が航路だろう。何カ所か陸地に繋がっている場所が寄港地と思われる。


「提督さん、損失を出した二隻の沈没した場所を教えて下さい」

「この湾の入り口と、この辺の陸地に近づいた際に海賊やイスラム勢力から襲われたな」と、バツ印を付ける。

「イスラム勢力の航路は、この辺の筈です」と、千鶴ちゃんはインド洋一帯に広く丸を書いた。


 アフリカからアラブ地方、インドに繋がる辺りまで丸で囲んでいる。確かに陸地から少し離れた地域を航路としているのだろう。商品の輸送には船が不可欠だ。もちろんイスラム勢力と手を組んだ海賊も多い。


「つまり、この地域を通らずに無寄港でインドまで到達出来れば、成功率は上がりますね」と、千鶴ちゃんは話を続ける。

「それでは食料や水が……」と、提督が反論しようとする。

「これは、来島家の口伝です。もう、伝えるべき人も居ませんので、提督さんにお教えします」と、真剣な顔つきで提督を見つめる。提督も同じ表情だ。


「南北に大きく近づく程、西から東への風が強くなり、海が荒れて大きな波が生まれます」

「……確かに、喜望峰辺りで物凄い風で航海出来なくなった事がある」

「その風と波を捕まえる秘伝が来島家に伝えられています。帆を操り、船の向きを波に合わせるのです。それが出来れば、凄まじい速度で海上を移動する事が出来ます」


「……それは無謀だ。あのような嵐に船が耐えられる訳が無い」

「そうですね。並の方では無理です。ですが、生まれた時から船に乗っていた私なら出来ます。風を全身で感じ、波の動きを見極めて潮の流れを嗅ぎ分けます」



 ベテランの提督が恐れて実行できない事を、サラッとやると言い切った千鶴ちゃん。なるほどこれが『海賊魂』なのかと感心する。無寄港でそれだけの嵐を帆に受ければ、確かに日数と食料を節約出来る。


「その上で、直接インドには向かわず、東に進んでから戻るルートを提案します。その辺りに東南アジアがある筈です。それに沿ってインドへ北上するのです」


「……確かマルコポーロの『東方見聞録』に記載があった『東インド諸島』か。もし本当に可能なら、大量の香辛料を手に入れる事が出来る」

「海賊やイスラム勢力を避けた上で、日数を短縮する為の無寄港ルートです。恐らくこのような感じになるでしょう」と、千鶴ちゃんが航路を引き始める。


 モザンビークに行かず、直接東に向かう。東南アジアで補給して、インドに向かう。インドから直接モザンビークを目指す、と言った航路だ。実現できれば、未発見の『東インド諸島』を抑えるだけでなく、新たなルートを開拓する事になる。


「ふむ、どちらにせよ交易のために、武装は少なくせざるを得ない。それならいっそ……」と、提督が色々と考えているようだ。

「お姉様、すみません。あまり現実的ではないかもしれませんが、お役に立てれば、と」


「良いのよ、千鶴ちゃん。おかげでこちらの取る手段が選択出来る様になったんだから。無理だったら途中で進路を変える事も出来るわ。とにかく成功率を上げて、商人から『東への交易が儲かる』と思わせるのが大切なのよ」


 そう、今度の航海は探検ではない。利益を上げなければその後が続かない。『保険』制度だって、あくまで成功する、と言う前提で行うものだ。


 インドでの交渉の優先度が下がりそうなのも良い。『東インド諸島』で香辛料を入手できれば、インドでの『交易』が必須でなくなるのだ。


 イスラム商人への対策や交渉の進め方など、まだ問題点は山積みである。


 だが、大きな問題点の突破口と新たな冒険が目の前に提示され、私は自分の『冒険者魂』に火が付く感覚を覚えるのだった。

千鶴ちゃんを出した時に考えていたプロット通りに進みました。


喜望峰の嵐は「吠える四十度」と言うもので、現実世界でも実際に使われていたルートです。


他に「狂う五十度・絶叫する六十度」と言うものも存在します。


昔読んでいたAAスレで知って以来、自分もそういう物語を書きたいと思っていました。

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