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33.それぞれの道を進む

 北京での活動は終わった。西安を経由して遊牧民の村に戻るとしよう。予定の三カ月より若干早く帰れそうだ。北京からの街道はしっかりと宿があり、整備されているので想定以上に順調である。


 途中山賊に出会う事になったが、千鶴ちゃんが三人ほどぶっ飛ばすと逃げて行った。人があんなに空高く飛ぶのは初めて見た。


「お姉様、言ったでしょう。私強いですって」

「確かに護衛として頼もしいわね。まあ、山賊が可哀想だから手加減してね」

「はい、出来るだけ殺さないように気を付けます」


 何故か可哀想になった山賊に同情しながらも、旅を続行する。手元の資金もあるし野宿の必要は無い。ジェームスは何故か黙っている。


「元気ないわね、ジェームス。何か悪い物でも食べたの?」

「いや、最近は店長とずっと一緒だったからな。もうすぐ会えなくなると思って」

「アンタらしくないわね。いつも仕入れで店を開けていたんだから、同じじゃない」

「それはそうなんだが、店長の飯が食えなくなると思うと、寂しくてな」


 不意打ちでさらっと口説くのは止めろ。動揺して顔が真っ赤になるじゃないの。全くこいつときたら、無自覚だから困る。


「ふん、遊牧民の村で誰か口説けばいいんじゃない?」と、照れ隠しでそんな事を言う。

「店長に拾われてから、そういうのは止めにしたんだ。ずっと付いていくと決めたからな」

「腐れ縁よね。……そうね、勝手にしなさい」と、ジェームスに顔を見せない様にするので精一杯だ。


 自然と顔が綻んでしまう。此奴はそういう奴だ。嬉しいのと同時に暫く会えない事を不安に思う。お互い思っているのは同じ事。何か言っておくべきだとは思うのだが、言葉が見つからない。


「多分、リスボンで色々と対策を考えるからね。落ち着いたらロンドンに戻るわ。そっちも魔道具の勉強に時間は掛かるけど、半年程度でしょう。それまでは、自分のやる事に集中しなさい」


 私は、チョロインの上に、ツンデレの傾向があったらしい。自分の気持ちの変化に戸惑う。ジェームスとの距離感を見つめ直す時期なのかもしれない。


 素直になるべきか、このまま距離を置くのか。とりあえず、今の顔を見せる訳にはいかないので、先頭に立って悩む事にしよう。


「お姉様はジェームスさんと仲が良いですね」と、千鶴ちゃんが笑う。

「……長く一緒に居ただけよ。そういうのじゃないわ」

「お互いで意識しあっているなら、付き合ってしまえばいいのに」


「……そう見える?」

「はい、最初にお会いした時から、てっきり恋人同士なんだと思ってました」


 其処までか。私が思っている以上に距離感を間違えていたらしい。千鶴ちゃんはそういう事に耐性があるのか、平常運転だ。


 何故周りの人間は「付き合っちゃえよ」オーラを出すのか。当人達はそう思っていないのに。実際、自然体で一緒に居るが、そういう雰囲気になってはいない。


 もどかしさと恥ずかしさで、心の中で悶絶しながらそんな事を考えていた。もしもの話、付き合ったとしても、気さくに話し合える関係になれるのだろうか。


 お付き合いなどした事が無い。そこは未知の領域なのだが『冒険者魂』は、お仕事をしてくれない。どちらかと言うと『乙女心』の守備範囲らしい。


「そうね……そのうち、何とかなるんじゃないかしら?」と、悩みは一旦ぶん投げて置く事にした。

「お姉様は、恥ずかしがり屋さんなんですね」と、千鶴ちゃんはクスリと笑った。



 1週間ほど掛けて西安に戻って来た。此処に拠点を作って各地へ足を運ぶ、と言うのが今後の目的になるだろう。幸い交易関係は順調そうだし、魔道具屋を作るか宿屋でも経営すれば良いだろう。


 『浄水の魔道具』の販売と修理がメインとなるだろうが、それなりに安定しそうだ。


 少し旅のペースが速かったので、此処で三日程ゆっくり宿を取る事にする。幸い予定を大きく短縮しており、半月ほど早く戻れそうだ。遊牧民の村でお爺さん達と今後の交易予定、建国状況の確認をしよう。


 上手くすれば、それなりの形で遊牧民の村での体制作りが進むだろう。ジェームスには法律作りも担当して貰う事にしよう。


 そこらの店を物色する。料理屋に入って各自注文をする。千鶴ちゃんがわんこそばの要領で麺を食い続けているのは、そろそろ慣れてきた。この店を食い尽くしたら、次の店に移る事にしよう。


 前に訪れた魔道具屋に挨拶する。ジェームスとの顔つなぎをしておかねば。


「おじさん、こんにちは」

「おお、この前のお嬢さんか。旅はどうかね?」と、世間話が進む。

「無事中国を一周してきましたよ。なかなか面白い旅になりました。今後は、この男が魔道具を持ってきます。これからもよろしくお願いします」根回しは大事。商人の鉄則である。


「成程、この前の魔道具だけど幾つか修理の依頼が来ている。良ければ見て貰えないか?」

「ああ、それなら俺が」と言って、『浄水の魔道具』を受け取ると、手早く作業を終わらせた。

「いい腕をしているね。これなら定期的に来てもらえれば助かるよ。買取単価も上げさせてもらおう」


 よし、交易は順調だな。後は遊牧民の村で交易隊の組織を立ち上げれば、経済が回せるようになる筈だ。こういう社会の仕組みを良くする活動は、「商人」の醍醐味である。


 皆が快適に過ごせる世界。苦しむ人が少なくなる仕組み作りは、大変だが遣り甲斐がある。


「へえ、お姉様の言っていた『商人のお仕事』って、こういう事なんですね」と、千鶴ちゃんは感心しきりである。

「面白いでしょ、商人の仕事って。巡り巡って自分の利益も増えるし、助かる人も沢山居る。こういうのが楽しいんだよ」

「はい。お姉様も嬉しそうですね」


 商人の仕事、少しは分かって貰ったようだ。このために商売をしていると言っても過言ではない。カチッと流れが嚙み合った瞬間は、実際楽しいのだ。


 少し休憩した後、遊牧民の村まで急いで移動する。この辺りは宿屋が少ない。一気にスピードを上げて駆け抜けてしまおう。


 千鶴ちゃんも走って付いて来る。全くペースが落ちないので、気にせず走り続けた。行きの半分近くの日数で敦煌までたどり着く事が出来た。


「マール君も問題無し。ジェームス、千鶴ちゃん、そっちは大丈夫?」

「おお、こっちの馬もほとんど息は上がっていない」

「後一往復出来る位に体力は有り余ってまーす」


 少しびっくりするような発言があったが、問題は無い様だ。遊牧民の村はもう少し。さっさと行く事にしよう。


 遊牧民の村に到着した。どうもゲルの数が倍以上増えているように見える。お爺ちゃんに確認せねば、と思う。


「何か、村が大きくなったな。人もずいぶん増えたようだが、何があったんだろうな?」と、ジェームスも気になるらしい。

「とりあえずお爺ちゃんに挨拶と交易の話をして、建国協議会でも開きましょうか」

「話し合うだけで、まだ建国するとは言っていないがな」

「何か進展がありそうだけどね。詳しい話は到着してからにしましょう」



 村に入ってみると、三カ所の井戸を中心にして、あちこちで井戸端会議が行われていた。子供達も見かけない子が沢山居て、随分活気があるようだ。


「お爺さん、ただいま帰りました」

「お嬢か、おかえり。元気そうじゃのう。そちらのお嬢さんは?」

「はい、千鶴と申します。色々あってお姉様の護衛をしています」と、元気に挨拶する。


「ほう、仲間が増えたのか、そりゃあ良かった。交易の方は何とかなりそうかの?」

「幾つか売れそうな商品がありましたし、『浄水の魔道具』の需要は高いです。皆さんに作って貰った魔道具でも問題なく売れましたので、無事に交易計画を立てられそうです」


「爺さん、魔道具作りの方は順調か?」

「おお、随分と人が増えたのでな。とりあえず興味がありそうな者を集めて、八十人程で作り続けておる」


 良かった、こっちも順調そうだ。問題なくジェームス主導で交易の方を進められそうだった。


「お爺さん。ジェームスをこっちに暫く滞在させます。今後の交易や魔道具作りはジェームスに任せますね」

「おお、そうか。では新しいゲルを用意させよう。これからも頼みますぞ、ジェームス君」


「爺さんもな。勝手に死んでもらっちゃ、こっちも困るからな。長生きして貰わないと」と、ジェームスが返すと、皆で笑った。


 諸々の作業と交易品の置き場所を決めて、陶磁器などと食料関係の物資を置いておく。そういえば、畑の方も順調で、小麦もすくすくと育ったそうだ。あと少しすれば、収穫出来るだろうか。



 落ち着いた所で第三回の建国協議会を始める。何人か、何処かで見た人達が混じっている。


「各村の部族長にも参加して貰う事になった。話し合いの結果、基本的にこの村に集まる事になったのじゃ。元の村は遊牧地として活用するようにしてのぅ」

「成程、その辺のお話がすすんで、村人が増えたんですね」


「うむ、各村との話し合いでな、もし戦になった時は息子が指揮権を取る事になった。後は各村の調整役じゃな」

「随分と国っぽくなりましたね。皆さんの仕事はどうなってますか?」

「魔道具作りと畑の世話に分けておる。どちらも順調に進んでおるぞ」


 なるほど、無事に各村とのすり合わせに成功したらしい。人が増えて揉め事が起きる前に、法律を決める必要がありそうだ。


「爺さん、法律を決めるのと、交易隊の編成については後で話し合いたい。交易品の目途も立ったことだし、中国方面と西の関係国経由でイスタンブールに派遣したいな」


「ほう、どちらも随分と遠いが、足の速い者達を集めるとしよう。両方一緒にするのかね?」

「いや、まずは中国方面が主目標だ。西側はこの前の部族とのやり取りで良いだろう。イスタンブールはその後だ」

「成程な。まあ、急ぐ事ではないしの。順番に進めていく事じゃな」


 随分とお爺さんも『偉大なる大ハーン様』が板に付いてきたようだ。猛勉強の甲斐があった。これなら、順調にこの村も拡張していくだろう。


「お爺さん、必要な物があったら、言ってくださいね。人が増えたし要る物も増えたでしょう。お互い協力するんだから、もうお礼は要らないわよ」

「ふぉっふぉっふぉ、そうじゃの。織物作りを増やしたいのでな、織機を幾つか増やしてほしいのぅ」


 そんな事なら朝飯前だ。交易品が増えるのであれば、じゃんじゃん持ち込む事にしよう。そこら辺はジェームスとサンダースさんで協力すればいいか。


 後はロンドンのお店かぁ……いっそ、グレックさんを店長にしてしまおうか。凄く微妙な顔をされそうだけど。


「話は纏まったかのう。もう宴の準備は始めさせておる。人も増えたし大掛かりになるぞ」とお爺さんが笑う。何の心配も無くなったのだ。思わず笑みが零れるのも当然だろう。


 私は、自分の居場所でもあるこの村が、順調に未来へ進んでいる事を確信して手放しで喜ぶのだった。

 中国編終了です。遊牧民の村もそろそろ街にステップアップしそうです。


 リスボン編は商売と冒険がメインとなります。次クールの相棒は千鶴ちゃんです。


 なろう系の経済関係って、かなり「雑」なので、そう言う意味でも気合を入れています。


 ジェームスとのやり取りもいつも通り。一旦別行動になるので、恋愛パートは無くなります。


 書いていて割と楽しいのですが。主人公は恋愛下手としてます。


 普通の女子高生にしたら、物凄い勢いで恋愛を始めそうで、ジャンルが変わりそうだし。

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