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31.東西魔道具の違いが分かる男

 ジェームスの様子がおかしいのは、放っておくとして工房の様子を見る。作業台に並ぶ各種機材や工具。どれも見た事が無い物ばかりだ。数十人の魔道具師たちが此処でしのぎを削っている。


 魔道具の仕組みは、『魔導石』を中心にして、そこに魔法銀ミスリルを纏わせていく。


魔法銀ミスリルと聞いて、ゲーム脳の私は高級素材だと思い込んでいたが、実際は良くある金属の合金でハンダのような感じ。特に高価でもなく、何処でも手に入る素材だ。


 それを編み込むように魔術回路を作るのだ。まあ、編み物みたいな作業である。決まったパターンの魔術回路を組み込み、そこに流れる『マナ』によって魔法が発生する。


 とはいえ、『魔力の変換効率』については、魔導師が使うのと比較すれば物凄く効率が悪い。そこら辺は、本職の魔導師の凄さを感じる。


 よく観察すると、自分が知っている魔術回路とは全くの別物。此処迄違うとは思わなかった。詳しく聞こうと案内者の方を見ると、ジェームスが物凄い早口で質問を浴びせまくっている。


 そりゃそうだ。私でも気になるもの。アイツが黙っている訳が無かった。


「ジェームスさんが生き生きとしていますねぇ」と、千鶴ちゃんが感心している。まあ、魔道具の魅力に憑りつかれた奴だし、そうもなろう。


「ジェームス。何か分かった事があるなら、こっちに説明してよ」

「ああ、そうだったな。今の所分かっている事だが、西洋魔道具が『魔力の変換効率』重視なのに対して、東洋では汎用性と魔力のコントロール重視だって事かな」と、簡単な説明を聞く。


 つまり、パワー型とバランス型って事かな。ふむ、なるほど。結構違いがある物だ。


「どうやら設計思想から異なるようだな。その『仙道』だったかな。そこの部分で汎用性を重視しているからかも知れん」

「そうですね。『仙道』の守備範囲は広いですから。肉体強化と言っても色々ありますしね」と、千鶴ちゃんが同意する。つまりそういう事なのだろう。


「あと『風水』と言うのもこちらの魔術体系とかなり違う。ただ火を出すだけ、ではなく自然現象に影響を与える魔道具も多いみたいだな」ジェームスの分析。早口で聞き取るのが大変だ。


 つまるところ、東洋魔道具が我々の持つ機能とは、大きくかけ離れているという事は分かった。


「すみませんが、詳しい作業内容が見たい。作業場の傍に行きたいのだが」と、ジェームスが案内人にお願いする。もう何でもしますから、と言った感じだ。


「ええ、構いませんよ。宜しければ、実際に作ってみますか?」と、火に油を注ぐ案内人。後悔するぞ。


 そういう訳で簡単な魔道具作りに参加させてもらう事にした。有難い事に教えてくれる人まで付けてくれた。千鶴ちゃんは、さすがに横で見学だ。


 私は、何時ものように魔法銀を練りこんで柔らかくしていく。これに引っかける棒を使って魔術回路を編み込んでいく。この辺の作業は私でも分かる。


 教師の方は丁寧に教えてくれるので、こちらもスムーズに加工が進む。ジェームスは子供のようにはしゃぎながら、色々と聞きまくっている。随分と楽しそうでよかった。


 私の方は、何とかシンプルな『浄水の魔道具』を完成させた。我ながら上手くいったと思う。


 ジェームスの方は、と見ると『中型魔導石』を使って、かなり本格的な魔道具を作ろうとしているらしい。教師の人が驚いているようだ。物凄い速さで魔術回路を組み込んでいる。これで旅の目的の一つは果たせそうだ。



 暫くして、ジェームスが呟いた。


「つまり、東西の魔導回路を組み合わせて『魔力の変換効率』が高くて、汎用性も高い魔道具を作る事が出来るのでは?」と、何かを思いついたらしい。


 ジェームスが長考に入った。何を思いついたのだろう。


「店長『呪いの魔道具』の魔術回路を覚えているか?」

「ええ、複雑すぎて全く分からなかったけどね」


「今、気が付いた。あれは東西の魔術回路を組み合わせて作られている。どうやってあのサイズの魔術回路を作っているか、技術的な問題はさっぱりだがな」と、ジェームスが言った。


 また、目が泳いでいて、ものすごい勢いで考えているのが分かる。


「とにかく理論上は解析可能……の筈だ。さっぱり分からなかったのも当然だ。東洋の魔術回路なんて知らなかったんだからな」


 なるほど、そういう事か。暫くはそっちの解析を続けたいっていう事か。まあ、この工房に時々お邪魔しながら、学んでいけば良いんじゃないかな?


「店長、出来れば暫くの間、遊牧民の村と此処を往復したい。ロンドンの店をどうするか相談しないと」

「いいえ、それでアンタが知識を得られるなら、ロンドンの魔道具屋は暫く休業にするわ。フランス向けの魔道具作りは必要だけど、それは遊牧民の村でも出来るでしょう?」


 未知の魔道具作り。『冒険狂トラベラー』としての私には理解出来る。ジェームスにとっての探検という処だろうか。


「済まないな、店長。我儘ばっかり言って。何時かもっと凄い魔道具を作って見せる。だから、やらせて欲しいんだ」


「好きにして構わないわよ。いつもはこっちが留守にしているんだし、偶にはそういうのも良いでしょう。遊牧民の交易の方も、サポートしてもらう必要があるしね」


 戻ったら、ロンドンの店員を準備する事にしよう。幸いリスボンの方で利益は十分上がっているから、そこまで資金的に厳しくなる訳でもない。


 ジェームスは飛び上がって喜んだ後、教師の人に「これからお世話になります。ぜひ東洋の魔道具について教えて欲しい」と、頭を下げた。


「もちろん、皇帝陛下の書面を拝見致しましたし、こちらとしても西洋の技術を学ぶ良い機会です。是非ともお願い致します」


 ともかく、お互いにメリットもあるようだし、問題は無い。北京に行ったら皇帝陛下に謁見し、技術交流の件を報告する事にしよう。多分大笑いしながら、喜んでOKしそうだ、あの皇帝陛下なら。


「ジェームスさんが嬉しそうで良かったです」と、千鶴ちゃんも嬉しそうだ。


 さて、今後の事はまた別の機会に話をするとして、上海から北京への船の手配も必要だし。名残惜しいが、上海の市場を一回りして交易できそうな物をチェックしたら、北京へと赴く事にしよう。


 謁見にどれくらいの日数が掛かるか分からないしね。


 魔道具工房の所長に丁寧に挨拶をし、技術交流の件を皇帝陛下に報告する旨を説明した。大変喜んでくれて、所長からも皇帝陛下に報告を入れて貰う事になった。根回しは大事。商人の鉄則だ。



 魔道具工房での成果でホクホク顔のジェームスと、そろそろお腹が減った千鶴ちゃんを連れ、上海市内の宿を探すことにした。女性陣とジェームスで二部屋取る事にしよう。


 海鮮料理も堪能したいし、食いながら各自の感想を聞く事にしよう。


 繁華街でお勧めの料理店を聞き込み、老舗の上海料理のお店へと向かう。よし、資金の貯蔵は万全。でも少しは手加減して欲しい。特に千鶴ちゃん。


「はい、大丈夫です。祈りを捧げなければ『それなり』になる筈ですから」とは言うが、まだこの子のお腹の底は見えない。


 もしかしたら、底なしかも知れないのでやや不安になる。まさか、商人なのにエンゲル係数で悩む日が来るとは思いもよらなかった。


 とりあえず、控えめにねと釘を刺して置き料理を注文する。


 やはり定番の上海ガニは是非食べたい。点心やチャーハン、焼きそばなんかもあるらしい。角煮にエビの炒め物も美味しそうだ。


 千鶴ちゃんの注文は別口にしておいた。何というか残りの二人の食べる物が無くなりそうだし。あのスピードで食べられると、どうしようもない。


 ともあれ、期待していた上海料理と久しぶりの太平洋を満喫して、上海の体験は十分に私の旅心を満足させる事となった。


 翌日は繁華街や問屋を巡り、この街の交易状況を確認した。流石にリスボン程ではないが、外国人がひっきりなしにやって来ては、物の売り買いも活発だ。


 個人的には、此処に拠点を置きたいのだが、そこまでの余裕はない。


 北京行きの船の手配も完了し、いよいよ北京に向かう事にする。さてどうなる事やら、と私は次なる町での出来事に心を躍らせるのだった。

 ジェームス君、大喜びの回。


 次のクールから、リスボン編となりますので、ジェームス君とは暫く別行動になります。


 古代ローマの技術を少しずつ解明していくお話。地味ですが、こういう技術関連の話題は都度入れて行きたいですね。

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