30.自己紹介が意味不明
道端で話すのもなんだし、近くの料理屋に入って詳しい話を聞く事にした。千鶴ちゃんは、まだ腹八分目程度だという事で、皆で料理を注文する事にした。やっぱり上海は海鮮料理が目立つ。どれも美味しそうだ。
「これと、これと……後これ『以外』をお願いします」と、千鶴ちゃんが注文をしている。
なんだ、その注文方法は。店員さんも困っている。あ、店員が厨房にダッシュした。これからあの場所は、戦場になるのだろう。
「『殴り巫女』って、日本では結構普通の職業なんですけど……」と、千鶴ちゃんは言う。
日本って、恐い国だったんだなあ。知らなかったよ。
「神様に使える女性が、巫女ですよね」うん、其処は分かる。
「古来より、力を以て魔や悪霊などの悪い気を払うのが一般的です」力士とかでそういう話を聞く。
「なので、巫女が神に祈りを捧げて、神から破邪の力を手に入れます」あれ?
「それで、巫女が魔や悪霊を殴って、そういった悪い気を払います。だから『殴り巫女』って言うんですけど」一体どういう事?
何か、途中でおかしくなった気がする。特に巫女が力を手に入れる、辺りから怪しくなった。私とジェームスは混乱しているが、千鶴ちゃんは説明し終えた感で満足している。
「なあ、ジェームス。良くは分からんが、悪霊とかって『殴れる』のか?」魔道具師なら知っているかもしれん。
「いや、そういうオカルトはちょっと……。専門の人に聞いてくれよ」
「その専門家が『殴れる』と言っているんだが?」
まあいい。とにかく、そういう事なんだろう。
「で、『殴り巫女』と海賊に何の関係が?」と、とりあえず気になった事は聞いてみよう。
「はい、お母様が代々『殴り巫女』の家系で。海賊なら船に乗り込んで殴ればいい、と」
アグレッシブなお母様だなぁ。
「そういう訳で、小さい頃から船に乗りながら『殴り巫女』の修行を行っていました。後は、魔法を幾つか……」
「で、本気で殴れる相手が見つからなくて、大陸に渡ったと……」
「そうです。強い人知りませんか?」と、眩しいばかりの笑顔で問いかけてくる。
強い人、ねえ。あまりそういう人に出会った事は無いかな……。そういえば、リズさんはどうだろう?清に怖がられていたし。
「私の知り合いで、五万人の兵隊を防いだ『敦煌の魔女』って呼ばれてる人がいるね」
「凄いですっ。ぜひお会いしたいです!」と、千鶴ちゃんは目を輝かす。
本当に、そちらの方面しか興味はないらしい。
「まあ、そのうち挨拶する事になるし。本部に行ったら紹介するよ」と、言っておいた。
だが、何となくだが悪い予感がする。何というか『出会ってはいけないもの』と言うか。
……変な化学反応を起こしそうな、組み合わせではある。こういう時の予感は、良く当たるのだ。
「いいんですか、店長。リズさんもこの子も、手加減しなさそうだが……」と、ジェームスが小声で話す。
どのみち、メンバーを紹介しない訳にも行くまい。
「その時はその時ね。……バリアの魔道具、追加した方が良いかも」もちろん、ジェームス用だ。
そうこう言っている内に、料理が届き始めた。店員が緊張しながら、テーブルに料理を置いていく。千鶴ちゃんは、箸を見えない速度で動かし、料理を食べ始めた。早っ! 料理を口に入れる速度が尋常ではない。殆ど見えない感じ。
「なるほど……。これは店側が営業妨害と言っても、おかしくないわね」と、私は呟いた。
「店長、お金足ります?」と、ジェームスが聞く。多分大丈夫、だと思う。
「私、祈りを捧げて力を得る時に、物凄くお腹が空くんです」と、大皿を幾つか完食しながら言った。
店員は、慌てて次の料理を持ってくる。もう、此処は戦場である。
「まあ、食費が心配なだけで、特に変わった点は……いや、物凄く変わっているな、うん」と、結論付けた。
……何故ウチのメンバーは、こんなに個性的な面々が揃ってしまうのだろう。
「それで、ジェームスさんが魔道具師。お姉様が商人なんですか」と、千鶴ちゃんは箸を止めずに、こちらの話を聞く。
お姉様、か。確かに彼女は十八歳。私の方が年上ではある。だが、その呼び名では呼ばれたことが無いので、少しむず痒い。
「お姉様は、お金を稼ぐのがお仕事なんですね?」と、千鶴ちゃんは質問した。
ああ、誤解が生まれる前に、説明しておいた方が良いだろう。
「千鶴ちゃん。商人の仕事は、お金を稼ぐ事じゃないの」と、私は諭すように言う。
「それだけじゃ、そのまま終わっちゃうでしょう。それは商人の仕事じゃない」
「商人の仕事は、困った人を助ける事、皆を守る事。そして世界に笑顔が少し増えた時、そのお礼を貰うだけなのよ」
「そのお金で、別の困った人が助けられるわ。そうやって色々と廻っていって、世界を守っていくのよ」
「商人にとってのお金は、ただの手段ね。目的は人を助ける事であって、お金を儲ける事じゃないのよ」
千鶴ちゃんは、ポカーンとしている。どうも、イメージが湧かない様だ。
「私が初めて商人になった時は、ロンドンでお腹が空いた子供達に、ご飯を食べさせる事にしたの」
「そのうち、皆に喜ばれて、一杯人が集まって来て。お金を貰うようになって。そうして気が付いたら、お店が出来ていたわ。子供達は私の真似をして、お金を稼ぎ始めたのよ」
「商人はね、世界の仕組みを一人で変える事が出来るのよ。とっても素敵な仕事だと思わない?」
千鶴ちゃんは、その言葉を聞いて感動したのか立ち上がった。
「凄いです! 私の知っている商人さんは、いつも嘘を付いたり騙したり、皆を悲しませていました!」
……うん、フランスの事を思うと、少し心が痛む。あれは自業自得だから、ノーカン。
「そういう訳で、千鶴ちゃんにも商人のお仕事も手伝って貰うからね」
「はいっ、頑張ります!」と、元気の良い声が返って来た。良い子じゃないか、うん。
ともあれ、お互いの自己紹介も済んだ所で、これからの目標を再確認する。
「最終的に北京に行って、そこから敦煌経由で遊牧民の村に行く。これがそのルートよ」と、皆で地図を見ながら指でその流れをなぞる。
「上海では色々な商品を探したり、ジェームスが魔道具の工房に行く予定よ。上海から北京までは船に乗るわ」
「私、外国の船は初めての体験なんです。楽しみです」と、千鶴ちゃんは自分の好みに素直である。
「あ、リスボンも港町ね。ウチの店もそこにあって、色々な船が一杯有るから」と、補足する。
「凄いですね! 世界中の船に乗れるなんて。興奮します!」
そうか、君も特定の対象に取り付かれた類か。隣のこいつと同類だなぁ。癖が強い子だ。まあいいけど。
「まずは……魔道具工房を探すか、店を廻るかなんだけど。どっちにする?」
「そうだな、工房の情報について店を廻りながら聞く、と言うのが妥当だろう」と、ジェームスが提案。
なるほど、確かにそれなら合理的だ。
「千鶴ちゃん、必要な物があったらお店で言ってね。私が払うから」
「分かりました。旅の準備をします!」と、元気な返事。
それじゃあ、まずは繁華街を廻る事にしよう。
道具屋、雑貨屋で日用品や消耗品を見た後、市場で食品関係を眺める。魚介類や様々な果物。加工品なんかも色々ある。
あれ、ナンプラーがあるぞ。よし、これは購入しておこう。色々使えそうだ。後は……ツバメの巣に、クマの手。流石に使い方が分からない物は避けておこう。衣料品も回りながら、工房について聞いてみる。
「すみません、魔道具の工房ってどこにありますか?」
「ああ、魔道具ね。確か街の北側にあった筈だよ。その辺でお役人に聞いてみると良い」
「ありがとうございました」と、挨拶して三人で街の北側に移動する。
「千鶴ちゃん、馬に乗れる?」と、私は質問した。そのうち長距離移動するので必要だろう。
「あ、私は馬に乗るより走った方が早いので。修行にもなりますし、徒歩で大丈夫です」と、言う。
激しい修行だなあ。まあ、急ぐ訳でもない。ゆっくり行けば大丈夫だろう。……と思っていたのだが、千鶴ちゃんマジで足速い。結構マール君も早いはずなのだが、顔色一つ変えずに追いついて来る。
むしろ、時々追い抜こうとする程だ。本当に徒歩で大丈夫そうだ。
街の北側について、近くの役人の方に工房を尋ねてみた。
「魔道具工房かい?あそこは、許しが無いと見学するのは難しいよ」
「あ、大丈夫です。皇帝陛下の書がありますから」と、見せてみる。凄い驚いている。
「失礼致しました!魔道具工房まで案内させて頂きます!」と、案内してくれた。
正直、この書面は本当に助かる。
「では、良い旅を!」と、役人の方と挨拶をして別れる。魔道具工房の入り口でも、同じように書面を見せて案内して貰った。
ジェームスが徐々に挙動不審になって来た。フヒヒとかゲヘとか言い始める。気持ち悪いから少し離れろ。
「あの、ジェームスさんが段々と怪しい動きを……」
「残念だけど、ジェームスの行動はこれで正常なの。魔道具が絡むとああなるのよ」
「分かります。私もそういう経験ありますから……」あ、自覚はあるのね。
ともかく、魔道具の工房を見学する事が出来る。自分達の知っている魔道具と比較が出来るかなぁ。自分も興味がある。
そういえば、千鶴ちゃんは魔法が使えるようだし、東洋の魔法とか魔道具に詳しいのかな?
「そうですね。こちらの魔法体系は、『仙道』と『道教』、『陰陽』から成り立っています」
「『仙道』は、仙人になるための補助、例えば肉体強化などの術が主な目的の魔法体系です」
「『道教』は、主に生活魔道具などの儀式による効果を目的とした魔法体系になります」
「最後に『陰陽』は所謂、風水や呪術と言った、自然の現象を再現する魔法体系です」
西洋魔法よりも、種類や魔法体系自体も多方面にわたり、かなり複雑な印象だった。ジェームスもこの辺りはよく分からなかったのだろう。うんうん、と頷き聞き入っている。
「私が使う魔法は、主に『仙道』での肉体強化と時間操作になります」
「その時間操作って、どういう魔法なの?」と、私は疑問に思った。
「敵が近距離に居る際に唱えるんです。自分以外の時間の進み方が遅くなります」
何それ。かなりえげつない気がするのだが。
「でも、十秒位しか持たないんです。発動も遅いので、特殊な場合に限りますね」
機会があったら実演して貰いたいものだ。同じ魔法でも随分違うようだ。参考にさせて貰おう。
さて、いよいよ魔道具工房の作業現場の見学だ。私は見知らぬ魔道具の知識にワクワクしていた。
東洋系魔法の細かい設定。
詳しく考えたら楽しそうですが、中々物語に入れる隙が見つかりません。
作者の考える商人の独自解釈
儲けただけでは半人前。相手を儲けさせて、ようやく一人前。
皆が儲かる、誰も考えなかった新しい商売を考え付くのが2流。
世界全体に良い影響を与える様になってからが1流の商人、とかそういう感じ。
むしろ、魔王を倒すだけで済む勇者よりも厳しい商人道。




