27.千里の道も一歩から
とにかく、色々あったが清への交易は、問題ないだろう。
ジェームスと『浄水の魔道具』作りの現場へ向かう。小さなゲルの中で、子供からお年寄りまで、大体二十人位が懸命に魔道具を作っている。
出来は? と、子供の作業を眺めてみる。うん、丁寧な仕事だ。教える先生が良い様だ。なんだかんだ言っても、魔道具に手を抜く男ではない。
『魔導石』は、そこらから幾らでも集められるし、この分だと魔道具も百個は持っていけそうだ。
あの皇帝陛下は、西洋の技術の導入に力を入れたいそうなので、これも何かの役に立つだろう。そう思いながら、私も魔道具作りに参加した。
確か、私が一番最初に作った魔道具だ。ロンドンでは必ずと言っていい程、皆が持っている魔道具。やっぱり、魔道具作りは楽しいなあ。お金儲けも楽しいけども。
とはいえ、製品の精度でジェームスと比べてしまい、何時しかジェームスが作って私が売る、と言う分担になってしまった。
技術だけでなく、知識や発想も異なるし。私が商売のアイデアを出し、アイツが形にするやり方がいつもの流れ。
お互いどちらが欠けても、魔道具作りは出来ないのだ。
二日ほどゆっくりしながら、荷造りを始める。何処を巡って、何を食べて、どんな人と出会うのだろうか。
旅人としての私が、ワクワクしている。新しい土地を旅する時は、商人ではない。冒険者なのだ。出来れば、命の危険はない方が良いのは間違いない。準備は入念に、だ。
お爺さんから貰った、魔道具類を整理する。さすがに歴代の大ハーンの副葬品だ。剣に銃、大きな火の出る杖なんかもある。
どれも複雑な仕組みのようだ。ジェームスと一緒に手入れと動作チェックを行う。
ジェームスは、魔道具をばらしたり組み立てたりしながら、悦に入っている。
このマッド野郎め。ルービックキューブみたいに超速で組み立てるんじゃねえ。気持ち悪い。
ともあれ、一部の魔道具は『魔導石』が欠けていたり、動作しないものもあるので、メンテナンスも行う。
私は、とりあえず使いまわしの良さそうな、デリンジャータイプの拳銃を選んだ。
「じゃあ、これを使ってみるね」と言いながら、人のいない砂漠に向けて発射する。
結構な威力の『魔法』が発動する。どうやら『当たり』のようだ。魔道具との相性があるようで、ジェームスと私でそれぞれいくつかを選んでは、試し打ちを繰り返す。
結果、私は拳銃二丁と杖を選択。ジェームスは大型の銃一丁と剣を選んだようだ。
もちろん使わずに越した事は無いが、万が一という事もある。他にも使えそうなものが無いか、確認する事にしよう。
お、これは水中で息が出来る魔道具か。なかなかに珍しい。こういう魔道具は秘密兵器感があって、弄っていて楽しい。
なかなかにロマンがある。うーむロマンと言えば、こう特別感のある物はないだろうか。色々物色してみよう。
見つけたのは、バリアのような魔道具。腕輪型である。自分の周りに風と言うか、空気の壁が出来る感じ。弓矢やちょっとした弾丸なら弾き飛ばせる。採用。
こちらは、毒や病気を防ぐ指輪らしい。採用。
もう少しロマンのある物はないか? と考える。そろそろ、最初の目的から外れているような気もするが。
お爺さん、こんなに山盛りに魔道具を集めなくてもいいのに。喜ぶのはどうせジェームスだし。
と思いながら、色々と漁っていると、鞭状の魔道具を見つけた。どうやら、鞭の部分が伸び縮みするようだ。よし採用だ。これは、結構使えそうかも。大変にロマンなのである。
気が付けば、もう夕方だ。砂漠の向こうに小さな太陽が沈む。そろそろ戻るとしよう。飽きずに魔道具を弄りまくっているジェームスを引きずりながら、明日からの旅にテンションが上がる。
そうして翌日。二人とも準備が出来た。ジェームスには、此処の馬の中から扱いやすい一頭を頂いた。水や食料、近くの町で手に入れた、この地方の地図を見ながら目的地を決める。
別に目的が無い訳ではない。新しい『門』を探すのが今回の目的である。恐らく、中国内の遺跡を調べれば、幾つかの新しい世界が発見できると思う。
後は、交易品のやり取りをしながら、需要と供給を調べたい。出来れば、陶磁器の高級品、『景徳鎮』の工房が見たいかな。例の書面を見せれば、皇帝御用達の工房を見学出来るかも。
ジェームスにとっては、中華製の魔道具工房が気になるだろう。
やりたい事だらけで行き先が決まらないが、二人で行き先を検討する。まずは此処から一番近い都市『西安』だろうか。三国志でよく知られる『長安』の事だ。恐らく古代の遺跡『兵馬俑』などがあるはずだ。
最近、同じルートしか旅をしていなかったので、こういう事を考えるのは楽しい。
そうだ、本場の四川料理を堪能するというのも良いな。うん、何だか冒険者としての気持ちが上がって来たぞ。
そういう訳で、ざっくりとした目的だけ決めて出発する事にした。村の皆に見送られて、敦煌を目指す。そのまま、南東方面に向けて、二人と二頭は街道を進んでいく。
所々に休憩所と言うか昔の駅伝制の跡があり、ちょっとした店の様になっている。休憩と水・食料の補充をしながら、住民と情報収集を行う。決して治安が良いとも思えない。
盗賊が出ないか、この先の難所など色々と聞いて回った。
三日経ったが、まだ一割位しか進んでいない。中国は広いなあ。この辺の距離感もメモしておく。焦らずゆっくりと進むとしよう。
ここには宿屋もあるらしい。野宿続きも何なので、宿を取る事にした。現金がないので、リスボンで手に入れたアクセサリーで交渉する。
もちろん、ジェームスとは別の個室だ。婚前旅行だ、などと皆に言われない様、そこの線引きは徹底しないとな。
ジェームスとの距離感は、グレッグさんの忠告以降、それなりに気を使っている。あまり近すぎるのもあれだが、避けられていると思われるのも心外だ。
面倒くさいという気もあるが、それが楽しいという一面もあるのだ。
自分的に『乙女心』の使い方には、まだ慣れていない。少しずつ慣れる事にしよう。慣れた後にどうするのか、などと言うのは考えていない。そんなに急ぐ必要もあるまい。
とりあえず今は、現状のふらふらした関係を刹那的に楽しむのだ。
そういえば、宿屋のおばさんに『浄水の魔道具』について聞いてみた。どうやら、清国内ではあまり流通していないらしく、高くて買えないそうだ。
清では銀と銅貨で売買をするらしく、銀は重さで取引するそうだ。大体、銀四十gで一両。一両が銅銭七百枚分らしい。まあ、相場観としては、一両が二万円、銅銭が三十円位という処だろう。
因みに一泊は銅銭百枚。三千円と言われるとそんな物か、と思う。
早いうちに何処かで交易して、大量の現金を手に入れる必要があるな、とジェームスと話し合った。
それで、『浄水の魔道具』は大体三十両位らしい。思っていたより、ちょっと高めだ。これは、物流が発達している地域と比べる必要があるな。西安で確認しよう。
そうして、あまり急がない感じで十五日ほど。野宿したり、宿に泊まったり。宿で『浄水の魔道具』を出すと喜ばれるので、結構重宝する事になった。
もうすぐ西安に到着だ。
どんな街なのだろう。私は、新雪を踏むような気持で街に入った。
第三クールのイメージは旅になります。後々の伏線作りと言った感じ。
まずは淡々と、準備と旅の描写だけ。そのうち重要キャラが登場と言う流れで。
絡む人もいないし、ジェームスとの関係が進む訳でもない。
モンスターが居ない世界なら、こんな感じで進みますよね。
あと、各地の貨幣価値を調べるのが、地味に面倒くさい。だが、それもまたよし。




