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26.本物の皇帝とは

 遊牧民の村に戻ってくると、お爺さんが慌てて駆け寄ってきた。


「お嬢、大変じゃ。清からの講和条件が届いたんじゃよ」と、何だか厄介そうな事を言い出す。

「どんな条件なんですか?」

 「それが……皇帝陛下が直接、あの要塞を作った者と『敦煌の魔女』を寄越して欲しい、と」


 えっ、どういう条件なの、それ。確か清の皇帝は……『康熙帝』清王朝四代目、最盛期に君臨した皇帝。まさに名君である。


 どれくらい名君かと言うと『中国歴代最高の名君の一人』である。『清の』ではない。『中国四千年の歴史の中でもトップクラスの皇帝』なのだ。


 そろそろ『映す価値無し』になりそうな、ナポレオンと比べるまでも無い。本物の皇帝。


「お、お爺さん。ど、どうすればいい?」と、私は動揺を隠せない。講和条約の条件を無視すれば、関係が拗れるかも知れない。


「……日程は?」「八日後じゃ。敦煌にて待つと」不味い。本部に戻って連れてくるのがギリギリじゃないか。だがやるしかない。


「ごめん、急いでリズさんを呼んでくる。もし間に合わなったら、待ってもらって」

「……うむ、出来るだけ引き延ばしておくわい」と、お爺さんとの挨拶もそこそこに本部へ向かう。

 どうしよう、『死刑』とか言われたら……さすがに講和するのにそれは無い、とは思うが。



 私は、大急ぎで本部へ駆け込んだ。えーっと、今度は何にしよう? 思いついて「努力! 友情!」と、本部の前で叫ぶ。


「勝利~!」と、リズさんが出てくる。……どこで知ったの、それ?


「……という訳で。リズさん、清の皇帝陛下と面会してください」

「え~、めんどくさ~い」と、やる気なさげだ。

「分かりました。書類の手伝い1回で」「やる~!」そういう事になった。

 とにかく急がなきゃ。何でこんな事に、とは思う。どういうつもりなんだろう?


 『敦煌の魔女』に恨みとか? あるんだろうなぁ。



 ともかく、期限の八日後までに間に合った。もう、遊牧民の村に行くまでも無く、お爺さんとジェームスが使者と対面中だった。


「店長、間に合ったか!」と、ジェームスが言う。


 使者の方は五人ほど。まだ皇帝陛下は来られていないのかな?


「なぁ、おっさん。皇帝陛下はいつ来るんだ?」と、ジェームスが使者の方に問いかける。


「はっはっは、『敦煌の魔女』はどちらに居られるかな?」

「ああ、あのねーちゃんだ。『魔法』を使ってない時は、残念なポンコツなんだよ」

「ほほう、臣下の話では『口から火を吐く』だの『一人で戦場を消し飛ばした』と聞いたが。こんなお嬢さんとは思わなかった」と、リズさんを見て大笑いしている。


「それで、この要塞を建てたというのは君かね?」

「いんや、こっちの店長が建てた。有り金はたいて、突貫工事したせいで金が吹き飛んで苦しんでた」

「あっはっは、これまた可愛いお嬢さんだ。それで瞬く間に要塞が出来たという訳か」と、大爆笑だ。


「それでは、そちらの老人が大ハーン様かな?」と、使者の方が聞く。

「ああ。いっつも店長に頭下げたり、法律を理解出来なくて、ひいひい言ってるけどな。まあ、人の良い爺さんだぜ」と言う説明を聞いて、苦しそうな程に笑い続けているのだ。


 この会話の流れ、使者の位置。……この人以外は、少し後ろに控えている。すごーく嫌な予感がする。こういう時の勘は当たるのだ。


「……失礼ですが、あなたが皇帝陛下『康熙帝』ではないですか?」と、私は恐る恐る聞いてみる。

「何言ってんだよ。こんなみすぼらしいおっさんが、皇帝陛下の訳ないだろ」

「……すまんね。騙すつもりはなかったんだ。ただ、最近は立場も関係なく接してくれる者も居なくてね。久しぶりで嬉しかったのだよ。いや、悪い事をしたね」


 私はダッシュで、ジェームスの頭を掴み、平謝りする。

「すみません、皇帝陛下。こいつは馬鹿で気づかなかったんです。申し訳ありませんでした」

「いやいや、こちらこそ非礼を詫びねば」と、温厚な笑顔でこちらを見ている。


 そう、『康熙帝』は名君だ。幼少期を平民として過ごしたり、身分の低い者とも傍に寄って話しかけたり。質素倹約に勤しみ、衣服も質素な物を着ていたらしい。


 短い時間だが、本部の書庫に行って調べたのだ。……目の前に居る少し痘痕が残った、何処にでも居るような人物。彼が、中国最高の名君と名高い『康熙帝』その人なのであった。


 お爺さんが目をひん剥いて驚いている。リズさんは「?」と、よく分かってない。ああ、この苦労。誰か分かってくれないものか。



「そういう訳で、ただ興味を惹かれただけなんだ。あまりにも圧倒的な力の差があった、と聞いてね」

「そういう事でしたか。それは、こちらは滅ぼされない様に必死でしたし。ロシア軍を追い払うまでの時間稼ぎのつもりでしたが……」


「いや、私の臣下達の覚悟が足りなかったのだろう。必死に足搔く者ほど、恐ろしいものはない」


 いや、まあリズさんは足搔いていない。どっちかと言うと憂さ晴らし、だったと思うが黙っておく。


 とにかく恨みは無いようだ。むしろ、こちらに好意を持っているようだった。


「とにかく、此方の完敗だ。もう、そちらを攻める意図はないと思ってくれ」と、皇帝陛下が頭を下げる。

「いえ、こちらも今後仲良くしたいと思っています。過去の事より将来を考えましょう」


 何か、私が当然の様に対応しているのだが。これって、お爺さんのお仕事では?

 

「うむ、では講和の証を何か考えるかな?」と、提案してくれた。

「あ、今度そちらに交易隊を出したいと考えています。お許し頂けますでしょうか」

「なるほど。それは良い案だ。では、こちらも証を」と、言いながら何かを書き始める。


 後ろの使者を呼んで、物凄く豪華な細工の印を押す。何かの書面だろうか?

「私の名前で、便宜を図る様に認めた書面だ。何かあれば、役人にこれを見せると良い」と、書面を手渡してくれる。

 ……中国最高の皇帝陛下直筆の書。一体どれ程の価値があるのか。考えるのが恐ろしかった。いや、助かるけどもね。清国内を移動するのを、実質フリーパスが約束されたようなものだ。


「それでは、楽しい時間を過ごさせてもらった。これからは友好国として交流を深めたい」

「あ、それはもちろん。こちらも同じ考えです。出来ればシルクロードを復活させたいので」

 その言葉に『康熙帝』は大爆笑した。相当、私の事が気に入ったらしい。


「なるほどなるほど。これは思っていたよりも、大それた考えをお持ちのお嬢さんだ。今後ともよろしく」


 そう挨拶をして、皇帝陛下は去っていった。


 凄い人だったなあ。ああいうのが『本物』なんだな、と私は感心してしまった。

 これで第二クール、遊牧民の村編が終了。きっちり13話分でした。


 次からは中華編になります。第三クールは、目的なしにふらふらとする事になるでしょう。


 この辺、適当に時代を決めていたため、後から調べた清の皇帝がチートでした。


 何なの、この人。事実の方がヤバい事ってあるんですね。面白いので準レギュラーとして、後の方で出演します。こういう面白い逸話を持つ偉人って書いていて楽しいのです。


 なるほど、面白いと気になった方は、評価☆やブックマークを付けて頂けないでしょうか。また、感想などもお待ちしています。


あと、リズさんはギャグ時空の人なので、何でも出来ます。そういうものです。

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