表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/158

23.商人の心得! お金稼ぎはとにかく忙しい

 私達は『墓所』から出ると皆に問題が解決できる、とだけ説明した。そのまま、全員でロンドンに戻る。


 団長には、ジェームスが書いたスケッチを渡し「団長、調査をお願い。分かったら教えてね!」とだけ言い残しておいた。


 実はロンドンだけが問題ではない。リスボンでも、仕事は詰まっているのだ。両替商には、他国の通貨が大量に保管されている。それをどうするか?


 答えは簡単。各国には、リスボンの商人が利用する、小さな両替所を設置してある。そこに各国通貨を持っていき、レアル銀貨と入れ替える。


 両替所の手数料は無し。逆にちょっと色を付けて渡しているので、皆そこを利用するのだ。



 ただ、このやり方はマジックバックが必須である。何千枚もの硬貨を持ち歩くなんて、普通の人には出来ないし盗賊が怖い。両替商をやっていて、これだけは誰にも頼る事が出来ない。


 エリオには「商会長! 金を置いておく場所が無いんです!」と、いっつも悲鳴を上げさせている。だから少なくとも半年に一回、出来れば二カ月位で、その作業を行わないといけない。


 ……まったく金があり過ぎる、なんて笑い話にもならない。両替商の裏側には、びっしりと詰め込まれた硬貨が眠っているのだ。それも限界一杯迄だ。



 という訳でジェームスには例の不良品作りを、サンダースさんに貿易商との連絡を、グレッグさんにはお店の再開を指示しておく。二週間程度の時間があれば、リスボンの方の問題は解決出来る。


 その後は、私がフランスへ乗り込む予定だ。ナポレオンに頭を下げさせてやる。


 とにかくお金稼ぎと言う奴は、何時でも忙しいものなのだ。……全く、お金を出してでも時間が欲しい。そして、その時間を使ってお金稼ぎをするのだ。


 という訳で、リズさんには……えっ、何でここに居るの?


「え~、アキラちゃんが『全員ロンドンに来い!』って言うから~」と、リズさんは語った。


 そりゃ、そうは言いましたけどね。だからって、疑わずに来るとは……。


 仕方がない、リズさんには店番を頼もう。きっと看板娘? として、微妙な人気が出るに違いない。


 とにかく時間が無い。皆に号令をかけて作業開始だ。さあマール君、休んでいる暇はないぞ。


 私はマール君に飛び乗り、何時ものようにリスボンへと向かう。本当に誰かに代わって欲しいと思う。



 リスボンへと到着し、挨拶もそこそこにエリオの所に向かう。本当なら、マリアちゃんの顔を見ておきたいのだが。


「商会長、ありがとうございます。もう本当に、お金を置く場所が無くて……」と、泣きを入れるエリオ。ナンパをする余裕もないとは……流石にかなりヤバいらしい。


「お喋りはそこまでよ。さっさとお金を出しなさい!」と、銀行強盗のようなセリフを吐く私。

「はい、こちらにあります。ローマとイスタンブール、パリ向けになります」

「もう、結構溜まっているわね」

「ですから、もう少し倉庫を増やしてもらわないと。業務に差し支えます!」


 そうは言っても、警備も含めて結構な経費が掛かるのだ。それは、出来れば最後の手段としたい。


 マジックバックへ、パンパンになった袋を詰める。手で持ち上げられる大きさでないと入れられない。物凄い量の袋を入れて、重さで手が痺れてしまった。


 とにかく、マール君と一緒に船便に乗り込む。流石に船にはスピードで敵わない。イスタンブール経由でローマ行き。その後は馬に乗って、パリまで移動となる。


 地味だが、これも商売だ。……飽きずにやるのが「商い」とはよく言ったものだ。



 1週間ほど掛けて、ヨーロッパ縦断を終えると、休むことなくリスボン行きの船に乗る。ピレネー山脈を馬で超える訳にもいかない。マール君がいない頃は、もっと酷い日程だったのだ。


 リスボンに戻ると、両替商にマリアちゃんが居た。


「あ、おねえちゃーん。わたし5さいになったよー」と、結構大きくなって、舌足らずも直っている。


 凄い成長だなと思いながら、「マリアちゃんおめでとう」と答える。


「マリアねぇ、おねえちゃんのおみせではたらくために、いまべんきょうしてるの。すうじもかぞえられるんだよ!」と、アピールする。うむ、可愛らしさは変わっていないな。


 エリオに大量の硬貨を渡しながら、マリアちゃんに癒される。


「商会長、すみません。どうしてもお店に出たいと言うもので。仕方なく、お金について教えています」と、エリオの英才教育は始まっているらしい。


 うむ、これは将来の幹部候補生だろう。素晴らしい事である。


 そうだ、と思いついてマリアちゃんに算盤を渡して、使い方を教える事にした。幸いマリアちゃんの英才教育は素晴らしく、直ぐにマスターしてしまった。


 リズさん、もうすぐ頼れる助手がやってきますよ。それまで頑張れ、と心の中で呟く。きっと本人的には今すぐ何とかして欲しいのだろうが、それは知らん。


 という事で、リスボンでの仕事は終了だ。馬を見に行こう、という事で近くの牧場にやって来た。


「おねえちゃん、わたしにはおうまさんだとおおきすぎるので、ぽにーさんでいいです」そうか、知ってしまったか。


「ぽにーさんでれんしゅうして、いつかろんどんにいきたいです」という、マリアちゃん。


 エリオさんとは違い、マリアちゃんは『門』を見る事が出来る。もう少し大きくなったら、あちこちを見せてやろう。


 私が感動した風景や色々な人に出会って欲しい。きっと楽しい旅になる。


 エリオとマリアちゃんに見送られて、ロンドンに戻る。マール君は少し疲れているようだ。ごめんね。


 

「よし、という訳でナポレオンをやっつけに行くぞ」と言うと、サンダースさんに「もう少しソフトに言ってください!」と、注文を付けられた。


 仕方がないなあ、と思いながら各自の作業状況を確認する。グレッグさんとリズさんは、問題無くお店を再開したようだ。


 リズさんが「何で魔道具屋に~食料品があるの~?」と困惑しているが、そういうものなのだ。


 どうやら、既に我が商店は晩飯の確保ついでに、魔道具の修理を依頼されるという事態になっていたようだ。由々しき問題である……まあ、何もしないがな。


 そして魔道具に関してはマッドなままで、正気が帰ってこないジェームスにより着々と準備されている。


 ……大丈夫か、おい。いや流石に全部不良品って事は無いよね。一見、私では区別が付かない。断言しても良いが、絶対フランスにはバレない。バレたとしても判別できまい。


「アキラ、会談は明日の午後となる。くれぐれも、発言については慎重に。言質を取られるなよ」

「分かってるって。予測だけど、フランスは絶対に拒否出来ないし」


 この時点でフランスは詰んでいるのだ。チェックメイト、という奴だ。もう我々以外に『魔導石』を入手する手段がないのだ。


 そして、一度でも受けてしまえば、なし崩し的に入荷量を増やすだろう。


 それが罠とも知らずに、だ。


「そんな訳で、後は宜しく」と、皆に挨拶してフランスに向かう。


 ドレスコードは徹底しないと。仮にも貿易商は貴族様だ。普段の格好では、取り次いでさえくれない。


 

 色々と遠回りしたが、やっとフランス戦だ。消化試合、とも言うが。


「マドモアゼル、本日は宜しくお願いします」

「誠に申し訳ありませんでした。本日は、こちらとしても交易を復活させたいと考えております」

「……本日は、非公式ではありますが、皇帝陛下にお越し頂いております。こちらに」


 やっぱりか。当然、待ち受けてはいるよな。


「皇帝陛下、お初にお目にかかります。私は『青い鳥 魔道具店』の店主、アキラと申します」

「……うむ、遠方より良く来られた。宜しく頼む」と、一段上から見下ろしてくる。


 まあ、カリスマは『偉大なる大ハーン様』以下だ。頭は切れるかもしれないが、空気を読まないタイプと見た。古来より、このタイプの英雄は後ろからブスリ、という裏切りに相場が決まっている。


 まあ、長い付き合いにはならないだろう、と思う。


「……すみませんが、単刀直入に申し上げます。こちらの不手際ではありますが、商品の価格を上げさせて頂きたいと思っております」

「それは困る。不手際ならそちらが譲歩すべきでは?」と、貿易商が文句を言う。


「そうは仰られても……私共としても『魔導石』相場の高騰には悩んでおりまして。今の3倍で欲しいと、仰る方も居られるのです」と、適当な事を言う。

「……我々の状況を知っておられるのだろう。我々には『魔導石』が必要なのだ」と、仰る皇帝陛下。


 そうでしょうとも。無断で複製品を作る位には、困っているのだ。


「では、今回の会談は決裂という事で……。私の力不足で申し訳ありません、陛下」

「いや待て。話がしたい。三倍と言う価格、決して変える事が無いと誓えるか?」と、奴は慌てて飛び出してきた。


「……ええ、誓えますとも。我が父母と神に誓って」と、答える。値下げもしないけど。


「宜しい、ではそれで交易を続ける様に。今後ともよろしく頼む」と、頭を下げてきた。

「ええ、フランスとの長い友好をお約束致しますわ」と、答えて会談は終了だ。


 頭を下げさせて三倍か。もう少し粘っても良かったが、慌てて戦争を始められても困るのだ。とにかく、暫くはこの関係が続くよう、私は心の中で笑いながら祈りを込めた。

 商売回です。悪いことしてるよな、とは思います。


 偽物の商人は、お金がない事で悩む。 本物の商人は、お金がある事で悩む。


 何か、こち亀でこういう話を両さんがやっていても、違和感がないなと思いました。絶対、海を自力で渡るに違いない。


 ともあれ、色々と設定しないといけない事もありますよね。両替商の話もそう。交換した外貨をどうするかなんて、考えていませんでした。


 説得力のあるアイデア出しに苦しむ事もありますが、物語的には次の布石になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ