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22.呪いの魔道具の壊し方

 皆揃って『墓所』に来たのは、色々あって数日後。団長は不在だが、ロシアと清に対して和平交渉中である。ロシアはともかく、清からは既に講和の文書が届いている。


 要約すれば『敦煌の魔女』さえ来なければ何でもする、との事だ。リズさん、あんたどんだけやらかしたのさ。


 聞く所によると「相手の虎の子の魔導師を~、ほぼ全て蒸発させちゃった~」との事。


 清軍に同情した。そりゃこんな文書も書きたくなるだろう。ともかく、当分の間はこちらに攻め込む事は無いと思う、多分。こちらから交易隊を出せば、そのうち人の流れも戻るだろう、と考えておく。


 歴史が書き換わるようなトラブルが無かった事を、今は喜んでおこう。



 さて『墓所』からは例の『粘着感』のある呪いがまき散らされている。これを如何にか出来るのだろうか。


「だ~いじょうぶ! ま~かせて!」と、リズさんはいつも通り元気である。


 ぶつぶつと何か呪文を唱えている。この前の呪文よりも長い時間を掛けてから、手を上げる。空に巨大な輪が出来ていた。そこから、オーロラのような『魔法』がスルスルと落ちていく。


 ……急に縮んだと思ったら、回転しながら複雑な紋様が描かれ始める。


 これが例の『3次元6連集約魔法陣』と、いう奴か。確かに立体型をした紋様は、どんどんと増えていく。


 その魔法陣から釘を打ち込むように、紋様が伸び始めた。それが繰り返し6回。良く分からないが、ぎっちりと『墓所』を覆い隠した。


 なるほど、と皆で見上げていると徐々に『墓所』からの霧のような呪いが、薄まっていくのを感じた。


「リズさん、これで『呪いの魔道具』が封印されたんですか?」

「これは檻みたいなもの~。中心部までは届かないわ~。でも神様だって封印できるのよ~」と、言う凄い答え。


 とりあえず、扉は開けられるようになったが、呪いの効果はある程度残っているらしい。お爺さんが扉に手をやると、静かに扉が開きだす。皆で『墓所』へと降りていく事にした。

 

「店長は後ろに回れ。俺が言う場所から先には行くな」と、ジェームスが釘を刺す。分かってますよ、もう倒れるのは御免だ。これ以上『お姫様抱っこ』をさせる訳にはいかない。



 ……私としては、ジェームスの事が『好き』である事を認める事にした。だが、告白なんぞはしない。


 あくまで自分の中で折り合いを付けただけ。『惚れて告白する方が負け』と言う、よく分からない結論なのだが。


 こちらとしては客観的に対応をしているつもりだ。その上でジェームスを観察中。……なんというか、あれだ。その結果分かったのは「かわいい」と言う感情だ。


 年上の男性に使う言葉でない事は理解している。正確に言うと「尻尾を振っている犬」だ。


 魔道具の事を、爽やかな笑顔で楽しそうに語るあれは「かわいい」としか言いようがない。……なんというか、電車に夢中なお子様とか、アニメを興奮して見ているお子様とか。そう見えたんだから仕方がない。


 ……それに反応してドキドキする私も大概だが。


 という訳で、傍から見たら「仲が良いね」程度のリアクションに留めている筈。リズさんが後ろからニヤニヤと見ている事は無視するとして。まあ、平静を装っているのではないかと、個人的には思う……。



 そんな訳で女子高に居た私には、今まで縁のなかった『乙女心』と言う物に接している訳だ。


 正直、自分の心の動揺についてだが、かなり『楽しい』状態とだけ言っておこう……。


 まあ、それ位なら許されるはずだ。


 ……そんな事を知ってか知らずか、いちいち「カッコいい台詞」を言うんだわ、アイツ。無意識のイタリア男の怖さを知った。エリオも大概だが冷静に考えると、こいつも凄いのだ。


「店長、見てくれよ、この魔道具の精密さを!」とか、「大丈夫か、店長。気分は悪くないか?」とか言いながら目を輝かせてる。今も私の心の堤防は、決壊寸前である。


 お前は、無意識だろうがな、こっちは毎回ドキドキするんだよ。だが、いい加減に自重しろ! とは言えない。


 そんな私の個人的な葛藤とは無縁に、奴は例の『呪いの魔道具』に夢中である。そりゃ、古代の魔道具だ。アリに砂糖をやるより食いつくだろうさ……。



 まあ、それはともかく、あの魔道具はヤバい。まず、魔道具の中心には、見た事もない大きさの『魔導石』がある。2インチは優に超えるだろう。……そんな大きさの『魔導石』聞いた事が無い。


 そして職業柄、魔道具についての知識を持っている人間からの感想になるのだが『……今まで真空管を作っていたのに、超精密な半導体の中身を見せられた』と言うのがしっくりくる。


 理解が追いつく筈も無く、それが禍々しい呪いを生み出しているのを見て吐き気がした。だが、他の皆はそれほど反応していない。つまり魔道具に対する知識レベルの差だろう。


 私には分かる。あれは理解など、解析などできる筈も無い。超技術の粋を集めた代物である。どうやっても止められそうにはない。


 ……だというのに、当のジェームス本人の反応は凄まじいのである。もう、かぶり付きで見ている。魔道具の隅から隅まで、見続けている。


 ああ、アイツのマッド気質が物凄い事になっているのは理解した。



 ……昔、パブで馬鹿話をしていた時の事を思い出す。


「『魔導石』ってさ、単独で使うじゃない。組み合わせたりはしないの?」と、私が口にしたのだ。

「おい、その話詳しく聞かせろ!」とか「その発想はなかった。……正直もの凄い興奮している」とか言いだしていた。


 あれは挙動不審そのものだった。結局、彼は『魔導石』を三日間弄り倒し、実験を繰り返し……出てきた時には、例の発明が完成していた。晴れやかな笑顔だった。


 ……今思えば、アイツと出会ったのは『運命』だったのかもしれない。いやな『運命』だなぁ。


 その時の反応と同じ。物凄い目が泳いでいて、考えまくっている。やっぱり、こいつはヤバい奴だ。あの時と全く変わらない我が相棒に、とりあえず声を掛けてみる。


「おい、ジェームス。黙ってないで、感想を聞かせなさい!」


「店長、あれが何なのか俺には理解はできない。……だが、俺が追い求めていた理想の魔道具だと思う」


 ……こうなったら、此処からジェームスが動く事は無い。多分三日はこのままだろう、と皆に言った。


 皆は呆れていた。そりゃあそうだ、あんなヤバい魔道具に対する反応とは思えないものな。そういう訳で、アイツが魔道具に飛びつかないか、監視役を付けた上で解散した。



 ……それから、一週間は経つ。


 ジェームスは一日の限界ギリギリまで魔道具を観察し、スケッチを描き続けている。「あの魔道具が動いている状態を少しでも見逃すのが惜しい」そうだ。


 食事は交代で届けさせている。さすがにトイレと睡眠は戻ってくるように、自分が必死に説得した。何だか馬鹿らしくなってくるが。


 結果としてジェームスと顔を合わせる機会が無く、私としては何となく落ち着かない。食事を届ける役を代わってもらい、顔を見に行く。……決して他意は無い、はずだ。


「おーい、ジェームス。調子はどうだ?」と、平静を装いながら話しかける。内心は、ドキドキしっぱなしである。


「ああ、店長か。未だにあの魔道具は解析できん。どうすればいいのやら」と、少し悩んでいるようだ。



 ……先に戻っているサンダースさんから、フランスの動向を知らせる手紙が届いていた。どうやらイギリスの交渉は決裂し、フランスに関わる業者を『魔導石』市場から追放したという。


 そして、取引を行っていた貿易商の名前で、交渉したいとの連絡があったそうだ。非公式と言いながらナポレオンが交渉に出てくるはず、と思っている。


 『呪いの魔道具』はいったん諦めて、ロンドンで交渉と不良品の魔道具作成を開始しなければいけない。


「ジェームス、そろそろ時間切れよ。例の魔道具を作り始めないと……」

「ん、魔道具……ちょっと待ってくれ『魔導石』を組み合わせる原理、か」と、ジェームスが長考に入る。


「いえ、それどころじゃないの。フランスとの交渉をしないと……」

「店長! 思いついたぜ、あの魔道具を止める方法をな!」

「えっ、今解析出来ないって……」と、言いかけた私の言葉を遮る。


「違うんだ、例の発明には今まで黙ってた事がある。役に立たないと思っていた現象があるんだ!」


 何でそれを、今まで言わなかったのか。さっぱり良く分からん。



「……ジェームス、詳しく説明して。アンタは勝手に盛り上がっているけど、私にはさっぱりで」

 

 無意識にジェームスが、肩を組んで喜んでくる。こっちの思考回路は、ショート寸前である。


「つまりだな、部屋に閉じこもって実験していた時に、あるサンプルを落としたんだ。そいつが偶然に『魔導石による魔導効率』を無効化していた」


「……ん? 何でそれを、原理図に書かなかったの?」

「いや、だって『魔法』の発動を止めるなんて、普通は無意味だろ?」

「だって、それって武器に組み込んだら安全装置になるでしょう。構造が複雑になるかもしれないけど、絶対それ売れる奴よ」


 銃の暴発を防ぐのだ。普通の魔道具ならともかく、殺傷性がある武器を勝手に動かさない仕組みは有効だろう。


「……店長、あんた天才だな! そんな事、今まで思いつかなかった。やっぱりアンタと一緒にいて正解だったぜ!」と、感動するジェームス。


 とにかく、グイグイと体を押し付けてくるのは止めろ。……私の顔が真っ赤になっている。多分耳まで。

 

「と、とにかくその方法なら、あの魔道具は止められるのね?」と、私は話を纏める。


 このままだと不味い。バレるのだ、私の心の動揺がアイツに……それだけは避けたい。


「ああ、調整の時間は掛かるが問題は無い。ここには、大量の良質な『魔導石』がある。それを使えば何とでもなる筈だ」


 ……とにかく『呪いの魔道具』への対策を思いついたのは良い事だ。


 私は、今の気持ちをジェームスに悟らせない様、必死に深呼吸を続けるのだった。

シリアス&恋愛回。


何とか、プロット通り進める事が出来ました。


『今まで真空管を作っていたのに、超精密な半導体の中身を見せられた』の言い回しを思いついた時、SFだな、と思いました。……まあ、SFの定義はともかくとして。


 これ、魔法世界と現実世界で、両方の技術をちゃんと理解していないと出ない発言だ。異世界人ならではの発想なんです。異世界転移もので、こういうのも良いかもしれない。


 執筆していて楽しいと思えるのは、こういう話が出来る事。思わぬアイデアが浮かんだり、文章が書けるだけでも楽しいですね。拙いながらも少しずつ投稿しますので、応援・評価お願いします。

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