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19.国を造るって、どうやるの?

 あの、感動的な演説から数日後。『偉大なる大ハーン様』は土下座していた。


「……申し訳ない。ついあの時は、こう何というか……勢いでじゃな」と、私に謝るのは、お門違いだろう。

 まあ、言ってしまった物は仕方がない。もう少し早めに何とかしてくれれば、私の胃が守られたのに、とも思う。


 あの時は、本当に辛かった……。


「そうですね、偉大なる大ハーン様。いい加減、頭を上げてくださいな」


 大体、これで何度目だろうか。本来であれば、お爺さんは演説の後、勇猛果敢にロシアと先陣を切る、と言うのが格好いい流れだろう。

 

 だが、これは異世界ファンタジーではないのだ。


 皆がノリノリで戦争の準備を始め出陣した訳だが、そもそも大将は息子さんである。


 流石にお爺ちゃんを戦場に出す訳にはいかない。大ハーン様だしね。後は、後継者としての顔見せの意味合いもある。


 別動隊と偵察部隊は、サンダースさんが担当。リズさんが要塞でヒャッハー中である。団長は、大将の参謀役と外交回りで従軍中。



 つまり、此処には戦力外通知された者しか残っていないのだ。私だって「我々が案内しますっ!」なんて言っておきながら、居残りである。……正直、大見栄切った手前かなり恥ずかしい。


 遊牧民の村に居るのは、女子供と言った非戦闘員で他にはジェームスと私、お爺ちゃんしか残っていない。とはいえ、戦争の足手まといになるのも御免だ。ここで大人しくしておこう。


 そして『偉大なる大ハーン様』が毎日のように土下座をしているのは、あの大演説で『帝国再興』などと、ぶち上げてしまった為だ。


 『国造り』などと言う、何処から手を付けていいか、分からない問題に頭を抱えるのはこちらの方なのだ。勢いにしても限度がある。吹けば飛ぶようなこの村で、『国造り』とは。


 まったく、夢みたいな事ばっかり……、と私は心の中で呟く。


 大体、まだ色んな問題が残っている。一つは経済的な問題だ。私は算盤を弄りながら、計算中である。ジェームスに作って貰った、安くて軽くて使い勝手の良い算盤はかなり使い込んでいる。


 そろそろ算盤の桁が足りなくなってきたし、新しい算盤が必要かもしれない。


 それはともかく、勢い余って全財力を費やし要塞建設に極振りした結果、我が商店の資産は壊滅的な状況だ。現状、フランスの件もあり暫く店は休止中。


  ジェームスへの給金は暫く払わないとしても、本部には要塞建設の費用を請求せねばなるまい。そのうちフランスに殴り込みに行く予定もあるが、今の所その辺の動きも無い様だ。


 もっともその要塞のおかげか清からの攻撃は、かなり収まって来ている。


 『敦煌の魔女』が大暴れした結果である。


 昨日、リズさんの様子を見に行ったのだが『ドゴオ』だの『バキャッ』と言う、物凄い『魔法』の嵐のため近づく事さえ出来なかった。


 ……本当に、その『魔法』連打する必要があるのだろうか。日頃のストレス解消ではないか、と個人的には思っている。



 もう一つが『墓所』である。まず呪いが周辺にまき散らされない様、対策が必要だ。第二にその装置を解析できるのか、と言う点。この辺は、ジェームス任せとなる訳だが正直望み薄だろう。何しろ、何百年も前の超技術なのだ。


 ……この魔法世界は歪で、過去の方が『魔法』に対する技術力が高い。この辺り、魔法技術が体系化していないため、世代間での継承が無いのが原因と思われる。


 ともかく、何とか解析したとしても問題が解決出来る訳でもない。暴走している魔道具に接触する際の危険性を考えると、こちらも何とかしなければならない。


 出来ない事を悩んでも仕方がない……とりあえずは落ち着こう。



 私は、最近疎かだった台帳の纏め作業を行っていたりする。本部に請求する要塞の費用を何とかして水増ししよう、などとは考えていない。『敦煌の魔女』相手にそんな事をすれば、請求書片手に追いかけられるのがオチだ。


 早く戦争が終わらないかなあ、と私は一人思い悩んでいた。そっちに人が割かれている以上、何もする事が無い。暇を持て余して『偉大なる大ハーン様』と、建設的ではないが今後の『国造り』なんかを話し合ったりしている訳だ。


 とりあえず、この遊牧民の村に井戸が出来ている以上、他の集落から人を集めるか人のやり取りを増やすかと言った所だ。『国造り』の第一歩は人集めなのだ。


 ……とはいうものの、そこら辺も悩みどころである。部族長が言っていた『生活出来ない人が出る』というのも、もっともな話。確かに、幾ら誇りがあっても金が無くては生きていけない。全く、世知辛い世の中だ。


 そこら辺を解決する為にも特産品が欲しい。カシミア生地は高値で売れるが、それほど需要がある訳でもない。自給自足しながら余った物資を他所に売りさばくのが、現実的な落としどころである。


 こちとら現役の商人である。儲け話の種さえ作れれば如何にでもなる、とは思うのだが……。



 そこら辺が『偉大なる大ハーン様』がこちらに土下座する理由、となる。あまりにも、あの発言は見切り発車だったと思う。


「……そうは言うてものぅ。何をさせれば生活できるのか、ワシにはちっとも分らんでな」


 カリスマはあっても、甲斐性は無し。へっぽこハーンである。


「とりあえず、身近な『馬』から行きましょうか?」マール君レベルの馬が数頭いれば、最低限の暮らしは出来そうだ。


「……まあ、そういう事になるかのぅ」と、大変心もとない。



 暫く私とお爺さんが、そこら辺の儲け話を考えているとジェームスが子供を連れて報告に来た。何かあったかな?


「店長、ハーン様。こっちに来てください!」と、興奮気味だ。あいつはあいつで暇を持て余している。


 村の生活にもなじみ、すっかり溶け込んでいるなぁ。このまま、此処で生活していても良いかもしれない。こっちにはブックメーカーが無いので、あいつが店の売り上げを使ってしまう確率が減る……などと考えながら、皆で村の郊外へやって来た。


 一体何をするつもりかと思ったら、此処は土を巻いたところだ。そういえば、種まきをしてから結構な日数が経った。どれどれ?と、覗き込むと小さな芽がいくつも出ているようだ。


 なるほど。大量の水と広大な平地を利用して、畑づくりと言うのも良いかもしれない。


 とはいえ『呪いの魔道具』を何とかしないと、そこら辺も無理な話だ。まずは、地盤を固めなくては話にならない。


 とはいえ、この砂漠を何とかする第一歩だと思えば悪くない話だ。この村は、まだこれからどんどん大きくなる必要がある。いずれは、此処にも根拠地を作る事も視野に入れたい。



 実現できるかはともかく、此処は中国奥地に近い。戦争が無事に終われば、人の出入りも始まるかもしれない。


 シルクロードの復活、と言うのもロマンがある話だろう。何せ、アジア圏でしか手に入らない物も多いのだ。米、陶磁器、絹に薬などなど……。


 商人的にも料理人的にも、やる気の出るラインナップである。清との交渉が必要となるが、いざとなれば『敦煌の魔女』が居る。いっそ、軍事的圧力を掛けるのも有りだ。


 いずれは上海や北京など、そちら方面を旅するのも悪くない、などと私は思いを巡らせるのだった。

 まあ、シリアスの後は……って奴ですね。


 基本、主人公は旅をするので。旅での出会いや発見、新しい目的なんかが見つかります。


 そうやって、人との関係が変わったり逞しくなったり。


 目に見えないだけで、誰でもレベルアップしたりスキルを得たりするんだよ、という事。

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