1.カレーから始める異世界商売
爺さんと婆さんとおっさんと変な奴。あと動物しか出てきません、多分。
テンプレなろう系とは違う、一風変わった物語になる事だけは保証します。
時は18世紀末。場所はロンドンの一角。
私、結城映は異世界に飛ばされて、流れ流されてこんな所で立ち尽くしている。
良く分からないまま渡された、多少のお金は持っている。
だが、言葉は殆ど分からない。
そしてここには誰も知る人は居ないし、するべき事も分からず突っ立っているという訳だ。
……いわゆる『お上りさん』と言っても良い。
今この時期は、産業革命が始まるちょっと前になる。
アメリカは独立戦争をフランスは革命を、と言った具合でこの時代は大きく動き出そうとしている。
だが、その反動は罪も無い一般市民に大きく影響を与えた。
「ロンドンに行けば何とかなるだろう」という希望だけを持って、集まってくる。
あっという間に、スラム街が出来上がるのだ。
ここは、随分と汚い街だと思う。
テムズ川の汚れは、近づくのさえ躊躇われるような匂い。
薄暗いスラム街には、浮浪者や行き場のない子供達が集まっている。
……どいつもこいつも、死んだ魚のような眼をしている。
もう少しでいい。
ちょっとは明日を信じて生きる、と言う人々は居ないものかと思う。
……私は溜まりかねて、やりたい事をひとつ思いついた。
寸胴の鍋とお玉、フライパンにコンロなどの調理器具を買い集める。
お肉屋さんの裏口で、捨てる予定の牛のスジ肉をタダで手に入れる。
それから野菜を市場で購入。ジャガイモや人参、玉ねぎなんかはかなり安い。
二十ペンスもあれば一通り揃う。
最後に、チャイナタウンの一角にインド人が、香辛料の類を籠一杯に売っている。
「Curry、Spice。Please」と繰り返して、クミンとターメリックとインド人からお勧めされたガラムマサラを一通り購入する。
五十ペンスで、山盛りのスパイスが手に入った。
よっぽど、買う奴が居なかったのだろう。
スラム街の近く、ちょっとした広場でコンロを置き、火を点ける。
寸胴鍋にスジ肉と水を入れて、煮こんでいく。
野菜は皮を剝かずに、土だけを洗い流して乱切りにする。
玉ねぎは、みじん切りだ。
フライパンに油をひいて、野菜を炒め始める。
玉ねぎは飴色になるまでじっくりと炒め、その他の野菜はスジ肉からこそげ落とした細かい肉塊を投入して、火が通ったらもう一つの寸胴鍋に放り込む。
スジ肉を煮込んでいくと灰汁が出てくるので、透明になるまでひたすら取り続ける。
手抜きをして、イギリス料理の仲間入りは御免だ。
灰汁が出なくなったら、火を止める。
これで、ダシが完成した。
下準備が出来た所で、買ってきた香辛料を投入する。
クミンとターメリック、ガラムマサラ等、覚えているスパイスの配合はうろ覚えだが、適当にぶち込む。
あちこちから匂いを嗅いだ子供達が、遠巻きにこちらを眺めだす。
人間、どんな状態でも腹の虫には逆らえない。
思い通りの色と香りが出たことを確認したら、小麦粉を水で溶いた物を入れて、とろみを出す。
……このまま、煮込み続ければ完成だ。
『カレー』である。
しかも、インド系でもイギリス式でもない。
日本式で、魔改造された『カレー』。
そこら辺の子供に「Hey、Eat。it’s Free。Cup、Here」と呼びかける。
身振り手振りで、食べる動作とコップを持ってこい、と説明する。
好奇心が旺盛そうな小さな子が、器を差し出したのでそこに鍋からよそってやる。
つまり、子供達に『炊き出し』をしてやる事にしたのだ。
子供だからと言って働き口が無い訳ではない。
やろうと思えば、仕事自体はある。
だが、やる気の問題なのだ。
確かに仕事は厳しいかもしれない。
……辛い事だってあるだろう。
だが、まず腹が減っていては何もできる筈も無い。
だから、カレーを食わせるのだ。
今まで碌な目にあった事が無い、旨い物を食った事も無い。
そんな奴は、死んだ魚のような眼をしても当然だろう。
……だから、とにかく旨い物を食わせてやる。
一通り、うろうろしている子供達を見つけてはカレーを振舞っていく。
食い終わった奴に「Let′s Working!」と言ってやる。
とりあえず腹が膨れたのなら、仕事の一つもしてくれれば、何かの意味はあるのだろう。
そうして……あっという間に、鍋が空っぽになった。
暇を持て余していた私の鬱憤晴らし、という事になる。
特に、意味なんてない……文字通りの物理的な飯テロである。
犯行動機としては「むしゃくしゃしてやった」という奴だ……ざまあみろ。
そうまでして何故、と言われても分からない。
あの眼をした子供達が、うようよいるロンドンと言う街が、気に食わなかった。
偽善と呼ばれるかもしれない。
無駄な事をしただけかもしれない……だが、知った事か!!
まだ食わせていない子供がいる、と言うより話を聞きつけた大量の子供達に囲まれた。
それはともかく、野菜を刻んで鍋で煮込んで追加のカレーを作る事にした。
何人かは、カレーそのものでなく料理の仕方を眺め始めた。
身振り手振りで教えてやる……特に意味はない。
何となく、その方が面白そうだと思っただけだ。
それから何日かして、一人の子供がペニー硬貨を持ってきた。
どうやら、カレーの代金らしい。
私は喜んで受け取り「Thank You!」と言うと、子供が笑ってくれた。
そこには、輝く目をした子供しかいなかった。
それがきっかけになったのか、何時しか子供達は、ペニー硬貨を支払うようになった。
最初に貰ったペニー硬貨は、記念の意味も込めて今でも大事な宝物として、手元に置いている。
そうして作り続けていると、今度は大人達が工場のお昼休みにやって来た。
身振り手振りで一シリング置いていけ、と説明したら通じたらしい。
男達は、子供に混じってカレーを食べ始めた。
固い黒パンをカレーに浸し、ぬぐい取るのが流行っている。
カレー1杯を大人は1シリング、子供は1ペニーと言う謎ルールが決まった。
成り行きではあったが、『最近、美味い屋台が出来たらしい』と評判が良かったので、そのまま店にする事とした。
流石に一人では対応出来ないので、作り方を教えていた子供達を一日1シリングで雇って人海戦術を実施する。
もうすぐ、昼休みになる……皆、頑張ってカレーを作るのだ。
ロンドンに、まともな料理など存在する筈も無い。
イギリス料理の神髄は、料理をした事のない奴がメイドになり、焼くか煮るしか出来ない、という点にある。
このカレーだって、別の街なら見向きもされない筈だ。
だが、此処は『18世紀末の魔都 ロンドン』なのだ。
現代人の常識が、通じる場所ではない。
中流階級の家庭でさえ「黒パン」、「塩スープ」、「茹でたジャガイモ」か「煮込んだ豆」、「焼いたベーコン」が標準なのだ。
何処を探したって、こんな街は無いだろう。
最近は、何故か買い出しに出かけた私を見たインド人が喜んでいる。
そりゃ、毎日1ポンド分のスパイスを購入する奴など、他に居る訳が無い。
……随分おまけが多くなったな、とは思うが。
街を歩く私を「Queen Of Curry」と呼ぶ奴も増えた……カレーの女王様って何?
誰かに抗議したいのだが、もう既に広まってしまっている。
だが『利益率』とか『原価』と言う概念が壊れそうな程、安上がりなこのカレーを煮込む時間にも制限が出始めた。
ソーセージにキャベツ辺りを買い集めダシと一緒に煮込んだ、ポトフみたいなスープに小麦粉を水で練って少しづつ加えていく。
煮込む時間は、三十分も要らない。
所謂『すいとん』と呼ぶスープを作ったのだ。
カレーが足りないなら、こちらを振舞えばいい。
こちらも『原価』とは何ぞや、と言う哲学的な問題に踏み込みそうな一品である。
それなりに高い『カレー』と安上がりな『すいとん』の組合せは、工場の男達の味覚と財布事情に噛み合ってしまった。
そして、作り方を教えた子供達がそれぞれ別の場所で同じような事をしている。
月末に、上納金として1ポンドを払い始める様になってしまい、ロンドンのお店の数が把握できる。
市街地全体に五十軒はあり、毎月少しずつ増えている。
俗に言う『フランチャイズチェーン』ではないのかな? 知らんけど。
なんだか、既にコントロール不能となった我が店なのだが、変な奴が居付いてしまった。
多分、私より年上のややイケメンな男だ。
身振り手振りで「ジェームス」と言う名前だけは分かっている。
ある時、いつものようにカレーを振舞っている所に「Hungry……」とだけ呟く、顔をボコボコにしたズタボロの男がやって来た。
仕方が無いのでタダでカレーを食わせてやったら、そのままずっと付いて来るようになった。
まあ、特に危害を加える訳でも無いし、店の売り上げ狙いという訳でも無い。
むしろ、お店の手伝いを積極的にやってくれるのだ……まあ、特に問題は無い。
とりあえず数人がかりでやっているスパイスを潰す作業を手伝って貰う事にした。
どこかに行ったかと思ったら、色々な廃材を持ち込んで、唯一の持ち物と思われる道具類を使って何か作り始めた。
何を作るかと思ったら、人力でスパイスを大量に潰せる道具との事。
……随分、手先が器用なようだ。
ともかく、その作業に人手は取られなくなったので有難いのだが、何を思ったのか仕入れたスパイスを全て擦り潰してしまった。
こんなにスパイス作ってどうするんだ!と、身振り手振りで伝えたら「Spice Onry。Sell」と、カタコトで伝えてきた。
つまり、カレーを売るのではなく、スパイスのみで売れという事か。
どうも、最近は家でカレーを作りたいという話を、あちこちのメイドさんから聞いた……らしい。
どうにも言葉が通じないのは、面倒くさい。
だが、ニーズがあるのならという事で、ジェームスに適当に容れ物を作らせておき、店頭にスパイスを置く事にした。
(多分)五百g位で1ポンドである。
夕方頃に、噂を聞き付けたメイド達が、一斉に買いに来た。
……気が付いた時には『カレー専門店』が出来上がっていた。
スタッフは五名ほど。あと、ロンドンのお店は百軒を超えた。
もう、他店からの上納金とカレースパイスの売り上げだけで利益が出ている……一体どうしたものやら。
とにかく、カレーを作っては売って食べさせて金を貰う、と言う生活を半年ほど続けたある日。
店の利益が増えて、結構な額が手元にある。
噂では翻訳機になるという『通話の魔道具』と言うものがあるらしい。
ジェームスに片言で、それを入手したいと告げると奴は「OK!」と言って、五十ポンドを持って出かけて行ってしまった。
……確か、三百ポンドはする、と聞いたのだが、あれで足りるのだろうか?
そう思いながらも、店を切り盛りしているとジェームスが戻って来た。
何やら作り始めたが、昼休みを迎えたこの店はてんてこ舞いであり、そちらに意識を向ける訳にも行かない。
とりあえず、大量の客に対応し終わってジェームスの様子を見る。
何か、イアリングのような物を作ったようだ。
何か取り付けるらしい、という事で大人しくじっとしている。
ジェームスの「Hey、Master!」と言ういつもの声が聞こえる。
しばらくして「おい、店長!」と言う声に変わった。
……おお、これが『通話の魔道具』か、と感動していると「やっと、まともに店長の声が聞こえるな」と、ジェームスが言う。
「おおぅ、ちゃんと英語じゃなくて日本語が聞こえる」
「日本語? 店長、日本人だったのか」
「うん、日本人の女子高生だよ。訳があってここに居るけどね」
「女子高生の意味は分からないが、とにかく話は問題なく出来るな」
このジェームスと言う男は、魔道具を作る事が出来る、という事だけは分かった。
「ちょっと、詳しく教えてよ。どうやってこれを作ったの?」
「あぁ、俺は店長に拾われる前に魔道具屋に勤めていてな。そこで、副店長までやっていた」
「何で辞めたの?」
「ああ、親方の嫁さんを寝取って、店の金を持ちだしてブックメーカーで使い果たした。そこで親方に見つかってボコボコにされた。あとは、店長が知っている状態だった」
なんて奴だ。こいつは『人間のクズ』だ。女の敵だ。こんな奴だとは思わなかった。
ともかく、色々と経歴がある事は分かったが、根は悪い奴ではないのだろう。
……駄目な奴である事は、確定的に明らかであるが。
「その時は親方がつまらない事で、俺を凄く怒って来たから辞めてやる! と思って、突発的にやったからな。……昔の話だ」
「いやいや昔の話だ、じゃないよ。そんな昔でもないし駄目でしょ! なんで人としてやっちゃいけない事ランキングでトップ3に入るような悪行をやり通したのさ」
「……まあ、強いて言うなら『遊ぶ金欲しさだった』って所じゃないかな」
「どう考えても犯行動機だよ、それ。本当に『クズ』だな、アンタは」
「とにかく、もうそんな事をするつもりは無い。死に掛けていた所を助けて貰ったんだ。恩返しをしなくてはな」
クズの癖に、几帳面なで真面目か……変な奴。
「まあ、別に恩返しなんて構わないから、好きに出て行っていいよ」
「いや……、俺は好きで此処に居るだけだ。店長が気にする必要は無いさ」
「……別に追い出そうと思っている訳じゃないし。もうしないでよ、そういう悪い事はさ」
「はいはい、分かりましたよ」
今まで色々と手伝わせたし、もし悪い事をやるのなら、何時でも出来た事なのだ。
こいつが、そんな事はしないと言うなら、信じておくとしよう。
「……これからも宜しく、ジェームス」
「ああ、店長もよろしく」
「そういえば、店長って呼び名は変えないの?」
別に、名前で呼ばれたい訳じゃないけどね。
「その呼び名で定着したからな。店長は店長だろ?」
「……いいけど、別に」
そういう訳で、ようやく皆と話が出来るようになった。
店番をさせていたダニエル君には、料理の仕方を詳しく教える事も出来る。
とにかく、結果オーライという事にしておこう。
私はカレーを作っては売り、すいとんを作っては売りを繰り返した。
流石に1年も経つ頃には、すいとんやカレーもロンドン市民が日常的に家庭で作る料理として広まった。
「塩スープ」はすいとんに代わったし、中流家庭やおふくろの味として、カレーが広まっている。
そのうち何処で嗅ぎ付けたか、役人から「この規模の屋台を、無許可で出す事は認めない。きちんと税金を納める様に!」と、言われてしまった。
……そのままの流れで、チャイナタウンの一角を店とした。
私の商人としての第一歩となる。
今でも、カレー粉は主流商品で、カウンターに積まれている。
そういえば、インドから伝わったカレーが、イギリスに広まった。
イギリス式カレーとして日本に伝わり、私は親から教わった。
そして私が、ここロンドンで、カレーを振舞った。
……じゃあ、一体誰がイギリス式カレーを考えたのか?
カレーによるタイムパラドックスに陥っている事に気が付いた。
その疑問については、しばらく悩み続けたものだ。
ともかく『ロンドンと言えば、フィッシュアンドチップスとカレーとすいとん』と言う、何とも言えない流行になってしまった。
子供達は、手っ取り早く金を稼ぐ手段として、カレーやすいとんを売り続けている。
どうやら、三百店舗を超えてしまったらしい。
……毎月の上納金は、まだ増え続けている。
ロンドンにスラム街は殆どなくなり、お腹を空かせた子供達も自立して、少しだけロンドンは穏やかで賑やかな街になった。
どこを見渡しても、死んだ魚のような眼をしている子供を見る事は無い。
「ねえ、ジェームス。いつの間にか私は『商人』という事になっちゃったみたいね」
「ああ、お店も構えて利益も出ている。立派な『商人』なんだろう」
「『商人』って凄いね。誰にも出来なかった、ロンドンのスラムにいる子供達を、みんな幸せにしちゃったわ。たった一人で世界を変えるって、とっても素敵なお仕事だと思わない?」
ジェームスは、笑いながら答える。
「……ああ、店長は面白いな。いつ見ても飽きない」
「どういう意味よ?」
「……楽しい、って事さ」と、ジェームスが言う。
私の行動で、少し世界は優しくなったかもしれない。
商人として、誇らしい事だ。
……そういえば、私の父方のお爺さんが、伊勢出身だったと聞いている。
終戦後に農器具で使うガソリンをまとめ買いし、近所の農家に頼まれて配っている内に、ガソリンスタンドを経営する事になったそうだ。
今でも、私の叔父が経営しているはずだ。
しかし、何だか同じような経緯で、商売を始めたんだな、私。
この商売スキルは、伊勢商人としてのDNAが、遺伝したのかもしれない。
その年の年末は凄い利益を叩き出して、パブでジェームスと大騒ぎした結果ひと悶着あった。
そうして、とんでもない物が出来上がってしまい、本部で平謝りしたんだった。
あの時は、大変だったわ。
……もう、あれから二年になろうかと言う時間が過ぎた。
すいとんやカレーも、ロンドン市民が日常的に家庭で作る料理として広まった。
私は押しも押されぬ商人として、莫大な借金の返済に奔走している……。
……あれ、なんか涙が出てきた。
今の私があるのは、ロンドンでの出来事がきっかけである。
いつの間にやら、私の元には色々な人が集まり、賑やかで騒がしい日々が流れるようになった。
「自分のホームグラウンドは?」と聞かれて迷わず「ロンドン」と答える位には、愛着が沸いた土地である。
ここ魔都ロンドンは、『私の居場所』になったのだ。
恐ろしい事に、伊勢出身のお爺さんの話は、実話だったりします。
伊勢商人=困った人を助ける=お礼を貰う=会社が出来てしまう、までの流れは、良くある話。
商人物で、チートではない奴は少ない。そもそもその商人物も少ないが。
そりゃ、無茶苦茶説明する事が増えるから。色々考える事も必要だ。
「現代知識や商品で大儲けして、ハーレムじゃー!」というのが多い。
……気持ちはわからんでもない。
あと、主人公があまり動かない……戦闘が無い。
必要なのは『銭闘』なのである。
ともあれ、無いのなら仕方がない……自分で書けば良いという事だ。
別に、作家になりたい訳でも無い。
自分が思いついた事で、誰かが喜ぶなら、それも良かろう。
さて、仮にも金を扱うのだから、ビジネス系書籍の一つは読むべきだ。
どのビジネス書でも、殆どはこう書かれている。
「必要なのは金ではない、人々からの信用なのだ」とか「『ブランド』と言う信用を得るのが大事」と。
……ぶっちゃけ言おう。
創作物での商売が、すごく非現実的なのだ。
見ず知らずの人が『すごく高性能な商品だけど、何処で作られたかも分からない。説明書もサポートも補償も無い。だけど、これを買おう!』と思うのか。
……これが信用である。
トヨタだって任天堂だって、初めからブランドだった訳ではない。
それまでに、信用されるだけの『何か』を積み重ねたのだ。
『とっても良い商品だ。みんな喜んで買ってくれる』というのは、浅はかな考えなのだ。
それに『市場』の問題だってある。
幾らで売り買いするか……大量に売れば、需要も下がる。
原価3割という鉄則もある……売れているから価格を上げよう、なんて論外だ。
必要とされている物を探すのは古今東西、商人の究極の問題と言えるのではなかろうか。
どこでもいつでも、利益が出る商品なんぞ、存在する訳が無いのだ。
史実での商人達は、色々とやっている。
誰も行かなかった場所に商品を届けたとか、未知の大陸から新しい産物を、商売のために停戦を、と言った具合である。
……かつて商人は、冒険者であり旅人でもあった時代があるのだ。
地味で目立たない『商人』。
有名なあの人も『商人』だった、という事も多い。
そんな『史実の商人』を紹介したいと思います。
……ちょっとしたオマケ、という奴です。
もちろん、物語には関係ないので無視して貰っても構いません。
といっても序盤はモンスターも出ないし、レベルアップもありません。
第2章からが本番なので、長い目で見てやってください。
適当に面白そうとか、続きが読みたいという人が居ましたら、ブックマークや評価を付けて下さい。
……作者が喜びます。多分、色々と書きたくなる筈です。
※補足
この物語は『やる夫と魔王の道』という、「やる夫スレ」で人気だった物語のオマージュです。
主人公は、何の力も持たないただの人間です。
ですが、商売とか料理とか人への気遣いで誰からも愛される主人公です。
周囲や敵には、なろうでいう「チートキャラ」ばかりが出てきます。
それに対して、仲間との絆だけで対抗する。
……だから感動したのです。
この物語も、激しい戦闘や強大な力、そんなものは一切ない、ただの女の子です。
お金儲けと合理的な考え方、そして人との出会いと絆だけで、トラブルを解決します。
お金儲けを物語の主軸とするためにあらゆる事を考え、調べて描写しています。
この第1話では、ポンド、シリング、ペニーというお金の単位が出てきます。
この時代のポンドは二万円、シリングは五百円、ペニーは三十円程度です。
……だけど、日本円でどれ位という描写は、あえて入れていません。
読みづらいけれど、理解すれば面白い。
そして達成感が生まれる……そう言う物語なのです。
この物語は、とっても不親切です。
読む人に当然の知識を求めます。
それは、なろうではやってはいけない事かもしれません。
ですが「テンプレなろう」の弊害を考えると、そう言った物語があっても良いと。
私は、読者が真摯に物語と向き合い、疑問や反論を提起する事を望んでいます。
かつて、私が経験した物語はそう言った歯ごたえのあるものだったのです。
それを読者に経験して欲しい。